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【休載中】天罰のメソッド〜処刑天使。ひきこもりの少年に恋をする〜  作者: 結乃拓也
第一部  【 白銀の邂逅編 】
20/234

第19話 『 誰かに恋する理由 』

登場人物紹介~

宮地颯太 (みやじそうた) 手がかじかんで上手く書けん。主人公

アリシア モノホン天使で白銀美少女。おや? アリシアの様子が……?

優良三津奈 (ゆらみつな) 本編にはあまり出てないのに毎度傷跡残すお姉ちゃん。今回大活躍です。

【 sideアリシア 】


  ―― 3 ――


 ――悶々として、自分の感情に整理がつかない時、アリシアが毎回頼りにするのはソウタの幼馴染――優良三津奈ことみつ姉だった。

 休日。みつ姉も今日は仕事がお休みということで、アリシアはみつ姉の自宅にお邪魔していた。


「みつ姉さんに折り入って相談したいことがあるんです!」


 と真剣な顔つきな相談者に、みつ姉はマグカップを机に置いて目を瞬かせた。


「また、何か悩みごと?」

「はい」


 こくこく、とアリシアは頷くと、みつ姉は綺麗な黒髪を耳に乗せ聞く体勢を作った。


「それで、今日はどんなお悩みなのかしら?」

「えーと、ですね……」


 早速要件を求められ、アリシアは少しだけ躊躇う。一息の後、頬を朱に染めてアリシアはぎこちない口調で言った。


「最近……ソウタさんを見る度にですね、こう、胸の奥が熱くなったり、締め付けられたりするんです。前も似たようなことはあったんですけど、ここ最近は、それがもっと強くなった気がして……」

「あらあらぁ……何それもっと詳しく聞かせて頂戴⁉」

「みつ姉さん⁉ なぜ楽しそうなんですか⁉ こっちは真剣なのに⁉」


 それまでの平常心がどこへ行ったのか、途端にみつ姉は鼻息を荒くして食いついた。普段はおっとりとした目が爛々と輝いていて、流石のアリシアも驚愕してしまう。

 椅子ごと半歩下がるアリシアに迫るように、みつ姉は豊満な胸を押し付けてテーブルに倒れ込んだ。


「あ、圧が凄いです⁉」

「いいから、いいから! お姉さんが全部聞いてあげるから、ほら、だから早く教えて頂戴!」

「わ、分かりました! ちゃんとお話ししますから! ですから一度落ち着いてください!」


 観念したアリシアは悲痛の叫びを上げた。

羞恥心に顔を真っ赤に染めたアリシアを不憫に思ったのか、みつ姉は咳払いしてするすると椅子に戻っていく。そして、申し訳なそうな顔をして手を合わせた。


「ご、ごめんね、アリシアちゃん。お姉さんたら、ようやくかと思って、ついはしゃいじゃったわ」

「……ようやく」


 みつ姉の何気ない言葉。けれど、アリシアは胸騒ぎを覚える。

 まるで、この感情の答えを知っているかのような口調に、アリシアは怪訝に眉を顰めた。


「みつ姉さんは、知ってるんですか? 私の、このもやもやの正体を」


 間髪入れず、みつ姉は頷いた。


「たぶんね。私も似た経験あるから」


 肯定するも、みつ姉は答えを明かすつもりはないらしい。

 眉間に皺を寄せるアリシア。そんなアリシアに、みつ姉は微笑を浮かべた。


「だーかーらー。アリシアちゃんがソウちゃんに、どうして胸が熱くなったり、締め付けられたりするようになったのか、それを詳しく聞きたいな」

「――はい」


 自然と、胸中を吐露する空気が流れる。そのきっかけを極めて自然に作り出したみつ姉に胸の内で感嘆しつつ、アリシアは緊迫する心臓を落ち着かせる。

 先程のやり取りのおかげで、強張っていた緊張が少しだけほぐれた気がした。

 だからか、抱えていた胸襟はすっと声に出ていた。


「――きっかけは、トモエさんからの問いかけでした。ソウタさんはきっと私のことを大切に想ってる、って。けど、あなたは? と……トモエさんにソウタさんをどう想ってるのか聞かれた時、どうしてか、すぐに答えが出てこなかったんです」

