第14話
リクトはデリエルフォートレスを撃破する方法を目を閉じて考える。正面からではなく、真横まで来たもの、攻略するためのものだ。ゆっくりと瞼を上げると、意を決して口を開く。
「先ずはマナライフルの射程ぎりぎりまで移動する。僕たちの予想が正しければ、射程は通常のマナライフルと変わらない筈だ」
リクトはファストに視線を移動させる。ファストは計器を何度も見直し、距離の計算をしているようだった。
「……わかった。私が指示するから、そこまで移動して」
センドとサッドから肯定の返事が返って来たので、リクトはファストに頼み、その場所を指示してもらう。ファストの言う通り、マナライフルの射程ぎりぎりの場所に移動して、次の作戦を説明する。
「これから行う作戦では、サッドが最も重要な仕事をしてもらうことになる」
「う、うん」
サッドが息を飲むのが分かる。これからは、今まで以上にサッドに難度の高い役割を果たしてもらわなくてはならない。
「武器だ。サッドは6連装マナライフルを狙い打ちして、破壊してもらう。あの武器さえなければ奴は無力だ」
リクトが言うまでもなく、マナ重機の武器はマナライフルのみだ。武器を破壊すれば無力化できることなど、誰だってわかる。何故、そうしてこなかったのか。それは、武器を狙うのが難しいからに他ならない。そんなものを狙うより、胴体を狙う方が確実だ。
「それはわかるけど……4つのマナライフルを全て壊すのは……」
「いや、2本でいい」
「は? そりゃどういう意味……」
センドもようやく気付いたようである。どうして、リクトがデリエルフォートレスの真横に来たのか、その理由を。
「あの足だ。こちらを向くのは時間がかかるだろう。それに、友軍の攻撃もある。こちらだけを攻撃できないだろう」
友軍という言葉に、逡巡するが、リクトは強引に言い切った。こうしている間もデリエルフォートレスに餌食になっているに違いない。
「うん。やってみる」
通信機からサッドの少し弱気な声が聞こえる。作戦の要となことを理解しているようだった。
「センドはサッドの前で盾を構えてくれ。射程ぎりぎりだから、何発か飛んでくるかもしれない」
「お、おう。いいぜ」
何かに気圧されたようなセンドの声がリクトに届く。
「あたしたちはいいが、隊長さんは何するんだよ」
センドから何かを察したような言葉が通信機越しに聞こえてくる。
「僕が接近して、目標を撃破する」
少しの間をおいて――
「はぁ!?」
「ええっ!」
2人の声が聞こえた。
「僕が前衛で攻撃を引き付ける。その間に、武器を破壊してくれ。その後、接近して弾丸を直接打ち込む」
「おいおい、何言ってんだよ。無理だろそんな事、もっと冷静になれ!」
「僕は冷静だ!」
「それは冷静じゃない人がいうセリフだよ……」
サッドに突っ込まれながら、リクトは叫んでいた。
「1号機はよく動くことができる。回避行動をとりながら接近すれば問題ない。幸運にもマナライフルが壊れれば、それだけ有利になる」
完全に正常な判断を下すことができなくなっていたリクトだったが、それは不可能だとは思っていない。
「了解……」
センドの溜息と共に肯定の言葉を口にする。サッドは3号機を動かすことで肯定した。
ファストの指定した、マナライフルの射程までやって来た。
作戦通り、3号機は片膝をつき、銃身の長いマナライフルを構えてデリエルフォートレスに狙いをつける。2号機はその前に立ち、大きな鉄の盾を構えた。
「準備はできたな」
リクトはレバーを操作して、1号機を2号機の隣まで移動させる。息を少し吸うと、リクトは大きな声を上げた。
「これから、デリエルフォートレス攻略戦を開始するッ!」
その掛け声で、3号機はマナライフルで狙撃する。
同時に、リクトはレバーを押し込み、1号機を走らせた。最初の狙撃は失敗、動くマナライフルを捉えきれず、その上を通り過ぎていく。
「ご、ごめん」
怯えたようなサッドの声がリクトに届く。
「それでいい。目標はこちらに気がついた。きっと狙いやすくなる」
こちらに気付いたデリエルフォートレスは、すぐさま3号機に狙いをつける。その間、マナライフルは固定される。相手のマナライフル光り、3号機に向かって6発のマナの弾丸が発射される。だが、射程ぎりぎりにいるため、眼前に着弾した。
その衝撃で地面は抉れ、岩や機械のパーツが細かくなって弾かれる。それを2号機の大きな盾が防ぎ、損害を抑えた。
その隙に、リクトはデリエルフォートレスへ一直線に1号機を走らせる。
リクトの読み通り、こちらに向けられる腕は3つ。3号機を狙わなかったマナライフルの銃口が1号機に向くと、すぐさま弾丸が発射された。
狙われるのが分かっていたリクトは射線を避けることによって、この場をやり過ごす。だが、すぐにこちらに狙いをつけられた。
「リクト! やはりこれは無理が――」
「口を閉じろ。舌を噛むぞ」
リクトがレバーを横に押し倒して、機体に命令を送る。それを受けて、1号機が真横に飛び退くと、先ほどいた場所に、着弾する。あまりの威力に、爆発し周囲に礫を飛ばした。
次に1号機は鉄の盾で礫を防ぐ。だが、全てを防ぐことはできず、全身が揺れる。リクトのレバー操作の妙技で1号機は踏ん張って転倒を防いた。少し動きの止まった1号機に向けて、もう1つのマナライフルが射撃してくる。
「ファスト! 何かに掴まっていろ!」
