第54話 『 真心弁当 (まごころべんとう) 』
登場人物紹介~
宮地颯太 (みやじそうた) 本作主人公。
アリシア 本作メインヒロイン。
三崎朋絵 (みさきともえ) 颯太の親友であり陸上部員。
倉科陸人 (くらしなりくと) 颯太の親友であり陸上選手。
【 side 颯太 】
―― 17 ――
休日が終わり、誰もが憂鬱になる月曜日がやってきた。
気だるさと眠気に襲われながら生徒たちは授業を受けていて、前の席を見れば顔が赤べこのように揺れているのに颯太は吐息した。
椅子を蹴って起こしてやろうかと思ったものの、もうじき午前中の授業は終わりを迎える。歴史の先生も特段うたた寝をしている生徒に言及することはないので、颯太も放置することにした。
――早く授業終わんないかなー。
普段は真面目に授業を受ける颯太だが、この月曜日は特に浮足だっていた。
というのも、理由は今朝にアリシアから渡されたあるものが原因だった。
渡された時は最初に戸惑いと衝撃が同時に走ったが、その一秒後には歓喜が全身を駆け抜けていた。
もはや、颯太はこの時の為に学校に来たといっても過言ではない。登校中と授業中、リュックから伝わるアリシアの想いが込められた温もりに、顔には出さなかったが終始ニヤニヤしていた。
時計の秒針を覗きながら、颯太はノートにペンを走らせる。テスト範囲に出そうな所を赤と青のペンで纏めて、黒い文字で板書を写していく。
無駄に張り切ってノートを纏めていれば、時計の針はあっという間に進んで校内に鐘の音が響き渡った。
「はい、じゃあ今日の授業はここまでです。今日やった所はテストに出るので、しっかり覚えてくださいね」
先生が教科書をパタリと閉じて、今日の日直が号令をかける。慌てて飛び起きる陸人に呆れながら、颯太は椅子を引いて立ち上がった。
「気を付け、礼。ありがとうございました」
「ありがとうございましたー」
一連の作業が済めば、生徒たちは待ちかねた昼休みに喧噪を生み出していく。授業中の静けさが嘘みたいに騒がしくて、颯太はやれやれと肩を竦めた。
「ふぃー。終った、終わったー!」
「お前、途中からずっと寝てただろ。なに頑張った感出してんだ」
「そんな固いこと言わないでくださいよー。ソウタさぁん。こんな憂鬱な月曜日に真面目に授業受けるほうが無理ですって」
「くあぁ。あたしも陸人に一票~」
横から陸人の意見に賛同したのは朋絵だった。彼女も四時間目の魔物に耐え切れず、最後は寝落ちしてしまったようだ。額が赤いのがその証拠だ。
「お前らなぁ、テストの点数平均なんだから、せめて授業はちゃんと受けろよ」
「今日はさすがに無理だって。あの朗読みたいな授業を月曜日にもってこられたら皆寝るから」
「あ、あたしは黒板のやつは全部ノートにとってあるもん! 陸人と一緒にされるのは心外だよ!」
「うぐっ⁉ 心臓に謎の痛みがっ……これが失恋というやつか」
「お前のは単に正論が刺さっただけだろ」
演技らしく呻く陸人に颯太は辛辣に言った。陸人から「つまらんやつめ」と皮肉をもらったので、お返しに頭を叩いた。
強く叩いたつもりはないが目に涙を浮かべた陸人は強く吐息すると、
「せっかくのランチタイムなのに授業の話は止めだ! 食力が無くなる!」
「賛成っ! 颯太は先生かっ!」
「分かったよ。この話はやめる……テストも教えるのやめておくか」
「……なんか邪悪な気配を感知した」
「奇遇、あたしも。特に隣から」
「同感ですなぁ、朋絵殿」
「なんなのお前ら……」
ジロリと二人から睨まれて、颯太は肩を竦めながらため息を溢した。
「ほら、とっとと昼ご飯食べに行って来いよ」
「颯太が冷たい。そんなに俺らと一緒に食べられなくて寂しいの?」
「別に」
「淡泊にそして即答された⁉」
あっけらかんとした態度に、陸人と朋絵から文句を言ってくるが無視した。
今日の昼食は朋絵と陸人はそれぞれ別のクラスの友人たちに誘われているらしいので、颯太はこのまま教室に残って一人で昼食を摂る。
「……なんか一人でご飯食べるのに、颯太嬉しそうだな」
「確かに。もしかしてあたしたちと一緒に食べるの嫌だった⁉」
「そんなじゃない。……今日は嬉しいサプライズがあったんだよ」
『サプライズ?』
緩みかける頬をなんとか持ち上げながらそう口にすると、二人は揃って眉根を寄せた。
頭に疑問符を浮かべる朋絵と陸人に、颯太は一つ咳払いして答えた。
