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【休載中】天罰のメソッド〜処刑天使。ひきこもりの少年に恋をする〜  作者: 結乃拓也
第二部 【 紫惑の懺悔編 】
62/234

第58話 『 キスと消えない残響 』

登場人物紹介~


宮地颯太 (みやじそうた) ハイスペック主人公。ただし恋愛は赤点です。

アリシア 白銀美少女のメインヒロイン。恋愛においては赤点どころか落第レベル。

優良三津奈 (ゆらみつな) 颯太のお姉ちゃん。恋愛は百点満点。さすがお姉ちゃん!

【 side アリシア 】


 ―― 21 ――


『キスしよう作戦』はソウタの部活がオフの日曜日に決行された。


 ――ソウタさんとキス。ソウタさんとキス。


 土曜日の疲れもあって、ソウタはまだぐっすり眠っている最中だ。九時半ごろに様子を窺いに行こうとは決めているものの、アリシアの頭の中はその事で一杯だった。


「まず、ソウタさんといいふんいきになる。……その為には、一緒にいられる時間を多く作らないとっ」


 休日、といってもアリシアには家事がある。ソウタも起きてから手伝ってくれるが、家事を早めに終わらせるに越したことはない。

 気合も十分に浴槽を粟立ったスポンジで擦り、全面が白い泡で包まれれば後はシャワーで洗い流していく。指を強く押し付ければ、キュキュッ、と心地よい音が鳴った。


「よし、お風呂掃除は終わりと。洗濯もあと少しで終わるから……今のうちにおトイレも掃除しておこうかな」


 そこは普段ソウタが掃除してくれるが、今回は時間に余裕がある為自分で行うことにした。やり過ぎ、とは少々自負しているものの、何故か今日は活力が満ちている。


「この調子なら、午前中に全部終わりそう!」


 アリシアは自分の効率の良さに驚愕する。これも愛の力か、と全身から漲る活力を実感しながら、額に滲む汗を拭った。


「さっ。このまま次のお掃除も終わらせちゃおう!」


 脇を引き締めて、鼻息を強く吐く。気合は保たれたまま、アリシアは浴室を出た。

 ゴゥゴゥ、と音を立てる洗濯機の前を通り過ぎて、一度洗面所を出る。トイレはこの隣で、距離は二歩も歩けばドアノッブが目の前に来る。


「……綺麗ですね」


 日常の中で使用頻度が高い場所とはいえ、トイレはアリシアが唸るほど清潔に保たれていた。それが何故か悔しく感じてしまうのは、それだけアリシアも掃除に情熱を持つようになったからだろう。


「そういえば、ソウタさんが言ってたっけ。トイレにはトイレの神様がいるから、綺麗にしてたら良いことがあるって」


 ゴム手袋を装着し、便器をトイレブラシで磨いている最中、アリシアはソウタとの会話を思い出して呟いた。

 先の言葉も祖父の教えらしいが、ソウタはその祖父から人生における様々なことを教えてもらっていたようだ。

 料理や掃除の仕方。娯楽、そして人生の在り方も祖父から学んだそうだ。

 ソウタが祖父から教わったものが、いまはアリシアに受け継がれているのは、なんだか無性に嬉しさが込み上がってくる。


「私も一度、お会いしてみたかったな」


 ソウタの敬愛する人だ。きっと立派な人なんだろうと脳内で妄想が膨らむ。ソウタは「お節介でやたら元気なおじさんだったよ」と苦笑しながら言ったが、憧憬を語る顔は凪のように穏やかだった。その祖父はすでにこの世を去ってしまったそうだが、道徳的な人ならばきっと天国に行けているだろう。


「仏壇に飾られた写真も、笑顔が素敵な方でしたもんね」


 穏やかな笑みが素敵なソウタとは反対に、白い歯が素敵なお爺さんだった。

 ウミワタリ以降、アリシアはそれまでソウタに入室を拒否されていた『祖父の部屋』に入ることが許された。それからは毎日、仏壇に手を合わせている。今日あったことやソウタの最近の様子を伝えているのだ。


