第18話 『 天使の知らない感情 』
登場人物紹介~
宮地颯太 (みやじそうた) 黒髪主人公。作者眠い。
アリシア メインヒロインでモノホン天使。作者眠い
三崎朋絵 (みさきともえ) 颯太の同級生でアリシアの女友達。三章から二人めっちゃ仲良くなっ
てます。裂くyさぁぁ
優良三津奈 巨乳! 以上! (グ八ッ!!
【 sideアリシア 】
―― 2 ――
家に帰る途中、アリシアは町の違和感に気付いた。
「それにしても、最近は町が賑やかな気がしますね」
きょろきょろと周囲を見渡せば、何やら大人たちが束になって話し込んでいた。よく見れば、あちらにも同じように話し込んでいる人たちを見かけた。
それに、普段は見慣れない小さなお店がちらほらとだが立っている。
そんな町の喧噪に目を瞬かせていると、ソウタは何か納得した声を出した。
「もうそんな時期か」
「? そんな時期とは?」
「祭りがあるんだよ」
「マツリ?」
どこか聞いたことがあるような単語だったが、すぐには思い出せずアリシアは小首を傾げた。
そんなアリシアに、ソウタは「簡単に説明すると」と前置きして、
「祭りっていうのは、町全体でわいわい賑わう行事のこと」
「わいわい! つまり、とっても楽しい行事ということですね、マツリというのは!」
「そうそう。そんな感じ」
楽しい行事。ならば俄然、アリシアの高揚感は膨れ上がっていく。マツリ、それを胸中で反芻すると、その響きに胸が高鳴った。
「でも、楽しい行事、といっても、具体的に何をするんですか?」
んー、と唇に人差し指を当てて想像してみる。町全体を使って開く催しだ。どんな風なのか、まったく全体像が掴めない。
脳内であれこれと想像を膨らませていると、ソウタが「色々あるんだけどね」と説明を始めた。
「祭り中は屋台が開かれるんだよ。ほら、もう何件か準備してるのが見えるのでしょ」
「はい。あれ、ヤタイ、って言うんですね」
小さなお店の正体を知り、アリシアはこくこくと頷いた。
「そうそう。んで、その屋台だけど、これからどんどん増えてくる。射的に金魚すくい、綿あめとかタコ焼きだったり……アリシアが見た事ないものが沢山並ぶんだ。この道も、当日は屋台で埋まるんじゃないかな」
「おぉ、なんて壮大なんでしょうか⁉」
ソウタの言葉でイメージがさらに膨らみ、同時に胸に期待が高まっていく。
すっかり祭りの虜になりつつあるアリシア。だが、ソウタはまだまだと言わんばかりに続けた。
「この祭りの開催期間は三日。まぁ、屋台の数は減っていくけど、でも、日程ごとで目玉の行事が変わるんだ」
「ほほぉ!」
ぴょんぴょんとアリシアは前髪を揺らした。
「一日目は、神輿担ぎ。めちゃくちゃに重い神輿を、坂の先にある組白神社まで運ぶんだ。俺もみつ姉も毎年やってたんだけど……地獄だった」
「じ、ジゴク……」
死んだ顔で笑うソウタを見て、アリシアは生唾を呑み込んだ。
「そ、それで二日目は何をするんですか?」
「あぁ、そうだね、二日目ね――次の日は、海で花火を上げるんだよ」
「ハナビ……夜空に咲く花のことですよね」
「随分とロマンチックな表現だけど、大体合ってるかな」
夕飯を待っている間に見ているニュース。そこでハナビについて取り上げられていた。実際に見てこそないものの、画面越しからでもその美しさは伝わった。そのハナビを、まさか実際に見られるとは思ってもいなかった。
「一日目におミコシ。二日目にハナビ。これだけも凄く豪勢なのに、まだ一日も残ってるんですね」
もう満腹感があるが、アリシアは気になって仕方なくソウタに先を促した。
「三日目にやるのは、この町で最も重要な行事――ウミワタリをやるんだ」
最後の行事を言葉にした時、ソウタの顔が神妙になる。
「それが三日間行われるこの祭りの名前――【ウミワタリ】だ」
「…………」
ウミワタリ、どこかで聞いたようなことがある気がしたが、すぐには思い出せなかった。
胸にもやもやを抱えながらも、アリシアはそのウミワタリとやらが何のかをソウタに訊ねた。
「それは一体、どんなことをするんですか?」
「そうだなぁ。一言でいえば、海に飛び込むんだ」
「え、飛び込む?」
ソウタの言葉を脳内で想像してみる。
「ばっしゃーん! て感じでしょうか」
ソウタはあははと笑った。
「合ってる、合ってる。毎年、決められた一人が船から飛び込むんだ」
それから、ソウタは説明してくれた。
どうやら、ウミワタリとはこの潮風町から三百年続く伝統行事らしい。