「……そう」

「だから、ここ数日。ずっと考えてたんです。私にとって、ソウタさんは何なんだろう、って。――今は分かります。私も、ソウタさんは大切な人です。ソウタさんは私を救ってくれた恩人で、私なんかに居場所をくれた優しい方です。でも、あの時、すぐにその答えが出てこなかった」


 初めから、アリシアとソウタの関係は決まっていたはずだった。

 空から落ちた手を差し伸べてくれたあの始まりの日から、アリシアにとってソウタは命の恩人だった。そして、アリシアはソウタに恩返しがしたかった。そこにあるのは『感謝』しかないはず。それ以上の感情は、芽生えないはずなのに。

 だって、自分は――。


「ソウちゃんは、アリシアちゃんにとって、とても大事な人なのね」

「――――」


 みつ姉の言葉に、アリシアはただ黙って頷いた。胸中に込み上げる感情を押し殺すのに必死で、言葉がうまく出てこないせいだ。


 ――そうだ。ソウタさんは大事な人だ。


 命を救ってくれた。居場所をくれた。世界を広げてくれた。手を差し伸べてくれた。

 これまで見た風景の全部に、宮地颯太という少年がいた。

 天使の傍には、いつも隣に黒髪の少年がいたのだ。

 本来ならば隣にいることなど、アリシアには許されぬというのに。


「みつ姉さん。本当の私は、誰かの傍に居てはいけない存在なんです」


 温もりなど、情など、罪科を持つ天使が持つべき感情ではない。

 なのに、


「なのに、ソウタさんと一緒にいると、それを忘れてしまう」


 ソウタがくれる居心地に、無意識に縋ってしまう自分がいた。

 切なくて。もどかして。苦しくて。辛くて。――でも、それすらも愛しく感じてしまう。

 この感情は、果たして何なのだ。

 答えは出ない。分からない。思考を重ねるほど奥深く沈んで、気持ち悪かった。


「教えてください、みつ姉さん。この気持ちの正体を」


 それは最早、相談ではなかった。これは、ただの救済だ。苦悩者が唯一、解放される為の手段でしかないもの。

 アリシアは縋るような顔で答えを求めた。じっと、じっと待った。


「……アリシアちゃん。それはね」


 ゆっくりと、みつ姉の指が上がっていく。それは、アリシアの左胸を指して止まった。

 みつ姉は、朗らかな笑みを浮かべて――告げた。


「それは『恋』よ」

「……コイ?」


 分からない。と首を横に振るアリシアに、みつ姉は微笑を浮かべながら、


「あらら、まさか恋を知らない乙女がいるなんて。これは、教えがいがありそうね」


 楽しそうなみつ姉とは対極に、アリシアは依然困惑したままだ。


「いい? アリシアちゃん。恋っていうのはね、誰かを好きになること、なのよ」


 誰かを好きなる。そう教えられて、アリシアはバッと顔を上げた。


「それなら、私はみつ姉さんにだってコイをしていますっ」

「あらやだ照れちゃう! ――じゃなくて、アリシアちゃんの言うそれは、恋とはまた違う感情の好き」


 言及され、アリシアは己の胸にきゅっと手を握り締めた。確かに、みつ姉のことは好きだが、ソウタの時ほどの感情の起伏がなかった。

