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話し合いは長く深く幅広く増えていく

「ウェラテヌスの当主としては、離婚は認められない。


 大きな理由はアレッシア人であれ、集団で見れば愚かだからだ。簡単な結論を信じたがるからだ。


 そう考えれば、此処で離婚すればウェラテヌスの名に傷がつく。恩知らずと言われるかもしれない。そうなった時に、カリヨが望む未来も永久に訪れなくなる。それでも良いのか? 恩知らずの一門に、心から協力する者などいないぞ?


 だが、兄としては、どうしても無理だと言うのなら、夫婦関係の継続が苦痛だと言うのならいくらでも協力しよう。離婚した後で、ヴィンドとくっつこうが誰とくっつこうが、私はカリヨを応援する。これでも、一応カリヨの幸せを願っているんだ。


 相反するようだが、ジュラメントの上官としては、彼もまた優秀であることには違いないと言わせてもらうよ。イフェメラ、カウヴァッロ、ルカッチャーノ、ヴィンド。確かに、近い年代に優秀な者が固まってはいるが、確実にトリアンフ様やバッタリーセ様を越えられる存在だ」



 メルアの兄にしてタイリーの長男、トリアンフ。

 そして、タイリーの長女プレシーモの夫であったバッタリーセ。

 その二人は、法務官を経験している。バッタリーセに至っては執政官、アレッシアのトップになってもいるのだ。


 それを超えると言うのは、ジュラメントも運が向けば執政官になれるかも知れないと言う話である。


「無理でしょ」


 またしても、カリヨはすぐさま否定した。


「ルカッチャーノは帰還が叶わないと理解したらすぐにゆるゆると退いて、グラウの部隊をつり出してトュレムレに近づいて行ったじゃん。結局はそこの八千に足止めを引き継ぐ形でグラウが本隊に合流しちゃったけど、ジュラメントだったらそこまでうまく戦えてないでしょ」


 確かに、結局四千の兵を負傷者こそ出したものの温存しきって見せたルカッチャーノの腕は見事である。誰でもできることでは無い。


 そもそも、最初の攻囲に関してはグラウと三千の騎兵が西方にでも配置されていたらアレッシアは解囲に失敗した可能性だって高まるのだ。言われたことをできなかったなどと責め立てる輩もいるが、エスピラとしては功績の方が大きいと思っている。


「どうしても無理か?」


 夫婦関係が既に破綻していても仕方なし、と思いながらエスピラは続けた。



「勝手にビュザノンテンを立ち上げ、改造した件を詰められれば弱いが、だからと言ってウェラテヌスの根幹を揺るがすような事態にはならない。本当はもう少し慎重に事を運びたかったが、無理なら無理ですぐに離婚できるようにするよ。


 ジュラメントを傍に置いておく利点は、カリヨたちの言う通り、私が派閥の長になるようなことになった時に訪れるはずだ。批判的な人物と言うだけではなく、実際に私を批判した人物がいた方が余計な批判を避けられるとは思わないかい? かじ取りも間違わないで済むとは想像が容易にだろう? ジュラメントがディラドグマで私に苦言を呈しているのは知っているよな?」 



 いや、夫婦関係に関しては破綻していないはずが無いか、とも思いなおす。


 アグネテの問題は、関知しないと言う建前があったとはいえ、カリヨに確認を取っているかの確認をジュラメントに取らなかったのはエスピラだ。


 ディラドグマの件も、ドーリス王アイレスに言わせれば生温い行い。メガロバシラスの元将軍で現在はマシディリの家庭教師の一人でもあるアリオバルザネスに言わせれば当然の所業。


 カリヨからすれば、エスピラの行動を否定したジュラメントこそが異端かもしれない。


「分かった。続ける」


 カリヨが淡々と言った。

 エスピラは、安堵よりも心配が先立つ表情をついカリヨに向けてしまう。



「どっちも続けるから。夫婦関係も、ヴィンドとも。先に娼館に行って遊んだのは義父様。お兄ちゃんを殺そうとした女を寝床に呼んだのは夫。しかも、お兄ちゃんが普通の貴族だったら我が子に対するような環境を準備したディミテラも殺そうとした母親を寝床に呼んでいる。


 なら、私が文句を言われる筋合いは無いでしょ?


