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【休載中】天罰のメソッド〜処刑天使。ひきこもりの少年に恋をする〜  作者: 結乃拓也
第二部 【 紫惑の懺悔編 】
80/234

第76話 『 天使のエール 』

更新したぞ~。

あ、昨日初めて、総合PVが200行きました! 本当に興味持ってくれてありがとうございます!

【 side颯太 】

 

 ―― 9 ――


 翌日。陸上部は長距離チームが合同練習に赴く為、竹部先生が牽引することとなり、短距離チームはオフの日となった。

 本来であればマネージャーである颯太も合同練習に参加しなければならないのだが、昨日の出来事を他の部員伝に聞いた竹部先生から、練習終了後に「お前も頭冷やせ」と叱咤され、同行は許可されなかった。


 ――練習参加した方が、気が紛れるんだけどな。


 昨日のことを無意識に思い出してしまうくらいならば、いっそ練習に付き添って動き回った方が気楽だった。


「ソウタさん。おーい、ソウタさん」

「ん? どうしたの、アリシア」


 本の一ページを掴んだまま声が方に顔を向ければ、眼前でアリシアが眉根を寄せていた。


「どうしたの、じゃありませんよ。ソウタさんこそ、ずっと本を読む手が止まっていますよ。まるで石造みたいに」


 アリシアに指摘され、颯太はうぐ、と喉を鳴らした。そんな颯太にアリシアはやれやれと嘆息すると、


「何か、悩みごとですか?」

「悩みってほどじゃない、かな」

「私が力になれるかは分かりませんが、言ってみれば、少しは気が楽になるかもしれませんよ」

「そっか。……じゃあ、聞いてくれるだけでいいんだけどさ」

 今更アリシアに胸襟することに躊躇いはなかった。

「――はい」


 それから、颯太はアリシアに昨日の出来事を明かした。

 聖羅の不調のこと。マネージャーとして自分が、彼女の期待に応えられなかったこと。そして、彼女の胸中、そこで告げられた願望を。

 どうして聖羅がそこまで颯太に拘るのか、それが分らなくてずっと悩んでいることを、アリシアはじっと聞いてくれた。

 時々、アリシアの方をちらりと見れば、彼女の金色の瞳は憂いを孕むように潤う瞬間があった。


「――そういう訳で。俺どうしたらいいか分からなくなっちゃってさ」

「なるほど」


 話し終えた颯太は、じんわりと胸に痛みを覚えた。

 アリシアは短く吐息して、金色の瞳を伏せる。思惟しているように眉間に皺を寄せる彼女は、数秒後にぱちりと瞼を開くと、


「ソウタさんは、その方に自分と同じようになってほしくないんですね」

「うん」


 過去の自分、それを言葉にするアリシアに、颯太は力なく頷く。

 聖羅には、認められたいという感情で陸上に向き合ってほしくなかった。確かに、誰かに認めてほしいからと努力することは原動力になる。けれど、それも過剰になれば身を破綻させる爆弾になりかねない。――今の聖羅はまさしくそれであり、故に颯太は聖羅の想いを否定した。


「私はソウタさんの過去を知っていますし、似たような経験を私も持っていますから、ソウタさんの気持ち、理解できますよ」


 アリシアは以前、颯太に寄り添う為に過去を知るべく奔走していた。そのおかげで、颯太は長年の苦悩から解放されたのだ。


「ソウタさんは、ご両親に認められたくてずっと頑張ってたんですもんね」

「うん。その為に走り続けてきた」


 女優であった母とプロバレーボール選手であった父。その二人に認められたいが為に、颯太は十年の歳月を削り続けた。


「結局、認められないまま二人は逝っちゃったから。俺は何もする気力がなくなったんだけどさ」

「でも、今は違うじゃないですか。ソウタさんは立ち上がって、また歩いてる」

「それはアリシアや爺ちゃんがいたからだよ。二人が、みつ姉たちがいなかったら、俺はまだ過去を引きずったままだと思う」


 自分は恵まれている。誰だって過去に癒えぬ傷を持っていて、それを癒せぬまま生きている人が世の中には大勢いる。颯太はその傷に寄り添ってくれる人たちや恋人がいたから、過去に背を向けず歩けているのだ。


