異世界行ったら変わるよな
なぜこんな作品を書いたのか自分でもわかりません。
「あぁ、勇者様……。やはりお帰りになられてしまうのですか。私は……私は貴方をこれ程までに愛していると言うのに……それでも、行くと言うのですね」
「……すまない、姫よ」
俺は玉座の間でその一言だけを口にした。言い訳など見苦しいことはせず、ただ潔く、簡潔に。
その言葉を聞いた姫は涙ぐみながらも言葉を続けるが。
「いえ、いいのです。もとは私共が勝手に喚んだだけであって貴方は元の場所へと戻るだけ。そう、もとに……もどる……だけなのです……」
哀しみに耐えるかのように瞳を潤しながら涙が垂れ滴ることを瞼という堤防でしっかりと受け止め、我慢していた。
俺も彼女にこんな思いをさせたくはなかった。正直な気持ち、残っても良いのではないか?というのが無いこともない。だが、勇者として召喚された俺は既に魔王を討伐し、現在は魔王より強大な力を持つ厄介者に等しい。この国が俺を受け入れても戦争を恐れる他国が黙っちゃいないだろう。俺は本来この世界の住人ではない。居座るわけにはいかない。
それに、俺には今ヤりたい事が一つ残っている。それはどうにもこの世界では一般的では無いらしく、これを消化するには元の世界に戻るしか方法はない。
だから俺は召喚した張本人である姫に頼み込み、送還してもらえる手筈となった。
「姫よ、確かに私はもとの世界に戻る。だが此処に私がいたという事実は変わらない。だからそう悲しまないでおくれ」
「……そう、ですね。貴方はこれまでこの世界に色々なものを残してくれました。このペンダントだって貴方が熱心に作ってくれたオリジナルのもの」
そういうと首から下げたお世辞にも傑作とは言えない歪なペンダントを見せつけた。このような小細工に不馴れな俺が一ヶ月の歳月を費やして作り上げ、数年前に誕生日にとプレゼントした不格好なこの品を今も彼女は肌身離さず大切に持ち歩いている。市販のものを送ろうともこれがいいと一点張りだった。
……本当に、俺にはとても惜しい人だ。その気持ちに答えない俺は自分でもなんだが男として最低である。
「これが有る限り私は貴方の事を決して忘れません。……そうだ!貴方が異世界に帰っても私の事を忘れぬようプレゼントを贈ろうとと思います。勇者さま、少し目を瞑っていただけますか?」
「わかった」
二つの返事で了承し、瞳を静かに閉じた。
それから十数秒ほど空いた後に生暖かい吐息が口元に伝わり、間もなく俺の唇に瑞々しくも柔らかなナニカが交わされる。この感触は間違いない……唇だ。
俺は彼女との急な接吻に驚いたように見せるため瞳をかっぴらいた。
彼女はその表情を満足げに受け取り、悪戯っぽい笑みを可愛らしく浮かべながらこう言った。
「フフッ、私のファーストキスですよ?あっちに行っても忘れないでくださいね。……本当は純潔も捧げたかったのですけど」
「ハハハ、御冗談を」
「冗談じゃないですよ!!」
彼女は不満げに頬を赤くなるまで膨らませながら此方を睨んだ。
しかし、今は束の間のひと時。俺が送還されるまでの時間はもうそう残っていない。
彼女もそのことに気付いているのかすぐに表情を変え、今度は満面の笑みを浮かべながら感謝の言葉を口にした。
「勇者様、この度は異世界であるにもかかわらず魔王討伐の任を快くお受けいただきそして、世界平和を取り戻してくださった事、感謝を伝えても伝いきれません。誠にありがとうございます。貴方がお帰りになられた後も何事のない生活が送れるよう心よりお祈りさせていただきます」
「あぁ、ありがとう。……じゃあ、そろそろ行くよ」
「はい。では勇者様……さようなら」
そうして、俺はこの異世界から元の場所。地球へと送還されることとなった。最後、彼女が耐えかねたのか涙を垂らしていたのを見逃さなかったが、彼女を思い俺はそれを忘れることにした。
●●●
時は夕暮れ、とあるコンビニエンスストア前。俺が異世界へと転移される直前にいた場所である。転移され終えてみると年齢は転移直後の17歳になり、教材の多く詰まったバッグを片手に自宅へと帰宅しようとしている男子高校生へと舞い戻っていた。絶え間ない訓練を経て手に入れた筋肉質な身体や異世界で身に着けていた服装がなかった事だったかのように残されてはいなかった。彼女のプレゼントしたものが現物の残る物品などでは無かったのはこれも理由だったのかもしれない。
だがしかし、なかった事にされていないものも何点かある。
一つ目は筋肉質な肉体ではなく異世界にいた時ほどの力はでないものの、平均成人男性を遥かに上回る膂力を備えていた。ちょっと本気で力を入れれば筋繊維はビキビキと嫌な音をたて、筋が断裂しそうな感覚に襲われるため勇者の時ほどの力は出せない。力が内に秘められてはいるものの元の肉体はそれに耐えうる性能ではないのだろう。が、それでもある程度の力は出せるし力を込めたと時の肉体強度もかなりのものだ。まあ、運動をあまりしなかった帰宅部の俺の肉体では筋肉痛不可避だろうがな。
