第46話 『 マネージャーとして 』
登場人物紹介~
宮地颯太 (みやじそうた) 本作主人公。
アリシア 本作メインヒロイン。
三崎朋絵 (みさきともえ) 颯太のクラスメイト。陸上部マネージャー
倉科陸人 (くらしなりくと) 颯太のクラスメイト 陸上部
神払聖羅 (かんばらせいら) かみはら、じゃりません。かんばらです。
【 side颯太 】
―― 9 ――
――颯太が部活に戻ることと引き換えに出した条件は三つ。
一つ。マネージャーとして部に再入部するのは、神払聖羅が選手として成長するまで。
二つ。朝練は参加しない。
三つ。部活後の居残りと、遅くても六時には帰宅すること。
これを絶対条件に出した時の竹部先生の顔は非情に強張っていたが、折れぬ颯太に渋々許可をくれた。(ちなみに契約書まで作って判子を押させたのは内緒だ)
そうして現時刻は十六時。生徒たちは部活の真っ最中だった。
「神払には一度確認しておきたいことがあるんだが、運動部はこれが初めてか?」
他の選手たちが既にアップを始めている中、ジャージ姿に着替えた颯太と聖羅は竹部先生の下で会議をしていた。
「はい。中学校の頃は部活にも参加していませんでしたし、本格的なのはこれが初めてになりますね」
肯定した聖羅に、先生は「ふむ」と顎に手を置いた。
「なら、暫くは体力作りと基本姿勢の練習だな」
「ですね」
先生の提案に、颯太も異論なく頷く。
運動神経が抜群といっても、それだけで選手として活躍できるかと言われれば否
だ。競技において大事なのは瞬発力。それを、聖羅にはこれから養ってもらわなければならない。
「あの、本当に速く走れるようになるんでしょうか?」
おそらくそれが本音なのだろう。聖羅は顔に不安を孕ませていた。
だが、そんな聖羅の憂いを竹部先生は颯太の背中を叩きながら大声で笑い飛ばした。
「大丈夫! その為に颯太がいるんだからな!」
「先生、人使い荒いです」
バシバシ叩かれながら苦言を呈すも、本人には全く聞こえてなかった。
「まぁ、俺もできる限り神払さんを応援するから、とりあえず頑張ってみようよ」
「うん。頼りにしてるね、宮地くん」
「……調子狂うな」
颯太も不安を払拭するべく励ますと、聖羅は可憐な笑みを浮かべた。美女の笑顔はなぜか破壊力抜群なもので、颯太は邪な気持ちを抱かぬよう視線を逸らした。
――ま、俺も頑張らなきゃなんだけどさ。
自分の背中を押してくれた彼女にかっこ悪い姿は見せられない。瞼を閉じれば素敵な笑顔で応援してくれるアリシアが浮かんで、颯太は強く頬を叩いた。
「よし、それじゃあ俺たちもアップしようか」
「そうですね。皆、もう始めてしまっていますし」
こくり、と聖羅が頷くのを見て、颯太は一歩走りだそうとした――
「颯太!」
その直後、校舎の方角から高い声音に名前を呼ばれた。
颯太は足を止めて呼ばれた方向へ顔を向けると、そこには走ってくる朋絵の姿があった。
「どうした? 朋絵」
何か用があるのかと聞けば、朋絵は「はぁはぁ」と息を整えながら何か言おうとした。
「ちょっと、待って……」
「ん」
どうやらかなり全力で走ってらしく、朋絵の呼吸が整うまで暫く時間がかかった。
そして息が整えば、朋絵は額に汗を滲ませながら颯太を真っ直ぐ見つめてきた。
「ちょっと、話がある」
声の調子がいつもの明るさが抜けていて、目が真剣だった。どうやら、朋絵は颯太と一対一で話たいなのだと、すぐに理解できて。
「悪い、神払さん。ちょっと待ってて」
「分かりました」
聖羅も特に何も言及せず見送ってくれて、颯太は朋絵と校舎の方へ歩き出した。
「部活、本当に戻って来たんだ」
「あぁ」
十分に部員たちから距離が離れると、朋絵はぽつりとそう言った。
「戻るって今朝、お前と陸人には言ったろ」
「それは聞いた。でも……」
陸人と朋絵には事前に、部活へ戻ることは明かしたはずだ。その時の彼らの顔は今でも鮮明に覚えている。笑顔から一転、複雑な表情に変わった瞬間も。
二人からすれば、それは颯太が選手として復活する吉報だった。けれど、すぐに選手としてではなくマネージャーではなく戻ってくるのだと告げられて、二人はさぞ困惑しただろう。
「やっぱり、あたしはまだ納得いってない。颯太は選手として走るべきだよ」