「それは私も同じですよ。ソウタさんが居なかったら、私はそもそも死んでいましたしね」

「あはは。言われてみればそうだね。あの時、アリシアを見つけたのは偶然だけど、出会えたのは奇跡だったな」


 全てが始まったあの日。それを思い返すたびに、アリシアと出会えてよかったと思う。

 ほんのわずかな憧憬に浸りつつ、颯太は右手を握ったり開いたりを繰り返した。


「認められたい、その気持ちは、俺は誰よりも理解できるんだ」

「――――」

「でも、やっぱり納得はできないんだ。なんで、俺のなんかに認めらたくて努力するのかが……俺は、そんな風に、誰かが認めて欲しいと思われる程の奴じゃない」


 母と父のように、自分は立派な存在ではない。名誉や盾はあれど、颯太は所詮ただの子どもだ。羨望や尊敬の念を抱かれるような、特別な存在ではない。

 自分はマネージャーとしての役目もこなせない奴で――


「そんなの、ソウタさんが勝手に決めていいことではないと思いますよ」


 颯太の思考を裂いたのは、アリシアの否定だった。


「え?」


 その声音と顔が怒りのような、悲しみのような形相になっていて、颯太は瞠目した。


「ソウタさんは、自分を小さく評価し過ぎです。ソウタさんは凄い人だということを、ちゃんと自覚しないと」

「いや……実際、俺は凄い人じゃないし」


 アリシアの言葉に首を横に振れば、アリシアはまたそうやって卑下する、と頬を膨らませた。


「ソウタさんは、まずその人を認める前に、自分を認めたほうがいいかもしれませんね」

「は?」


 ぷりぷりと怒った顔のアリシアは戸惑う颯太に向かって、


「一つ! ソウタさんの凄い所は足がとても速いこと!」

「え、なにこれ?」

「二つ! ソウタさんの凄い所は料理がとても上手なこと!」

「ちょ、アリシア。待って……」

「三つ! ソウタさんの凄い所は、物を教えるのがとっても上手なこと! 四つ! ソウタの凄い所は、頭も良い所! 五つ! ソウタの凄い所は、人の話をちゃんと聞いてくれること!六つ! ……」

「ちょ、待ったアリシア! いきなり大声で褒め続けないで! 恥ずかしいから!」


 声を上げて賛美を送るアリシアに、颯太は顔を真っ赤にして制止する。狼狽する颯太にアリシアは「ふん!」と鼻息を強く吐くと、


「どうですか。出会って二カ月くらいの私でも、ソウタさんの凄い所はすぐこんなに思いつきますよ。なら、みつ姉さんやトモエさん、リクトさんはもっと沢山思いつくはずです」


 アリシアの言いたいことが何となく分かって、同時にどうして怒っているのかも理解できた気がした。


「自分に認められるが要素ない、なんて悲しいこと言わないでください。私はソウタさんの凄い所、良い所を一杯知ってます。今度同じこと言ったら、家出しちゃいますからね」

「分かった金輪際言わない。だから家出だけは勘弁して」


 どうやら自分を過小評価したことにアリシアはひどくご立腹なようで、その怒りは怒髪天直前まで昇っていたようだ。

 平身低頭する颯太に、アリシアは腕を組みながら眉を上げた。


「どうですか、自分を認める気になりましたか?」

「はい。認めます。……俺は凄いです」

「よろしい」


 自分に称賛を送るなんて羞恥も良い所だが、それを口にすればアリシアは怒った顔のまま一応は納得してくれたようだ。

 それからアリシアは深く吐息すると、金色の瞳を細めて呟いた。


「私は、その人の気持ち、凄く理解できますよ」

「え?」


 目を瞬かせる颯太に、アリシアは「ですから」と続けた。


「私も、ソウタさんに認められたくて頑張ってますから」

「俺に認められたくて……どういう事?」

「私は、いつも頑張ってるソウタさんの隣に立っていたいからお掃除も料理も、勉強も頑張ってるんです。その人は優秀なそうですが、私は、この世界では何も持っていませんからね」


