ある時わたしは
ある時わたしは
ある時わたしは風だった。
世界を巡り、何も感じず、ただ自由で。
黄色い蝶がわたしに飛ばされ、それでも負けずに飛んでいた。
綺麗だと思った。
ある時わたしは蝶だった。
花の上を自在に飛び、甘い蜜を追いかけて、
カマキリが花を纏って目を光らせて。
それでもわたしは花を求めた。
ある時わたしはカマキリだった。
動くものに目を光らせて、花を求める蝶を狙った。
狙いを定めて、風に体を揺らし、
花を纏って、鎌を振るう。
ある時わたしは鳥だった。
空を飛び、風を切り、翼を休め、生きていた。
羽を飾り、恋を歌い、虫を啄み、雛を育て
生きるために生きていた。
ある時わたしは温かさに包まれていた。
温かいものは猫だった。
小さきわたしをなめる舌。
わたしの体は生かされていた。何かに優しく生かされていた。
ある時わたしは、泣いていた。
誰かを思い、誰かに思われたくて
深く深く、泣いていた。
裏切られたのか裏切ったのか。
絶望したのか希望を求めたのか。
ただ、風に涙を乾かしながら、
風になりたいと、願っていた。
ある時わたしは……