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真意はどちらに?

「少し、強制してしまったかな。私とカクラティスは友人だから地図もすんなりと信じられた。だが、この場にはカクラティスと初めて会った者も居る。王族とは言え、いきなり全面的に信用しろと言うのも難しい話だ。


 どうだろうか。何か、合法的に軍団を動かせる方法は無いかな?」


 エスピラの言葉に、カクラティスの瞳孔が少しだけ大きくなった。


 一瞬の探り。おそらくは、カクラティスもエスピラの次の手を予想していたが、それに持っていくための話か、それともメガロバシラスに勝ったことで本当に軍団を動かそうとしているのかの見極めか


「軍団を持ったまま東進したいのなら、エリポス諸都市に認めてもらうしか無いだろうな」


 カクラティスが言う。

 軌道修正と言うよりは、一足跳びにエスピラのしたいことまで繋げてきた感じだ。


「認めてもらおうと思うのなら、やはりエリポスの中でも歴史のある三国から認めてもらうことが有用だろうか?」


 カナロイアとアフロポリネイオ、そしてドーリス。


「在りし日の力を期待されても困るよ、エスピラ」


 カクラティスが困ったような笑みを浮かべた。


「そう卑下しないでくれ、カクラティス。カナロイアの海軍力は誰もが認めるところ。それが敵に回らないと思うだけでも私にとっては親獅子に抱かれる子獅子よりも安心できるのだ。


 何より、昨年色々あったおかげで私はアフロポリネイオの大神官と仲が良い。マフソレイオからの支援物資を手に入れる手段もアフロポリネイオと共同することで確立することが出来ている。その中で最も警戒するべきは輸送を邪魔されること。だが、今のアレッシア海軍とマフソレイオの海軍で恐れなきゃならない相手はなど数少ない。


 カナロイアがこうして味方になってくれるだけでも十分補給を確保することに繋がっていると私は思っているよ」


「補給があれば、アレッシアは負けない、と言うことかい?」


「補給が安定している軍団にならば安心して賭けられるだろ? そうして全員からの補給を集めることが出来れば、戦わずともメガロバシラスを封じられると言うことさ。

 もちろん、そのためには全員と会談できる場が欲しいのだが、私が発起人になっても集まるわけが無い。何とかして、全員が集まるような場所に私も参加したいものなのだが、協力してもらっても良いか? カクラティス」


 カナロイアの軍事力は削りません。物資も要求しません。

 その代わりに、と言う話だ。


 マフソレイオとアフロポリネイオと言う有力な国の名が出てくることで危機感も煽っておくのも忘れずに。


「良いとも。私としても、私の親愛なる友人がその能力と高貴さを知らしめてくれるのであれば、私の先見の明も前例にとらわれない姿勢もアピールできて嬉しいからね」


 決定的なことは言ってこない。


「差し出がましいことかもしれないが、宗教会議への推薦だと嬉しいな。アフロポリネイオの大神官もマフソレイオの両陛下も私を推してくれていてね。そこにカナロイアの力も加われば、『前例を覆す』ことだって可能だと思うんだ」


 だから、エスピラからそれは切り出した。


「その程度で良いなら、すぐにでも陛下に文を出しておこう。さらに私からもドーリスに働きかけ、二か月後の会議に間に合うようにしてみるよ」


 カクラティスの言葉に、エスピラは晩餐会でよく使っていた笑みを返した。


「助かるよ、カクラティス」


「お安い御用さ。この程度、たくさんの農奴を売ってくれ、メガロバシラスに対して胸がすくような勝利を収めてくれた。そのお礼にしては、まだ安すぎるかもな」


 カクラティスも王族らしい品の良い笑みを返してくる。


「そう思うのならば、信頼で返してくれればありがたいよ。アレッシアはエリポスと戦うつもりは無いからね。あくまでも、ハフモニと協力する体制を整えているメガロバシラスの動きを封じたいだけ。やり取りの手紙を奪い、使者を送り返したとしても二人は結びつこうとしていたからな。こうして、少しばかり強引な手段に出ただけだよ。


 まあ、話し合いが不可能だとも悟ってしまったけどな。


 だからこそメガロバシラスに協力する者には厳しいことをするかもしれない。だが、決してエリポスを蹂躙する意図は無く、むしろ協力してやっていきたいと思っているんだ。

 アレッシアにも、エリポスの文化を尊敬し、染まっている者もいるからね」


 少しばかりの宣戦布告。


 カナロイアではなく、エリポス圏の国家に牙を剥くとのこと。

 同時に、カナロイアへの戦闘意思は無く、下手にエリポスと戦えばアレッシアが割れてしまいエスピラが罷免されかねないとの匂わせ。


 カクラティスにとってもエスピラがアレッシアの上層部に居る方が利益になると考えていると判断しての言葉でもある。


「それなら安心してくれ、エスピラ。知っての通り、エリポスは一つには纏まり得ない国々の集合体。嫌っている所が殴られるのであればどんな理由であろうと静観するだろうし、好きなところならばどんな理由であれ非難声明をだすとも」


「それは安心できないなあ」


 エスピラが困ったように笑えば、冗談だよとでも言うようにカクラティスも笑った。


 二人で笑いながら、ようやく謁見の間の奥へと進んでいく。


「カクラティスを殿下として扱い、国の威信を見せるモノとして準備していたのだが、やはり友として語り合いながら両国の方針を決めて行きたいな。それでも良いか?」


 カクラティスが品がありつつも気の良い笑いで、周囲の者から漏れた空気を吹き飛ばした。


「しっかりと殿下としても扱ってくれよ」


「もちろんだとも。とは言え、ディティキの王族の物はほとんど破棄してしまった上にぜいたく品の多くも兵と民に還元してしまったけどな」


「心配していないよ、エスピラ。元よりウェラテヌスがどのような家かは知っているつもりだ。今の窮状もね。借金は嵩んでいるようだが、関係ない。それはウェラテヌスの誇りに何一つ傷をつけることは無いとも」


「そう言ってもらえるとは、本当にありがたいよ」


(本当にね)

 と、エスピラは心の中で言いつつ、謁見の間に控えていた奴隷を呼び、私的な会談の準備を始めさせた。


 想定自体はしていたため、すぐに準備は進む。


 冬であるため中庭は使えないが、火鉢を用意し、綺麗な絵柄の書かれた衝立の用意した部屋へ。部屋には乾燥した果物と温かい紅茶を用意し、暖を取るための毛皮と王族のためにと言う訳で絹でくるんだ羽毛の毛布も用意している。


 到着したカクラティスは、自然と絹の羽毛を選び、暖を取った。

 その間に紅茶が運ばれ、会談が始まる。


 と言っても、エスピラはカナロイアから物資を引き出すことを諦めており、カクラティスもアレッシアに物的援助をこれ以上するつもりは無い。が、アレッシアからの協力を得ようとはしているため言葉だけの援助ならば承諾してくれている。


 その協力具合を探りながら、それでいて互いの国の方針をすり合わせ。

 国家間の方針が変わらないと言う確証は無理であるが、エスピラとカクラティスの間では信頼関係はあるためにある程度の担保はある。


 そうして、アレッシアとカナロイアの間で互いの利を取り合うと、どちらが何を提供したのかがどちらともなく漏れ、エリポス全土に広まっていったのだった。


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