 空っぽなんです、とアリシアは笑った。けれど、と声を張り上げて、


「だからこそ! 努力するんです! 貴方の傍に、恋人として恥ずかしくないように! 沢山努力して、色んな人に、私はソウタさんの恋人なんですと胸を張っていられるように!」


 アリシアが怒っていたのはきっと、自分の努力も無駄だと言われたような気がしたからだろう。だから、あんな風に怒りを露わにしたのだ。


「ソウタさんが自分に胸を張ってくれないと、私も胸を張って生きられません」

「――――」


 胸を張って生きる――その言葉が、すとん、と胸に落ちた気がした。


「そっか。俺が胸を張っていないと、アリシアは頑張る意味なくなっちゃうんだ」

「はい。私は、ソウタさんだけでなく、皆さんから認めて欲しいですから。ソウタさんの立派な恋人だね、と」


 颯太の隣に堂々と胸を張って立っていること。それが、今のアリシアが努力する理由。

 颯太からすればアリシアの望みはもうとっくに叶っている。誰も、アリシアが颯太の隣に立つことに遜色ないと思っている。そればかりか、颯太の方がアリシアの隣に立つ為に努力しているのだ。

 天帝と約束したからではない。この純白の天使に、いつまでも格好良く見ていてほしいから。


「俺だって、同じだよ。キミの恋人として、立派でありたい。その為に、俺は努力してる」

「ならもう、ソウタさんはその人の気持ち分かるじゃないですか」

「――うん」


 慈悲を帯びたような朗らかな声音に、颯太は短く、けれど力強く頷く。

 自分を卑下していたせいで、聖羅の気持ちにきちんと向かうことができなかった。

 今なら、聖羅の想いに迎え合える気がした。

 友達として、選手として、颯太に認められたいという――彼女の懇願に。

 決意に感情が追い付いて、颯太はアリシアに感謝しようとした。


「あり……」


 しかし、アリシアはまだ言いたげな顔で、颯太は咄嗟に口を塞いだ。言葉を飲み込む颯太には気付かぬまま、アリシアは双眸を褒めて語った。


「その人だって、きっと私と同じですよ」


 アリシアは、出会ったこともない聖羅に気持ちを似重ねた。


「凄い人に、自分の努力を認めて欲しい。自分をもっと見てほしいから、たぶん、その人は必死に頑張ってるんです。つい無茶もしてしまうほどに」


 アリシアの無茶はきっと、ウミワタリでの神輿担ぎのことだろう。あの時のアリシアは颯太に成長した自分を魅せる為に、最大の難所である最後の坂を上った。


「だからソウタさん。その人と、ちゃんと向き合あって、話合ってみてください」

「あぁ。ちゃんと、話し合ってみるよ。明日」


 穏やかな笑みを浮かべるアリシアに、颯太は決意を表明した。

 毅然とした顔の颯太に、アリシアはぐっと脇を引き締めると、


「大丈夫! ソウタさんならきっと、その人と仲直りできますよ!」

「できるかな、俺」

「貴方の天使が言うんです! 自分と、私を信じてください!」

「そうだね。アリシアがそう言うなら、きっと大丈夫だ」


 天使から応援(エール)を余すことなく受け取って、颯太は深呼吸した。

 颯太の傍には、天使がいる。その天使がくれる勇気に報いられるよう、応えられるよう、颯太は更なる決意を胸に刻んだのだった――。

  

  ―― Fin ――



正妻ムーブを魅せつける天使の鏡。それがアリシアだ!

次回は聖羅と颯太の回です!

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