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ディラドグマ攻囲戦

 巨大な破城槌がゆっくりと動き出す。

 屋根についている獣の皮は火の通りを弱くし、壊れにくくなっているのだ。


 そして、接壁。


 エスピラのところからでも揺れているようにすら見える攻撃は、二度、三度と石や槍の雨を無視して繰り返され、ディラドグマの壁を壊していく。


 だが、ディラドグマも時折門を開けて兵を繰り出してはアレッシア軍を引かせ、その隙に砂を壁に埋めて補修と衝撃吸収という補強を繰り返していた。


 しかし、これは停滞ではない。


 その間に歩兵第二列が試作品である投石機の設置を始めているのだ。

 瞬く間に組み上げて、どれをどこに置くかを決めて。


 そうして六台の投石機が完成すると、歩兵第一列を引かせて投石を始めさせた。


 壁を飛び越えてしまったり、狙いがつかなかったり。

 それでも、壊れることは無く、とりあえずは発射できた。距離も十分。


 エスピラはその様子を観察すると、戦場でも技術者に確認をさせた。修正案を出させた。その時間を稼ぐように第一列が再度攻撃を開始する。


 ディラドグマはよく耐えただろう。

 少ない兵で、兵糧も武器も揃っていない中で。援軍も無く。


 だが、日を重ねるごとにディラドグマ側の抵抗が弱くなってきた。壁に閉じこもり、上には居るが攻撃は最低限。おかげでグライオと同じく抑えにしておきたかったジュラメントまでもが果敢に攻め立て、所によっては赤のオーラが直接壁に当たり、崩壊も大きく進んでいる。


「あと少しで突入になりますでしょうか」


 ルカッチャーノが言う。


「何かはあるだろうがな」


 エスピラは一応濾してある泥水を口に含んだ。


 美味しくはない。でも、喉の渇きは癒える。病などに関しては緑のオーラがあるため問題ない。


「何か、と言いますと?」

「反撃のための何か、だ。流石に講和の使者が一回も来ないのはおかしいと思わないか?」


「企みがあると?」

「グライオが距離を取ったのも、それを感じ取っているからだろう」


 返した後、エスピラは地図に目を落とした。


 メガロバシラスの動きはまだ聞こえてこない。他の国も幾つかは軍事的準備を進めているのは把握しているが、外に出てくるのなら連合する可能性の高い国ばかりだ。一つ一つはディラドグマほども兵がいないのだから。


 それに、そう言った国家に対しては事前に商人に情報をリークして値段も吊り上げさせている。多少釣りあげても売れるのだ。エスピラを中心にある程度の商人達に同じような並びで繋がれたのならば値上げにも賛成してくれる。逆に値下げした者達はアレッシア軍という大金を落としていく集団と取引できなくなる、しなくなると言う寸法だ。


「軍団を温存して、援軍と共に内外から、というのが現実的か」


 言いながら、エスピラは地図上の指を東、エステリアンデロスまで動かした。


 マルハイマナとの地峡の横に位置し、三方を海に囲まれる監視としての絶好の立地にある都市。それがエステリアンデロス。軍を集めている此処が、仮にマルハイマナの軍団を引き込めばどうなるか。


「マルハイマナは講和しているのでは?」


 エスピラの指を見ていたシニストラが言う。


「しているからこそ、動く時はこちらの止めを刺すときだけだろうな」


 ディティキに居ない以上、海軍は無いと踏んでいるのだろうが。

 ただし、軍事力を持て余し気味なのはマフソレイオも同じこと。マルハイマナが動く時はしっかりとメガロバシラスと組めた時であり、短期決戦の算段がある時のみ。


(のみでは無いな)


 相手の考えを完全に読めるわけではないのだから。


 エスピラは目を地図の北、曖昧になっている場所に向けた。


 北方の友人ことトーハ族は未だに動きは無い。ディラドグマを落とす成果を挙げないと何もしてこないかも知れないのである。


(騎馬民族を敵にすると厄介だからなあ)


