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【休載中】天罰のメソッド〜処刑天使。ひきこもりの少年に恋をする〜  作者: 結乃拓也
第一部  【 白銀の邂逅編 】
32/234

第30話 『 もう一度、この手を伸ばして 』

終章後編 【 キミと―― 】

 

宮地颯太 (みやじそうた) 再びアリシアに会う為再起した主人公。好きな物は『刺身』

アリシア 本作のメインヒロイン。皆が待ってるぞ!

優良三津奈 (ゆらみつな) 颯太の幼馴染にしてお姉ちゃん。

三崎朋絵 (みさきともえ) 颯太の同級生にして陸上部マネージャー

陸人 (りくと) 颯太の同級生で朋絵に恋心を抱く少年。

八峰玄朗 (はっぽうげんろう) 八百屋のおじさん。通称ゲンさん。

宮地勝也 (みやじかつや) 颯太の祖父。


【 side颯太 】


 ―― 3 ――


ウミワタリの伝承が、昔から颯太にとって不思議でならなかった。

何故、少女が空から光を放ちながら落ちてきたのか。どうして、少女がこの町に住み始めてから、町は栄えたのか。少女が死ぬとき、何故、海は光ったのか。そして、それ以来毎年決まった日に海が光るようになったのか。

至極当然だが、人が落ちたところで海は光らない。その現象は、この潮風町の海にのみ起こるものだ。海は自然の在りもので、もし誰かが落ちて光るのなら、この世界で海で亡くなった人間はいない。

 颯太は祖父が生前していた頃、よくそれを文句のように言っていた。

 そんな颯太に、祖父は馬鹿デカい声で笑いながら、こう答えたのだ。


『海っつーのはよ、とにかく馬鹿デカい。昼は真っ青な景色が水平線まで続いてんのに、夜になれば真っ暗だ。光は精々船のライトくらい。それ以外の光は海にはねぇ。だからよ、颯太ァ、この伝説はな、そういう、暗い世界でも光があるってことを教えたかったんじゃねえかな、って俺は思ってるんだよ。どんな八方塞がりの上古湯でも、困難な道のりでも、一人じゃなきゃ、どうにか乗り越えられる。俺はガキの頃この伝承を聞いて、そう感じた。――つまりだ、奇跡を信じろ、ってことだよ』


 その時は祖父の言葉に納得できなかったけれど。

 けれど、ようやく理解できた。

 祖父の言う通りだった。

 颯太の周りには、沢山の助けてくれる人がいた。

 アリシアに会えるかもしれない、たった一つの可能性に――この潮風町の皆が、颯太の力となってくれていた。


「準備はいいかァ、颯太!」


 風が、帆を揺らしていた。


 ――爺ちゃん。俺、奇跡を信じるよ。


 眼前には眩いほどの漁船のライトが照射されていた。そこから一人の漁師が声を掛けてきて、颯太は小さく相槌を打って応じる。一つ息を吐いて振り返れば、後ろには沢山のギャラリーと見知った町の人たちが見守ってくれていた。

 その中に、この人身御供という役を譲ってくれた友達もいて。


「まさか、海の一年の安全祈願をする祭りが、こんな結末になるなんてな」


 やれやれと吐息する陸人に、颯太は苦笑いで返した。


「だな。俺もこんな事になるなんて思わなかったよ」

「フ。だろうな」

「代わってくれて、ありがとうな。陸人」

「なーに。一世のラーメン屋三回おごりと引き換えだ、気にすんな。……それに、俺からすればずっと、この役はお前だ、って思ったんだから」


 そう言って、陸人は屈託のない笑みを見せた。突き上げた拳が颯太の胸を叩く。


「絶対、アリシアちゃんを連れ戻してこいよ」

「分かってる」

「それから……」


 男の約束を交わした後、陸人は辟易とした顔で体を逸らした。


「……朋絵」


 そこに隠れていたのは、昨日喧嘩別れした朋絵だった。

 互いにぎこちなく、どう接していいか分からなかった。

 しばらく微妙な空気が続いたあと、


『あ……』


 声が重なった。


「そ、颯太からいいよ」

「いや、朋絵からでいい」

「う、うん……それじゃあ」


 バッ! と朋絵は勢いよく顔を下げた。


「昨日はあんな酷いこと言ってごめん!」

「いや、あれは朋絵の方が正しかった。謝る必要なんてない。だから、顔上げろ」

「び、ビンタとかしないよね?」

「今この場でそれやったらブーイング受けるの俺だからしない」


 何を聞かされたのかよく分からなかったが、とにかく朋絵の顔を上げさせた。

 まだ少し、頬を強張らせている朋絵に、颯太は「ありがとう」と言って、


「昨日のお前の言葉で、俺も身に染みたよ。アリシアを奪われて悔しかったはずなのに、すぐに何もできなかった。どうしようもならない、って決めつけてたんだ。でも、今は違う。どうにかなる方法があるかもしれない。それを考えるきっかけをくれたのは、お前だ」