 徐々に『恋』を知っていくアリシアに、みつ姉は珈琲を飲みながら続けた。


「アリシアちゃんが私に対して抱く好きは、『親愛』の意味の好き。親しかったり、友達なんかに抱く感情なのよ」

「親愛……」

「そうねぇ、アリシアちゃんは友達、皆好きでしょ?」

「はい。好きです」


 アリシアは躊躇いもなく答えた。

 トモエやリクト、ゲンさんや幼稚園の子どもたち……等しく、脳裏に浮かべた人たちがアリシアは好きだった。


「でもね、アリシアちゃんがソウちゃんに抱いている好きはもっと特別」

「トクベツ……」


 オウム返しするアリシア。

みつ姉は愛しむような目をして続けた。


「この人にだけはこう見られたい。この人の前ではありのままの自分を見て欲しい。この人の前では恰好つけたい――この人の傍にずっと居たい。そう思うの」

「――っ!」


 みつ姉の言葉に、アリシアの心臓が跳ね上がった。それは、まさしくアリシアがソウタに向ける感情そのものだと気付く。

 驚愕し、困惑するアリシアに、みつ姉は訥々と続けていく。


「自分じゃどうしもないくらい、相手のことを思ってしまうのよ。それこそ四六時中ね」

「…………」

「厄介で、でも、堪らなく愛しい気持ち――」


 自分の感情とは関係なく、自分を振り回す感情。それが――


「それが〝恋〟なのよ」

「これが――〝恋〟」


 己の胸を強く握った。

 恋を知り、理解した瞬間、アリシアの胸中を覆っていた黒い霧が晴れた気がした。

 だから、鮮明になった思考で、今一度、みつ姉の言葉を反芻する。

 ソウタを思う度に、彼に抱くこの感情は強くなっていった。それは、アリシアの意思とは関係なく、勝手に肥大化していった。

まさしく、みつ姉の言葉通りだった。

 夏祭りに行く約束をした日、これからもずっとソウタの傍にいれたらといいと願ってしまったのは――つまり、その時からアリシアはソウタに『恋』をしていたから。

 いや、ならばこの気持ちはもっと以前から――。


「ダメッ」


 無意識に零れた否定。それは、脳裏に浮かぶ少年との思い出を強く拒む。

 悲痛に顔を歪ませて、アリシアはみつ姉に訴えた。


「恋、というものは、同じ種族に対して抱く感情です」


 過剰な反応、そう言っていいほど否定の色を濃くするアリシアに、みつ姉は朗らかな声音で反論する。


「そうとも限らないわよ。今のアリシアちゃんみたく、人間が別の生き物に恋することだって普通にあるわ」

「だとしても! それは、人間が抱く感情ですッ!」


 みつ姉の意見を聞いてなお、アリシアは否定を続けた。それも、もっと激しく。


「私は……私は天使です! 天使が人間と同じ感情を抱くなんてありえません。ましてや、人を好きなることなんて、許されないんですッ!」


 感情を剝き出しにして叫ぶアリシア。歯止めが効かなかった。その感情に呑まれるように、バンッと机を強く叩く。痛い。それでよかった。この痛みが、人を好きなった代償ならば、いっそもっと傷ついてしまえ、そう思った。


