第23話 『 始まる最後の夏 』
終章前編 『 天使の翼 』
登場人物紹介~
宮地颯太 (みやじそうた) ヒロインに救われた本作の主人公。男が泣くシーンって萌えますよね。
アリシア 颯太に恋心を抱く本物の天使。白銀の髪は今日も輝いてます。
優良三津奈 (ゆらみつな) 颯太の推さ馴染みで颯太を救えないことに苦しんでいたお姉ちゃん。
アリシアに胸の内を開けたことで少しは気楽なれたか。
三崎朋絵 (みさきともえ) 颯太の同級生。趣味はウィンドウショッピングとカラオケ。近々アリシア
ちお出かけするかも?
陸人 (りくと) よくラブコメにいる気の利くキャラ。朋絵に恋心を抱き、夏休みは猛アタックしてい
るようだが?
【 side颯太 】
―― 1 ――
その小さな手の平の温もりが、悲しみに囚われる心を救いだした。
「明日から、祭りだな」
「そうですね。町の雰囲気も、今までにないくらい賑やかです」
片方の手で買い物袋を持ちながら、二人は活気づく町を眺める。
「屋台もちらほらと出てきてるみたいだけど、寄っていかなくていいんだよね」
ちらほらとたが、もういくつかの屋台は物を売り出していた。颯太が見た限りではチョコバナナと焼きそば。あと、水あめと、ウミワタリが開催される二日前にもかかわらず開いている屋台は結構あった。
小さな子どもたちが片手に小銭を握り締めてそこへ向かっていくのを通り過ぎながら、横目にみるアリシアは澄ました顔で言った。
「ソウタさん。私は心に決めてるんです。ヤタイを楽しむのはお祭り当日だと。なので、なるべく私を誘惑しないでいただけると助かります。……うっ」
チラッ、チラッと屋台で楽しむ子どもたちを覗いては呻くアリシアに、颯太は不覚にも笑ってしまう。アリシアも本当は屋台を満喫したいのだ。
「ま、アリシアがそう言うなら無理に誘ったりしないよ。あと二日。ちゃんと屋台の誘惑に耐えるんだぞ?」
「が、頑張ります」
苦虫を噛んだ形相を浮かべながらアリシアは頷いた。
それから、町の賑わう音だけが暫く続いた。
それは今だけでなく、今朝から続いていたもどかしい静寂だった。
起きてから目を合わせば「おはよう」だけでぎこちなくなってしまい、朝食の時も何か話そうと思っても上手く言葉が出てこない。そのまま、アリシアは日課の勉強を、颯太はテレビの前でスマホと睨めっこしていた。
――昨日のこと、アリシアにちゃんと礼を言いたいのに!
このままでは拉致が明かないと思い、そこで提案したのがお昼前の買い物だった。
その提案をされたアリシアは最初、珍しいといわんばかりの表情をしていた。けれど、流石は天使。颯太の落ち着かない態度にすぐに何かを察したのだろう。いつも通りの元気な声を出して、こうして買い物に付いて来てくれた。
「…………」
――駄目だ! アリシアと目が合う度に話しづらくなる!
昨日の件に礼を言おうとしても、その時に晒してしまった羞恥心がなかなか颯太の口を開かせてはくれなかった。つまるところ、颯太の意気地なさのせいでアリシアにも気まずい雰囲気を味わせてしまっているのだ。
アリシアはいつでも颯太の言葉を待っているというのに。
「あー、今日も、て、天気がいいなぁ」
「ソウタさん。その会話。もう五回目ですよ」
「そ、そうだっけ?」
何か話すきっかけを作らねば、そう思って言った矢先、アリシアに苦笑いで指摘されてしまった。流石のアリシアも辟易してしまっている。
――はぁ。これじゃ、なんのために買い物に誘ったのか。
自分の弱腰さ加減に乾いた笑みが零れた。
「なんで急に笑い出したんですかソウタさん⁉」
「気にしないで、今自分をぶん殴ってやりたい気分なだけだから」
「それは気にしない方が無理ですよ⁉」
ギョッと目を剥くアリシアを横目にして、颯太は大きなため息を吐いた。
このままではマズい。せっかく町の賑やかな空気に触れて、アリシアと会話もそれとなく弾んできたところなのに、家に着いてしまっては今朝の気まずげな雰囲気に逆戻りだ。それに、颯太の心情的にも長引かせたくはなかった。
――俺は、あの時確かに救われたんだ。アリシアに。
向き合った過去を、己一人では清算できなかった過去を、アリシアは受け入れて、そして、その重荷を軽くしてくれた。その感謝の恩は、絶対に言葉にして伝えたかった。
「アリシア!」
「わっ、なんですか急に、大声だして」
颯太はその場に立ち止まって、大声で彼女の名前を呼んだ。アリシアはびくっと肩を震わせ、戸惑いながら颯太の顔を窺う。
ジッと見つめてくる、金色の瞳。その美しさに吸い込まれそうになる。その目に映る自分の顔は、緊張で頬が硬くなっていた。
――たった一言。それだけ。それだけなのになんで出てこないんだ。
