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ウェラテヌス隆盛記  作者: 浅羽 信幸
第四十一章
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描くと見えるモノ

「どうするも何も。聞かれたところで、クーシフォスの子供だし、オピーマでのことだからね。クーシフォスが決めると良いよ、とか、判断は任せるよ、としか言いようが無いよ」


 重心をやや後ろにしながらマシディリは答えた。

 フィチリタは、うんうん、と頷いている。リクレスは無言ながら、口元に山羊の乳を置いたままマシディリとフィチリタを観察しているように見えた。


「言えて、チアーラにも話すように、とかかな。立場が不安定になったサビナとの子供達を守ったのはチアーラもだからね」


「うん。私も、兄上の立場ならそう言うしかないと思った。でも、兄上。感情としてはどう?」


「感情?」

「うん。しょーじきに。お願い!」


「サビナとの子供だけがオピーマから出て行くとなると、ウェラテヌスの悪評になりそうだと言う自己保身的な懸念もあるし、サビナの暴発とさらなる混乱への恐れもあるかな」


「私もそう思う。ウェラテヌスに傷がつきそうとか、また戦いに行くの? とか。でも、政治的に考えれば私の子をオピーマの当主にする基盤は確立させたいから、嬉しい話でもあるでしょ? オピーマが分裂するとしても、正統性を削れれば最終手段も容易になるもんね」


「そうだね。とはいえ、できれば、オピーマを割りたくも無いし、割ったとしても最小限の被害で終わらせたいよ」


「でも、兄上がはっきりとどうしろと言ってしまうと、兄上にそのつもりは無くとも命令になってしまって、クーシフォスさんがそのまま従いかねないよね。その場合はオピーマに反発を植えることになるし、私の子も危険にさらされかねない。けど、サビナさんの子供が残り続けるのも嬉しくは無い。


 兄上。クーシフォスさんにはっきりと言える?

 兄上が言った結果、クーシフォスさんの決定に大きな影響を与えないと思える?」


「無理だと思います」

 リクレスが小さく言う。

 同意見だと伝えるように、マシディリは愛息の頭を撫でた。


「うん。兄上から伝えるのは難しいと思う。でも、私ならあくまでも夫婦の話し合いになるよ。その中で兄上の意思もしっかりと伝えられるし、クーシフォスさんがどうしたいのか、どう思っているのかも引き出せる。兄上にもクーシフォスさんの気持ちを、クーシフォスさんが言いにくいところも含めて伝えられる。

 ね。婚姻同盟ってそう言うことでしょ?」


「妹が皆立派になって嬉しいよ」

 目を細める。

 本当に弟妹に恵まれたよ、と愛息の頭を撫でながら。


「じゃあ、その立派な妹の一人が兄上の意見を聞くね」

 にこにこしながら、フィチリタもリクレスの頭に手を伸ばした。


 子供じゃありません、とリクレスがフィチリタの手を一度かわす。この、と笑いながらフィチリタが両手をリクレスに伸ばした。リクレスは逃げるふりをするが、その実簡単につかまっている。


「兄上。オピーマの役割って、海運を担って広大な領域国家となったアレッシアの流通を掌握する一助になることよね」


 フィチリタの声に、ばーん、と言う口から出された扉を開ける音が重なる。


 つーかーれーたー、と言う愛らしいソルディアンナの声も近づいてきた。ぼすん、とマシディリの背中に、愛娘の熱がのしかかる。リクレスの冷たい目も、マシディリの背中に。


「あ」

 ソルディアンナが背筋をただしたような声をだした。


 ぱ、と離れ、フィチリタに折り目正しい挨拶をしている。フィチリタも苦笑しながら挨拶を返していた。にへへ、と笑いながら、ソルディアンナがマシディリの背中に戻ってくる。


