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【休載中】天罰のメソッド〜処刑天使。ひきこもりの少年に恋をする〜  作者: 結乃拓也
第二部 【 紫惑の懺悔編 】
70/234

第66話 『 似た者同士 』

登場人物紹介~


宮地颯太 (みやじそうた) 本作主人公。明かされた過去。それに寄り添って――。

アリシア 本作メインヒロイン。明かした過去。それを天使として、人して――。

【 side颯太 】

  

―― 27 ――


「――そして、私は処刑され、今に至るという訳です」

「――――」


 アリシアから告げられた過去に、颯太は息を呑む。

 あれから帰宅して、颯太は渡り廊下で夜に染まる景色を眺めながら、アリシアの過去をじっと聞いていた。その終わりに、無意識に拳を握り締めていた。


「じゃあ、アリシアは結局、何も悪いことはしてない、ってことだよね」

「地球の価値観で言えば、そうなりますね」


 人間の常識で例えれば、アリシアはただ迷子を道案内したにすぎない。それは、何ら罪に問われるような外道な行いではないはずだ。

 その事実に、颯太は強く奥歯を噛んだ。

 奥歯を噛む颯太に、アリシアは力なく笑うと、


「魂を扱うというのは、それだけ大きな責任を伴うんですよ。その役目を与えられた天使だけが、魂を導くことを許される。私はそれを理解していながら、魂を導いてしまった。罰を受けるのは、当然なんです」

「でも、それは例え迷子の人を助けることであっても許されないことなの?」

「――天界の法は、絶対ですから」


 厳然と告げるアリシアに、颯太はやり場のない憤りを覚えた。

 人にとって法が日常を過ごす上での〝枷〟ならば、天使とっての法は外れれることのない〝呪縛〟だ。

 そして、天使はそれに従順するが必然だと思っている。

 人と天使の常識の絶対的な相違に、颯太は初めてアリシアが遠い存在と感じてしまった。

 人は、その気になれば平気で法を破る。大切な者を守る時、憎むべき相手がいる時、知らなかっと嘯く時――人間にとって、法など所詮、その程度に過ぎないのだ。

 しかし、天使には法に叛く概念すらない。例え、破ることで誰かを救えるとしても、それが『神様の定めた法だから』という理由で。


「天使は神様の使いとして誕生し、魂を救済する存在として与えられた使命を全うします。そこに、余計な思考の介入はありません」

「そんなの、人形と同じだろ」

「そうかもしれませんね」


 寂寥を帯びた声音に、アリシアは自嘲しながら肯定した。

 しかし、アリシアは「でも」と首をゆるゆると振った。


「人からすれば、私たちは神様の創り出した傀儡なのかもしれません。でも、天使はみな、与えられた使命に矜持を持っています。例え、誕生した時から運命が定められたとしても、私たちはそれを嘆いたりはしません」


 確然と告げるアリシアに、颯太は瞠目した。

 この言葉はきっと、全天使の総意。その代弁なのだと理解した。天使から人と神への、嘘偽らざる本音。

 なら――、


「アリシアは、自分が間違ってないことをして裁かれて、後悔はしてない?」


 あらゆる激情を押し殺して、天使の本心を聞いて、颯太はアリシアを真っ直ぐ見つめて問いかけた。

 黒い瞳に、白銀の天使が顔を振り向かせた。金色の瞳と視線が交差すれば、その双眸は慈愛を宿したように細まって。


「はい。後悔はしてません」

「――そっか」


 頷いたアリシアに、颯太は大きく息を吸う。肺に酸素が満タンになるまで吸って、それかsらゆっくりと吐き出した。

 伏せた黒瞳も時間を掛けて開けば、苛烈に染まっていた思考も冷静さを取り戻す。


「アリシアが後悔はないって言うなら、俺はもう、何も言うことはないよ」


 一番、理不尽だと嘆いていい天使がそうしないのだ。ならば、当事者でもない者がこれ以上騒ぐことは無粋だ。――ただ、颯太はアリシアに寄り添うだけ。


「アリシアがもしも、天界での事が納得してないなら、俺は今すぐにでも天帝様か神様に文句言いに行ってた」

「ふふっ。どうやって行くんですか」


 小さく笑うアリシアに、颯太はゆるゆると首を振った。


「分かんない。けど、絶対会って、アリシアを天使に戻せ! 法を見直せ―! って、絶対言いにいく」

「私が天使に戻ったら、ソウタさんとはもう会えなくなるかもしれませんよ?」

「ぐっ……それは嫌だなぁ」

「でしょう。私も、ソウタさんと離れ離れになるのは嫌です」


 はにかむアリシアに、心臓の鼓動が弾んだ。こんな時に、ズルい。

 意図せず颯太の心拍を上げたアリシアは笑みを浮かべたまま続けた。


「私は今の時間を含めて、処刑されて良かった、と思うようになりました。死んでよかった、そう思うのは馬鹿ですよね。でも、そのおかげで興味があった地球で暮らすことが出来ましたし、何よりも〝心〟を知ることができました」

「心?」


 自分の心臓の辺りを両手で優しく抱きしめるアリシアは、愛しそうに言った。


「天使だった私は、心というものを知りませんでした。喜び、怒り、悲しみ、それは単に相手に自分の思考を伝えるための意思表現だと思っていました。――でも、この世界に来て、『人』として生きて、天使にも心があることを知った。心があるから笑うし、泣くこともある。誰かを好きになって、胸が辛くなることがある。それを教えてくれたのは、全部ここでの生活なんです。――天界にはなかった温もりが、私に、生きることの喜びを教えてくれた」

