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【休載中】天罰のメソッド〜処刑天使。ひきこもりの少年に恋をする〜  作者: 結乃拓也
第二部 【 紫惑の懺悔編 】
77/234

第73話 『 二人きりですね 』

今話タイトル可愛くしてるのに内容は小悪魔です。

三章は聖羅、アリシアの颯太取り合い合戦の予定です。

【 side聖羅 】

 

 ―― 6 ――


「宮地くん。今日、一緒にお昼食べませんか?」


 昼休み。聖羅は早速行動に出た。

 いつもの二人がいないということは、今日颯太は独りで昼食を摂るということだ。週に数回ある機会を、聖羅は見逃すつもりはなかった。

 そんな聖羅に、いそいそと弁当袋を取り出そうとしている颯太はその手を止めて、怪訝な顔をした。


「……何企んでる」


 露骨に警戒しているな、と苦笑しながら聖羅はにこりと笑みを浮かべた。


「別に何も。昨日のお礼ですよ」

「なんでお礼に神払と一緒にご飯を食べなきゃならないんだ」

「あら、私とご飯を共にするだけで他の人たちは喜ぶのですが」


 仮に、いま颯太ではなく他の生徒に声を掛ければ、彼らは諸手を上げて迎え入れてくれるだろう。


「お生憎、俺はお前とご飯を食べても喜ぶなんてことはないぞ」

「ならば、普通に友達として一緒に食べましょうよ」

「…………」

「もう、なんでそこまで抵抗するんですか」

「普段の行いだろ。企んでること言えば、一緒に食べなくもない」

「だからさっき言ったじゃないですか。昨日のお礼がしたいだけだと」

「――――」


 数秒間、颯太は懐疑的な視線を送り続けてくる。その視線ににこにこと笑みを絶やさないでいれば、やがて颯太は諦観したように吐息した。


「……分かった」

「やった。それでは、そうですね。二人きりになれる場所に行きましょうか」


 そう告げた瞬間、


「嫌だ」


 と颯太は呼気を強くして首を横に振った。


「どうしてですか」

「むしろ、なんで二人きりで食べなきゃならないんだよ。別に教室でいいいだろ」

「私は構いませんよ。ただ、宮地くんの場合、他のクラスメイトの視線と、後から戻ってくる三崎さんと倉科さんから何か言われるかもしれませんね」


 くすくす、と嗤うと、颯太は不快気に喉を鳴らした。


「……この悪魔め」

「女子にそういう言い方はお勧めしませんよ」

「事実だろう。最初から俺に選択権なんてないんだから」

「宮地くんの選択肢を握ったつもりはありませんよ。私は」


 平然とした顔で言えば、颯太は更に顔を顰める。言葉通り、聖羅は何もしていない。ただ、既に周囲は颯太と聖羅に好奇の視線を向けていた。このまま膠着状態が続けば、居心地が悪くなるのは颯太だけだ。


