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どうかう?

「それだけではありません。マフソレイオは今回アフロポリネイオを始めとしたエリポス諸都市との関係も良好であることを確認しております。私個人としましてはカナロイアの次期国王カクラティスと非常に良い関係を築けております。


 いわば、アレッシアとマフソレイオはメガロバシラスの潜在的な敵なのです。そして、マフソレイオと争ってきたマルハイマナは必然的にメガロバシラスと手を組むことになる。それが国家間のバランスと言うモノであり、まっとうな判断だと言えるでしょう」



 エレンホイネス二世の体がまた少し前に出てきた。


「それが、どうかしたか?」


 エスピラは堂々と胸を張り、やや下に向くように両手を広げる。


「屈服するのですか? メガロバシラスに」


 そして、首を傾けた。


「挑発には乗らんぞ」


 エレンホイネス二世の背が元に戻る。



「大王と名乗ることを批判できない脆弱性。エリポス圏からすればアレッシア以上に野蛮人として下に見ている東方にしか広げられない領土。しかも、その領土の拡大もマフソレイオに負けて西方に手を伸ばせなかったから出てきた方針。


 良いのですか? 野蛮人だと言われているアレッシアからすれば東方も非常に良い文化があり、独特の戦闘と多様な文化があり、それを一つの国として統治する王の手腕、支える臣下の腕と頭脳は敬意を表されるべき大業です。


 マフソレイオもエリポスから蔑まされているアレッシアを朋友として認めてくれている。印まで預けてくれている。警戒しているのもありますが、間違いなくマルハイマナを一番高く評価している国でしょう。


 カナロイアもアレッシア人を共にし、アレッシア語を次期国王が学ぶほどにエリポス圏以外の人々を尊重しております。


 ところが、メガロバシラスはどうです?


 大王も失敗した業績をクリアできれば大王以上の評価を得られる可能性があるのに、半島に乗り込んでこようとはしない。野蛮人だと見てハフモニとの交渉を全く進めていない。それどころか未だに大王の後継者として大きな顔をしている。国の名前を使い続けている。


 そこと組む? マルハイマナが?


 王は対等な関係を望むでしょうが、メガロバシラスの王とその国民は野蛮人と蔑む輩を排除しない。そんな口先だけの連中と? それではマルハイマナが頭を下げてきたようにも見えるでしょう。横柄な態度で苦心して王が治めた土地を歩くことでしょう。東方諸部族に余計な叛意を抱かせることもあるでしょう。


 メガロバシラスが軍事的に優れているのは認めます。文化的にも素晴らしいのは認めます。そしてそのような先進国だからこそ、マルハイマナの力を必要と考えておらず、下に見るのもまたあり得る話。


 何せ、敵対してもマフソレイオからもマルハイマナからも攻め込むには小さな都市国家が並んでおりますから。時間は十分にあるのです。しかもその一つは要害ビュザリア。メガロバシラスからすれば敵対しても構わないのです。


 マルハイマナの力を最も高く評価している所に最も高く売る。

 それもまた正しいやり方ではありませんか?」



 そう言ってエスピラは、笑みの質をやわらかいものに変えた。


「そなたはマルハイマナに如何なる値を付ける?」


 エレンホイネス二世が楽しそうに肩を揺らした。


 臣下の幾人かはそんな王に窘めるような視線を送り、もう幾人かは呆れた視線を送っている。全く気にせず不動のままの臣下ももちろん居た。


「エリポスに入るための地峡にいる都市を殴ることの黙認と、国境付近におけるマフソレイオ軍の人員削減。今後十年は援軍を要請しない約束を」


 大口を開け、天にのけぞりながらエレンホイネス二世が大きな笑い声をあげた。


「エリポスとの地峡もアレッシアとの距離もまだ遠いではないか。まだメガロバシラスの方が高く買うぞ?」


 臣下の幾人かも笑い出した。


 シニストラの雰囲気が尖る。剣呑になる。振り返らずとも笑った者の顔を覚え、斬りかからんとしているようにすら見える姿がありありと描けた。

 グライオは不動。


「本当に遠いでしょうか」


 そんな二人に満足して、エスピラは静かに、しかし良く通る声で問いかけた。

 あざけるような視線も二つやってくる。エレンホイネス二世は普通の目。



「アレッシアの次の敗戦でやっとメガロバシラスは動き出します。そうなれば必然的にアレッシアはディティキに兵を置いてエリポス圏内で活動を開始する。援軍を要請すればメガロバシラスに対して包囲網を築く形が出来上がるのです。


