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【休載中】天罰のメソッド〜処刑天使。ひきこもりの少年に恋をする〜  作者: 結乃拓也
第二部 【 紫惑の懺悔編 】
67/234

第63話 『 デートをしよう 』 その3

登場人物紹介~


宮地颯太 (みやじそうた) アリシアに寄り添う覚悟を決めている主人公。過去の経験から人と成長し

              たイケメン。

アリシア 苦悩を抱え続ける堕天使。未だ、その自らの存在に葛藤しているメインヒロイン。


――ゲームセンターでお目当てのぬいぐるみを獲得した後は、二人でラーメンを食べた。それから残りの時間は、ただ楽しいという感情だけが胸を満たしていた。

電化製品店では、アリシアがマッサージ機を試してぶるぶると震えているのをお腹を抱えて笑った。

 雑貨店では、アリシアが気に入った食器を買ったり、二人でおかしなサングラスをかけあった。

 本屋で参考書物や陸上関連の本を買って、アリシアは自分のお小遣いで小説を買った。絵本ではなく小説を買ったアリシアに、感慨深くなったのは秘密だ。

 洋服店ではアリシアの試着に付き添ったが、好奇心の塊であるアリシアの洋服選びに、颯太は女の子と買い物をする苦労を初めて体感することとなった。それでも、アリシアが女の子らしい趣味を見つけてくれて、どこか安堵した自分がいた。

 休憩の時にはアイスを買って、お互いのを食べ比べたりした。

 今日一日は前回よりも遥かに楽しかった。感情が以前よりも起伏になったことも起因しているとは思うが、やはり、最大の理由はアリシアと一緒にいるからだろう。

 それはきっと彼女も同じで――


「疲れましたね」

「だね。めちゃくちゃ遊んだ」


 何度目かの休憩中。二人は休憩スペースで肩を寄せ合った。


「お買い物も沢山しましたし、これは、帰るのが大変そうですね」


 颯太とアリシアの両手は、荷物袋が握られていた。


「今日は予想以上に遊んだし、家に帰ったらぐっすり眠れそうだね」

「ですね」


 体の疲労に苦笑していると、アリシアはくすくすと笑いながら肯定した。


「……今日は、本当に楽しい一日でした」

「ん。喜んでもらってよかった」


 遠くを見つめながら呟くアリシアに、颯太は胸中で安堵した。

 その一言だけで、今日、デートした甲斐があったというものだ。ずっと続いていてぎこちない雰囲気も、今はもうない。


「こうやって落ち込んだ気持ちも、ソウタさんといると、それが埃のように軽くどこかへ飛んで行ってしまいます」

「アリシアにはいつも元気でいて欲しいから、その為だったら俺はなんでもやるよ」


 その言葉に、嘘偽りはない。アリシアが笑顔でいられるのなら、颯太は文字通り、全霊を尽くして笑顔にする。その覚悟は、ウミワタリの日からずっと続いている。


「やっぱり、ソウタさんは素敵な方ですね」

「ううん。アリシアの前で、ただ見栄張ってるだけだよ」


 朋絵やみつ姉の前では、簡単に本性が剥される。勿論、アリシアと居る時が一番の素の自分だが、やはりカッコよく観られたいから姿勢だけは正していたい。


「ソウタさんは、ずっと前からそうでした。私の為に、ずっと頑張ってくれていた。恋人になる前から、あの日からずっと……他人の私なんかの為に」


 語る声音はひどく穏やかで、でも、胸裏に奔流する激情を噛み殺しているようだった。

 それを少しでもいいから分けて欲しくて、颯太は震えるアリシアの手をそっと握った。


「アリシアはさ、人のことは凄く褒めるのに、自分のことになるとあんまり褒めないよね」


 時々垣間見てしまう、アリシアの昏い顔。あの時のアリシアは、見ていて胸が締め付けられた。

 颯太の問いかけに、アリシアはこくりと頷いた。


「……はい。だって私は、『罪科を持つ天使』ですから」


 その言葉に感情はなかった。それが、颯太の胸をさらに締め上げる。救ってあげたいと心が叫ぶ。


「アリシアが天界で犯した罪を俺は知らない。言えない制約があるのは聞いたけど、もう、それはないんだよね」

「――はい」


 人であって人にあらず。天使であって天使にあらず。矛盾するアリシアの存在は、おそらく天界での法は例外から外れるはずだ。

 アリシアが抱える苦悩は天界での出来事で、颯太はそれをアリシアが開示してくれない限り知る術はない。アリシアと関係がある天使・アムネトや天帝様に聞けば分かるのかもしればいが、現状、二人に会う方法は分からない。それに、他人の口より、やはり本人の意思で教えて欲しかった。

 アリシアも、ずっと明かそうか迷っているのだ。だから、こんな辛そうな顔をする。

 それでも――、


「俺は、アリシアが自分から言ってくれるまで、ずっと待つから」

「え?」


 思惟するアリシアにそう伝えれば、彼女は凝然と目を瞠った。

硬直するアリシアに、颯太は流れる人々を眺めながら言った。


「誰にだって苦しい過去があって、それを他の人に共有しづらいのは実体験があるから痛いほど理解できる。抱えてきた問題が大きけいほど、伝えるのって苦しいし、言葉にしづらいから」


 颯太も、十年に渡る苦悩を抱え続けた共感者だ。苦悩を抱える辛さは、誰よりもよく知っているし理解している。それを解禁することに、時間が掛かることも。


「俺はさ、悲しみに寄り添ってくれる天使がいたから救われた。ずっと伸ばしそこねた手を、優しい温もりが握ろうとしてくれたから差し伸ばせた」


 自分の手を見つめて、黒瞳を細めた。憧憬に、唇が緩む。


「今度は俺が、天使の手を引く番だと思うんだ。ずっと抱えてたものを背負う覚悟は出来てるし、天帝様にもそう断言しちゃったし」


 アリシアの顔をずっと見ないのは、自分でもよく分からなかった。たんに今のアリシアの顔を直視する勇気がないからのか、それとも、彼女への配慮なのか。

 ただ、アリシアが今にも泣きそうな顔をしているのはなんとなく解って。


「だからさ、アリシアの心の準備ができたらでいいから、教えて欲しいな。キミの恋人として、悲しみに寄り添う『人』として、いつでも『天使』の傍にいるから」

「――――ッ」


 短く、息を呑む気配がした。ぽつぽつと、自分の手に熱い雫が落ちてくる。

 ぐすっ、と鼻を啜る音の後、白銀の天使は決意したように問いかけた。


「ソウタさん。私のお話、聞いてくれますか」


 その問いに対する答えは、もう決まっている。


「――あぁ。聞くよ」


 颯太は天使の決意に、強く手を握り締めながら頷いたのだった。


  ―― Fin ――

ようやくアリシアの過去になります。ここまで長かったなぁ。付いて来てくれた読者さま、ありがとうございます!

そして、颯太のひたむきな想いに、アリシアはようやく応えてくれましたね。

これまでずっと、天界での罪を隠しながら颯太と接していたアリシア。伝えたくても、うまく伝えられないものって誰しも抱えてるものですよね。その葛藤に、果たしてアリシアは終止符を打つことができるのか、それをお楽しみながら見届けてください。


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