第27話 『 消えた温もり 』
終章前編 『 天使の翼 』
登場人物紹介
優良三津奈 (ゆらみつな) 宮地颯太の幼馴染にしてお姉ちゃん。今回のメインキャラです。
晴彦 (はるひこ) 三津奈の婚約者。漁港関係の仕事をしていてる。少々天然気味。
宮地颯太 (みやじそうた) 本作の主人公。前回唐突にアリシアに別れを告げられ、その後は,,,
アリシア 本作のメインヒロインにして天使。アムネトに連れ去れらてしまったが、その行方は、、
【 side三津奈 】
―― 6 ――
「んぅ~~。つっかれた」
「お疲れ、三津奈」
んー、と腕を伸ばす三津奈の隣で、晴彦が労っていた。
早朝の五時から走り回り、時刻はすでに十九時を回ろうとしている。やる気はまだ残っているが、流石に十四時間も外に出っぱなしでは体の方が悲鳴を上げていた。
「家に帰ったらすぐお風呂は入ろー。……屋台は、明日でもいいかなぁ」
「そうだね。あ、でもどうする? ご飯は買って帰る?」
「うん。もう作る体力残ってないから、今日は屋台のもので夕飯にしよう。祭りって雰囲気も味わえるしね」
「賛成」
晴彦が親指を立てて同意した。
「あとお酒ね!」
「飲み過ぎないでね、三津奈。明日もあるんだから」
「わかってますぅ」
晴彦が苦笑いで釘を打つのを、三津奈は口を尖らせた。
「そうだ。晴彦くん。夕飯買っていくなら、今日はソウちゃん家に行かない?」
「えぇ? 俺は全然構わないけど、颯太は嫌がるんじゃないの?」
「なんでよ?」
首を傾げる三津奈に、晴彦は「やっぱり覚えてないんだ」と頭を抱えた。
「ここで明かすのもあれなんだけどさ、三津奈、酒癖凄い悪いよ?」
「う、嘘でしょ?」
四年目にして明かされた事実に、三津奈は愕然とする。そんな覚えが全くない三津奈からすれば相当なショックだった。もしかして忘年会や親睦会、はたまた町内会議でもやらかしてしまったのでは、と顔色を蒼くしていると、晴彦は「違くてね」と弁明を入れた。
「うん、まぁ、俺や他の人なんかと飲む時はちゃんと意識がはっきりしてるっぽいんだよ。たぶん、大人としてのスイッチが入ってるから、なんだろうけど」
「じゃあ……」
混乱する三津奈に、晴彦はぽりぽりと頬を掻きながら、面白おかしそうに言った。
「でもさ、颯太の前だと、そのスイッチが完全にオフになるんだよね。もうね、凄いよ。颯太の首に腕回して、ゲンキデスカー⁉ とか、いい加減彼女作れー、とか……彼氏の俺がいうのもなんだど、あれは俺も同情する」
「そ、そんなに酷いの⁉」
八年付き合っている彼氏が引くのだからそうなのだろう。
「ちなみに、去年、三津奈が颯太に何やったか聞きたい?」
「う、うん」
聞こうか躊躇ったが、三津奈は覚悟を決めて頷いた。
「膝十字固め決めてたよ」
「ちゃんと謝ろう! ソウちゃんに!」
明かされた失態に、三津奈は赤面して叫んだ。弟に膝十字固めを決める女。自分でもドン引きする程の所行だ。
「そうしなよ。あと、颯太の前ではお酒控えな」
「はい。そうします。反省してます」
反省どころか猛省だ。俯く三津奈に晴彦は苦笑うことしかできなかった。
そんな気まずい空気を換えるためか、晴彦は演技染みた声を上げた。
「ほ、ホラ、ここでこんな話してるのもなんだし、早速屋台のほうに戻ろうよ!」
「そ、そうね。買いに行きましょう!」
晴彦の提案に乗って、三津奈は夕日が赤く染める道路を歩き出した。向かうは漁港の駐車場で、距離はそう遠くない。
段々と、夕日も沈んでいって辺りも暗くなってくる。すでに街灯が照らし出されていて、肌に当たる海風が心地良さよりも冷たかった。
暴露された事実から数分がすぎて、思考も段々と落着きを取り戻してくる。そうすると自然とこんな言葉が零れた。
「まぁ、ソウちゃんの事だし、何も言ってこないならこのままでいい、ってことよね」
「その自信どこから来るの?」
数分ぶりの一声が先程の反省をひっくり返したもので、晴彦は衝撃を隠し切れなかった様子だ。
そんな彼氏の疑問に、三津奈は至極当然のように言った。
「だって私は、颯太のお姉ちゃんですから」
「――――」
その声音にどんな想いが籠っているのかは、晴彦はすぐに察したらしい。
「晴彦くんにとっても、ソウちゃんは可愛い弟分でしょ」
「そこは素直に弟でいいんじゃないかな」
「あら、もうすっかり夫気分?」
「そ、それはまだ……もう少し先の話で」
