第71話 『 マネージャーの判断 』
初めての聖羅サイドになります! 彼女の思考、それをどうかお楽しみください。
登場人物紹介~
宮地颯太 (みやじそうた) 本作主人公。復学した彼は現在、女子キラーを手に入れていた!
神払聖羅 (かんばらせいら) 作者も時々間違える分かりづらい苗字。今回は聖羅メインで話進むよ!
水瀬ちゃん 陸上部所属の一年生。茶髪ボブの明るい性格の子です。
【 side聖羅 】
「神払、ちょっとこっち来い」
「はい?」
部活中、聖羅を手招きしてきたのはトレーナー――ではなく、男子マネージャーの颯太だ。
丁度、今日のトレーニングメニューを半分終了したところで呼びかけられ、聖羅は何事かと小走りで駆け寄った。
「なんですか、宮地くん」
「ちょっと体貸せ」
「は?」
突拍子もなく卑猥めいた発言に、聖羅は己の体をきゅっと抱いた。
「なんですか急に、いま部活中ですよ。そういうのは後にしてください」
「お前はおそらく絶賛勘違いしてるな。……いや、今回は俺の言い方が悪かった」
「……最後のほうは突っ込まないんですね」
「? なんだ、最後の方って?」
「何でもありません」
失言を謝罪する颯太に聖羅は隙ありと揶揄うものの、天然の防壁に阻まれてしまう。そういう所が手強いんだよな、と口を尖らせていると、
「揶揄おうとしてるのは分かったけど、いいからちょっと体……じゃなかった、足触るぞ」
「乙女の体に触るのはそれ相応の責任を果たすということですよ」
「お前は乙女じゃなくて陸上選手な。それに、男としてじゃなくマネージャーとしてならいくらだって責任負ってやる」
「うふふ。あら逞しい……って、ひゃ⁉」
悪戯な笑みを浮かべる聖羅に、颯太は諦念したように嘆息。それから聖羅に構うことなく膝を下ろすと、唐突に足を揉んできた。
「んっ……宮地くん、何をっ」
「変な声出すなよ。部活中だぞ」
「だって、宮地くんがいやらしい手つきで触るっ……からっ」
まるで肉を揉み込むように五指をふくらはぎに触れてきて、聖羅は颯太の手つきに意図せず熱い吐息が零れた。
「みや、じくん……そこ、ダメッ!」
「お前絶対わざとやってるだろ⁉ ちょっと声押さえろよ⁉」
「む、無理です……声、抑えられないっ!」
「ホント勘弁だから⁉ 社会的に殺されたくないから俺⁉」
それもなんだか背徳的な事をしているみたいでアウトな気がするが、本気で懇願する颯太に免じて両手で口を塞いだ。
が、颯太の手つきは本当に
「たくっ。人が真剣に心配してるってのに」
「……?」
ボソッ、と呟いた言葉に、聖羅は怪訝に眉を顰めた。果たして何を心配しているのか、そう胸中に疑問が湧いていると、颯太は神妙な顔つきになっていた。
「やっぱりか」
「何が、やっぱりなんですか」
右足が終わり、左足も触り終えた颯太はいつになく鋭い目つきで呟いた。その表情に聖羅も自然と頬が強張った。
す、と立ち上がった颯太は、聖羅の肩に手を置いて言った。
「今日は残りの練習止めて、ストレッチに変更だ」
「何ですか? まだ全然、私は練習できますよ」
唐突に練習中止を言い渡され、聖羅は困惑した。食い下がろうとする聖羅に、颯太は首を横に振ると、
「足が痙攣してる。だから、今日はもう練習させられない」
「は?」
それは、聖羅自身ですら気付かなかった変化――否、少しだけ、違和感は覚えていた。
「大丈夫ですよ。ただの疲労ですから。少し休めば収まります」
「そうやって無理して、怪我に発展したらどうする。自分と俺だけじゃなく、皆に迷惑かけるぞ」
「くっ」
颯太から淡泊に告げられる正論に、聖羅は反論できなかった。颯太の言う通り、万が一が起きた場合は部活の皆に迷惑が掛かる。
「ちょっと無理し過ぎたな。練習メニューは、先生と相談して見直すか」
「そんな。今日休めばこれまで通りできますよ」
強く言えば、颯太は淡々と返す。
「いいや。仮にそうだとしても、またいつ同じ症状を引き起こすか分からない。練習メニューが原因なのだとしたら、見直すのはマネージャーとても、竹部先生としても義務がある。やる気を見せてくれる神払には申し訳ないけど、少しばかり練習メニューは変える」
「そんな……」
もはや決定事項になった練習メニューの変更に、聖羅は悔しさに奥歯を噛んだ。せっかく、これまで調子が良かったのに、どうして急に不調をきたしたのだ。
憔悴する聖羅に、颯太はやれやれと吐息した。
「お前が頑張ってるのは俺も十分伝わってるから、だからそんな落ち込むな。それに、練習メニューを変える、っていっても、もっとお前に適したメニューになるだけだから。だから、変な責任感じるなよ?」
「……はい」
「ん。分かってくれて何よりだ」
「宮地くんの判断は、いつも的確ですからね」
「そう言ってくれると新人マネは助かりますよ」
こくりと頷くと、颯太は小さく笑みを溢しながら頭に手を置いた。その温もりにいくらか罪悪感が拭われて、聖羅はほんのり頬を朱に染める。
「じゃあ、今からストレッチして、それが終わったらダウンに入って。俺は先生のとこいって神払の足のこと伝えてくるから。その後はマネの仕事だったり、他の選手にアドバイスしてるかもしれないから、何か用があったら来てくれ」
「分かりました」
素直に頷けば、颯太は安堵したように吐息した。
そして、颯太はきょろきょろと辺りを見渡す。
「されじゃあ、神払にストレッチしてくれる子探さないとな……あ、水瀬さん」
茶髪のボブの子に颯太が声を掛けると、水瀬と呼ばれる子は肩をびくりと震わせながら振り返った。
「み、宮地先輩⁉ 何か私に御用でしょうか⁉」
「そんな畏まらないでほしいんだけど……悪い、この後予定ある?」
「予定⁉ はい! 私ならいつでも空いてますよ!」
「なら良かった。神払のストレッチの相手になってくれないかな」
「えっ……予定ってそっち……神払さんの、ストレッチ」
「やっぱ無理かな?」
「(何その顔ズルいです先輩⁉)――全然余裕ですよ!」
「そっか。ありがとう、水瀬さん」
「はいぃ」
――宮地くんは無自覚女たらしか。
後輩女子の感情ジェットコースターを遠い目で眺めていると、トントン拍子に話は進んで、どうやら承諾が取れたらしい。
それから、聖羅の下まで颯太と水瀬が駆け寄って来る。
「それじゃ、神払。水瀬さんがストレッチの相手してくれるっていうから」
「よ、宜しくお願いします! 神払先輩!」
「あんま後輩イジメんなよ」
「無自覚たらしくんよりはマシですよ」
「え? それ俺のこと?」
「さぁ、どなたでしょうね」
首を傾げる颯太に、聖羅はぷいっとそっぽを向く。
そんな聖羅に、水瀬は困ったように狼狽していた。
「あ、あの、神払先輩?」
ちらりとボブの女子を見て、聖羅は「はぁ」と小さく吐息すると、いつもの凛然とした表情へと顔を引き締めて、
「何でもないですよ。それじゃあ、宜しくお願いします、水瀬さん」
そう、後輩女子に社交的な笑みを魅せたのだった。
―― Fin ――




