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第四話 はじめて、その究極

 

 レンディナ=レッドサラマンダーが目覚めると、目の前に金髪碧眼の美女の顔があった。


「わひっ!?」


「ふ、う……。もうちょっとで()()()()()()()()()()()()()()()()()。『はじめて』なんですから、妥協せずに骨の髄まで堪能すべきだというのに。くっくっ。最高に引き寄せてくれるじゃねーですか」


 何事か呟き、金髪碧眼の美女の顔が遠ざかる。

 甘い花の匂いが鼻腔をくすぐる。身を起こすために()()をつくと、カサリと乾いた手触りがあった。


 青い薔薇。

 自然界には存在しないとされる『色』の花びらが一面に敷き詰められているのだ。



 森の一角を切り分けた、開けた場所であった。

 草木の緑ではなく、薔薇を人為的に変異させた青に包まれた空間である。



 日差しが青を照らす。そんな中、立ち上がって『んっんーっ』と吐息を漏らして両手を上にあげる金髪碧眼の美女の姿はまるで絵画に描かれる神聖なりし女神のようであった。


 だから、だろうか。

 一糸纏わぬその姿はそれ自体で完成しており、違和感がなかった。そんな些事、一切気にならないほどに見惚れてしまっていた。


「くっくっ。随分と熱心に見つめてくれるじゃねーですか」


「え、あっ、ごめんなさいっ」


「別に構わないですよ。これから長い付き合いとなるのですし、好印象を抱いてもらうに越したことはねーですし」


「え……? それは──」


「身体の調子、どうですか?」


 切り裂くように、封殺するように、そう告げる金髪碧眼の美女。その言葉にレンディナはようやく、それこそ遅すぎるくらいようやく自分の身体が魔獣に喰らい壊されたことを思い出した。


 そう。

 腕や足が千切れるくらいに、生存は絶望的なほどに損壊していたはずではなかったか?


「あっ、あれっ、くっついている!? 腕や足、吹き飛んだはずなのに!?」


 わちゃわちゃと全身を両手で撫でて、どこも壊れていないことにレンディナは驚きを露わとする。くり抜かれた目玉も元に戻っているのか、視界にも異常はなかった。


「その様子では問題なさそうですね。吸血鬼を軸にゾンビやプラナリアなどのエッセンスを混ぜ込むことで日光や銀の武器、流れのある水といった短所(弱点)を塗り潰し、再生能力を伸ばした甲斐があったというものです」


「え、え???」


「助かって良かったですね、ということです」


 金髪碧眼の美女は笑う。

 静謐に、それでいて混濁とした笑みを広げて──そのままレンディナの両肩にひんやりとした両手を添える。


 じっと。

 どこぞの妹のように純粋な一色ではなく、多様な不純物を含む碧眼がレンディナ=レッドサラマンダーを見つめる。


 ドロドロとした、欲望の色を乗せて。

 頬を赤くして、舌なめずりさえこぼして、だ。


「あ、あの、どうかしました、か?」


 感謝は困惑に塗り潰され。

 そして、直後にレンディナの身体が青に沈む。


 優しく、それでいて拒否は許さない強制力でもって一面に敷き詰められた青い薔薇の花びらの上に押し倒されたのだ。


 金髪碧眼の美女の身体がレンディナ=レッドサラマンダーへと覆いかぶさる。むき出しの肌から熱が伝わり、伝えられ、交わされていく。


 ぶるっ、と甘い痺れがレンディナの華奢な身体を震わせる。


「ひあっ!? あ、あのあのっ!?」


「くっくっ。その困惑も含めて、甘露として楽しむことができるです。本当、ああ本当に、良い拾い物じゃあねーですか」


 その声は耳元で響いた。

 それすなわち、それほどまでに金髪碧眼の美女の身体が、顔が近づいているということであり──そして、一言。



「いただきます、です」



 ぷつり、と。

 首筋に鋭い痛みがあった。


「ひ、あ?」


 困惑が、膨らむ。

 金髪碧眼の美女は耳元まで顔を近づけていた。そこで終わらず、首元に顔をうずめて、そのまま口をつけたのだ。


 鋭く伸びた八重歯でもって首を貫くために。


「な、なに、なんっ、……くっひゅっ!?」


 困惑から恐怖へと移行する前に歓喜が噴き出す。これまでも感じていた『何か』をさらに、さらにさらにさらに凝縮したそれを感じようとして、



 ぶぢんっ!! と。

 レンディナ=レッドサラマンダーの意識は途絶した。



 ーーー☆ーーー



「あー……残念です。まだ耐えられなかったみたいですね。魔女のエッセンスも組み込まれているとはいえ、お母様のようにうまく人体を変異させることはできねーということですか。さて、どうしたものですかねえ」


 言葉の割には困っている風ではなかった。

 一面の青に降りそそぐ後光。まさしく神話の一幕をそのまま切り取ったようだと感じさせるほどに完成された美女、スカイ=フォトンフィールドはくつくつと楽しげに肩を揺らしていた。


 再度気絶した少女を膝枕よろしく足に乗せて、その頭を優しく撫でる。


 時間はありあまるほど。であればじっくりと、それはもうじっくりと楽しんだほうが良いに決まっている。



 ーーー☆ーーー



「が、ばぶっ……」


 赤黒い液体が飛び散る。血の塊を吐き出した彼女は忌々しげに左手を振るう。


 ゴッバァ!! と鮮血の赤よりなお深き、紅蓮の猛火が吹き荒れた。


 魔法飛空船の一室でのことだった。いかに耐魔法にも優れているとはいえ、鮮やかな赤を示す彼女の一撃は内装をドロドロと焼き尽くし、そのまま魔法飛空船の壁を焼き溶かすところであった。


 ギリギリ耐えられたのは奇跡以外の何物でもなかった。煮えたぎる感情を吐き出す八つ当たりゆえに力加減なんて考えていなかったため、そのまま魔法飛空船が空中分解していたっておかしくはなかっただろう。


 ランディ=レッドサラマンダー。

 魔法飛空船の乗組員にしてレッドサラマンダー公爵家の配下たちに(スカイ=フォトンフィールドが立ち去ってから)助け出された彼女はガリガリと右の親指を噛む。肉が千切れ、血の味が口の中に広がっても構わずに、何度でも。


「こんなの、許されないですわぁ」


 血の味に混ざって。

 ランディの口の中で憎悪が溢れる。


「スカイ=フォトンフィールド……。私に歯向かい、傷を負わせた大罪、必ずや罰してやるですわぁ!!」

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