そう言った次の瞬間、操縦席が激しく揺れる。飛来するマナの弾丸を、1号機は横に転がることで回避した。
上下左右が分からなくなるほどの揺れる操縦席では、ファストが縮こまって衝撃に耐えている、それに対して、リクトはレバーを持ったまま、次の操作をしていた。
立ち止まっていることができない為、1号機はすぐに立ち上がると、次は前転して見せる。そのすぐ後、マナの弾丸が地面を抉った。その際、少し相手の攻撃に隙ができた。
多少近づいたことで射程内に入った。マナライフルを目標に向けて打ち込むが、その装甲によって簡単に弾かれてしまう。こうなることは想定済みなので、リクトは少しでも近づく為に前進する。
3号機からの援護が効いているのか、こちらに向けられる銃弾は少ない。リクトは1号機を左右にステップさせながら、目標に近づいていく。
1号機の近くに、弾丸が命中し、爆発した。6つ重なったマナライフルの範囲は広く、普通の回避では間に合わない為に、リクトは1号機を大きく右に飛び退かせる。だが、その位置にはもう1つのマナライフルが狙いをつけていた。
「リクト――」
ファストが小さく悲鳴をあげた。
今にも発射しそうな6連装マナライフルが、突如砕けて割れた。
間一髪で、危機から逃れたリクトが後ろに視線を向けると、ガッツポーズをとる3号機が見えた。
「サッド、助かった」
「へへーん。私にかかれば――」
途中で目標から射撃されたのか、サッドの声は途切れてしまった。
1つのマナライフルは破壊できた。予想通り他の2つのマナライフルは、まだこちらを向いていない。残ったマナライフルは1つのみ。
リクトは1号機を屈ませて目標へと突き進む。いつもはあまり気にしなかったマナ重機の足の遅さに、焦りを感じずにはいられなかった。
それでも、相手のマナライフルの軌道を先読みして動けば当たることはない。人間が操縦している訳ではないせいか、攻撃が単調なのだ。的を正確に射抜くような射撃は正直で避けやすい。このまま突き進めば、目標に到達できるはずだった。
「左っ!」
ファストの叫びにようやく、リクトは3つ目のマナライフルに気付いた。デリエルフォートレスは肩越しに構えられたマナライフルは確実に1号機を捉えていた。
リクトは無理を承知で、鉄の盾を射線に構えた。そのすぐ後、弾丸にかすっただけの盾がはじけ飛び、1号機は横倒しに吹き飛ばされてしまった。
1号機は無様にボールのように地面を転がると、倒れる形で止まった。
「クソっ! ファスト、無事か?」
リクトの問いに答えはない。目の前にはぐったりとしたファストの姿があった。
その姿が見えていたにも関わらず、リクトは1号機を強引に起き上がらせる。そして、すぐに目標に向かって走らせた。
マナライフルの引き金を引きながら、目標へと肉薄していく。強固な装甲に覆われていても、同じ場所にマナの弾丸を打ち込めば、いずれ撃ちぬけるはずである。
がむしゃらに突っ込んでいく1号機に、目標のマナライフルが照準を定める。そこで、ようやく、リクトは自分が狙われていることを思いだした。銃口は1号機に突きつけられ、回避することは不可能だった。
だが、マナライフルから弾丸が発射されることはなかった。3号機の正確な狙撃が6連装のマナライフルを貫いていた。
攻撃を免れた1号機は、目標に取り付くと、至近距離でマナの弾丸を打ち込み続けた。
「うおおおおおッ!」
何発も弾丸を撃ち込むと、いずれ、目標が燃え上がる。さらに、弾丸を撃ち込んて行くと、爆発を起こしはじけ飛ぶ。視界が一瞬、真っ白に光って、周囲の土塊、残骸、自分の部品を待ち散らした。
その爆風に1号機も巻き込まれ吹き飛んでいく。操縦席は全方位に揺れ動き、まるで竜巻に飛ばされたように、激しいショックを受けた。耐えることなど不可能であり、操縦席から放り出されるほどの衝撃を受ける。
機体は地面を滑り、何度もバウンドした後、大地との摩擦によって、ようやくその運動エネルギーを全て消費することができた。
「ファスト……」
リクトは眼前のファストの様子を確認する。外傷はないように見えるが、それで無事とは限らない。ファストへと手を伸ばそうとすると、垂れてきた血液が左目に入り、視界を塞いだ。
頭を触ってみると、少しではあるが血が付着していた。この程度は大丈夫だと、リクトはすぐにファストの肩に掴む。
「おい、ファスト……」
体を軽くゆすってみる。その程度だったが、ファストは気がついた様子で頭を持ち上げた。その様子にリクトは安堵の溜息を吐いた。
「リクト、頭から血が……」
こちらを見たファストが目を見開く。リクトは流れる血を鬱陶しそうに、腕で拭った。
「いや、この程度大丈夫だ。そっちこそ、気を失っていたようだが?」
「マナ人間は人間より丈夫。問題ない」
「無事なら何より。目標はどうだ? 破壊できたか?」
ファストはその言葉にハッとして、通信機を弄りだした。通信はまだ大丈夫だろうかと、リクトはその様子を見守った。
「……たな……長……」
「やっ……、やる……ん!」
ザザというノイズと共に、センドとサッドと思しき声が聞こえてくる。
「……目標は完全に沈黙したみたい」
リクトはだらしなく力が抜けていた身体を起こして、佇まいを直す。
「よし! これにて、デリエルフォートレス攻略戦を終了する」
リクトはそう宣言した。




