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【休載中】天罰のメソッド〜処刑天使。ひきこもりの少年に恋をする〜  作者: 結乃拓也
第二部 【 紫惑の懺悔編 】
49/234

第45話 『 追い風 』

今回は前書きなし! どうかお楽しみくださいましっ

【 side颯太 】


 ―― 8 ――


 ――夕飯前。リビングにて居住まいを正す颯太に、アリシアは目をぱちぱちさせていた。


「アリシアに……大事な相談があります」

「は、はい。なんでしょうか」


 普段なら帰宅後はすぐに着替える颯太だが、今日は制服のままだ。そんな様子にアリシアもただ事ではないと感じたのだろう。頬がわずかに硬くなっていた。

 颯太は何度か深呼吸して、意を決して告げた。


「実は、陸上部の顧問の先生に、もう一度部活に入ってくれって言われたんだ」

「――――」


 アリシアは何も言わず、正座のままだった。

  目の前の天使の無言の圧に固唾を呑み込みながら、颯太は続けた。


「俺は、正直部活に戻りたいとは思ってない。でも、お世話になった竹部先生の誘いを何度も断るのは申し訳なくて、先生の力になれるならなりたいとも思ってる」


 高校入部から不登校になるまで、陸上部顧問として颯太を見守ってくれていた先生だ。インターハイ出場の時にも当然お世話になった。その実感が今となってようやく胸に湧いてきたのは、本当に今更だが。


「ソウタさんは、もう一度あの場所で走るんですか」


 ふと問いかけられた疑問に、颯太は「え?」と声を上げた。そしてすぐ「いや」と首を振ると、


「選手として戻るわけじゃなくて、マネージャーとして部活に戻ってきて欲しい、って言われた」

「まねーじゃー……って確か、トモエさんがやってる……」

「そう。朋絵と同じ役柄」

「それじゃあ、ソウタさんはやっぱり走らないんですか?」

「うん。俺は、もう選手として走る気はないから」

「そう、なんですね」


 颯太の言葉に、アリシアはどこか悲し気に目を伏せた。


 ――やっぱり、嫌だよな。


 ただでさえ、一緒にいられる時間が減っているのだ。それをこれ以上減らすのは、アリシアにとっても不安が大きくなるだけだ。

 アリシアを悲しませることは、颯太にとって一番あってはいけないものだ。

 竹部先生には心底申し訳ないと思いながらも、颯太の答えははっきり決まった。


「ごめん。やっぱ先生には明日『無理』だって言ってくるよ」


 話を早々と切り上げようとした、その時だった。


「え?」

「え?」


 顔を上げたアリシアが素っ頓狂な声を上げ、颯太も釣られてしまった。


「あの、ソウタさん? どうして無理なんですか?」

「どうしてって……だって、嫌なんでしょ?」

「なぜそうなったんですか⁉」


 驚愕するアリシアに、颯太もはおろおろしながら、


「だ、凄い悲しそうな顔してたから、てっきり部活に戻るの嫌なのかと……」


 そう言うと、アリシアは「違いますよ!」と二本の横髪をブンブン振り回して、


「私が寂しいと思ったのは、ソウタさんがあの場所でもう走らないと断言したからです」


 アリシアは続けた。


「私は、願うならあの場所でソウタさんが走る姿をこの目で一度見たかった。だって、あそこで走るソウタさんは凄くカッコよかったから」


 滔々とした表情で語るアリシアに、颯太はぎこちなく訊ねた。


「そんなにカッコよかった? トラックで走ってる俺」

「はい! それはもちろん!」


 ぐいっ、と顔を近づけたアリシアは鼻息荒く頷いた。これだけ絶賛してくれるのは、颯太にとっても嬉しいことだ。


 ――なら、いつかトラックで走る姿を見せてあげたいな。


 それでアリシアの一つの夢が叶うなら安いものだ。

 兎にも角にも、一度幸せムードは置いておいて、


「なら、アリシアは俺が部活に戻ることはオーケーってこと?」

「はい。おーけーです」


 可愛らしく頭の上で○を作るアリシアに、食い下がったのは颯太だった。


「本当に? 寂しくならない? 一緒にいられる時間が減るんだよ」

「それは寂しいです!」 


 力強く肯定して、アリシアは「でも」と続けた。


「それ以上に、ソウタさんが誰かに必要とされていることが嬉しいんですよ。ソウタさんには誰かに必要とされる『力』がある。なら、その力を発揮してほしいと思ってます」

「――アリシア」


 聖母のごとく微笑みで語るアリシアに、颯太は湧き上がる衝動を抑えられずにはいられなかった。

 正座から体制を崩すと、颯太は目の前の天使に抱きついた。


「わっぷ。急にどうしたんですか、ソウタさん」

「なんでもない。ただ、アリシアのことを好きになって良かった、って思ってるだけ」


 颯太は、ずっと不安だったのだ。

 部活に戻ることも、アリシアを一人にさせることも。

 そんな不安や躊躇いに、アリシアは背中を押してくれた。それは前に臆することなく進んでいける風だった。ただの風ではなく、優しく力強い追い風だ。


「ありがと、アリシア」

「はい、ソウタさん」


 強く抱きしめると、アリシアは優しく抱きしめ返してくれた。この温もりが、ずっと続けばいいなと思った。

 アリシアと一緒にいられる時間は減っていく。だからこそ、一緒にいられる時間がより愛おしく、かけがえのないものになっていく――。


 ―― Fin  ――

 


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