「えっと」

「聞こえているから大丈夫だよ」

 マシディリは穏やかに言い、三人に手のひらを向ける。


「その認識であっているよ、フィチリタ。広大な領域を繋ぐにはどうしても海で行く必要があるからね。オピーマは、本当に重要な家門さ」


 真面目な話だ、とソルディアンナがこぼす。

 そうだよ、と姉に少し強めに言いながら、リクレスが手元に紙を引き寄せ、地図を書き始めた。


 中心にあるのは半島。


 そこから上に伸び、フロン・ティリド南部が描かれ、プラントゥムへと続けば紙の左端。南下が始まり、フラシ、ハフモニと書かれつつ葦ペンが紙の真ん中へと戻ってくる。下側で底と成り地図を支えているのはマフソレイオだ。


 リクレスの葦ペンは右端に向かって行って、東方が少し大きめに取られる。ボホロスが紙の右上の端に。その隣にエリポス。そこまでくれば、半島にまた葦ペンが戻って来た。


「おお」

 と、フィチリタが感嘆の声を漏らす。


「綺麗に描けているね」

「えっへん。すごいでしょ」


 胸を張る声を出したのは、ソルディアンナ。書いた当人であるリクレスからは姉に冷たい視線が送られている。


「描くと、見えづらいモノも見えてきます」

 姉から視線を切りながらリクレスが言う。


 フィチリタへ、と言うのもあるが、マシディリへ自分の力を見せたいと言った可愛い子供心もありそうな声の向きだ。

 話出しと同時にリクレスが描き加えたのは、オルニー島とカルド島。半島の西側に浮かぶ二つの島だ。


「第一次ハフモニ戦争では海上覇権を握るハフモニが両島を支配していた所為で、半島には短剣が突きつけられていたような形でした」


 リクレスが指を左から右、ハフモニからアレッシアへと、オルニー島とカルド島を経由して動かす。事実、沿岸襲撃は第一次ハフモニ戦争の象徴的な戦いだ。陸戦では勝つのに、海に逃げられ、船で攻撃されるのでアレッシアの損害は積み重なっていったのである。


 戦争に勝つために慣れない水軍を編成すれば何度も打ち破られ、それでもアレッシアは何度だって立ち上がった。ウェラテヌスもその家門。そして、財が空になり、多くを失い、エスピラが建て直したのだ。


「第二次ハフモニ戦争でも、半島で暴れたマールバラが注目されていますが戦局を変えたのは両島の所在です。両島が不安定だからハフモニは支援を十分に出来なかった。ハフモニの影響力が両島に残っていたからマールバラに支援が届いた。


 そして、オルニー島をメントレー・ニベヌレスが確保し、カルド島をじいじ、エスピラ・ウェラテヌスが統治したことでハフモニからの支援を完全に断ち切ることが出来たのです」


 半島の左側、西にオルニー島とカルド島を結ぶ盾が描かれた。


「ディファ・マルティーマまで繋げば、半島を覆う巨大な盾にもなります」


 ぐるり、と半島の南東の端まで線が伸びる。

 次にリクレスの手が向かったのは、紙の上部。そこから左、西側へと葦ペンの先が動いて行った。


「両ウルブス、テルマディニ、グランディ・ロッホ。父上が抑えた港湾都市は、フロン・ティリドやプラントゥムへと迅速なモノの移動を可能にする場所。両島がある限り、アレッシアが物資を送り込むだけではなく、軍団の素早い展開すら可能なのです。


 逆に攻め込まれそうな時も、まずは両島が壁になる。両島を押さえているのはニベヌレスとウェラテヌス。そして、半島に於ける両島の中間に近い位置にあるのがアグリコーラで、アスピデアウスの監督地。陸続きの北方も睨む港がテュッレニア、ナレティクスの監督地。エリポスから近い最大の港はディファ・マルティーマで、ウェラテヌスの監督地。


 建国五門による絶対の防御態勢が構築こそがじいじが監督地の区割りを定めた目的だと見えました。

 そして、この盾を利用した攻防をより円滑にかつ最大限発揮するには大船団が必要不可欠。経験があればなお良し。


 そうなった場合、オピーマの経験と財力は非常に有用かつ有効だと見えました。父上も、同じように考え、オピーマを大事にしていると思います」


 ぱちぱちぱち、とマシディリの目の前でソルディアンナの手が鳴った。

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