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エルマとリリィ  作者: 空き缶文学
第2部 大英雄アイリーン
18/60

第18話 開戦

「あぁ、女ぁ?」

 合流したアイリーンを訝しげに睨んだ男達。不信感と不満を口々に言う。

 金髪碧眼、尖った顎と目立たない高い鼻をもつアイリーンは、

「私はアイリーン。よろしくね」

 特に何も気にすることなく簡単な自己紹介をした。

 少し遅れて合流したローグが慌てて間に入る。

「遅れてすみません、俺はローグです。彼女は村一番の凄腕なんです。熊やそこらへんの野盗を一人で片付けているぐらいに」

 ローグの説明に男達は数秒ほど置いて、クスクスと控えめに笑いだす。

「老人と乳飲み子しかいない村かよ、お前もなっさけねぇなぁ、見かけ倒しの体か?」

 茶化す男達に、ローグは眉を下げて軽く笑う。

 アイリーンは肩をすくめて、

「今から野盗掃討でしょ? リーダーは誰?」

 一〇人の男を見回す。

「ワシだ」

 茶色の帽子をかぶった細身の男がアイリーンの前へ。ロングソードを腰に差し、急所を守る防具は身に着けていない。無精ひげを生やし、狡猾な目つき。

 数秒見つめた後、アイリーンはリーダーを名乗る男に頷いた。

「よろしく、作戦は?」

「野盗は日中隠れ家で寝ている。そこに押しかけて、一人も残さず殺す。奴らの逃げ道となる経路も全て塞ぐ」

「野盗は何人いるの?」

「……確認できたのは九人。野盗の頭はヴィガンという帝国人、元帝国兵で、戦地から逃げた臆病者だ。だが多くの女子供を平気で殺す冷酷さもある。色仕掛けなんて通用しない」

「よし、それじゃ行きましょ」

 アイリーンは小さく笑みを浮かべた。

 不満げな表情を浮かべた男達の後ろをアイリーンとローグはついていく。

「なんか、不安になってきたな……」

 リーダーを先頭に山道を進む列。ローグは呟いた。

「そう?」

「馬鹿にされてる。これじゃまともに戦わせてもらえないかも」

 弱音に、アイリーンは軽くローグの背中を何度か叩く。

「いいじゃない、活躍さえすればみんな手の平返し。噂も広まって夢に一歩前進。最高でしょ」

 自信に満ち溢れた笑顔を前に、ローグは釣られて笑顔になる。



「アイリーン、だったな、お前はこの道で待機しろ」

 リーダーの指示に頷いたアイリーン。

「ローグ、お前さんは反対側を塞げ」

「はい。じゃあ後で、アイリーン」

「うん、また後で」

 お互いの手を叩き、ローグは反対側へと身を屈んで進む。

『全く、なんで女なんかと』

『さぁ、村の男が頼りねぇんだろうな』

 そんな声がローグの耳に届く。

 小さな溜息を零すのと同時に、サーベルの柄を握る手に力が入る。

 古く寂れた山の洞窟、見張り番のような野盗がいるが、座り込んだまま腕を組んで居眠りをしている。

 ローグはその様子を細い獣しか通らないような場所から覗き込んだ。

 リーダーはロングソードで、見張りの野盗を容赦なく斬り捨てた。悲鳴は聞こえない、血飛沫が飛び散り、見張り番はゆっくりと寝そべる。

「よし、かかれ」

 リーダーの合図と共に剣を抜き、男達は洞窟の中へと向かった。

 血だまりとなる見張り番の遺体だけがある洞窟の入り口。ローグはただジッとその場で待機していた。静かな景色とは反対に洞窟の中から聴こえてくる激しい金属音。

 指示を無視した足音に、ローグは目を丸くさせた。

「アイリーン?」

 長い髪先を編み込んだアイリーンの姿が視界に映り、ローグは眉を顰めてしまう。

「ローグ、こっちこっち」

 招く指先。ローグは誰もいない周囲を見回しながら、立ち上がった。

 控えめな足取りで洞窟の前へと走り、

「一体どうした? もし野盗が逃げたら」

 アイリーンの行動について訊ねようとするが、彼女は洞窟の暗い穴を見つめて何も言わない。

「……?」

 ローグは不思議に思いながらも問い詰めず、アイリーンと一緒に黙って洞窟に顔を向けた。

 激しく打ち合う金属音がいつの間にか聴こえなくなり、地面を叩く靴の音だけが響く。

 洞窟の外に近づいている。ローグは怪訝な表情、アイリーンはサーベルの柄に手を乗せ、身構えた。

 洞窟から人影が見えた瞬間、アイリーンは前に踏み出す。同時にサーベルを抜き払うも、刃は空を掠めた。

 茶色の帽子が吹き飛び、人影は身体を屈めて通り抜け、俊敏に走り逃げていく。

「ローグ! 追いかけて!」

「え、あっ!」

 アイリーンの言う通りに、ローグは急いで後を追いかけた。

 

 山の下り坂をよろけることなく走る相手。ローグは驚きつつ、足を緩めず駆けていく。

「待ってください! なんで逃げるんですか!?」

 背中に声を放つ。

 相手は無言で必死に逃げている。

「野盗は、他の奴らは?!」

 相手は首を横に捻り、ローグを覗き込む。

「兄ちゃんよ、もう戦争は始まっている」

 そう答えた。

「ど、どういうことだ?!」

 突然、黒い煙が所々に上がり、ローグは立ち止まってしまう。

 山から見下ろせる景色に、真っ赤に揺らめく陽炎のような世界が映り込む。

「町が……」

 ローグの声は震え、自身が生まれ育った村の方角に身体を向けた。

「お、俺達の村が!」

 囲まれた森ごと覆う真っ黒な煙と一緒に舞い上がる火の海がローグの意識を奪っていく……――


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