海の一年の安全を願う気願成就として、毎年一人、16歳を迎えた男子が巫姿で海に飛び込むそうだ。
「聞くところによれば、今年は陸人がその役目らしい」
「ほえぇ。リクトさんがですか」
身近な人物がその大役を担うことを知り、アリシアは思わず感嘆してしまった。
ならば、是非ともその雄姿を一目見たい。そう思うと、脳裏に何かが過った。
「ウミワタリ……あ」
もう一度、祭りの名前を声に出すと、アリシアはようやく胸の突っかかりが取れた。
「ソウタさん。そのウミワタリってもしかして、『ウミワタリの伝説』ですか?」
「そうだよ。アリシアがこの前読んでた絵本、というより伝承に近いかな、あれは」
絵本のタイトルを口にすると、ソウタはそれに小さな頷きで肯定した。
陽炎の揺れる車道に視線を落としながら、アリシアはその絵本の内容の感想を呟く。
「三百年前にこの町で起きた実話らしいですが……悲しいお話でしたよね」
これまで沢山の絵本を読んできたアリシア。その中で最も印象的だった絵本が、この『ウミワタリの伝説』だった。
『ウミワタリの伝説』それは三百年前に、この潮風町で起きた実話をもとに創られた物語だそうだ。
ソウタ曰く、この町に住む子どもなら誰しも一度は読み聞かせられる絵本……というより伝承らしい。
その物語の内容は、読めば読むほど話に引き込まれ、そして、結末を知れば胸が締め付けられる。ハッピーエンドが多い絵本らしからぬ、結末はバッドエンドに近かった。
「女の子を助ける為に漁師さんは海に飛び込んで、でも、二人とも助からなかったんですよね」
「……そして、海はその日を境に翡翠色の光を放つようになった」
アリシアの感想に付け加えるように、ソウタが声の調子を落として言った。
ソウタが述べた最後の一文。アリシアは何度聞いても、気掛かりだった。
「ソウタさん。ずっと気になっているのですが、あの絵本の最期の一節、二人が海に消えた日になると光を放つとは本当なんですか?」
「あぁ。そのことね」
アリシアの疑問に、ソウタは肯定だと頷いた。
「俺も毎年見るけど、不思議だよ。本当に海が光るんだ。なんの前触れもなく、突然」
「へぇ」とアリシアは感嘆するように息を吐く。
そのまま、ソウタは饒舌に語り出した。
「一部の専門家の意見だと、色んな条件が重なって起こる現象なんじゃないか、って言われてるんだよ。海のプランクトンの活性化、月明かりと海の乱反射による偶然起こる現象。……でもさ、それだと、毎年同じ日に光るなんてありえないはずなんだよな」
真剣な顔で思案するソウタだが、アリシアにはその内容が全く理解できなかった。
そして、夢中になっているソウタの前にひょいっと覗き込んで聞いた。
「ソウタさんは、ウミワタリの伝説を信じてますか?」
「いや、これぽっちも信じてない」
意外な返答がきて、アリシアは眉根を寄せた。
「えぇ? 今、偶然じゃないって言いませんでしたっけ?」
困惑するアリシアに、ソウタは「そう言う訳じゃなくて」と手をぱたぱたと振った。
「俺が信じてないのは伝承の方ね。海が光るのは毎年呆れるくらい見てるから、そっちは信じてるよ」
伝承。つまり三百年前から伝えられた話の方だ。
「どうしてですか?」
「聞きたい?」
「気になります!」
アリシアはソウタの意見が気になって、その先を促した。すると、ソウタの声音が一段階上がった気がした。思わず、にやけてしまう。
「だってさ、人を呑み込んだ海が、現代になっても特定の日になると光り続けるって普通におかしいじゃん。そんなもん、オカルトの類だよ。だから、昔の人が、海が光る日のことを特別にしようとか思って大袈裟に話を盛ったんじゃないかなと思ってる」
オカルト、という単語の意味は分からなかったが、とにかくソウタが否定的なのは伝わった。
「なら、どうして海は毎年決まった日に光るのでしょうか?」
「俺的には、専門家の意見が正しいと思うんだよなぁ。雨の時でも光るのを見れば気象条件は関係ないんだろうけど、でも、プランクトンとか、海の乱反射はわりと近い線行ってる気がするんだよな」
「…………」
「あ、ごめん。つい夢中になってしまって」
「いえいえ。お気になさらず。ソウタさんのこんな姿見れるのが珍しくて、もっと見ていたいくらいですから」
「うっ……」
専門的な知識は理解できないけれど、釣りの時みたく何かに耽っているソウタを見るのは好きだった。表情の変化に乏しいソウタだけれど、こうして活き活きしてるのは珍しい。だから、何時まで眺めていても飽きない。
「……調子狂うなぁ」
