第56話 『 悶々として 』
登場人物紹介~
宮地颯太 (みやじそうた) 本作主人公 無表情でもイケメンだからズルい
アリシア 本作メインヒロイン。可愛い! 天使……いやホントの天使なんだけどさ
優良三津奈 (ゆらみつな) 颯太のお姉ちゃん。どや顔がウザ可愛い。
三崎朋絵 (みさきともえ) 颯太の親友でマネージャー。明るくて笑顔が最高
倉科陸人 (くらしなりくと) いつも颯太に適当にあしらわれてる親友。
神払聖羅 (かんばらせいら) お嬢様というより女王様が似合いますねこの子は
【 side 颯太 】
―― 19 ――
「颯太。お前なに浮気してんの?」
「ぶ――――ッ!」
「うわきたなッ⁉」
休憩時間。水分補給していた最中に、陸人がやけに気味の悪い笑みを浮かべながら寄って来た。その直後に放たれた言葉に、颯太は口に含んでいたものを全て吹き出した。
「ゲホッ、ゴホッ……お、お前が変なこというからだろうが⁉」
せき込みながら睨むと、陸人はいやいやと手を扇いだ。
「さっきのシーン。傍から観たら颯太と神払さんがイチャついてるようにしか見えなかったぞ」
「俺がイチャつくのはアリシアとだけだ! 神払とは、ただやる気だしてもらう為に褒めてただけだ」
「お前が人を褒めるなんて珍しい」
「俺をなんだと思ってるんだ……」
人を正当に評価しただけなのに驚愕されるのは心外だった。
颯太はジト目を向けると、陸人は「だって」と口を尖らせた。
「颯太は俺と朋絵のことは全然褒めてくれないじゃん、友達なのに酷いッ! 心外だ! 実家に帰らせていただきます!」
「離婚寸前の夫婦みたいなノリやめろ。俺は神払に言われたから、自分の中で神払に対して思っていることをそのまま口にしただけ。それ以外は何もないぞ」
「あんなに楽しそうだったのに?」
「ぐっ……それは……」
思わぬ指摘に颯太はたじろいだ。
楽しいか否か、と答えるならば、あの時間は確かに前者だった。普段、散々いいようにからかわれている仕返しがお見舞いできたので上機嫌だったことは認めよう。しかし、そこに陸人たちが感じている邪な気はない。
「部活の時も、息抜きは必要だろ……」
「ほほぉー。昔はあーんなにストイックだった颯太くんが、今は随分と丸くなりましたねぇ」
喉の奥から絞り出した声に、陸人はにやにやと悪戯な笑みを浮かべた。その表情に既視感を覚えた颯太は、頬を惹きづらせた。
「それ以上煽ったら今度のテスト範囲、お前だけ何も教えないからな」
「いやー。あれは息抜きだった! そうだよな、颯太!」
「現金なやつめ」
三週間後の中間考査のテスト範囲を人質にすれば、陸人はコロッと意見を変えた。あまりの身軽さに目が鋭くなったが、陸人は視線を合わせようとはしなかった。
「でも、さっきも言ったけど、傍からみたらお前らがそういうことしてる(イチャついてる)、としか視えないからな。周りから変な噂立てられないように気を付けろよ」
「ん。肝に銘じとく」
素直に頷くと、陸人はまた目を丸くした。
「これまた意外。俺の意見をちゃんと聞くとは」
「お前の中の俺、人の話聞かな過ぎだろ」
「いやー、二カ月前は実際そうだったぞ。俺と朋絵の話、ほぼ聞いてなかったじゃんか」
「うぐっ」
過去の悪歴を引き合いに出されては颯太も口を噤むしかなかった。陸人の言う通り、以前の颯太は人の話を真面目に聞く気はなかった。
痛い所を付かれて胸を抑える颯太に、陸人はケラケラと笑いながら言う。
「ホント、颯太は変わったな」
「……おかげ様でな」
「俺たちは特になにも。やっぱ一番の功績はアリシアちゃんでしょ」
本当に、陸人の言う通りだった。
アリシアと関わらなければ、颯太は朋絵と向き合うことも、陸人と友情を確かめることもなかった。アリシアがあの日、朋絵の想いを告げさせる為に努力をしてくれなければ、こうして二人と友達になることも、部活を共にすることもなかったと思う。
世話好きで思いやりがある天使様のおかげで、三人はまた繋がることができた。
アリシアの偉大さを再確認していると、陸人が「そういえば」と何か思い出したような声を上げた。
「颯太とアリシアちゃんてさ、今どこまでいったの?」
「? どこまで、とは」
疑問符を浮かべる颯太に、陸人は虚を突かれたような顔になった。
「いや、だから、二人って恋人なんだよな?」
「あぁ」
「だから、ほら、キスとか……セッ」
「それ以上言ったらお前の意識が飛ぶぞ」
「セミいないかなー! セミ! 秋だからもういないかー残念! ……あっぶねー」
颯太は言葉を遮るようにドスの利いた声で抑制すると、途端に顔が蒼ざめた陸人は必死で方向転換した。
「命拾いしたな」
「本気で殺す気だったのかよ⁉」
「お前がアリシアを穢そうとするのが悪い」
純真無垢なアリシアで変な想像する陸人の肩に強めの打撃を与えて、颯太は吐息した。
「お前が思うようなことは何もしてないよ」
「えぇ? 付き合うどころか告白も出来てない俺が言うのもあれだけど、高校生がそれでいいのか?」
