第173話 『 天使のお悩み事 』
【 sideアリシア 】
―― 3 ――
「はぁぁ。ソウタさん。そういう大事なことは私にちゃんと教えてくれないと」
憤慨していると、みつ姉が申し訳なさそうな顔をして言った。
「毎年祝ってはいるんだけどね。でも、去年はソウちゃんのお爺さんが倒れちゃって、結局祝えなかったの。それで、今年はすっかり自分の誕生日を忘れちゃってるみたい。あの子、自分のことになるとびっくりするほど無関心になるから」
「本当にそうなんですよね。ソウタさん。いつも私のことは過剰なくらい思ってくれるのに、自分の事となると他の人よりもどうでもよくなるんですから」
「共感してくれる子がいてくれて嬉しいわ。そうなのよ。ソウちゃん、身近な人たちを大切にし過ぎて自分のことを放っておくの。何度も自分を一番に大切にしないさいって言ってるのに「してるから」って適当に返すのよ」
「分かります。この前もそうでした。セイラさんの手助けになりたいって、自分の時間を削ってまでどうにかしようと夜遅くまで考え込んでたんですよ。本当に、周りだけじゃなく、もっと自分を大切にするべきだと思います」
「でもそんなソウちゃんだから……」
「好きになってしまったんですよねぇ……って何言わせるんですかっ」
誘導されたことに答えてから気づき、アリシアは顔を赤くする。「ご馳走様」と微笑むみつ姉に、アリシアは不服を表明するように頬を膨らませるも無視された。
それからみつ姉は追い打ちをかけるようにコーヒを口に運びながら、片目でアリシアを捉えると、
「アーちゃんも、過剰に思われてる自覚はあるのね」
その指摘にアリシアはうぐっ、と呻くと、
「そ、そりゃ。あれだけいつも甘えさせてもらえば……否応なく愛されているということは伝わりますから」
「あらあらぁ。何それ詳しく教えて頂戴!」
「もう! 私の事は今はいいんです!」
癇癪を起して叫べば、みつ姉は他意を含んだ笑みを向けた。
そういう所もそっくりね、とみつ姉が小声で言ったが、その言葉は羞恥で顔を手で覆うアリシアの耳には入らなかった。
「――話を戻しましょう」
これでは話が一向に進まないと悟ったアリシアは、無理やり話題を修正した。
「ソウタさんのお誕生日についてですが、本当に12月25日で?」
「ええ。そうよ。クリスマスベイビーなのよソウちゃん」
素敵な子でしょ、とみつ姉は微笑むが、アリシアの内心は穏やかではない。
ソウタの誕生日がクリスマスとなると、その日はまでもう6日とないのだ。つまり、準備する時間が足りない。
「もっと早く知れてれば盛大にお祝いできたのに……いや、そもそも誕生日のお話をした時に私が聞かなかったのが悪いか」
自分の落ち度に肩を落として、アリシアは可愛い顔に皺を作る。
「みつ姉さんは毎年、ソウタさんのお誕生日はどうされてたんですか?」
とりあえずソウタと一番身近な人に意見を求めれば、みつ姉は「別に」と言った。
「私は特別なことはしてないわよ。ほぼ毎年、ソウちゃんのお爺さんにお呼ばれされて、祝って誕生日プレゼントを渡してご馳走食べて過ごしてたわ」
家族が少ないというより身よりが祖父・勝也だけだった為、みつ姉や晴彦を家に招待して小規模の宴会を開いていたそうだ。
「ソウちゃんはもう少し大人しくていいって、ずっと不満そうだったけどね」
「静かな所が好きですからね、ソウタさん」
ソウタは、水族館しかり、海然り。壮大でありながら、海中のように限られた音のみが存在する世界を好む。だから、宴会が苦手、というのは彼らしくて笑みが零れてしまった。
「……みつ姉さんは、今年もソウタさんのお誕生日は来てくれる予定なんですよね?」
「うん。でも……」
そこで一度言葉を止めると、みつ姉は顎に手を置いて微笑みを向けた。
「今年は、ソウちゃんには初めての恋人がいるし、二人きりで過ごすのもありなんじゃないかなー、と思ってるのよ」
「――あ、あはは」
送られた慈愛深い笑みに、アリシアは気恥ずかしさでぽりぽりと頬を掻く。
「アーちゃんはどうしたいの? 私は、貴方がソウちゃんと過ごしたい、っていうなら、喜んで協力してあげるけど」
「……う~ん」
「あら、意外とすぐ頷かないのね」
答えを引き延ばすアリシアに、みつ姉は意外だと目を丸くする。
「私としては、クリスマスはトモエさんたちを呼んでパーティーをしたかったんですよね。それを丁度、今日ソウタさんが学校で聞いてきてくれるそうで」
「そうだったの。まあ、私も今日来た理由の殆どは誕生日どうするかを聞く為だったからね」
意図せず二人は週末の予定を聞こうとしていたことが判明。ただ、その内容が対照的な為、余計に頭を悩ませた。
みつ姉に「ちょっと待って下さい」と言いながらコタツから出ると、アリシアはリビングに貼られたソウタの今月の予定表を取って再びコタツに戻った。
「24日は、冬季合同練習があるので1日ダメ。25日は一日オフなので、そこで皆さんをお呼びしようとソウタさんと話しあっていたんですが……日付を見てなぜ忘れる?」
「あの子だからよ」
と答えになっていない解答を受けて、アリシアは予定表を睨めっこしながらため息を溢す。
辟易とするアリシアに、みつ姉はカップを片手に嘆息すると、
「ま、そんなに根詰めなくていいんじゃないかしら。まだ誕生日まで日はあるんだし、それにあの子なら、アーちゃんと居られるならなんでもいい、って言うわよ」
「それじゃあお誕生日会になりませんよぉ」
ソウタならそう言うのはアリシアでも分かるが、クリスマスと誕生日が奇跡のように重なっているのだ。ならば、そんな特別な日は自分の最大限を尽くして祝ってあげたい。
「うがぁぁぁ。ソウタさぁぁん」
「アーちゃんが壊れたわ」
コタツに顔を擦りつけるアリシアをみつ姉は苦笑しながら見ていた。
クリスマス。誕生日。パーティー。お祝い――考えることが多すぎて、天使の頭は爆発寸前だった。
そんな悩める天使に、頼りになる姉というと、
「ま、可愛い妹の為なら協力は惜しまないわよ。せいぜい考えなさい」
と協力する姿勢はみせつつも余計な手出しはせず見守るのだった。