「……アーちゃん。帰ってくるんだよね?」

「分からない。でも、必ず連れ戻してくる。そうしたら、また一緒に遊んでくれ」

「っ! うん! あたし、まだ、アーちゃんと話したいこと沢山あるから……」


 だから、と継いで、


「絶対、連れて戻してね」

「あぁ。任せろ」


 朋絵のハイタッチと掲げた手に、颯太はその想いを受け取るように叩いた。快音が夜空に響く。

 陸人と朋絵。二人から想いを託された。残るは、


「行ってくるよ、みつ姉」

「――――」


 振り返った視線の先。そこには、不安そうな表情で颯太を見つめるみつ姉が立っていた。


「本当に、大丈夫なのね」

「あぁ。俺は大丈夫」

「嘘つかないで。手、震えてるわよ」


 それは今まで颯太が懸命に隠していた恐怖心だった。それを、みつ姉は容易く見破った。


「やっぱみつ姉にはバレるか」

「当たり前でしょ。何年ソウちゃんのお姉ちゃんやってると思ってるの」

「流石はみつ姉。なら、俺が止まらないのも知ってるだろ」


 真っ直ぐ見つめる黒瞳に、みつ姉は吐息する。


「知ってる。だから止めれない。それに、私も願うことなら、アーちゃんにまた会いたい。それができるのは、ソウちゃんだけなのよね」

「たぶん」

「それなら、私にできることは、貴方たちが無事に帰ってくるのを此処で見守ることだけだから」

「それだけで十分だよ」


 震えた手を握り締めて、そして開いた。その手で、颯太はみつ姉の手に触れた。


「みつ姉の提案から、俺とアリシアの時間が始まったんだ。だから、最後まで見守っててくれないかな」


 みつ姉の顔をしっかり見つめて、言い切った。


「だって、みつ姉は俺たちの姉ちゃんなんだろ?」

「……ッ!」


 その言葉に、みつ姉は瞳を大きく開けた。それから、瞳から零れそうになる雫を振り切って、自信に満ちた顔で頷いた。


「ええ! 貴方たちのお姉ちゃんはこの私、優良三津奈よ! 世界でたった一人の。だから、最後までちゃんと、見守っててあげる」


 みつ姉は颯太を強く抱きしめた。


「行ってらっしゃい、ソウちゃん」

「うん。行ってくる」


 力強く、颯太は頷いた。


「晴彦くん! ソウちゃんをお願いね」

「任せて、三津奈! 俺が必ず、颯太をアリシアちゃんの元まで届けるから」


 船の上から、晴彦が親指を立てる。白い歯がキラリと光るが、その言葉に周囲の漁師の眉間が動いた。


「おい小僧! 聞き捨てならねえな、颯太を海に送り出すのは俺たち全員の仕事だぞ!」


 分かってますって、と晴彦が頭を下げるも、既に一発ゲンコツを喰らっていた。


「安心しろや、三津奈ちゃん。颯太はかーならず、俺たちが嬢ちゃんのとこまで届けてやっから!」

「ええ! お願いします、松島さん!」

「こりゃあ爺には答える笑顔だな! 婆さんのより何倍もやる気が出るわ!」


 三津奈の笑顔に海賊のように笑っていると、船上もそれを受けて騒がしくなり始めた。


「なに嬢ちゃんの笑顔一人占めしてたんだこのエロジジイ!」

「うるせぇっ! だったらお前もレディーがときめく一言くらい言ってやれってんだ!」

「うんだと、このヤロー!」

「やんのかこのヤロ―」

「ちょっと皆落ち着いて!」

『小僧は黙ってろ⁉』

「そんなー⁉」


 船上から聞こえてくるやり取りに、


「ふっ」

「あははっ」


 この場にいる全員が思わず笑ってしまった。

 お腹が痛くなるまで笑い合って、目に嬉し涙が堪ったところで、颯太は呼吸を整えた。

 恐怖も覚悟の後押しとばかりに、颯太の靴が船を跨いだ。

 揺られる船上から、颯太は体を前に突き出す。


「それじゃあ、今度こそ行ってくるよ。また此処に返ってくる時は、アリシアも一緒だから」


 みつ姉に、朋絵や陸人、それにアリシアを無事を願う人たちに向かって、颯太は堂々と言い切った。


『行ってらっしゃい! 颯太!』