「まず高校生という価値基準が理解できないが、人には人のペースがあるだろ」
「ごもっともで」
唾を吐くように言えば、陸人も気圧されたのか納得したのか曖昧な返事をした。
「でもそっかー。二人ともめちゃめちゃ仲いいから、もうそういう事までしっかり済ませてるかと思ったけど……颯太はまだドウテ……イタイ⁉」
「そういうのを外で言うじゃねえよ! 馬鹿!」
さっきから公で触れづらい単語を平気で口にする陸人に、颯太は声を荒げてゲンコツを入れた。
そして、陸人は目に涙を溜めながら、この話題を続行させた。
「人には人のペースがあるって言うけどさ、じゃあ、颯太はアリシアちゃんとキスとかしたくないのかよ。いつも、あんなに可愛い、可愛いって惚気てるんだから」
「あぁ? したいに決まってるだろうが」
「そこは頷くのか。てかさっきからなんで口調トゲトゲしいの……」
颯太とて思春期の男子だ。恋人と甘い時間を過ごせるならそうしたい。しかし、
「俺は、アリシアの意思を尊重したいんだ。アリシアが嫌だって思う事を、俺はしたくはない」
「それは美徳だと思うけど、それはあくまで颯太の意見だろ? アリシアちゃんは、そういうの望んでないのか?」
「それは……分からない」
陸人の物言いに颯太はたじろぐ。確かにこれは颯太の意見であって、アリシアの意見を述べている訳ではない。尊重していると口にしているが、アリシアの想いで意思を変えるのも卑怯な気がしてきた。
思い悩む颯太に、陸人は肩を叩いた。
「ま、いつも颯太はアリシアちゃんのこと大切に想って行動してるんだから、たまには自分の欲求に素直になっていいと思うぞ」
「……参考にしとく」
今度は納得いってなさそう、と笑う陸人に、颯太は欲求と理性がぐるぐると回るのだった。
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午後二十一時。お風呂も済ませた颯太は、今日は自部屋で残りの時間を過ごしていた。
「――くそ、全然集中できないっ」
勉強しようにも陸人の言葉が脳裏にしこりとして残って何も入らなかった。シャーペンが転がる音を聞きながら、颯太は天井を見上げた。
「アリシアとキスとか……そんなのしたいに決まってんだろ」
付き合って間もないとはいえ、アリシアとはもう三カ月も同じ家で過ごしているし、それなりに関係も築けているとも思う。
なら、そろそろ次のステップに進んでもいいか、そう自分の中の悪魔が囁きかけて、颯太は「いやいや」と首を振った。
「確認したい、訳じゃないけど……やっぱ知識ない相手に軽率にしていい行為じゃないだろ」
颯太が次の段階に進めないのは、端的に言えばアリシアが男女間の恋愛における知識が疎かった。
アリシアは天界やってきた天使――正しくは堕天使なのだが、地球の文化についてはまだまだ勉強中だ。勉強は家事は地球に来て三カ月にしては凄まじい成長を見せているが、一方で恋愛の知識は皆無と言っていい。例を挙げていえば、ドラマのキスシーンを見た時の感想が「どうしてこの方々は真剣な顔で口を合わせたんですか?」だった。その時の颯太の対応は言わないでおく。
「アリシアが俺に無警戒なのって……男女間の知識がないからだよな」
本来ならば、男女が一つ屋根の下で生活していれば意識くらいする。颯太も今でこそアリシアがいないと安らげない体に改造されたが、同棲した当初はアリシアに意識していた。邪な下心ではないが、やはり異性の存在というのは気を遣うのだ。
「あれ、でも、俺って結構前からアリシアに普通に触ってたような」
途中から颯太も保護者としてアリシアを見守っていた節もあり、アリシアと手を繋ぐ理由も危なっかしいからという理由だった。今思い返せば、付き合ってもない男女が手を繋ぐのはおかしい行為だった。みつ姉や町の人たちが二人を恋人と勘違いする訳だった。
「まぁ今は付き合ってるんだしいっか」
これがまだ付き合ってないならば議論するがもうその必要はない。早めに頭から切り離して、颯太は今後のアリシアの付き合いの方針を立てていく。
「俺としてはアリシアとまったり過ごすのが好きだし、しばらくはこのままで問題はない。……でも、アリシアが成長してくれないと、俺は一生キスもできないかもしれないのか」
それは困る、と颯太はため息を吐いた。
「――陸人が言ってみたく、俺から行動に出るっていうのも一つの手なのかな」
未だに朋絵に告白していない男の意見を参考にするのは気が進まないが、男女の関係についての言及は彼に軍配が上がっている。それに、男だから女子をリードするのは当然だ。アリシアからリードされるのも悪くはないが。
「あ~。分からねぇ! 恋愛ってなんなんだ!」
学校の成績が優秀でも、選手として有望だったとしても、恋愛において颯太は初心者だ。
そんな初心な少年の葛藤は、寝落ちするまで続くのだった――。
―― Fin ――
更新時間バラバラでホントすんません。