「もうっ、私の周りの男は全員優柔不断なんだからっ」
照れる晴彦に、三津奈は嘆息した。それから、
「でも、今日のソウちゃんには私も少し見惚れちゃったかも」
「え⁉」
突然晴彦が目を白黒させた。
「そっか。晴彦くんは知らないんだっけ、今日の子ども神輿でソウちゃんがやった武勇伝」
「ぶ、武勇伝⁉ なにそれ凄い気になるんだけど」
「ふふ。じゃあ教えてあげるわ……」
そして、三津奈は午前の神輿で何があったのか晴彦に語り出した。
アリシアが大活躍だったことも。颯太が初めて大きな声を出したこと。
三津奈は誇らしげに全部を伝えた。そして、颯太が公衆の面前で大胆にアリシアを抱きしめたことを。
それを聞き終えた晴彦は、感慨深げに吐息した。
「まさか、あの颯太がそんな大胆なことするなんてな」
「ね。私も、周りも驚いたわよ。ガッ! とアーちゃんを抱きしめて、二人だけの時間見せつけられちゃったわ」
その後の盛り上がりは言わずもがな、その熱は今も祭りを盛り上げている。例年に比べて、学生たちが祭りで盛り上がっているのだ。午前の子どもの部が大反響だっただけに、夜の大人の神輿は一層気合が入ることだろう。
「颯太がアリシアちゃんに好意的なのは見るまでもなくだったけど、そんな風に抱きしめる、なんてのは今までしなかったはずだよね」
「ソウちゃんは奥手だから。でも、アーちゃんの頑張りに何かせずにはいられなかったんでしょうね」
「好きな人の前だと、人は変われるもんなんだね」
「あら。私は、晴彦が私のために変わったとなと思う面がないのですが」
「ありままの俺が好き、って言ってくれたのは三津奈だろ」
「そういえばそうでした」
二人で笑い合ってから、
「となると、今頃、颯太はアリシアちゃんに告白でもしてるかもな」
「そうね。そうだといいけど……」
晴彦がそんなことを呟くのを、三津奈は神妙な顔で頷いた。
颯太とアリシアが結ばれるのは、三津奈にとってそれ以上ない宿願だった。
初めは、アリシアなら颯太を変えてくれるのでは、そんな淡い期待を込めて提案した同棲生活だった。それが今、二人の関係は三津奈が想像した以上になろうとしている。
もしも、颯太とアリシアが付き合うことになれば、三津奈という姉の存在は必要でなくなる時がくるのだろう。ふとそんな想像が脳裏に過って、三津奈は胸中に生まれた感傷に浸った。
「……な……つな……三津奈っ」
「⁉」
ふいに大きな声が耳朶に響いて、三津奈はハッと意識が我に返った。かぶりを振って、三津奈は名前を呼んだ晴彦に「どうしたの」と聞き返した。
「いや、あそこに誰かいる」
「え? あそこって……」
困惑しながらも、三津奈は晴彦が指さした方角を目で追った。
周囲はすでに薄暗く、晴彦のように人の姿をうまく捉えることができない。それでも、三津奈は目を凝らして見る。
黒い物体が、海辺にあるのはどうにか捉えられた。
「確かに人っぽいけど……岩じゃなくて?」
そう言うと、すかさず晴彦が反論した。
「海辺だよ? それに、あんな大きな岩、漁港の人たちがみたらすぐ退かすでしょ」
「そう言われればそうだけど……」
自分より遥かに海の事情に詳しい晴彦の言葉には説得力があった。
しかし、三津奈が疑問視するのも無理はなかった。こんな暗い時間に海辺に人がいれば、それこそ自分たちより先に見かけた人たちが注意するはずだ。屋台の集中する場所から離れているため人通りが少ないのは分かるが、それでもこの町の住人ならこの時間帯に海辺に近づくことはなしないはずだ。
「とりあえず、もっと近くで確認しましょ。それで人だったら、注意しようよ」
「……そうだね」
三津奈の提案を、晴彦は歯切れ悪く頷く。やはり、晴彦の表情がどこか重い。
三津奈と晴彦は、ゆっくりとそれに近づいていった。
晴彦はおそらく、相手が相手だった場合を想定しているのかもしれない。突然襲って来るような奴ならば、先に襲われるのは十中八九、女である三津奈の方だろう。だから、晴彦は慎重に行動しているのだろう。
「大丈夫よ。晴彦くん。私だってそれなりに鍛えてるんだから」
「それでも、だよ。三津奈にもしもの事があったら、俺は悔やんでも悔やみきれない」
そういう所は男らしい晴彦に、三津奈は場違いにも見惚れてしまいそうになる。僅かに孕んだ緊張がそうはさせなかったが、そんな決めた台詞は日常でも欲しいなと思ってしまった。