「ソウタさんには時々でいい、って言われてるけど、やっぱり住まわせてもらっている身としては、そこはきちんと感謝を込めないと」


 この家に住めて良かったと、心底そう思う。渡り廊下からすり抜ける風は心地良いし、年季の入った木板から鳴る足音は安心する。リビングは友達が来れば賑やかになる。家が大きくて掃除は大変だが、その分やりがいもある。――この家に住むきっかけを作ってくれたみつ姉に感謝は勿論、快諾してくれたソウタには本当に頭が上がらない。

 宮地家はもう、アリシアの大切な居場所なのだ。


「……これで、よし!」


 トイレのレバーを捻り、水が勢いよく流れていく。トイレブラシを元の場所に戻せば、あとは床の埃を払って終了だ。


「ふぅ。トイレ掃除も終了。洗濯機も終わったみたいだし、干しちゃわなきゃ」


 トイレの扉を閉じると、そのまま背中を預けた。多少の疲労は感じるが、まだまだ体は動けた。

 少しだけ休んで、アリシアは洗面所へ戻る。


「――私には、此処しかないんだから」


 ぽつりと呟いた言葉は空虚のようで、感情を置いてけぼりにしたみたいだった。


「これが終われば、あとは掃除機をかけるだけ、と」

「それは俺がやるよ」

「ソウタさん⁉ ――うわっ⁉」


 突然、耳朶に息が吹きかけられて、アリシアはビクッと肩を震わせた。反射的に体が距離を取ろうとするも、疲労の影響が出て足がもつれた。

 転ぶ、そう直感して目を瞑るも、アリシアの体は力強い手に引っ張られた。


「あっぶな。大丈夫? アリシア」

「は、はい。ちょっと驚いてしまいました。ごめんなさい」

「俺のほうこそごめん。いきなり話掛けちゃったから」


 互いに謝ると、ソウタは不安そうな顔で手を離していく。

 それから互いにぎこちない空気が漂って、ソウタはうなじに手を置いて問いかけた。


「なんか、思い詰めてたみたいだけど……」

「そんなことありません! 全然、元気ですよ!」


 勢いよく顔を振って、アリシアはすぐに笑顔を作ってみせた。


 ――バレてない、よね。


 作戦が早々に気付かれたことに危惧したが、ソウタの顔を見る限り大丈夫そうだ。

 頬を固くするソウタに、アリシアは気丈な顔つきで言った。


「確かに少し張り切り過ぎて疲れたかもしれまんせが、でも、もう元気百倍です!」

「そっか。それならいいんだけど、無理はしないでね」

「はいっ」


 穏やかな笑みを浮かべるソウタに、アリシアは敬礼で返した。

 安堵の息を溢すソウタは「それにしても」と前置きして、


「本当に、今日はやけに頑張ったみたいだね。なんか、掃除が殆ど片付いてるような気がするんだけど」


 辺りを見渡すソウタがそう感想を溢すと、アリシアはにやけながら頷いた。


「そうなんです。今日はちょっとやるやる事がある日、というか、作戦をけ……」

「やる事? アリシア、今日用事あったんだ……ん? 作戦?」

「あぁぁぁぁ⁉ なんでもないですなんでもないです! 今日は速くお掃除を終わらせて、午後からゆっくりしようと思ってただけです!」

「そ、そんなんだ」


 自分から危うくぼろを出す寸前で、語勢を強くしてその場を凌いだ。気圧されるソウタは頬を固くしているが、アリシアはほっ、と息を溢す。


「そういう訳なので、ソウタさん、午後は一緒にゆっくりしましょ!」

「うん。たまには、散歩とかも行かず家でゆっくりするのもいいかもね」


 アリシアの提案に、ソウタも快く肯定してくれた。


 ――よし! これで、午後から作戦を実行できますね!


