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それは既に結末の見えている

「まずは一息つくと良い」


 汗だくになりながらも走ってきた使者全員にエスピラはなるべく綺麗な水をあげた。

 ありがたそうに伝令が受け取り、一気に飲み干す。人によっては大きな息。


(火急の用件となると)


 メガロバシラスやディラドグマの援軍が意外と入っていたか。

 それとも、海賊の数が多かったか。

 あるいは、既にことが終わったか。


 そう思っていると、一人が前に出てきた。


「アルモニア様からの言葉をお伝えいたします。


『エテ・スリア・ピラティリスは一日で陥落いたしました。イフェメラ様の「海が引いて行った時に一気に強襲をかける策」を中心にグライオ様が手直しを行った結果です。


 概略といたしましては、最も水が多い時に街を囲うように布陣。西方、アルモニア様の居る方を厚く、東方は薄く。休憩の態勢を見せつつ海が引くのと同時に東方から全騎兵と軽装歩兵を突撃。すぐさま重装歩兵も突撃し、敵防御を打ち破りました。


 船は数艘逃げられましたが、二百人を超える海賊を捕えました。アレッシア人も二十四名の解放に成功。作戦の第一段階はこれ以上ない結果となりました。


 つきましては、今後の方針を確認したいと思い、早急に伝令をやった次第でございます。


 現在、エスピラ様の指示を仰がずに海賊を引き入れたと指定した金持ちから財を奪っております。同じくアレッシア人の奴隷を持っていた者達からも財を奪い、奴隷として売る予定です。それと同時に、グライオ様が音頭を取り、街の整備と再開発を進めます。カリトン様とピエトロ様に軍団のまとめを任せつつ、街の郊外へ。私、アルモニアは商人を呼び寄せ商いを行わせます。エスピラ様が入られ次第、エスピラ様の名で奪った財の一部をエテ・スリア・ピラティリスの民に配布したいと思っておりますが、このように進めても大丈夫でしょうか』


 とのことです」



 ふむふむ、と全ての言葉を暗記し、咀嚼し終えるとエスピラは穏やかな上位者としての笑みを作った。



「そうだな。まずは、良くやったと伝えてくれ。策を提案したイフェメラも、改良を加えたグライオも、情報が少ない中その作戦を実行まで立派に落とし込んだ皆も。そして、自身の功績と一切主張せずにありのままに伝えたアルモニアにも。


 やはり、任せて正解だったよ。


 基本的な方針に関しては何も言うことは無い。訓練の位置はディラドグマをあまり刺激しすぎない場所で、といったところだろうか。後、グライオには言う必要がないかも知れないが、マルハイマナでの都市群を思い出してくれれば十分だ、とも伝えてくれ。


 他は、そうだな。仮にディラドグマの使者が来た場合は留めて置いてくれ。私が、直接アポオーリア様と話さないとすれ違いが起きるだけだとしておこう。後の理由は任せる。

 それと、解放したアレッシア人には良き家と武器庫を任せてやってくれ」


「かしこまりました」

 と、伝令が元気な声を出した。


 立ち上がろうとした彼を、エスピラは止める。


「ところで、馬には乗れるか?」

「私が、ですか?」

「ああ」


 伝令が小さく首を振った。

 エスピラは小さく頷いて、果物を幾つか伝令に手渡す。

 近くにいた奴隷に指示を出し、他の伝令にも渡した。


「では、道中気を付けてな」

「ありがとうございます」


 そして、伝令が再び駆け出した。


「こちらはこちらで、マルハイマナとマフソレイオにも使者を出そう。それと、『北方の友人』にもこのことを伝えておかねばな。それから、反骨精神あふれる友人たちにも伝えておいてくれないか?」


「動きますかね?」


 ソルプレーサが言う。


「領土の分け方を考えても、北方の友人とてある程度約束は守られると思うはずだ。それに、彼らにとって不利益が大きいわけでも無い」


 言って、エスピラは再びパピルス紙に向かい始めた。


 エリポス語で二枚、メガロバシラス北方に居るトーハ族の言葉で一枚。兵に休憩を与えがてら書き切ると、伝令を発し、軍団の休憩も終了させた。


 エスピラがエテ・スリア・ピラティリスに到着したのはそれから十日以上経過してのち。


 千切れそうなほどにぶん回されている尻尾が見えそうなイフェメラの出迎えを受け、きっちりとイフェメラを褒めつつエスピラは入街した。


 防御用の壁や柵は壊れたままだが、代わりに堀が街を覆い、道路は拡張中なのか場所によって広さと通りやすさがまちまちである。建物の壁は基本的に新しく、海の街らしく短い期間で入れ替わっているようであった。