と、アリシアに見つめられていたソウタはあからさまに顔を逸らした。それから何度か咳払いした後、ぎこちなさそうに話をまとめた。
「とにかく、俺は海が光るのは伝承じゃなくて、ちゃんとした自然現象だと思ってる。機会があれば追及してみたい気がするけど……それはこの町の人たちが望んでることじゃないからね。毎年この現象を一目見ようと他方から取材局が来るけど、この町の人たちはいい気はしてないんだよ。――この伝承を信じてるから」
「難しいですね」
「うん。すげぇ難しい」
好奇心を押し留めるソウタを見て、アリシアはその姿勢を尊敬した。自分はよく好奇心に負けてしまうからこそ、ソウタの欲求に対する自制心は見習わなければと不覚にも反省してしまう。
「まぁ、ここの海はこの先もずっと光るだろうし、チャンスがあれば一回くらい調べてもいいかもしれないね」
「そうですか。その時は是非、私も一緒にお手伝いしたいですね」
「…………」
「? どうかされました、ソウタさん」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔のソウタに、アリシアははてと小首を傾げた。
何か変なことでも言っただろうか、そう考えていると、ソウタは小さく笑って言った。
「そうだね。もし、その時がくれば、一緒に調べようか」
「はい。ご一緒に」
ソウタの笑みに釣られて、アリシアも微笑。
そしてアリシアは「ところで」と話を戻すと、
「そのウミワタリ、今年もソウタさんは観に行くんですよね?」
「そりゃあね。毎年見てるから」
ソウタはしれっと答えた。
「? 急にどうしたのさ、もぞもぞして」
「いえ、その、ですね……」
本題に触れようした途端、胸の鼓動が五月蠅くなった。
深呼吸を数度繰り返して、アリシアは意を決して問いかけた。
「よろしければ、そのウミワタリを観るの、ご一緒したいなと、そう思いまして……」
「なんだそんなことか」
呆れたように吐息するソウタに、アリシアは肩をビクッと震わせた。
やはり、ソウタはウミワタリを一人で観に行きたい――
「一緒に行くのは当たり前だろ。というか、俺は最初から今年はアリシアと一緒にいくもんだと思ってたんだけど」
「――ッ」
平然とした顔で答えるソウタ。彼がくれた返答に、アリシアの顔はたちまち熱くなってしまった。
「そ、そうですよね! 一緒に行きますよね! ヤタイも! おミコシも! ハナビも!」
「お、おう。一緒に……もしかして、別の人と行きたかった? みつ姉とか誘った方が良かった?」
「いえ! ソウタさんと一緒がいいです!」
「真顔でそんなこと言われたら調子狂うな」
みつ姉やトモエと一緒に祭りを楽しむのも素敵な提案だが、どうしてか、この祭りだけは、アリシアはソウタと一緒にいたい気持ちが強かった。
「ソウタさんと一緒に、おマツリを楽しめる……やった」
嬉しさが込み上がって、小さくガッツポーズ。
「おーい、アリシア? 何か言った?」
「なんでもありません!」
「そう……なんでもないならいいけど」
「はい。いいえ。はい」
「なんかバグったロボットみたいになってるけどホントに大丈夫なんだよね⁉ 心配になるんだけど⁉」
「本当に大丈夫ですから! 何の問題もありません! 私は元気です! さぁ、早くお家に帰りましょう!」
「っと、待ってよー、アリシア」
ぎこない態度でその場をどうにか乗り切り、アリシアはソウタに顔を見られたくない一心で速足で歩いていく。
ソウタの声が少しだけ遠くから聞こえる中、アリシアは自分の胸中に湧き上がる感情に戸惑っていた。
「もう、もうっ……トモエさんがあんなこと言うからですよ!」
あの時、トモエから言われた一言が、どうしても頭が離れなかった。
『ソウタのこと、一人の異性として、好き?』
学校探検に赴く寸前だった間際に投げかけられた、たった一言。それは、こうしてアリシアの胸中にずっと残り続けていた。
それ以来、否応なく考えてしまう。ソウタに向けるこの、温もりある感情が何なのか。
天使は未だ、自覚していなかった。胸の中に芽生えた感情の正体を。
感情の正体を掴めぬまま、天使は悶々とした時間を送る――。
―― Fin ――
え~。このコメントは前回からの続きです。つまり、作者の眠気ゲージマックスです。
あはは! なんかテンション上がって来た! 文字だからか? 眠いからか?
もう無理!!!!!!!!
よし、今日はあと一話編集して寝よう!
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