「?」


 ここまでは順調に誘い込めている。あとは、例の作戦を実行するだけ。

 アリシアの思惑を知らぬまま、ソウタはカノジョの不穏な気配にただ身震いするのだった。


   ******************************************


 みつ姉と立てた計画はこうだ。

 ソウタは鈍いようで感が鋭いので、今回はそれを利用する。具体的には、アリシアから色仕掛けをして、ソウタがそれに誘惑されるのをまつ。いわゆる、ハニートラップというやつだ。

 自分からキスしなくていいのか、と戸惑ったものの、みつ姉が「それじゃあそのモヤモヤは晴れないわよ」と指摘された。もし、最後までソウタが気付かなければアリシアの方から口づけをするしかないが。


 ――上手くできるかは不安ですが、恋心というものを理解するために頑張ろう!


 気合と緊張で、午前中はずっと心臓が騒がしかった。

 そして、この作戦を実行に移す午後はもっと騒がしい。


「ソウタさん。隣に座ってもいいですか?」

「ん。いいよ」


 食事を終えた昼下がり。テレビを見ていたソウタにおずおずと声を掛けると、何食わぬ顔で頷かれた。


「それじゃあ、失礼しますね」

「改まってどうしたの? いつもは普通に隣に座ってくるじゃん」

「そ、そうでしたっけ?」


 眉根を寄せるソウタにアリシアはぎこちなく返答した。確かに、普段からテレビを見るときは隣に座ることが多い、というか毎日隣で見ていたはずだ。それが、今日は変に意識してしまって平常を装えなかった。


 ――いきなり大ピンチでは⁉


 感が鋭い、というより自分の棒演技のせいで感付かれるのは羞恥以外になにもない。アリシアはソウタに余計な詮索をされぬよう、必死に話題を探した。


「あ! この女優さん見た事あります! 確かこの前のドラマで見ました!」

「あ、……あぁそうだね」


 反応に困ったように頷く颯太に、アリシアは怪訝な顔をする。なんでソウタはこんな顔をするのか不思議で、アリシアは自分が指さした女優を凝視した。そして気づく。


「あ」


 その女優は、件のキスシーンをしていた女優だった。


 ――やってしまったあぁぁぁぁぁぁ⁉


 盛大に地雷を踏み、アリシアは羞恥に顔を真っ赤に染めた。


「アリシア⁉ なんで顔真っ赤のさ⁉」

「お、お気になさらず……」

「いや気になるから! え、冷房入れる……?」

「本当に、ダイジョウブです」


 どうにか平常心を装うとしても、心拍数が異常なほど上がって元に戻れない。


「わ、私、お水汲んできますね」


この場は一旦退散して、態勢を整えようと立ち上がった時だった。

足と足が綺麗に絡んで、その場でコケた。


「アリシア――――――ッ⁉」


 派手に転んだアリシアに、ソウタは必死の形相で叫んだ。


「ぜ、全然平気ですから、お気になさらず」

「いや気にするなって言う方が無理だから⁉ 大丈夫? どっか擦りむいたりしてない?」


 目に涙を溜めるアリシアの手を引くソウタは本気で心配した声音だった。こんな失態、今まで犯したことのないアリシアは、恥ずかしさで胸が一杯だった。


 ――これじゃあ、良い雰囲気になることできないよ⁉


 胸中で地団太を踏んでいると、ソウタの手が額に触れた。


「うん。怪我はなさそう。アリシアはそこに居て、水は俺が持ってくるから」

「ありがとうございますぅ」


 こんな訳の分からない失態ばかり見せるアリシアに、それでもソウタは気遣いを見せた。優しい彼に胸が締め付けられる反面、自分の不甲斐なさに諦観した。

 それから言われた通り、アリシアは借りてきた猫のように静かに座っていた。


「ふはっ。今度は凄い大人しい」

「むっ、なんですか」


 両手にコップを持って戻って来たソウタが、アリシアの姿を見ながら笑っていた。 

む、と頬を膨らませるアリシアに、ソウタは「ごめん」と笑いながらコップを渡してくれた。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」