「行ってきます!」


 町中の人たちが、颯太に手を振り、それに振り返す。名残惜しさを覚えながらも、颯太は漁船の真ん中へ進んでいく。

    

  ***************************************


「しっかし、本当にこのウミワタリの伝承が宛になるんだろうな、えぇ? 颯太よ」


 出航に向けて準備の最中、ゲンさんが怪訝そうな顔をして問いかけた。それは当然の疑問であり、颯太もこれがアリシアを救う方法だという絶対の確信はなかった。けれど、


「確証はないよ。でも、あの伝承の二人と、俺たちが似てたんだ」

「それだけか?」

「うん。それだけ」


 少女が空が降ってきたことは、アリシアが天界を越えてこの町の空に落ちてきたこと。

 少女と漁師が出会って、その日常が豊かになったことは、颯太がアリシアと出会って毎日が彩られたこと。

 颯太と漁師が似ているというより、伝承の少女とアリシアが酷似していると颯太は感じたのだ。ひょっとしたら、その少女も天使だったかもしれない。

 ただ一つ。ウミワタリの伝承と自分たちが違うのは――結末だ。

 颯太とアリシアは必ず皆の元に帰る。それを強く、己の胸に言い聞かせた。


「お前も、爺さん譲りで大胆だな。もっとこう、慎重に動く子だとばかり思ってんだがよ」


 これはきっと褒めていないだろう。

 なのに、颯太は不覚にも笑ってしまった。


「俺にとっちゃ、最高の誉め言葉だな」


 世界一尊敬する人と同じように見られている気がして、最高の気分だった。


「へっ。いい面になってきたじゃねえか。その調子でウミワタリも頼むぜ、颯太」

「あぁ! 任せてよ」


 強く背中を叩かれても、颯太の体はよろけず受け止めた。


「颯太! そろそろ出航するよ。到着予定時間は十五分後。覚悟、決まってるよね」

「当然! いつでも出航していいよ」


 晴彦の呼びかけに、颯太は自信に満ちた顔で応えた。

 船を止めていたロープが外れて、エンジン音が上がった。

 ウミワタリ最終日。その最期を飾る行事―― 

 ウミワタリが幕を上げた。


「アリシア――必ず、キミを取り戻す」


 海風を斬りながら、船は進んでいく。 


   

    **********************************



 今宵は満月。さらには満天の星空だ。

 凪、と呼ばれる状態に近い海に、船員たちは険しい顔をしていた。


「もし危険だと判断したら、俺たちはお前を止めるからな。例え、これが嬢ちゃんを助けられる可能性だとしても、だ。俺たちの役目は、お前の安全を確保することだからな」

「分かってるよ、そのくらい」

「……ならいいが」


 睥睨する一人の漁師に、颯太は顎を深く引いて頷く。


「そろそろ、ポイントに到着するけど、何か思い残すことある?」

「それ、まるで俺が死ぬみたいじゃん」


 晴彦が顔を覗かせると、物騒な問いかけをしてくる。


「実際、これは死にかけるからね。だから、これだけ大勢の大人たちが船に乗ってるんだ」


 この船に乗っている船員は全部で十五人ほど。確かに、普通の漁にこれだけの人数はまずない。役に選ばれるのが子どもだけあって、大人たちは常に緊迫した雰囲気だった。


「無理はしないし、それに、俺は何もアリシアを助ける為だけにこの役を陸人から譲ってもらったんじゃないよ。ちゃんと、この役に与えられた仕事を果たすつもり」

「……本当に、このウミワタリでアリシアちゃんに会えるのか?」


 それは出向前にゲンさんに聞かれたことだった。それには答えたつもりだが、やはり晴彦は半信半疑らしい。

 それは同じだ。絶対に会える、なんて何度も言うが確証はない。

 それでも、


「俺は、もう迷わないって決めたんだ。足を止めても、そこには何もないから。だから。どんな小さな可能性だって、あるなら前に進みたい。これが、俺にそう教えたくれたように」

