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買い方

「ただ、そんなことを言わずとも今のマルハイマナの財政、内政に関わっている方ならば理解もしてくれますでしょう? 


 戦争は、とにかくお金がかかります。今のマルハイマナも長い戦、遠征の後で出費が厳しい所。しかも新たな支配地域に新たな都市を建設する必要もございますから。とは言え、新たな都市は支配地域の確立にも繋がり、長期的に見れば利点が多くあります。建設するべきでしょう。


 では、半島では?


 建設は無理でしょう。すぐにアレッシアに襲われますから。

 財政も厳しいでしょう。第一次ではあれだけ海戦を仕掛けてきたハフモニが、ウェラテヌスが財を失うきっかけになったほどに仕掛けてきていたハフモニが、未だに海戦らしい海戦を仕掛けてこないのもそれを裏付けております。


 何せ、海の戦いは陸の戦いに比べて国力の消耗が激しい。

 そんな余裕がハフモニには無いのでしょう。


 そんな中で支援なく三年間半島内で暴れまわったマールバラが居たら?


 三年前と同じ状態にするだけでもう三年暴れると皮算用する愚か者も居るでしょう。


 しかもマールバラの問題は本国との関係だけに終わりません。

 北方諸部族、信頼関係の無かった者達を、これまでアレッシアに敗戦続きだった者達を纏めているのです。彼は勝ち続けることを義務付けられている。そうしないと軍団がバラバラになってしまうから。


 同時に、勝ちすぎれば味方が驕る。それもそれで分裂の危機を迎える。特に裏切り者の都市が出れば軍団を分けますから。物理的な距離ができれば心の距離も離れやすくなります。


 残念ながら、マールバラはあと一年を最後に厳しくなる一方なのです。


 その一年を耐えられるだけのまとまりをアレッシアは作る必要がございますが、もしそれができれば後はアレッシア有利。


 本国でマールバラの苦境を知っている者は戦後の分け前も考えて他国の介入を良しとせず、苦境を知らぬ者は足を引っ張ろうとする。補充があったとて最早それはマールバラが鍛えてきた精兵ではない。


 ハフモニの勝ち筋はカルド島、オルニー島を奪い、半島内で出た裏切り者の諸都市に素早く新たな駐留軍を送ること。マールバラの軍団を減らさないこと。そうすればアレッシアは終わりです。


 で、どうなりましたか?


 カルド島は私とエクラートンでハフモニ軍を追い出しました。今もメントレー様が親ハフモニ派に目を光らせております。

 オルニー島は永世元老院議員が大勢いて、しかも山中には先住部族が居るため大規模な戦いは起こっていない。


 この状態で、連絡の取れないマールバラと連携を取れ?

 海戦を仕掛けてアレッシア艦隊を撃滅し、その隙に大軍を動員して両島を奪うしか無いでしょう。


 で、その動きはありましたか? その作戦は隠し通せる程度の規模で何とかなりますか?


 何ともなりませんよ。


 勝利の栄光は常にアレッシアの上に。

 神の寵愛はアレッシアに。

 父祖の加護は永遠にアレッシアを守るのです。


 さて、話を戻しましょうか。

 規模、人材、土地に対する配慮は違いますが、似たようなことをマルハイマナでも言えるはずです。


 今戦って万が一にでも負ければまた東方が荒れる。減った財は、しかし略奪することは出来ない。戦争で戦い続ければ財を気にしない軍人の声が大きくなり、国を圧迫する。下手をすれば溝ができる。


 そのためにも、次にマルハイマナに必要なのは国をまとめ上げ、国力を充実させる時間なのではありませんか?