目を泳がせ、口は金魚のようにパクパクしてしまう。買い物袋を握る手に力が籠って、肉に爪が食い込む。
――伝えるんだ。昨日のこと。ありがとうって。
町の人たちが、二人の様子を気にしながら通り過ぎる。車の通過音が、やけに鮮明に聞こえた。
真夏に昇る太陽の下で数十秒。二人は陽炎が立つその場に立ち尽くしたままだった。
アリシアの額にも汗が滲み出して、頬を伝って落ちていく。アリシアは流れる汗を拭くもせず、ただ、颯太の言葉を待っていた。
「――――」
その優しげな顔に、昨日の優しい声音が重なった気がした。
――ゆっくりでいいですよ。
その言葉が胸の内に響いて、颯太は小さく息を吐いた。
「アリシア、昨日のことだけどさ」
「――はい」
ゆっくりと、舌に言の葉を乗せるように呟くと、アリシアは朗らかな表情で颯太を見た。
「ありがとうね。俺の話、聞いてくれて」
ようやく伝える事ができたぎこちないお礼に、アリシアは小さく笑うと、
「あの時も言ったように、少しでもソウタさんの辛い気持ちを軽くしたかったんです。私にできることはせいぜいソウタさんの悲しみに寄り添うくらいですから。微力でも、ソウタさんの救いになりたかったんです」
「微力なんて。アリシアが思っている倍以上に、俺にとっては力になったよ。アリシアのおかげで、今は気持ちが軽くなった。実際、昨日は人生で一番よく寝れたかも」
実のところ、颯太はアリシアに自身の過去を打ち明けてからの記憶があまりなかった。
ただ、子どものように散々泣いて、凝り固まったもの全部ぶちまけて、死んだように眠りについたことだけは覚えている。今朝のアリシア曰く、昨日はそのまま、夕飯も食べずに眠ってしまっていたらしい。
そして、今は体が羽のように軽かった。それはきっと、一人で背負っていた重荷が下りた証拠なのだろう。今なら、現役だった時以上に速く走れるかもしれない。そう思う程に。
「アリシアのおかげで気持ちが楽なった。それに、またやりたいことも出来たよ」
祖父を失くして以来。目的も夢を見失っていた。けれど、颯太にも新しい夢がようやく見つかった。
「見つけられたんですね。ちゃんと、やりたいことを」
「うん」
睦まじそうにアリシアは見つめていた。
「もしよかったら、教えてくれませんか。ソウタさんの夢を」
その問いかけに、颯太はふと笑った。
今更。アリシアに何か隠し事をするつもりなんてない。ある意味では裸より恥ずかしいシーンを見られたのだから。
だから。
「それは内緒」
「うえぇ⁉ 今教えてくる雰囲気だったのに⁉」
直前の真剣な空気感を霧散させるように言った颯太に、アリシアは凝然とした。
確かにアリシアには秘密ごとなんてする必要ないくらいに心を開いてある。でも、この夢をアリシアに言うにはやはりまだ恥ずかしかった。
それに、公の目もあって、ここで言って知り合いに聞かれたら颯太はたぶん海に身投げする。
だから、頬を膨らませるアリシアにもはぐらかすように言った。
「その時が来たら絶対教えるから」
「むぅ。約束ですよ?」
「うん。約束」
「絶対ですよ。ぜーったい。ソウタさんが話していい日が来たら、教えてくださいね」
「あぁ」
唇を尖らせるアリシアに、颯太は小指を差し出した。アリシアはすぐに意図を理解したようで、買い物袋を持ち換えて反対の小指を颯太の小指に絡めた。
せーの、と二人で小さな合図を出して、
「「指切り拳万。嘘吐いたらハリセンボンのーます。指切った!」」
おまじないのような約束を交わした。そして、可笑しそうに笑い合った。
ひとしきり笑い合って、そして、アリシアがステップを刻んで振り返った。
真夏に輝く太陽の光。その光を浴びた白銀が燦然と輝く。その輝きと同じほど――それより眩しいアリシアの笑顔は、まさに大輪の花のようだった。
「それじゃあ、お家に帰りましょう――ソウタさん!」
―― Fin ――
終章開幕。
終章の鍵を握るのは、三章の始めのほうでも語られていた潮風町伝統のお祭り『ウミワタリ』です。
改めてこのお祭りのことを解説しますと、三日間に渡って行われるお祭りということです。
一日目には『お神輿』二日目に『花火』三日目に、この祭りの名前にもなっている『ウミワタリ』が行われます。
このお祭りは完全に自分が作った妄想祭事なんですよね(笑い
三百年前から続く伝統を受け継ぎながら、現代に合わせて祭りの姿も変わっていた、みたいな感じで派手なお祭りにしました。できてるかは自信ない! ただ読んでる読者に楽しんでもらえる様には書いた!
そんな訳でウミワタリの開催とともにスタートした終章、お楽しみに!
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