堰を切ったように声を出した朋絵の言葉。それはきっと、陸人も同じ想いなのだろう。
陸人は部活が始まっても、結局それを口に出すことはなかった。それはこの間颯太の心情を聞いたからなのだろう。何が一番大切で、何を最優先にしているのかを。それを置いて部活に、それもマネージャーとして戻ることを選んだ颯太の心境を陸人は汲んでくれた。
けれど、朋絵は違う。
「ソウタは走ってる時が一番キラキラしてるのに、なんで走ろうとしないの? せっかく戻れるチャンスなのに、どうして、陸人たちと一緒に走らないんだよ」
中学から、朋絵はずっと颯太を見てきた。恋慕する者として、尊敬する人として。そんな颯太が今、自分と同じ立場になろうとしているのが、朋絵は許せないのだろう。
それでも、走らないと決めたのは颯太だ。走らないと決めた自分を応援してくれたのは大切な恋人であり、その恋人からは『皆の力になって欲しい』と願われた。
だから颯太は、走らない道を後悔なく選択できたのだ。
「ごめん、朋絵。俺は何を言われようが、もう選手として戻ることはない」
「なんでっ」
奥歯を噛んで睨む朋絵に、颯太は穏やかな口調で答えた。
「もう、選手として走ることへの未練はないんだ。先生の勧誘もそれで一度断ってるから。でも、そんな俺でも、力を貸して欲しいって先生に言われて、それでアリシアが背中を押してくれた」
「アーちゃんが?」
「あぁ。アリシア、最初に相談した時、何の躊躇いもなく俺を応援してくれた。でも、朋絵みたくやっぱり走らないのは寂しいらしい」
アリシアが見惚れてくれた走りができないのは、颯太も申し訳なく思う。
「それでも、アリシアは俺の背中を押してくれたんだ。俺には誰かの為に必要な力があるから、それを使って欲しいって。――だから、俺は先生の期待にも、アリシアの期待にも、そして朋絵たちの期待にも応えたい」
それが、今の颯太の偽りならざる本心だった。
今まで走ってきたのは、自分のエゴの為。これからは、皆の期待に応えるために。
「――――」
朋絵は、暫く何も言わなかった。
颯太はジッと待っていると、やがてぽつりと朋絵が呟いた。
「そこまで言われたら、仕方ないよね」
ふっ、と朋絵が笑った気配がした。そしてすぐ、彼女は顔を引き締めると、
「まだもやもやが全部晴れないけど……でも、颯太の熱意は伝わった。ソウタがマネージャーとして頑張るなら、あたしも同じマネージャーとして応援する」
「ありがとう」
「それに、アーちゃん第一優先にする颯太が部活に戻るだもん、それだけで凄いことだしね」
肩を竦めた朋絵に、颯太は安堵の息をこぼした。剣呑な気配が砕けたことで、いつもの朋絵が戻って来たと実感が涌く。
軟化した空気を味わったところで、颯太は「朋絵」と彼女の名前を呼ぶと。
「俺は選手としての知識はあっても、マネージャーのことは全然分からない。だから、その時は教えてほしい」
頭を下げる颯太に、朋絵はくすっと笑った。
「当たり前じゃん。これからはまた同じ部員同士で、今度は同じマネージャー同士なんだから。私たちこそ、何かあった時は頼りにするからね!」
「あぁ!」
颯太の胸に拳を充てて、朋絵はにししと白い歯を見せた。
「これから頑張ろうね、颯太っ」
そして、二人は陸上部のグランドへ戻っていく。
「そういえば、結局颯太が部活に戻るきっかけはなんだったの?」
「あぁ。小悪魔に道連れにされたんだよ」
「小悪魔⁉ それって神払さんのこと?」
「そう。一緒に部活やらないなら私も部活に入りませんて」
「そうだったんだ……やっぱあの子、颯太を相当気に入ってるよね」
「うーん。俺としては、気に入られる要素が検討もないんだけどな」
「それだと颯太に惚れたあたしまで凹むんだけど……まぁ、自覚ないのも颯太らしいね」
「それ褒めてるのか?」
褒めてない、と真顔で答えた朋絵に、颯太はため息を溢した。
グランドに着いたら、これからマネージャーとして本格作業だ。それまでのほんのわずかな時間を、親友との会話に胸を弾ませて歩いていく。
紅く染まる夕日は西へ沈みながら、新しい青春の一ページを見届けるのだった。
―― Fin ――
最近あとがきのネタが思いつきません。あと少しでpv1000デス!
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