 ヴィンドは家格も良く、妻もいない。歳も若くて将来有望。ディファ・マルティーマの婦人の誰もがジュラメントよりヴィンドを選ぶんだよ。まあ、彼女たちはそこからお兄ちゃんにちょっかいをかけるのも正当化したいって気持ちがあるんだろうけどさ」



 最後に聞き捨てならないことが付け加えられていて。


 エスピラは、カリヨをしっかりと見据えた。


「それ、カリヨに対処を任せても良いか?」


「無理じゃない? 凱旋式を挙げた軍事命令権保有者で愛人の数が二人以下の人を探す方が難しいんだよ。タイリー様で感覚がおかしくなっているのかもしれないけどさ、お兄ちゃんほどの功績があれば愛人が居るのが当たり前。子供が七人もいて、まだ奥さんと子供を作る方が頭おかしいよ」


「おかしくて悪かったな」

「え? 本当にまだ作ろうとしてるの?」


 カリヨが本気で目を丸くした。

 お腹に気を遣いつつも体を乗り出してくる。


「大丈夫? メルアさんの負担大きすぎない? いくらメルアさんがバケモノみたいに若い時と肌も体型も変わっていないとはいえ、違ってくるよ」


 エスピラはカリヨに落ち着くように言い、ついでにまだ若いと言い、もう一度カリヨを背もたれにある椅子に座らせた。


「本当に心配しているのなら、カリヨからも避妊するようにそれとなく伝えてくれ。流石に、機嫌が悪くなった後が大変すぎる。歳をとったなと実感させられるよ」


「ああ。聞きたくなかったわ」


 カリヨが心底嫌な顔をした。


 エスピラも「私もまだ若い」と言い、「聞きたくなかったのはそこじゃないよ」と返されてしまった。その後は、ゆっくりと雑談とカリヨ妊娠中における引継ぎを話す。と言ってもティバリウスのことが多いので、基本はそちらで。重要なところを、たまにエスピラが貰うか完全にウェラテヌスの影響下に入れてしまう。


 運が良いことに、ロンドヴィーゴの失態がこれに役立った。


 運が悪いことは、アグネテの死に場所をディミテラに暴露する準備を整えられてしまったこと。カリヨは、ウェラテヌスに権限が行くからとして奴隷に伝えたらしい。いざとなれば解雇もちらつかせて話させる、と。そして、ウェラテヌスの名誉のためにエスピラはカリヨを止めざるを得ないとまで知って。


 やることが増えたと思いながら、エスピラは次にジュラメントを呼んだ。二人きりで、話をして。


 能力的にはヴィンドの方を高くかっていること。でもジュラメントも大事であること。ディラドグマの件など、しっかりと自分に意見できるところもかっていること。失敗も経験していること。経験しているからこそ信頼もできると言うこと。


 そして、ジュラメントが望むのなら離婚もウェラテヌスとしては応じることが出来ると言うこと。


 エスピラはジュラメントへの信頼を示しつつ、時に上官として、時にティバリウスと婚姻関係にある一門の当主として、時に義兄として、話し合った。


 その過程でロンドヴィーゴよりもジュラメントの方が能力を高く見ていることも伝えた。周囲の視線もロンドヴィーゴに猜疑の目が多く向けられている話も、事実、誰が噂していたのかも。


 それから、ティバリウスの実権をエスピラとジュラメントでどう分け合うかも丸め込んだ。


 ディファ・マルティーマに関することのほとんどはエスピラと元老院、今年で言えばトリンクイタに。

 ティバリウスの家系のことはジュラメントに。


 特に、元老院を絡めればお金がいくらあっても足りない戦時中に財を横領したロンドヴィーゴは印象が悪すぎたのだ。


 話し合いは円滑に終わり、日をまたいで三日も続いた会談は終了した。

 もちろん、丸三日の話し合いでは無い。一回あたりは一時間から二時間。それを、一日二回以上。


(本当に時間がかかった)


 幸いなことは今は防御陣地の改造に軍団を当たらせているため、エスピラが直接指揮を執ることは少なかったこと。人に任せておけば良かったこと。


 さらに、トュレムレに補給物資を届ける作戦もヴィンド主導で行っているため、エリポスの時よりも余裕があったことも妹夫婦に時間をかけることを可能にしたのだ。


 話し合いが終わった後も実際の移行には根回しが必要になる。


 直接会ったり、晩餐会を催したり。同時に、晩餐会にディファ・マルティーマの者を呼ぶと言うことは兵団も同じ以上に労わないといけない。


 時間が足りないと思いつつも、エスピラはそのための資金の捻出としてエリポス諸国家に手紙を出し、さらに時間を削っていったのだった。


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