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新たな政争の幕あけ

「戻ってくるとは信じておりましたが」


 本当に信じていたのか、それとも本当は信じていなかったのか良く分からない笑顔で道中に現れたのはトリンクイタ・ディアクロス。エスピラの妻の姉の夫、義兄と言う立場である。


「マシディリ君から。なるべく早く父上に渡してくれって」

「マシディリから?」


 エスピラは喜色の浮かんだ表情で受け取り、手紙を開く。


 トリンクイタはヴィンドなどにも手紙を配っているあたり、奴隷が行うような雑務を押し付けられたらしい。あるいは、自ら買って出たのか。


 観察をやめて、エスピラはマシディリからの手紙に目を落とした。


「お久しぶりです、父上」

 から始まる一文に、私も長く感じたよ、とエスピラは頬を溶かし、目を進めた。


 ただ、書かれていた内容は頬を引き締めるもの。

 ヴィンド・ニベヌレスが指摘したことに近い内容で、エスピラの撤退を促すものだった。


 ただし、エスピラがグライオを高く評価していることは知っているが、それはあくまでも他の者と同列の高い評価、と言う扱いにはなっている。便利屋として、高い水準で能力がまとまっている者としての扱いやすさが評価になっていたのだ。


 もちろん、ヴィンドよりも鋭い部分もある。


 それは、アリオバルザネスに聞いたと言うマールバラのエスピラ評に依るモノ。

 アレッシア人の枠にはまらない作戦を躊躇なく採れる。人当たりも良く、貴婦人に人気がありアレッシア人の中ではもっとも搦手に長けている。一方で家族への偏愛は常軌を逸しており、付け込む隙だらけ。実績にも乏しく、単体では集団を纏めることはできない。後ろ盾を無くせば弱い。何より、マールバラ・グラムが最も憎んでいるアレッシア人である。


 とのことだ。


 アリオバルザネス将軍が補足するところ、情報を封鎖することにも長けており、実績はエリポスで十分すぎるほど上げている。演説もアレッシア人を掴むモノであり、むしろ単体で集団を纏めることに長けている、と。そう、修正されたらしいが。


(自分が義兄を殺されたから、か)


 殺したのは奴隷だ、とエスピラは言い続けるが。

 なるほど。それなら、確かにセルクラウスの者を殺し続けた自分が出てくれば、と思うのも納得がいく。


「さて」

 とこぼして、エスピラは全ての職務を脇にやってマシディリへの手紙を書き始めた。


 ソルプレーサとシニストラは、これまでだったら注意をしたのだろうが今回はしてこなかったのを良いことに、エスピラは他の皆にも手紙を書き始める。


 流石に、途中でソルプレーサに止められることにはなったが、エスピラは何とか書き切るとディファ・マルティーマに送った。


 そして、そこまでして送ったにも関わらず、帰るなりすぐに自分を心配してくれたマシディリを抱きかかえたのである。


「おやめください」

 とやや本気っぽくも思える声に、すぐにやめたが代わりにリングアとチアーラがやってきたのでエスピラは子供たちと遊ぶのに大忙しになった。


 子供たちの底なしの体力にエスピラの体力はどんどん持っていかれるも、元気は分け与えてもらって。


 そんな楽しい日々は、メガロバシラスからの戦利品を本国に届ける任で一時中断してしまった。


 陸路を使う危険性の方が高いため、水路で。輸送船三艘が浮かばないほどの財を輸送船六艘に分け、四十五隻の船団で護衛をしながら半島南端、カルド島の占領領域、奪還したばかりのアグリコーラ近くの港、と通ってアレッシアへ。


 道中、連れて来たクイリッタとユリアンナに気を配りつつ、マシディリの心配していた二人の大きな喧嘩は起きなかった。


 もちろん、どっちの食事の方が多いだとか、船の端は危ない危なくないと言う論争とかはあったが、基本は平和そのもの。物を投げたり取っ組み合ったりは自制してくれたのだ。


 アレッシアに一番近い港につけば、既に一番目の月を迎えていた。


 この年、エスピラは前法務官として引き続き定員に満たない二個軍団を率いてディファ・マルティーマを拠点にすることが決まっている。報告のためにアレッシアに来ている今は、副官のアルモニアを中心に内政をロンドヴィーゴとトリンクイタで。軍事をカリトンとイフェメラで。交渉事はルカッチャーノ、ヴィンド。ビュザノンテンをピエトロ、マルハイマナをフィルムでと決めてきていた。


「エスピラ様。一大事です」


 だから、リャトリーチがすぐに言ってきた時、エスピラは少しの余裕があった。どうにでもできると言う信頼があったのである。


「マルテレス・オピーマ様が訴えられました」


 だが、その一言で余裕は崩れる。


「何の、罪で?」

「軍事命令権を保有していない者に軍団を指揮させたことや略奪の仕方など、多岐にわたります」


 そして、木の皮が差し出される。

 書かれていたのは罪の告発。どれも些細なモノ。

 軍団を運営していれば発生することもある、ある種認められてもいたこと。


「国を割る愚か者め」


 怨嗟の声を出すと、エスピラはすぐに馬を用意させたのだった。


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