 マールバラの率いているフラシ騎兵やプラントゥム騎兵にアレッシアは散々にしてやられているのだ。できることなら、他の騎兵であっても相手にはしたくない。


 と、不意に。


 エスピラの耳が騒がしくなった音を捉えた。


 顔を上げ、何も告げずに隊列を整えて待機している兵の間を通って前に出る。


「前線で何かあったようです」

 とは百人隊長のステッラ・フィッサウス。


「動いたか」


 言いながら、エスピラとステッラは壁の上に目をやる。


 石や木材が途中まで投げ込まれていたが、どんどん様子を窺うように頻度が下がって行っている。

 下は、アレッシア軍の整列が乱れたようだ。声も騒然としている。


「敵兵が出て来たな」

「門は閉じています」


 エスピラの声にステッラが返す。


 その間にも、見慣れない鎧の列が視界に入って来た。


「歩兵第一列を引かせろ。第二列は東西の門を見張ったまま救援に来るな。両翼騎兵は大回りして背後の門を閉ざせ。各隊、壁には決して近づくな。スコルピオを全台用意しろ。それと、ネーレ様の軽装歩兵四百は此処に残せ」


 指示を出せば、その通りのオーラが打ちあがる。

 中継地点の者が同じように上げて、どんどん伝播していく。


 シニストラとルカッチャーノが出てきたところで、エスピラはもう一段声を張り上げた。


「歩兵第三列前進!」


 乱れた戦場に規則正しい音が鳴る。

 統一された軍靴と鎧の音が乱れず鳴り響く。


 歩兵第三列。それは最精鋭。経験豊富な、精神力と殺人技術が磨き込まれた兵。


 これはエスピラの率いている若い軍団でも変わらない。熟練の兵が多く配置されたわけではないが、最精鋭。


 エスピラが庇護者となった元タイリー・セルクラウスの被庇護者たちを多く配置するために一小隊当たりの数を減らした軍。指示がすぐに行き渡り、頼りになる百人隊長経験者たちが見える軍。頼れる軍団。


 いわば、エスピラの繰り出せる最強の戦闘集団が前に出たのである。


 エテ・スリア・ピラティリスではエスピラと共に輸送任務に当たっていた。

 メガロバシラスとの戦いはにらみ合い。

 ディティキは奇襲、アントンは海戦。オリュンドロス島は海軍で。


 つまるところ、初投入。

 しかしながら不安は一切ない。撤退してくる第一列の皆も安心させる威風堂々とした行軍。


(そこまで多くは無いな)


 前方の敵軍は。

 されど、勢いはある。


「スコルピオ用意」


 言って、エスピラはシニストラに白いオーラを打ち上げてもらった。

 歩兵第三列は盾を構え、槍の石突を地面に突き刺し、鉄壁の構えで以って逃げてくる兵を収容し続けている。逃げてきた兵は邪魔にならないようにそのまま隊列の間を駆け抜けていった。


 その間にも九台三か所でスコルピオの設置が終わる。


「前進」


 声と共にもう一度白いオーラ。

 遠くから「前進」という声が聞こえた。


 そして、スコルピオの照準が敵部隊に当たる。


 逃げるアレッシア兵はその恐ろしさを知っている。

 ディラドグマ兵は知らない。


 その差が、射線を生み出した。


「放て!」


 エスピラの指示の直後、ではなく、射線が開いたタイミングで矢が放たれた。

 ディラドグマ兵三人がのけぞる。もう三人が足を止める。

 盾も鎧も貫通した一撃は、最初の者を地に伏せさせ、二人目に深い傷を負わせた。


 それでもディラドグマの攻撃は止まらない。


「第二射。放て」


 一射目を打っている間に準備のされていた二撃目がまたもやディラドグマの兵を貫通した。

 狙われた箇所の足が流石に緩む。


 スコルピオは即死兵器ではない。

 貫通する以上、当たり所が悪ければ即死だが、貫通してしまうため酷い痛みにしばらく苦しめられることも死にきれないこともある。


 即死ならばまだマシだっただろう。

 ディラドグマの兵は恐らく決死隊。死を覚悟していたのだから。


 だが、目の前で仲間が苦しむ。その仲間を潰さないと前に出られない。隊列が崩れる。隊列が崩れれば今度は自分があの恐ろしい兵器の目の前に出てしまう。


 結果的にスコルピオの恐ろしさを理解した兵として居ない兵で進撃速度に差が出て、突出する部分が出来た。そこをグライオら、逃げながらも冷静な者とその取り巻き、ネーレらの救出部隊の軽装歩兵が槍を投げて動きを止める。


 動きが止まれば、さっと撤退。


 完全に開いた射線で、第三射が放たれた。


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