「そんなことないわ」

「ぁ」


 痛む手を、みつ姉はそっと握った。まるで、雛鳥を優しく抱きかかえるように。


「アリシアちゃんが天使だろうと、私たちが人間だからだろうと、誰かを好きなる気持ちに人種も垣根も関係ないのよ。誰かを好きになる権利は、誰もが持っているものなのよ」

「それでも……」


 頑なになるのは理由があった。

 アリシアに、もしソウタに恋する権利があっても、その資格がなかった。

 だって、アリシアは天界で罪を犯し、それを贖わぬまま生きてしまっているのだから。 

 罪科を負う者が、誰かを好きになっていいはずがないのだ。


「アリシアちゃんが何に怯えているのか、それは私にはわからない。でもね、否定する為だけに、自分の気持ちを偽っては駄目。それは、貴方を不幸にしてしまうから」

「私は……」


 みつ姉の訴えが、アリシアが張っていた虚勢を少しずつ崩していく。


「人間も、天使も、誰かを思う気持ちは一緒なのよ。アリシアちゃん」


 アリシアが自分の感情を否定するのならば、みつ姉はその感情を肯定する。


「だから、ちゃんと自分の気持ちに向き合って」

「私は、ソウタさんのことが……」


 天使にだって、恋をする権利があるなら。

 罪科者にも、誰かを好きになる資格があるなら。

 この気持ちを、否定しなくていいのなら。

 天使・アリシアは――


「私は、ソウタさんのことが――好きです」


 アリシアはようやく、己の恋心を認めた。

 認めた言葉は熱を帯びて、心臓の鼓動を上げていく。


「そう。自分の気持ちに、嘘なんかつかなくていいのよ」


 アリシアの想いを受け止めたみつ姉は、安堵の表情に満ちていた。


「ありがとう、ございます。みつ姉さんのおかげで、もやもやが晴れました」


 まだ、胸にしこりは残っている。けれど、それをみつ姉に明かすつもりはなかった。

 ここから先は、誰かに甘えず、己の手で決着をつけたいからだ。

 みつ姉はアリシアの金色の瞳をじっと見つめていた。胸裏で秘めた想いに気付いたのかとドキリとしたが、みつ姉は小さく吐息すると、


「ん。いい顔してるわ。ちゃんと、アリシアちゃんも恋する乙女って顔ね」

「それは、どんな顔している気になりますね」


 後で鏡で見たいな、そう思っていると、みつ姉が突然、吹き出した。


「ぷっ。あはは、やっぱり、アリシアちゃんはどんな顔しても可愛いわねぇ」

「なんですかそれ、それを言うなら、みつ姉さんだって美しい顔してますよ」

「当たり前よ。なんたって私は町一番の美女ですから!」

「流石みつ姉さんです」

「ぷっ」

「ふふ」


 この茶番がただただ可笑しくて、二人、我慢できなかった。


「あはは!」

「あはは!」


 まるで、姉妹のように笑い合う二人。笑い声はしばらく部屋を満たしていた。

 笑って、涙が零れるまで泣いた。


「あー笑った。こんなに笑ったの久しぶりかも」

「私は初めてですよ」


 目尻に残った雫を払って、アリシアは霧が晴れた思考で思う。


 ――もし、ソウタさんの傍に『罪』を背負ったままずっと隣にいられるなら、私はソウタさんの傍にいたい。


 天界での過去が消えたわけじゃない。腕の紋章がその証だ。

 左腕に刻まれた紋章をきゅっと握った。


「みつ姉さん。改めて、ありがとうございます。おかげで、気持ちの整理ができました」


 深く頭を下げ、感謝の気持ちを伝えた。本当に、頼れるお姉さんには頼りになりっぱなしだ。みつ姉も、ソウタと同じくらい立派な恩人だったのだ。

 ゆっくりと頭を上げると――みつ姉の顔に瞠目した。


「みつ姉さん……?」


 どうして、彼女は今にも泣きそうなくらい、切なげな顔をしているのか。


「お礼を言うのはこっち。ソウちゃんを好きになってくれてありがとう」


 その声音が、今にも泣きそうなのは、どうして。

 思考が追い付かないアリシアに、みつ姉は追い打ちをかけるように、突然、


「アリシアちゃん。お願いがあるの」

「み、みつ姉さん⁉ 急に何を……」


 机に額を擦りつけて、みつ姉が懇願した。


「これはきっと、アリシアちゃんにしかできないこと」

「―――」


 それは、それまで頼れる姉だった人が初めてみせた弱さだった。

 それに圧倒されたまま、アリシアは驚愕を顔に張り付けたままみつ姉を見続けた。


「どうか、ソウちゃんを救ってあげて」


 顔は見えなかった。

ただ、激情を抑えるように震えた声音は、今にも泣き出しそうなほどだった。


               ―― Fin ――

節約の為に暖房付けてないんですけど、冬は地獄ですね凍えます。

作者の生活はさておき、今回、ついに恋心を自覚したアリシア。『罪』を背負うことから己の感情をずっと否定してきたアリシアでしたが、みつ姉の説得によりようやく打ち明けました。そして、最後のみつ姉のワンシーン。颯太を救って欲しい。それは一体どういうことなのか。物語は急展開を迎え、そして次回からいよいよ颯太の過去が明らかになっていきます。

まだまだ見逃せない天罰のメソッド、引き続きどうぞお楽しみください。

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