「アリシアがさ、今日、弁当作ってくれたんだよ。俺の為に」
「え⁉ アーちゃんの手作り⁉ いいなぁ!」
つい自慢げな口調で明かせば、それに飛びついたのは彼女の親友でもある朋絵だった。
「そっか、アーちゃん。料理できるんだっけ」
「まだ簡単なものしか作れないけどな。でも、その分丹精は込められてる」
どれほど簡単な料理であろうと、アリシアは一品ずつ丹精を込めて作る。だから、胃だけでなく心も満たされるのだ。
「なんだ、奥さんの愛妻弁当持ってきてたのか、羨ましい限りですな、旦那さん」
「アリシアは奥さんじゃなくカノジョだ。真心が籠った弁当ではあるが」
アリシアはまだ奥さんではないので、この弁当を名付けるなら『真心弁当』が妥当だろう。
とにかくアリシアが自分の為に作ってくれた弁当だ、と率直に言えば、陸人は軽口を吐く代わりに血の涙を流していた。
「颯太が羨ましい。俺も、献身的なカノジョが欲しい……」
「いやぁ、それは無理でしょ。陸人はどちらかと言えば尻に敷かれる方じゃない?」
陸人の意中のお相手からそんな風に捉えられていることを知って、颯太は陸人が不憫でならなかった。
憐憫の眼を向けていると、陸人はいたたまれなくなったのか財布を持って走りだした。
「もういい! 今日は俊也たちに慰めてもらう!」
「おー、行ってこーい」
悔し涙を拭いながら教室を去っていく陸人に颯太は苦笑しながら見送った。
「何だったんだ? 陸人のやつ……」
「朋絵はもう少し、身近な人に目を向けてもいいと思うな」
立ち去った陸人に眉根を寄せる朋絵に、颯太はやれやれと嘆息した。
――付き合えば、意外とお似合いっぽいんだけどな、この二人。
男女の仲としては良い方だし、性格や好みも意外と合っている陸人と朋絵。ただ、本人たちがそれに気づかないせいで中々進展がないのだ。
こればかりは陸人がアクションを起こすしかないので、颯太は見守るしかなかった。
「ほら、朋絵も行かなくていいのか、友達待ってるだろ」
「そうだった⁉ じゃあ、あたしも行くね!」
「あぁ」
ハッと我に返った朋絵は、慌ててバッグから弁当袋を取り出した。そして、小走りで教室を出て行く間際、朋絵はにんまりと笑いながら振り返った。
「あとでお弁当の感想聞かせてね!」
「なぜ朋絵に報告しなきゃならないんだ」
「いいから! 約束だよ!」
「へーい」
適当に頷くと、朋絵は「言質取ったからね!」と強く言って教室を出て行った。
「さてと……ようやくご飯が食べられる」
二人を見送って、颯太は疲労を感じながら席に着いた。
机に立て掛けたリュックの反対側。そこに掛けた小袋を掴むと、心臓が好奇心に五月蠅くなる。
しゅるり、と紐を解いて中身を取り出すと、机にはおにぎりが二つと小さな弁当箱が並んだ。
「おぉ、美味しそう」
三角というより丸いおにぎりに愛着を沸かせながら、容器の蓋を開けた。中身は颯太の好物は勿論、健康にも気を配ってあることが一目で分かった。
筑前煮とウィンナー。ブロッコリーにプチトマト。色とりどりのおかずの中で、最も颯太の目を惹いたのは卵焼きだった。端々に焦げ目があったり、綺麗に巻き切れてはいない。けれど、その分アリシアが一生懸命作ってくれたのがこの卵焼きから伝わる。
真心の込められたお弁当に、颯太のお腹はぐぅぅ、と鳴った。
「――いただきます」
食材に、アリシアに感謝を込めて手を合わせる。
一個目のおにぎりを手に持ち、ラップを剥がしていく。ごくり、と生唾を呑み込んでから口に運べば、颯太はお山に歯型を付けた。
「ん。ちょー美味しい」
おにぎりの中身はこれも颯太の好物で、ツナマヨだった。たぶん、もう一つもツナマヨだろう。
一口、一口味わうように咀嚼して、食べ進めていく。アリシアが一生懸命作ったお弁当は、颯太にとっては最高の活力剤だ。これで、午後の授業と部活も頑張れる気力が湧いて来る。
――例え、それが塩辛くても、だ。
「ケホッ……ホント、美味しいなぁ」
口内にしょっぱさが広がりながら、颯太はそう呟きながら食べていくのだった。
―― Fin ――
颯太が男のわりに言葉遣いが丁寧なのはアリシアに汚い言葉を覚えさないようにしてるからです。どこまでも一途なお二人で作者尊死(チーン
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