「アリシア……」 


 その声音は切なげに震えていた。けれど同時に、強く熱を帯びていた。

 処刑されて良かったと、アリシアは言った。でも、そう思えるまでやっぱり後悔はあっただろう。苦しみはあっただろう。『心』を宿したからこそ余計に、辛くなる思い出があっただろう。

 ――それに寄り添うんじゃなく、分かち合いたかった。


「ソウタさん?」

「ごめん。でも、こうさせてほしい」


 気づけば、颯太はアリシアの頭を抱いていた。自分の胸に顔をしけられたアリシアが驚きで息を呑むのが絹越しに伝わった。


「アリシアを人間にしたのは俺だ。だからこそ、アリシアが抱えてたもの全部を知りたい。言えなかったこと、言いたかったこと。辛いことも楽しいこともぜんぶぜんぶ。それを一緒に分かち合って、一緒にいたいんだ」

「――ッ」


 胸の中で、アリシアが奥歯を噛み締めた。今にも泣き叫びそうになりながら、必死に感情を押し留めている。


「後悔はなくても、苦しかったでしょ。アリシアはいい子だから、助けることが罪だって分かってて助けることに何も思わないはずないよね」


 葛藤したはずだ。使命と絶対の法の間で。他者に迷惑が掛かると理解していたはずだ。それでも尚人助けを選んだのだから、アリシアはそれこそ身を裂くような思いだったはずだ。だからこそ、天界の者達全てが否定したアリシアの選択を、颯太は誇らしいと思う。


「辛いって、苦しかった、って吐き出さないと、心はいつか壊れてしまうんだ。俺はよく知ってるから、分かるんだよ。だから、キミの苦しみを、少しでもいい。俺に、分けてくれ」

「辛いなんて……っ、こと……」

「我慢するな、アリシア」


 強く抱きしめれば、もうアリシアは耐えることができなかった。


「俺がいる。だから、全部吐き出せ」

「くっ……うっ……」


 じんわりと、服が濡れた。それまで必死に感情を押し留めていていた何かが決壊して、濁流にようにあふれ出してくる。

 訥々と、アリシアは吐露し始めた。


「私ッ……ホンッとは……リジェム様にッ……謝りたかっ……んです。ごめんなさい……って。私をたくさんっ……お世話してくれたのに……その恩を、何もっ……何も返せないまま、処刑されてしまった……っ」

「――――」

「私を慕ってくれた天使の子たちにだって……本当はッ、謝りたかったッ……裏切って……ッ……ごめんなさい……って」

「うん。そうだよな。何にも言えなかったのは、辛いよな」


 嗚咽を交えながら激情を吐露するアリシアに、颯太は込み上がる感情を押し殺しながら頷いた。

 今、ようやく分かった。アリシアと自分は似た者同士だ。

颯太は、認められたかった親に認められないまま死なれてしまった。

 アリシアは、認めてくれた者たちを裏切って死んでしまった。

 そんな癒えぬ傷を抱えながら、どこかに感情を置いたまま生きていた。救いなどないとばかり信じてしまって、心が塞がってしまった。

 そんな二人だからこそ、あの日、出会ったのだろう。

 アリシアがいたから、颯太は『親への妄執』から抜け出すことができた。

 今度は、ソウタがアリシアの『悔悟』を断ち切る番だ。


「泣いていい。泣いていいからさ、だから、誰にも言えなかった、胸にずっと押し殺して(塞いで)た苦しみ、全部ここで吐き出せ。俺は何処にもいかないから」

「うぅ……あぁ……」


 アリシアが泣き止むまで、抱きしめ続けると決めている。それでアリシアの苦悩が僅かでも晴れるなら、ずっと、抱きしめていよう。


「うあぁぁ‼ うぅ……っ。うああああああああああん‼」


 ――泣いていい。泣き叫んでいいよ、アリシア。


 思う存分悔しんで、泣けばいい。それが人だ。

 人は、辛いときには泣く生き物だ。苦しい時に涙が零れる生き物だ。それが人だ。

 人として泣いて、天使として悔やんで――顔をくしゃくしゃにして泣く。

 どしゃぶりの雨のあとにはきっと晴れて、虹が咲くから――。

 

   ―― Fin ――


ここと次書くのに三日掛かりました。

作者の苦悩はさて置き、いかがだったでしょか――――――――――!

今話はついに、アリシアの過去の決着回! 

後悔していない。そう言うアリシアですが、やっぱり後悔していたんですね。ただ、その後悔は法に叛いて魂を道案内したこと。でも、他の天使に何も告げられず処刑されてしまったことは、後悔というか心残りだったんですね。一部から続くアリシアの苦悩。それがようやく、颯太の手によって断ち切られることができました。

颯太がアリシアを救うことができたのは、颯太がアリシアに救われたからなんですね。心の痛みを理解した颯太だからこそ、アリシアの苦しみに寄り添い、分かち合うことができた。アリシアを救うことは結局、颯太しかいなかったという訳です。

悲しみに、苦しみに、痛みに――誰もが抱える後悔を救えることができるのは、傍に居てくれる誰か。

本当に、作者からこれだけは言わせてください。――良かったね、アリシア。

さてさて、二部二章ですが、次話で最終話となります! そして、この続きが気になる方は大勢いるでしょう! いてくれないと困る!

ということで、読者様の期待に応えましょう! 天メソ二部二章、67話 『 雨上がりの虹 』は今日、午後21時に公開です!

それでは67話をお楽しみに!


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