「それで、どうしましょうか、宮地くん。私と二人きりで、安全な場所でご飯を食べるか。それとも、この教室でずっと視線を向けられたまま、私とご飯を食べるか」

「どっち選んでも一緒だろ、もう」


 颯太にだけ聞こえる声で、聖羅は少年の前で天秤をぶら下げる。

少年の苦渋の顔が心底愉快で、体の奥が火照るような感覚に胸が躍る。


 ――やっぱり、宮地くんと居るのは楽しいわね。もっと、遊びたくなるわ。


 この湧き上がる欲情を維持し続けるには、やはりもっと彼と親睦を深めなければならない。

 だから、仮に少年に悪魔と言われようと、それが己の欲する要望の為ならどうでも良かった。

 欲しいものを手に入れる。それが、神払聖羅だ。


「分かったよ。お前の好きな場所でいい」

「ありがとう。宮地くん」

「心籠ってねぇな」


 苦渋の顔から諦念した顔へ。そして深い溜息を溢した颯太は、聖羅の思惑を承諾した。


  **************************************


 颯太の懇願と聖羅の思惑が奇跡的にも一致して、二人は被覆室にて昼食を摂っていた……のだが。


「なんで離れた席で食べるんですか」


 呆れた風に吐息すれば、颯太は顔を顰めて口を尖らせた。


「だって何するか分からないから」

「なんでご飯食べるだけなのに宮地くんを襲うんですか」

「俺の中の自己防衛システムが働いた」

「そんな防衛システム起動させないでください。乙女心が傷つきますよ?」

「お前のはどちらかといえば、悪戯心だろ」


 ガルル、と警戒する犬のように喉を鳴らす颯太。聖羅は深く溜め息を溢すと、眉尻を下げて問いかけた。


「そんなに、私って信用なりませんか?」

「前科前歴犯が何言ってる」

「何の罪も犯したつもりはありませんけど」

「あるだろ。毎度、俺を面白おかしそうに揶揄ってるだろうが」

「それは宮地くんが面白い人だからですよ」

「何も面白くねえだろ」

「そういう反応が面白いんです」


 颯太の必死の抵抗も、結局は無意味だというのにやるから非常に愉快だ。男子は心中嫌いな女子や壁を隔ててくる相手とは表情を殺すことを知っている。それ以外の誘い、つまり仲の良い女友達や下心が働く女性とは案外、簡単に落城することも。

 颯太の場合、聖羅の誘いを受けた時点で詰みなのだ。

 聖羅は愉快気に上がる口角を下ろして、儚げな顔と声を作って言った。


「じゃあ、そこでいいですよ、今日は。……本当は、宮地くんと仲良くお話だけなのに」


 ぼそり、と少年の耳朶に届くくらいの声量で呟けば、案の定少年は苦悶に満ちた形相になる。そして、


「そう言うなら絶対、俺を揶揄うなよ」


 と呆気なく陥落した。

 途端、聖羅は破顔した。


「はい! 絶対揶揄いません! ちょろたくん!」

「はいアウト。やっぱり離れた席で食べる」

「あ、今のはつい本音が出てしまっただけですから! ちゃんと建前ますから! ですから一緒に食べましょう!」


 近づいた距離が自分の欲求のせいで離れかけてしまって、聖羅は慌てて颯太の腕を引っ張る。颯太は不快気に顔を歪ませたが、やがて溜息を吐くと諦観したように椅子に腰を落とした。