 小さくお礼をいえば、ソウタも短く返した。

 渡されたコップを口に運んで、こくり、と一口水を飲めば、先程の羞恥で火照った体もいくらか冷める。


 ――みつ姉さん。やはり私には恋愛は向いてないのかもしれません。


 良い雰囲気を作るどころか、現状恥を大量生産している自分にため息が零れた。午前までは流れが良かったのに、作戦を決行した途端にこれだ。才能がないと落ち込むのも無理はなかった。


 ――ええい、落ち込んではダメだ! 時間はまだ沢山あるんだから、もっとあぴーるしていかないと!


 弱気になる心を叱咤して、アリシアは気丈を持ち直す。

 時計の針はまだ十三時。就寝までにソウタを誘惑させればいいのだ。きっとできる。そう自分に言い聞かせて、アリシアは強く鼻息を吐いた。

 隣で闘志を燃やすアリシアに、ソウタはただ困惑するばかりだった。

 

   *****************************************


 ――全然ダメじゃん‼


 その後も何度もめげずに色仕掛けしたとしたものの、結果は全て空振りに終わった。むしろ、ここまで綺麗に惨敗だと清々しいまである。


「一応、みつ姉さんから教わったものは全部やったんだけどな」


 テーブルに顔を突っ伏しながらこれまでの結果を振り返った。ちなみに、ソウタは今洗濯物を取り囲んでいる最中だ。

 リビングで体を密着した時は「あ、寒い?」と暖房を入れられて失敗。

 手を繋ぐのも日常茶飯事なので、ソウタの意識が変わることはなかった。

 じゃあ、思い切って顔を近づけてみれば肝心な時にお腹が鳴ってしまい、おやつを催促していると勘違いされてしまった。


「才能あるとかないとかの以前に、私って魅力ないのでは?」


 そもそも、自分が魅力的な異性であればソウタはとっくに手を出しているのではないか。色仕掛けをしている最中にそれに気づいてしまった。俯瞰的にみても、自分は色香のある女性には到底見えなかった。それは日常の行動が原因なのだが、それを急に変えるのは無理だし、ソウタにも先みたく不思議がられるだけだろう。


「私もみつ姉さんやトモエさんみたいに、もう少し肉付けがあればなぁ」


 それを聞かれればみつ姉と朋絵は発狂するが、今のアリシアには二人がどうしようもなく羨ましかった。この身体は背が小さく、体の凹凸も目立たない。自分の体つきなど気にしたことは一度もなかったが、ここに来て虚しさが込み上がってくる。


「このままじゃ、私、ソウタさんに嫌われちゃうかも」


 言葉にした途端、胸が切なくなった。

 それだけは嫌だ。世界中の誰に嫌われても、ソウタにだけは、好きでいて欲しかった。

 あの笑みが、あの優しい声が自分の下から離れてしまうのは、耐え難い苦痛だった。


 ――果たして、それは許されることなの?