 私は十年援軍を要請しないとは言いましたが、軍事行動を行うなとは言っておりません。マルハイマナの自由意思で動かせるのです。


 マフソレイオ側の国境の兵が減ることは、その分の軍事費を減らすこともあるいは別の地に回すこともできます。東方に領土を広げ過ぎれば首都とさらに離れ、中間地点となる都市の開発ももっとする必要があるかも知れません。


 そのためにも、次に殴るのはきっと地峡の付近になると考えたから黙認すると言ったのです。


 先程、エレンホイネス様はメガロバシラスの方が高く買うと言いましたが、それは本当に高く買っているのでしょうか。必要なモノを高く買ってくれたのでしょうか。


 交渉を知らないため何も言えませんが、私はマルハイマナのことを考え、マルハイマナのためになる条件を提示したまで。


 それだけマルハイマナを理解し、高く買っているのです」



 ここで、ようやくエスピラの演説が終わった。


 エレンホイネスは最後まできちんと聞いてくれていたようで、ゆっくりと二度、三度と頷いている。


 もちろん、エスピラも聞いていることを確認しながら朗々と語っていたわけではあるが。


「そのような話を聞くとアレッシアが有利に思えてくるが、現実ではアレッシアは割れている。そなたの脳内を現実に落とし込めるのか?」


「そこは勝負所でしょう。ただ、アレッシアには神の加護があり、決定的な負け筋は存在しておりません。あるとすれば、メガロバシラスが攻城兵器を持ち込みアレッシアを落とすこと。つまり、ディティキら西岸が落ち、ディファ・マルティーマを落として半島内にメガロバシラスが殴り込める状況になってからです。

 もしも手を組むことを御迷いなら、あくまでも今の私は私人ですから。密約、と言う形で状況を静観するのもありかと思います」


「弱気だな」

「マフソレイオの使者でもありますので。迷惑はかけられないだけです」


 アレッシアの負け筋は他にもアレッシア本国の中から門を開けてしまう者が現れるなど、もう少し存在している。


 ただ、その可能性を考える脳を疲れさせるためにエスピラは今日は長めにしゃべることが多かったのだ。


 加えて、すぐに新たな情報も追加しようと画策する。



「マールバラの軍団の数が減ったからと言って勝てるのか、と思う方もいるでしょう。これまでの敗戦を数の所為だけにするのかと言う者も居るでしょう。


 ならば問います。

 三百の兵で万を超す兵を倒せますか?

 答えは否。


 そうであるならば、ドーリスはメガロバシラスにエリポスの覇権を奪われることは無かった。今も最強国家として君臨しているはず。


 結局は数なのです。

 数が違い過ぎれば、戦いにならない。違いますか?」


 この時代、国が違えば装備も大きく違う。

 例えば野盗などの満足な装備もない荒くれ者を大勢集めただけの軍勢ならば、アレッシアのようなきっちりと組織だった軍団の四百で一万を追い返すことは出来なくも無いだろう。


 自分は死にたくないと勝手に逃げ出すのだから。


 とは言え、そんなことがアレッシアとハフモニの間に当てはまらないことぐらいの情報はマルハイマナとて仕入れているだろう。


「しかし、マルハイマナがどうしても不安だと言うならば私の、私人としての商談にも乗っていただけると思っております」


 言い方は変えているが、要するにもう一つの値だ。

 賄賂に近いやり方だ。


「カタフラクトの装備、馬の鎧を二百ほど売っていただきたいのです。

 もしも戦争を一段落させるのであれば最早数は必要ありませんが、技術は必要でしょう。職人の給料も必要でしょう。マルハイマナにとってはその一助になると思いますし、何より訓練の場数も違いますから。マルハイマナの脅威にはなりにくいかと」


「あくまでも手を結ぼうとしているこの十年では、と言う言葉が抜けているぞ」


 エレンホイネス二世が顔だけでそう笑った。


「これは失敬」


 エスピラも否定はしない。

 ここでの否定は余計な警戒心を煽るだけだと判断したからである。


「とはいえ、輸送料金もこちらで持ちます。届け先もマフソレイオにすれば、一時的な友好の話もしやすいかと思いますが、如何でしょうか?」


 マルハイマナ側の滞在費もある程度軽減できると言う話である。


「どれだけのお金を?」

「二、三日ぐらいは引き渡しに時間がかかっても仕方が無いかも知れませんね」


 ただ、その滞在費や交通費を払うのはウェラテヌスではない。マフソレイオだ。


 ふむ、とエレンホイネス二世が口を閉じて顎を引く。

 それは、まるで是と言う返事をせずとも全ての話がまとまったかのような態度でもあった。


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