「羽根、か?」

「うん。あの時、届かなかった俺が唯一掴めたもの」


 手に握っていたのは、アリシアが抜けた一枚の羽根だ。不思議と、この羽根を持っていると勇気が湧いてくる気がした。


「アリシアが待ってる……そんな気がする。だから行くんだ」

「そっか。それなら、俺たちは全力でお前を協力するよ」

「ん。頼むよ、晴彦さん」


 話し終えると、タイミングを見張らからっていたようにゲンさんが大声で叫んだ。


「おい! 颯太、そろそろ時間だ! 飛び込む準備、出来るんだろうな⁉」

「大丈夫! いつでも行ける!」

「ならよし! お前の爺さんみたいに、カッコよく飛んでくれよ!」

「ん⁉」


 何か聞き捨てならない単語があった気がして、颯太の耳がピクリと動いた。そんな颯太の反応に、ゲンさんは「なんだよ?」と眉を寄せて、


「知らなかったのか。お前の爺さん……勝也さんはウミワタリ経験者だったぞ」

「知ってたら驚かないでしょ……」


 目を白黒させる颯太に、晴彦がさらに続けた。


「それだけじゃない。ここに居る全員、ウミワタリの経験者だよ」

「そうだったんだ」


 ウミワタリに乗る乗員が毎年決まった顔ブレなのはそういう理由だったらしい。


「だから、安心して行ってこい――颯太」

「あぁ! 行って来る!」


 最後に晴彦から想いのバトンを受け取り、颯太はいよいよ一歩目を踏み出して――


「おい、ちょっと待て」


 一人が颯太に腕を伸ばして制止させた。

 海が光る十秒前にして、突然、海が荒れ始めた。

 何人かの船員はよろけたり、転びそうなほど、揺れが強くなっていく。


「まるで、海が俺を拒んでるみたいだ」


 船が左右に揺られて、颯太も堪らず膝を突いた。


「おい、これは危険だ。一度様子を見て……」

「いや、大丈夫!」


 揺れる船上で、颯太は着いた膝を上げた。顔には無意識に笑みが零れて、心臓の鼓動が五月蠅かった。

 そんな颯太に、大声の叱責が飛ぶ。


「馬鹿野郎! さっきも言ったろうが! 危険と判断したらすぐに中止するって……」

「大丈夫! だって、海は俺の味方だから」

「何訳分からんことを……」


 けれど、漁師の制止した声が止まった。そして、何か悟ったような口ぶりで言う。


「その言葉、勝也さんの言葉か」

「あぁ。爺ちゃんの言葉。爺ちゃんはいつだって嘘はつかなかった。だから、海は俺の味方だって信じてる」


 その瞳に、迷いも躊躇いは欠片もない。

 そして、高らかに叫んだ。海に向かって、堂々と、自分の名を。

 すぅ――。


「俺は宮地颯太! 宮地悟と宮地由依の息子で、宮地勝也の孫だ――ッ!」


 海が、淡い燐光を放っていく。翠に光る夜の海は、なんとも幻想的だった。


「待ってろ! アリシア‼」


 そして、船板を力強く蹴り上げた。


『いけぇ! ――――――颯太‼』


 船にいる全員の声と、遠くから聞こえてくるみつ姉たちの声に、颯太の背中は押される。まるで、羽が生えたように、颯太は夜空と翠の海を飛んだ。


「うおお―――――ッ‼」


 刹那。光が、颯太を呑み込んだ。 


                   ―― Fin ――


あとちょっと、あとちょっとぉぉぉぉ

作者がミイラになった話はさて置き、今話いかがだったでしょうか⁉

覚悟を決めて、一度切りのチャンスに望む颯太。その颯太に快く人身御供役を譲ってくれた陸人や信じてると言ってくれた朋絵。そしてなにより、みつ姉が帰りを待っていると言ってくれたこと。

これまで独りだと思っていた颯太でしたが、気付けば周りには沢山の大切な人たちで溢れかえっていました。潮風町の皆から背中を押されて、颯太は海へ飛び込んでいきました。

果たして次回、颯太は、アリシアはどうなるのか⁉ こうご期待です!

少年と天使の物語。その行く末は――。

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