第78話 『 夢心地とざわつきと 』
最終プレゼンどうにか通りました!
そして更新できるか分からなかったけど更新できました!
【 side颯太 】
―― 11 ――
「ふぅ。だいたいこんなもんか……」
コト、と音を立てながらペンを置いて、颯太は深く吐息した。
たった二週間の間に、練習ノートは半分以上埋まっていた。ノートには筋トレやマッサージ方法、聖羅の練習メニューが大半を埋め尽くしている。我ながらによくやったんもんだ、とつい自画自賛を送りたくなる。
「お疲れ様です、ソウタさん」
と、丁度いいタイミングで温かいお茶を差し入れてきたのは、白銀のお嫁――ではなく、白銀の少女、アリシアだった。
「ありがと、アリシア」
彼女の温かい眼差しに唇を緩めて、颯太はお茶を啜った。
「うま……やっぱ、この時期になると麦茶より緑茶だなぁ」
「そうですね。私も最初はこの渋みが苦手でしたけど、今はだいぶ慣れました。……ぷはぁ」
飲む仕草すら愛でたく、颯太は頬が緩まずにはいられない。これを自然とやる天使の破壊力に、颯太はいまだに慣れない。
喉の奥から変な声が漏れそうになるのを誤魔化すようにお茶を飲めば、喉を通る苦みにいくらか気分も落ち着く。
「随分と、ノート埋まりましたね」
「自分でも驚いたよ」
ノートを覗き込むアリシアに、颯太も双眸を細めた。
「やっぱり、ソウタさんのノートはいつ見ても分かりやすし、字もスゴく綺麗ですよね」
「褒めても出せる物がプリンくらいしかないけど、ありがと」
「プリン! ……いや、ダメです。寝る前は食べないと決めてるので!」
さり気ない甘味の誘惑を顔を顰めて断ち切るアリシアに笑みを堪えつつ、颯太はアリシアの日頃の努力を湛えてた。
「比較対象がひど過ぎるけど、始めの象形文字に比べたらアリシアの字だって凄い上手になってるよ」
「象形文字⁉ ……うぅ、そこまで酷かったですか?」
「何なら俺の部屋に取ってあるけど、見る?」
「なんでそんなもの取って置いてるんですか⁉ 捨ててください、今すぐに⁉」
しれっと明かした颯太にアリシアは戦々恐々とした。別に、彼女が本気でお願いすれば捨てても構わないが、そうするとアリシアの成長記録の思い出の品が一つ減ってしまうから残念だ。まぁ、彼女がまだ颯太に隠しているつもりの『にっき』があるから、見たくなったらそっちを見ればいいのだが。
「あうぅ。ソウタさんがイジワルしてきます」
「意地悪してるつもりはないんだけどね。ただ、アリシアとの思い出は、出来るだけ多く残しておきたい、ってだけで」
「むぅ。そう言われては無闇に捨てるなと言えなくなってしまうではないですか」
「……ちょろい天使様だな」
口を尖らせて引き下がる天使に、颯太は苦笑。
アリシアにとっても、二人で過ごした時間は大事な宝物なのだ。それを私情で蔑ろにするのも納得いっていないようで、天使は難しい顔で葛藤していた。
なにはともあれ、颯太のアリシア秘蔵コレクションの一つは無事保管が決定された。
「ソウタさんは最近、私で揶揄うの楽しんでませんか?」
「いや? そんな事はないと思うけど」
涙目で指摘するアリシアに首を傾げれば、彼女は「そうですよ」と頬を膨らませた。
「私が甘い物を好きと知って誘惑してきたり、お掃除を頑張ったら頭を撫でて褒めてくるし、買い物に行く時はなかなか手を放してくれませんし。お弁当はいつも残さず美味しいと言ってくれますし――ソウタさんのせいで、私はずっとどきどきして大変なんですからね!」
ぷりぷりとした顔で怒るアリシアの内容に、颯太は目を瞬かせた。
「だって全部本心だからね。いつもありがと」
「それですよそれ! また私の心臓がどきどきしてしまいました⁉」
「好きだよ、アリシア」
「ぐはぁ……っ!」
心臓に矢を貫かれたように悶えるアリシアに、颯太は頬の緩みを抑えきれなかった。
颯太は先に言及したように、アリシアに本心を伝えているだけだ。それに、以前のアリシアはそれを額面通りに、満面の笑みを咲かせて受け取ってくれた。要するに、今のアリシアの反応が顕著になっているのだ。
恋は人を変えるというが、どうやらそれは天使にも及ぶらしい。今のアリシアは人間だが。
――まぁ、確かにアリシアのこういう反応が面白いなとは思ってはいるけど。
まだ颯太の愛の囁きに悶えているアリシアを見て、颯太は背徳感に近い感情を覚えた。
アリシアは表情豊かな子だが、他人の前ではこうやって大仰に赤面したり悶えたり、ましてや艶やかな顔はしない。甘えることもそれは颯太といる時のみで、それを見せるのも颯太にだけ、という事に颯太は優越感やら支配欲やらに浸っているのかもしれない。
ならば、なるほど。神払聖羅も自分と同じ心境だった訳だ。
「……くそ、分かった気がした」
「? 何が分かったんですか」
忌々し気に呟けば、アリシアは頬をテーブルにくっつけたまま疑問符を浮かべた。そんなアリシアに颯太は胸中に沸いた感情を無理矢理飲み込むと、何でもないと首を振った。
「ちょっとね。分からない事があって、それが今分かったんだ」
「それは良かったですね。悩みが解決すると頭がすっきりしますから、これでぐっすり眠れますね」
「だね」
アリシアの会話に、颯太は適当に相槌を打つ。この不快なざわつきが、早く消えてほしかった。
――何故、聖羅の気持ちを一つ理解するたびに、この胸は妙にざわつくのか。
それが分らないまま、颯太は眠るまでの一時をアリシアと穏やかに過ごすのだった。
―― Fin ――
段々と『人』になりつつアリシア、、、