 誰かが囁いたように、突然、胸裏にそんな疑問が涌く。

 突然、自分の中に芽生えた懸念。それは、ソウタに告白された時から続く懐疑心だった。


「私は……その為に、がんばっ……きたんです」


 ゆっくりと意識が遠のいて行く気がした。

 まだ、すべきことがある。それは分かっているのに、体に力が抜けていく。瞬く瞼が、重たくなっていく。


「そうた……さんに、きす……しなきゃ」


 その言葉を最後に、アリシアの意識は夢の世界に消えた――。


  **********


「――ん」


 目を覚ました時、肩の辺りに羽毛の温かさを感じた。


「ほぇ?」


 強く目を擦って、アリシアは混濁する意識で今は何時かと時計を探した。


「――やばっ⁉」


 壁に掛けられた時計を凝視すれば、時計の針はすっかり六時を回っていた。リビングから外を覗けば、僅かな朱みを残して夜に染まりつつあった。


「やってしまった」


 深く溜め息を吐き、アリシアは自分の失態に項垂れる。今日の日の為にみつ姉と練った計画も、水の泡になろうとしていた。


「おはよ、アリシア」

「ソウタさん」


 落ち込んでいるアリシアに、廊下から顔を覗かせたソウタが寄って来た。


「その様子だとぐっすり眠ってたみたいだね」


 どうやらソウタは寝落ちしたアリシアにブランケットを掛けたあと、邪魔をしないように自部屋にいたようだ。その気遣いに嬉しが込み上がる反面、起こして欲しかったと悔しさが葛藤する。