「はぁ」

「だいぶお疲れですね。今日は比較的、疲れるような授業はなかったはずですけど」

「お前のせいだよ! 分かってやってるよな⁉」

「はて、なんのことですか?」

「きょとん? じゃねえよ! バレバレなんだよ!」


 きょとん、と首を傾げる聖羅に、颯太は犬歯を見せて吠えた。

 やはり、楽しい。颯太と居るのは、不思議と胸中からそんな感情が生まれる。


「うふふ。やっぱり宮地くんと一緒に話すのは楽しいですね」


 本音をありのままに伝えれば、それを本心だと思っていない颯太は弁当袋を広げながら適当に相槌を打った。


「あーそーですか! ……たくっ。俺は三割増しで疲れるっつーの」

「私は普通に話してるだけなんですけどね」

「俺は普通に会話できてないの」

「何でですか?」

「お前が隙あらば俺で遊んで来るからだろうが!」


 今だってそうだろ! と指摘する颯太に、聖羅はくすくすと笑った。

 颯太はおにぎりを一口齧ると、短く咀嚼してから呑み込み、そして眉を下げて質問してきた。


「つーか、お前、なんで俺の時だけ露骨に弄る訳?」

「楽しいからですよ。それ以外に何かありますか?」


 聖羅も用意していたサンドイッチを咀嚼してから答えた。


「他の人にもやればいいだろ。俺より仲が良い奴沢山いるんだから」

「宮地くんは〝トクベツ〟なんですよ」

「何一つ心に響かない特別をありがとう。そしてその特別を皆に分けてやってくれ」

「宮地くんが一人占めしていいですよー」

「無理無理。お前の厚意が重すぎて、俺の網じゃはち切れるから。独占は違法だから」

「なら私が合法にしてあげますね」

「どうあがいても逃げれねぇ!」


 さらりと逃げようとする魚を、聖羅は包囲網を敷いて逃がさない。編で苦し気に踊る魚に、聖羅は愉快気に笑う。


「宮地くんは私の〝トクベツ〟は嫌ですか。学校一の美女からの誘いなのに」

「自分で言うな」

「既に他者が認めているので公認かと」

「ちっ」


 自分だけで美女と語るには妄言に過ぎないが、それも他者が認めれば事実になる。世の中の仕組みとはそういうものだ。


「流石は〝女王〟で」


 それが、転校して来てから暫くたった聖羅のあだ名だった。

 全校生とから羨望を浴び、好意を向ける者を悉く切り捨てる――そしてついたあだ名が、『 女王 』 嬉しくもなければ誉れ高くもない、価値のない女冠(ティアラ)だ。

 他者からそう呼ばれた所で胸に響くものはないが、颯太に言われるのは面白くなかった。


「その言い方、やめてください。宮地くんとは普通に友達でいたいんです」

「……悪かったよ。神払」


 不服気な態度を現わせば、颯太は失言だと詫びた。それから「でも」と継いで、


「本当に、なんで俺の時だけ揶揄ったり、ちょっかい掛けてくるんだ? 俺より気の合う友達なんて、いくらでもいるだろ」


 それは違う。だって、


「彼らは所詮、上辺だけの友達ですから」

「…………」


 胸の内をありのままに晒せば、颯太の体が硬直した。


「私は、彼らの話に合わせ、そして頷いてるだけです。後は向こうが勝手に私を『神』だとか『天使』だとか〝女王〟と祀り上げるだけですよ」

「……でも、お前はその評価に不満はないんだろ」

「えぇ。人から敬服されるのは好きですよ。私は、私の存在価値を自覚していますから」


 才能とは、己が認めるからこそ真に発揮されるものだと思う。己を俯瞰し、客観的に見つめ、秘めた才を自覚しなくては、どれほどの原石であろうと輝きはしない。


「お前のそういうところは尊敬するわ」

「あら、もっと色々な所を尊敬してほしいですね」

「調子に乗らせるからしない」


 愛想を浮かべて要求しても、颯太はバツが悪そうな顔をして口を噤んだ。


「まぁ、あれこれと話ましたが、結局、私は宮地くんとは友達でいたいんですよ。私を〝トクベツ〟扱いしないのは、きっと後にも先にも宮地くんだけですから」

「そんなことはないだろ」

「どうでしょうか。私は私を止めるつもりはありませんから。ただ、そうですね……」

「なんだよ、急に考えこんで」


 思案する聖羅を颯太は怪訝な顔で覗き込む。

 そんな颯太に、聖羅は嫣然とした笑みを向けて、言った。


「〝好きな相手〟でもできたら、私も変わるかもしれませんね」

「…………」


 真っ直ぐに、聖羅は颯太を見つめる。真紅の瞳と黒瞳が交わり合い、時が止まったような感覚を覚えた。

 遠くの、誰かの声が反響して聞こえるくらいには、静寂の時が流れていた。

 その静寂は晴れたのは、颯太の鼻で笑った音だった。


「そういう相手が、いつかできたらいいな」

「えぇ。いつか」


 その言葉に、聖羅は社交的な笑みを浮かべる。心音は、昂ぶりもしないままに。


「まぁ、そういう相手が欲しいなら、その悪魔的な性格を見直すところから始めろ」

「この悪魔的な性格を含めて、好きになってくれる相手を探せばいいだけです」

「じゃあ無理だな」

「あらら、そこまで断定して言われるとショックですね。責任取ってくれますか」

「お生憎様、俺はまだ責任取れるような年齢じゃないので不可能です」

「前払いでいいですよ」

「キャンセルします。……それにもういるしな」

「?」


 颯太が何かぶつぶつと言った気がして、それを上手く聞き取れなかった。

 眉尻を下げる聖羅に、颯太はおにぎりを口に運びながら視線で促した。


「ほら、早くご飯食べろよ。じゃないと、昼休み終わるからな」

「それくらい分かってますよ。それと、まだ昼休みは十五分あります」

「あと十五分もお前といるのか」

「嬉しいでしょ」

「いや全然。疲れる」

「ならマッサージでもしましょうか? 日頃のお礼に」


 ウィンクして提案すれば、颯太がむせた。愉快気に笑う聖羅に、颯太はどっと疲れがたまったように溜息を溢しながら、


「ホント、お前といると疲れるわ」


 そう肩を落とすのだった。

 

  ―― Fin ――



次回はアリシアのターンだ! 皆、楽しみに見てくれよな!

今日はもう買い物に行きます。探さないでください。クリームコロッケ買いに行きます! 売ってればいいなぁ。次回はその感想でいいですかね?

ご飯食べたあとはやる気よりも眠気が襲ってきます。だから今日もう書けないと思います! ←書けよ

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