三津奈の思惑を他所に、二人の足取りは歩道を跨いで砂を踏んだ。そして、次第に謎の黒い物体の正体も掴み出していく。
それはやはり、晴彦の言葉通り人だった。それが明らかになって、三津奈の恐怖心が強くなる。
「――――」
それは、こんな暗い時間の海辺で倒れ込んでいた。両手両膝を砂に突き、押し寄せる波に微動だもしない。
恐怖心が増していく。無意識に、三津奈は晴彦の腕を掴んだ。
晴彦が、声を出した。声音が、恐怖とは別の感情で震えていた。
「ねぇ、三津奈……あれって……」
「なに、晴彦くん」
どうしてか立ち止まった晴彦に、三津奈は怪訝に顔を顰めた。
晴彦は三津奈より目が良い。暗がりでも人を見分けられるほどだ。
その晴彦が数秒後に放った言葉が、三津奈に衝撃を与えた。
「あれ……颯太じゃないか?」
「え?」
まさか、と三津奈は初め言葉を疑った。こんな暗がりに、まして颯太が一人のはずがない。アリシアと一緒にいるはずだ。それを、三津奈は晴彦にそのまま言葉に伝えた。
「何言ってるの、晴彦くん。ソウちゃんならアーちゃんと一緒にいるわよ。神輿の後から、ずっと二人きりだったんだから」
「でも……あれは颯太だ」
三津奈の言葉を振り切って、晴彦は断固としてあの人影を颯太だと言い切る。
「そんなはず――」
胸に沸いた、ただならぬ不安。
「ソウちゃん?」
気づけば、三津奈は人影に向かって名前を呼んでいた。
どうか間違いであってほしい、振り向かないでくれ。
三津奈と晴彦は、同じことを胸中に宿していた。
そんな願望を宿しながら投げかけた声に――しかし人影は振り向いてしまった。
ゆっくりと振り返ったその顔は、間違いなく颯太で。
「――ッ!」
晴彦より速く、三津奈は駆けだした。波を蹴って、濡れることなど厭いもせず、三津奈は颯太の下までただ全力で走った。
「ソウちゃん! ソウちゃん!」
「……みつ、ねえ……」
颯太の下まで行って、三津奈は彼の肩を激しく揺らした。力なく揺られる颯太の体に熱はなく、冷え切っていた。いったい、どれだけの時間、波に打たれ続けていたのか。
その顔に生気がなくて、三津奈は一層恐怖心に煽られた。
「ねぇ、ソウちゃん⁉ 何があったの⁉」
「――――」
何度呼び掛けても、まともな返答がない。
「ソウちゃん、アリシアちゃんは⁉ あの子は何処にいるの⁉」
「――――」
アリシアという単語に初めて反応があった。ぴくりと眉が動いて、そして、言い表せようもない悲壮感が颯太の顔を歪めた。
「――た」
「……え」
掠れた声音で颯太が何か言おうとしたのが分かった。三津奈は耳を颯太の口に近づけて意識を集中させた。
「また、俺の大切な人が……居なくなった」
泣くことも疲れたような、そんな声。
そして。
「ソウちゃん⁉ ソウちゃん⁉」
颯太は目を瞑って、三津奈の肩に倒れかかる。何度呼び掛けても、今度こそ返事は帰ってこない。全身から血が引いていく。
「晴彦くん、急いで救急車呼んで‼」
「分かってる!」
叫ぶ三津奈に、晴彦は既に手に持ったスマホを操作した。
数分後。赤いランプを明滅させた救急車が到着。そしてすぐに颯太が運ばれた。
「お願い、ソウちゃん……死なないでッ」
冷たい手を、三津奈は強く握り締め続けた。
――ウミワタリ一日目は最悪の形で幕を閉じた。
―― Fin ―
編集の時手が寒すぎて動かないんだよぉぉぉぉぉ!!
作者の寒さ態勢ゼロの話はさておき、最新話いかがだったでしょうか!
今回初めてみつ姉視点で描かれた天罰のメソッド。しかしその内容はあまりに残酷でした。
颯太とアリシアの唐突のお別れから、みつ姉視点でその後を書きましたが、波際で憔悴する颯太の心情たるや! 目の前で大切な人が連れ去られて、何も出来なかった無力の自分に歯噛みするしかない。そして、何度も自分の前から大切な人たちが消えていく現実に、ついに颯太は折れてしまいます。立ち上がることもできず、そのまま目を閉じてしまった颯太。はてさて次回はどうなってしまうでしょうかねぇ!
なろうへの掲載もそろそろ終わり間近ということで、これまで天罰のメソッドに興味を持って見ていただいた読者の皆さん、改めて感謝を。((ぺこり
そして次回、いよいよ終章後編の始まり! 颯太とアリシア。一人と天使の結末やいかに――。
終章後編 【 キミと―― 】 お楽しみに!
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