 そして、何よりもエスピラが注視したのは民の顔。


 どうやら、乱暴狼藉はほとんど起きなかったらしく、敵視は無い。

 有力者の多くを無一文にしたり奴隷にしたりはしたが、民自体には道路工事や街の整備、あるいは海賊から奪った船などを使って漁業の促進を始めたらしく、今のところは仕事を上手く渡せているらしい。


 とは言え、奴隷を使って生活していた者達の暮らしは急変したが。


 だが、圧倒的に多いのは自分の労働力を売って生活していた者達。財も無くなったお偉方はほとんど無視。そして、ディラドグマに追い立てるように追い出すだけ。


 そんな中、怒りを噛み潰したようなディラドグマからの使者が現れたのは周辺諸国から今回の軍事行動の了承を示すように物資が届いた時。


 もちろん、ディラドグマもアレッシアの行動を非難する者達の言葉を纏めてきてはいたが、エスピラは一切取り合わなかった。


「メガロバシラスの息のかかった海賊からエリポスを守るために起こした行動である」


 そう言って、一切引かない。


 遂にはアフロポリネイオのとりなしがあって、エスピラが直接ディラドグマに弁解に行くことで決着をつけなければならないほどに互いに譲らずに。


 そして、ディラドグマに行く時。行ってから。

 エスピラは宮殿につくまで一度も馬を降りず、見下すかのようにずっと背筋を伸ばしていた。


 街中の物価の上昇はほとんどないが、工房は煙を吐き続けている。目に見える物資は少なめだが、活気は多い。人も多く、厳しい視線がいくつもエスピラに突き刺さった。


 エスピラはそれも完全に無視。後ろのシニストラが時折思いっきりディラドグマの民を睨みつけて。そして、アフロポリネイオの使者と一緒に宮殿に入る。


 馬の世話と見張りと称して、幾人かの纏め役にソルプレーサを残し、エスピラとシニストラはディラドグマの王、アポオーリアの前へ。


 互いに相対したまま。視線を合わせたまま止まる。


「頭が高くはないか?」


 先に言ったのはアポオーリア。


「下げる必要がありませんので」


 周囲の臣下を刺激する言葉をエスピラは出す。


 一番慌てていたのは、アフロポリネイオの者だったが。


「下げる必要が無いとは随分な物言いだな」


「アレッシアの文化を御存知ではないのですか?」


「野蛮人に文化などあるわけなかろう」


 アポオーリアが笑い声をあげた。

 目は一切笑っていない。むしろ睨んできている。


「海賊とメガロバシラスの侵攻から守ってあげたというのに、随分な物言いですね。それがディラドグマのやり方ですか? それとも、エリポスの?」


 エスピラは、アフロポリネイオの使者もにらんだ。

 そのまま、ゆっくりと口を開く。


「なんて、冗談ですよ。エリポスなんて一括りにしては失礼だ」


 そして、同じようにゆっくりとアフロポリネイオの者に笑いかける。


「その言葉がディラドグマにとって失礼だとは思わないのか?」


「思いませんね。人と言うのは何かをしてもらったら感謝の言葉を述べるものです。それが嫌なら、自分の軍団を動かせばよかったのでは? 海賊の取り締まりもメガロバシラスへの敵対行動もエリポスの他の国家も行っております。多国籍軍に占拠されるよりは、一国が守った方が変な思惑が無くて楽でしょう? それとも、自国の軍団が無いのですか?」


 ディラドグマに五千ほどの軍団があることはエスピラも知っている。


「それが本性か?」

「本性とは失礼な。友好国であるディラドグマのためにこちらは血を流す覚悟で賊を追い払ったのです。他国民のために命を懸けた者にかける言葉がそれですか? 乱暴狼藉を働いたわけでも無いのに?」


「誰が頼んだ?」

「いいえ。誰も。ですが、その言葉はまるで賊やメガロバシラスを容認しているような言葉だ。いやはや、言葉選びには気を付けた方が良いですよ。悪意が無ければ許される、なんて、愚か者の言葉ですからね」


 睨むようなアポオーリアに、エスピラは笑顔でそう返した。


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