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仮初の修復

 だが、今のサジェッツァは軍団で決めた方針に従ったフィガロットを褒めたに過ぎないのだ。裏が無いかと聞かれれば、皆が争ったから今一度方針を示すために行った行動だと言えば終わるのだ。

 この話に噛みつくのは、叛意ありと捉えられてもおかしくは無い。


 独裁官は裁判なしで人を裁けるのである。

 そんな馬鹿な真似はしないだろう。


「効果が無い、と言う話だったが」


 サジェッツァが雰囲気を少し変える。


 誰も「効果が無い」とは言っていないが、敵徴発部隊を叩き続けることに関してだとは誰もが理解しただろう。



「確実に効果は出ている。本気で会戦を狙うならばこちらを気持ち良くさせるのはマールバラが良く使ってきた手段だ。


 ペッレグリーノ様との戦いでは先に北方諸部族をけしかけ、いつも通りに潰走したところで待ち構えていた。


 タイリー様とは騎兵で襲撃したところで追い返された形を取り、既に軍団を配備していた地形に呼び寄せた。


 軍団が消滅したストゥーファ様の場合は戦利品を積んだ荷馬車を見せ、隘路に誘い込んでから湖に叩き落してきた。後続は全滅を知らない状態で「アレッシア軍とハフモニ軍が戦っている」と誤認させられて突撃後、囲まれて壊滅。いわば、友軍を助けて勇者となれると言う気持ち良さを味あわされたと言っても良いだろう。


 バッタリーセ様は目の前で繰り広げられる略奪を見せられて突撃。数度の追い返しを経験して油断したところを突かれた。北方諸部族と仲が良いと思い込んでいたのもいけなかっただろう。


 それに比べて、今はどうだ?


 精々がこちらの襲撃部隊をより大勢で囲んで叩いているだけ。これでは気持ち良くはならない。なし崩し的な会戦を狙っているとしても多くの襲撃部隊を送っているのは村の近くか大軍を展開するのに不適な場所。

 伏兵が得意な相手と戦うのに、伏兵に好適な場所を何故選ぶ」



 グエッラ、ではなく騎兵隊長であり、グエッラと同じ派閥のボストゥウミが口を開く。


「他の方々の戦いの様子は、どこまでが正しいのでしょうか。ペッレグリーノ様を除く全ての軍団が全滅と言っても差支えの無い被害を出しておりますが」


 とは言え、タイリーの軍団だとすればルキウスなどは帰ってきている。


「マールバラは天才だ。だが、人間である以上は失敗があり、不得手がある。奴の失敗はアレッシアと同盟諸都市の絆を壊す作戦として捕虜の解放を積極的に行っていること。数人ならば私も状況を知り得ることは出来なかったが、あれだけの数が解放されればある程度正確な戦いの様子を把握することも可能だ」


「聞いて回ったと?」

「ああ。時間はたっぷりとあった」


 サジェッツァの能面が向けられれば、ボストゥウミは黙りこくった。

 サジェッツァの顔が再び正面に戻る。


「捕虜を解放したのは食糧の問題もあるだろう。ピエタの民を解放したのも然り。食糧を貯めているインツィーアをコルドーニ様の大隊で守っている以上は大規模な補給はあり得ない。徴発部隊も叩かれている以上は物資の補給が滞っている。物資の補給が滞れば褒美も滞る。


 空腹と恩賞を貰えない不満は混成軍にとっては我等以上に致命的だ。


 襲撃部隊だけを叩くやり方も、まずは食糧を手に入れるため。会戦の誘いを良くしてくるのもここらで我らを破らねば軍の結束が危うくなるため。焦っているのはマールバラだ。

 こちらは、悠然と構えていれば良い」


 そうは言うものの、数を揃えての正面突撃が伝統的な最強戦術となっているアレッシアで生まれ育った者たちだ。

 頭では理解しても、心服はしていないだろう。


「そろそろ奴らは移動を始めるはずだ。この際、小さくはあるが山を越えさせたい。

 コルドーニ様は引き続きピエタの街を。コルドーニ様が監督している軍団をイルアッティモ様を始めとする補佐筆頭及び補佐単位に分け、南方に配置する。地図を」


 サジェッツァが淡々と言えば、奴隷が現れて三人一組に簡易的な地図を配りだした。

 エスピラが受け取れば、隣にいたソルプレーサが自然と地図を持つ。地図はエスピラの前にある形なのでシニストラがやや大変そうにのぞき込む形になった。

 ソルプレーサとしてはシニストラは配置などにあまり興味を持ちそうに無いので良いか、と言うことだろうか。


「配置の意図は明白だ。大軍が押し寄せても落ちるまでには時間がかかる場所に防御陣地を築き、どこかが攻められても側面を突ける形にした」


 地図上に羊皮紙に書き込むように小さな字で指揮を執る者の名前が書かれている。


 軍団の配置は街や川の近く、小高い丘の上など。ピエタの街が最大の二千の兵の配置になっているが、最も少ない所は一個大隊四百に騎兵を二十。不安に思う者が居ても仕方が無いだろう。


「全箇所を一斉に攻められたらどうするおつもりですか?」


 コルドーニが言う。


「二個軍団をハフモニ軍の背後にぶつける。罠があったとしても、もう一個軍団を半分に割った状態で対応する。半分に割るのはフィガロット様の軍団だ。カルド島帰りの兵とフィガロット様の肝いりの兵で分けるのが容易になっているだろう?」


 サジェッツァが淡々と返した。


 グエッラが余計な動きをしないように見張る、と言う意味もあるのだろう。


 フィガロット・エスピラのコンビよりもコルドーニ・イルアッティモのコンビの方が経験も豊富で柔軟性が高い。だから細かく分けて敵の進路を塞ぐための役割を果たしてもらう。ハフモニ軍が引いた時も偽装撤退か本当に移動したのかの判断はより正確に下せるだろう。


 一方で、フィガロット・エスピラのコンビの利点は軍団の分けやすさにある。今のフィガロットは命令に従うだけの存在。しかしながら、建国五門の当主であり力はある。息子も補佐に居るためナレティクスとして兵を鼓舞して警戒させることぐらいはできる。エスピラについているのは最精鋭と化しているカルド島からの軍団だ。指揮官も百人隊長もほぼ変わらず。分けた方が動きやすいまである。


(会戦も有り得る、と垂らしてグエッラを黙らせたか)


 そして何より、戦う意思をサジェッツァが嘘でも見せたと言うのが分断への対抗策でもあるのだろう。


 サジェッツァの意思はマールバラと直接対決をしないこと。立ち枯らすこと。


 会戦をすればどうなるか分からない。敗れる可能性が高い。

 逆に言えば、サジェッツァにはマールバラが攻めてこないと言う確信じみたモノがある、とのことかも知れない。


(それはそれとして、軍団に作戦方針がどのような考えに基づいて立てられているのか理解させる必要があるか?)


 どこまで伝えるのかも、問題ではあるが。


 下手に広げ過ぎて、敵にも筒抜けになるなんて真似は絶対にしてはいけない。

 だが、上層部が割れていることに軍団全体が引っ張られてはいけない。少なくとも、自分の足元は固めないと上官であり経験もあり財もあるグエッラに対抗は出来ない。


「百人隊長と副隊長を集めろ」


 会議が終わり、ソルプレーサとシニストラが近くに居るタイミングでエスピラは二人だけに聞こえるように小さく言った。


 それだけでソルプレーサは理解してくれたようだが、シニストラには

「タイミングをずらして、何回かに分けても良い」

 と付け加える。


 シニストラが少しだけ止まりかけながらも頷いた。

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