「今日は午前中にやたら張り切ってたから、その反動が出たんじゃないかな」

「みたいですね」


 ソウタに指摘されて、アリシアはますます惨めになる。この事態を招いたのが調子に乗った行動だったので、非は自分にしかない。


「みつ姉さん、ごめんなさいぃ」

「なんでここでみつ姉が出てくるんだ?」


 空に向かって謝罪するアリシアにソウタは困惑した。この計画を知らないソウタにとっては、いきなりみつ姉の名が出されたことに疑問を抱くのは当たり前だろう。


「いつもお世話になっているみつ姉さんのご期待に応えられなかったので、これはもう謝るしかないなと思いまして」

「みつ姉の期待って、絶対ろくなことないから応えなくていいよ。それに、頑張ったんだから眠くなるのは当たり前でしょ?」

「うぅ。でも、頑張るために頑張ったんですよぉ」

「ちょっと何言ってるか分かんねぇや」


 アリシアも、自分で何を言ったのか分からなくなってきた。泣きそうになるアリシアに、ソウタは小さな笑みを浮かべて頭を撫でた。


「アリシアが何を想ってるのかは知らないけどさ、俺はちゃんと、アリシアの頑張り認めてるし、感謝してるから。だから、そんな沈んだ顔しないで」

「うぅ。ソウタさぁん」


 悔しさや嬉しさやら、色んな感情がごちゃ混ぜになって、アリシアはソウタの優しさ甘えた。

 よしよし、とまるで子どもをあやすようにソウタは頭を撫で続けてくれた。


「ほら、泣かないで。俺は、アリシアの元気な顔が好きなんだからさ」

「私も、ソウタさんの全部が大好きですよぉ」

「はは。それは嬉しい限りだな」


 顔を胸に押し付けて、アリシアはソウタにありのままの想いを告げる。それに笑ってくれるソウタに、アリシアも卑屈になることを止めた。

 時間を掛けて元の姿勢に戻ると、アリシアはずびっ、と鼻水を啜りながら問いかけた。


「私、ソウタさんの恋人でいられてるでしょうか」

「ん? 当たり前でしょ。アリシア以外は眼中にないし。むしろ、俺のほうこそアリシアのカレシでいいのか不安になるくらいだよ」

「そんなの。いいに決まってますおぉ!」

「今日は随分と情緒が不安定だな、アリシアさんよ」


 また目に涙を滲ませたアリシアに、ソウタは苦笑した。

 そして、颯太は「あ」と何か思い出したように声を上げた。


「もしかして、午後のあれって、俺を意識させようとしてた?」

「……ずびっ」


 コクリ、と頷くと、ソウタは「なんかごめん」と両手を合わせた。


「いや、今日のアリシア、なんか変だとは思ったんだよね。どこか積極的というかでもその割にはぎこちないというか」

「あ、あれでも頑張ったんですよ!」


 結果は羞恥に染まる以外なかったが、ソウタを魅了する為に努力したのは事実だ。

 顔を真っ赤にして叫ぶアリシアに、ソウタは「ふふ」と笑いながら、


「ホントごめん、気付かなくて。でもそっか……ふふっ、あれ、アリシアの誘惑だったんだ……ふはっ」

「笑わないでくださいよー!」


 笑うのを堪えきれないソウタに、アリシアは肩を何度も叩いた。

「ごめん」と目に涙を浮かべながら謝るソウタに両手を捕まえられて、アリシアはゆるゆると手を下ろしていく。


「どうせ私は、魅力的じゃありませんよ」

「そんなことないよ。アリシアは凄く魅力的な女の子だ」

「本当ですか?」

「うん。キミ以上に笑顔が似合う女の子(人)を、俺は知らない」

「……ズルいです、その言い方は」


 真っ直ぐな瞳で告白されてしまうから、アリシアは顔を朱く染めた。

 また胸が締め付けられる。切なくて、苦しくて――それ以上に幸せが溢れる。

 華奢な両腕は握られたまま、その腕を掴む手の温もりを感じながら、アリシアは上気に濡れた瞳で、問いかけた。


「キス、したいですか?」


 問いかけに、ソウタは驚いたように目を瞬かせる。そしてすぐに、真剣な顔つきで頷いた。


「うん。したい」


 黒瞳に吸い寄せられるように、アリシアはただ息を呑んだ。

 体が震えた。でも、体が少年を求めた。


「――――」


 やっと、みつ姉の言っていたことが分かった気がした。

 好きな人と口づけを交わすこと、それはこんなにも胸が締め付けられて、苦しくて――このドキドキが、堪らなく愛しいものなのか。

 ソウタの気配が近づくのと同時に、心臓の音も五月蠅くなる。


「アリシア、好きだよ」


 鼻と鼻がくっついた。互いの息が掛かる。

 もう数ミリ。お互いの口が交わる――その刹那だった。


 ――咎者が!


「ッ⁉」


 触れ合う直前、脳裏に糾弾が聞こえた。その声に意識が強制的に呼び戻され、アリシアは無意識にソウタを吹っ飛ばしていた。


「イテテッ」


 椅子から転げ落ちて、おそらく頭を強く打ったのだろう。後頭部を抑えるソウタの顔は苦渋が広がっていた。

 慌てて、アリシアはソウタの元に駆けつけた。


「ご、ごめんなさい⁉ ソウタさん! お怪我は……」

「ううん。大丈夫。それより、アリシアの方こそ大丈夫だった?」


 突き飛ばした相手を心配するソウタに、アリシアは喉の奥が苦しくなった。


「こんな時まで私を心配しないでください。ソウタさんを突き飛ばしたのは私なんですから、それを怒ってください」


 糾弾を望むアリシアに、ソウタは「それはないよ」と首を横に振った。


「まぁ、突き飛ばされた時は俺もびっくりしたけど、やっぱ急すぎた俺のせいだよ」


 あくまで非は自分にあると、ソウタは苦笑しながら続けた。


「こういのは雰囲気も大事だろうけど、やっぱ、お互いに尊重しあいながら一つずつ進んでいったほうがいいか」


 自分から望んで、求めたくせに、それを拒絶したアリシアに、ソウタはいつもの声音で諭した。それがアリシアは、諦観されたのではないかと不安を煽ることも知らずに。


「今日はもう、ご飯食べて寝ようか」

「――はい」


 ソウタの提案に、アリシアは力なく頷いた。


「じゃあ、俺、夕飯の支度してくるから。アリシアは、ここで休んでて」

「――――」


 今度は、返事すらできなかった。

 去り際に頭を撫でられた手の温もりが、今は何も感じられなかった――。

                      

  ―― Fin ――




明日は更新休みかもしれません。断言できないの申し訳ない。

今話は二話に分けようと思ったものを結局一話に纏めたので、実質二日分の投稿だよね(>o<)/

今話はアリシアのポンコツぶりと、彼女がまだ『罪科を持つ天使』で罪が消えた訳ではない葛藤を書きました。これからどうなっていくのか楽しみです((書くの俺だろ

 読者の皆様、これからも天メソをどうかお楽しみください! 眠くて文章ぐちゃぐちゃになり始めた。

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