 西岸のアレッシア。下側をアフロポリネイオとカナロイア。海上輸送はマフソレイオの船団が封じ、地峡とその周囲の海をマルハイマナ。マルハイマナがいなければ自力で落とすまで。


 エリポスは文化的には豊かでも穀物としては豊かな地域ではありません。メガロバシラスの継戦能力を考えればそう長くは戦わないでしょう」



「メガロバシラスに勝てると思っているのか?」


「勝つまでやるのがアレッシアです」

 エスピラは即答した。


「此処で結ばねば、音を上げ和平を結んだメガロバシラスと手を組み、マフソレイオと共に二方面から圧迫してマルハイマナを攻めこむこともできるでしょう。

 私が東方の事情も知っていたように背面もまた暴れだすかもしれない。すると次の危機はマルハイマナ。最後に、マフソレイオ。マフソレイオとしてもマルハイマナと手を組む方が得なのです」


「そなたの頭の中での出来事でしかないではないか」

「派閥があるにもかかわらず私がここまで足を運んだことをお忘れで?」


 エスピラは穏やかに首を傾げた。

 王が黙る。王の横に並んでいる高官の内、二人は目が素早く動いた。気が付いたらしい。


「少なくとも、先を見据えて動いている者がアレッシアにもいます。今年はまだ耐える年でしょうが、半島内に裏切り者が出てからが勝負。エレンホイネス様が何よりよくおわかりでしょう?」


 エレンホイネスの眉間に皺が寄った。


 エスピラはグライオに目をやり、今、言わんとしていることに気が付いた者を覚えておけとアイコンタクトを取る。

 それから、顔を戻した。


「幾人か担当が違って理解しておられない人がいると思われますので丁寧に説明させていただきます」


 むしろ、今までの説明で全員が分かるとは思っていない。



「マールバラ・グラムの失態は何か。それは北方諸部族を連れて半島深くに侵入したこと。


 ええ。戦力強化のためにも連携を強めるためにも必要なことだったでしょう。ですが、それが略奪を本格化させた。北方で更なる味方を付けることの失敗にも繋がった。北方諸部族も南は全てアレッシアと同じ憎き敵と認識している者が多いですから。その略奪は酷かった。男は殺され女は犯され、物は全て奪われ飽いたら全てが売り払われる。


 そんな軍団に誰が協力しますか? 積極的に味方しますか?

 アレッシアは勝つまで戦う国家なのに、すぐに裏切りますか?


 とは言え、此処まで負けが込めばマールバラに味方をする都市国家も出てくるでしょう。マールバラも略奪に頼らなくて良いと思うでしょう。


 でも、これまで好き放題出来たのにいきなり封じられたら新参の兵はどう思いますか?

 略奪は全てを奪えましたが、支援ならばその量は激減する。その状態で褒美を与え続けられますか?


 対して、アレッシアは裏切り者が出ることによって容赦しなくて良い街ができる。兵の心を満たす略奪ができる都市ができるのです。人的な国力の衰退は免れませんが、物質的には緩やかになるでしょう。


 何より、アレッシアは統治してきた実績がある。いきなり乱暴狼藉を働いて荒らすだけ荒らしたマールバラには統治は難しいでしょう。手腕の問題ではありませんよ。地域に住む方々の心情として、信頼関係を築くことが出来ない、と言う意味です。


 そして裏切った都市が増えれば増えるほど、マールバラは守るために兵を割かないといけなくなる。限りある兵力をさらに分散せざるを得ないのです。

 しかも裏切る都市の割合はきちんとした城壁を持たない都市が多いでしょうし、アレッシアはそう言った都市から攻め込みますからマールバラは余計に兵を減らす羽目になります。


 それに、マールバラはハフモニ本国に手回しをしていない。あそこは武官と文官が分けられている上に仲の悪い国ですから。このまま放っておけば勝利がマールバラだけの功績になるのが嫌で足を引っ張る人もいるでしょう。足を引っ張るのが失敗しても、半島に送る援軍が減るだけで、物資が減るだけで十分。


 いえ、失礼。減るのは確実でしたね。朋友にしたい者にならば、もう少し情報を開示すべきでした。すみません」



 暗にハフモニに裏切り者が居るよ、既に話がついている者が居るよ、と匂わせて。


 もちろん、そんな人などいないがエスピラはそう勘違いさせるように小さく頭を下げた。


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