二つ目は異世界に転移したときに身についていたスキルという異世界では常識な超常的能力だ。そこで俺自身に身についていたスキルは《未来予知》というものであり、文字的には未来を予測するように見えるが実際は未来を体験するといった感じだった。スキルを行使した途端、時は止まり俺は現世から切り離され未来へと移行する。その未来で俺は自由に行動でき、その行動で発生する事象を体験することができる。未来から現世へは俺自身の意思でいつでも戻れるが、未来で死亡した場合強制的に現世へと戻される。クールタイムなどはなく何時でも使えるため一見便利に見えるが代償が存在し、行使する際に心臓が鼓動を止めてしまうのだ。そのため多くの未来を体験することは叶わず、長時間いすぎた場合現世に戻った際に同じような行動がとれなくなって体験した意味がないという事態に陥ったりしてしまうこともある。そのためいろいろと気を付けなくてはならない。有能であるのは確かなのだが……。
他にも記憶、経験、技術といったものが残されている。これらを駆使すれば俺の人生はかなり有意義なものとなってくれるであろう。
けど今は今後の人生設計をするよりもこれから起こることについて考えよう。先ほど未来予知のスキルを行使できるといったがそれは当然確かめたからであり、これから十数秒後に目の前のコンビニで強盗が行われることを俺は知っている。対象は男性で顔全体を覆うTHE・強盗といえるような真っ黒な覆面にホームセンターでも売られているような安物包丁を保持している。複数の未来を見たためあまり先の未来を見てはいないがこのまま何もしなければちょうど目に入った女子高生を人質に通報を免れるつもりらしい。もし女子高生よりも俺のほうが近くにいた場合は俺を人質にするらしかった。
異世界で得た驚異的な力のある俺ならば犯行に及ぶ直後に喰いとめることができるだろうがそれでは俺的に勿体ない。
そう思った俺は悠々と店内へと入り込んだ。
「いらっしゃ~せ~」
バイト店員であろう青年が気だるけそうに自動ドアから入店する俺を一瞥すると店内の商品へと視線を戻す。客は少なく漫画を立ち読みする男性が一人、飲み物。主にタピオカミルクティーに視線を向ける女子高生一人に今入店した俺の三人しかおらず、青年は暇そうだった。これから慌ただしくなるがな。
俺はレジ近くの弁当の陳列棚で選ぶフリをして待機し犯人を待った。
「ありがとうございました~」
それから数秒と経たないうちに立ち読みしていた男性が出ていき、すれ違い狭間に覆面犯人が駆け出しながら入店した。
レジ近くで待機する俺に目を付けた覆面犯人は右手に包丁を掲げ俺を取り押さえると刃先をバイト店員のほうに向けて言い放った。
「金を出せ!レジ内のもの総てだ!!それと裏にいるほかの店員も呼べ!!有り金全部寄こすんだ!!通報とか妙な真似してみろ?この小僧の命はないからな!!店内にいるてめぇもだぞ女!!」
「ひっ!!」
女子高生の顔色は見る見るうちに青色へと変化していき、崩れるようにへたり込んでしまった。
「五分だけ待ってやる!この袋に有り金全部詰めろ!!」
「は、はい!」
青年の気だるけだった顔は見る影もなく、張り詰めたような緊迫した表情でレジの金をエスパー●東が入ってそうなボストンバッグへと札小銭構わず抛りこんでいく。裏にいた店員も決して厚いとは言えない札束を数個抱えて飛び出し、残さずボストンバッグへと詰め込んだ。
「もうないな?」
覆面犯人は凄むように店員二人を睨むと、視線に充てられた店員は無言で何度も首を縦に振った。
「よし、来い小僧!!」
「……」
「てめぇらも分かてんだろうな?もし通報でもしたら……」
「は、はいぃぃ!!」
最後の脅迫を終えた覆面犯人は包丁を俺に向けると無抵抗の俺を盾にしながら前へと押し出すように無理やり外へ連れ出していった。
コンビニから出ればそれは会社帰り、学校帰りの通行人ばかり。俺と覆面犯人の体勢から異常事態だと察したのか囲うようにやじ馬が集まり覆面犯人を中心に円が形成された。
「よるな!!散れっ!!散れっ!!」
覆面犯人の威圧的な言葉に人々は一瞬後ずさるが尚も円が崩れることはない。
覆面犯人はその状況を半ばあきらめたようにある一点の方向へと一直線に駆け出す。そこで俺はすかさず未来予知を行使し未来を体験した。
どうやら覆面犯人は仲間のいる逃走用の車に向かっているらしかった。仲間は一人。よくよく確認してみればそれは立ち読みしていたコンビニの客で会った。恐らく仲間の退出が犯行の合図だったのだろう。道理で覆面犯人とすれ違っても驚いた反応を見せないはずだ。
しかし、それならこの状況をもう少し維持しなければならない。まぁ、俺にとっては願ってもないことだが。
数秒としないうちに逃走車のところへとたどり着き、覆面犯人は仲間と合流する。
「金は手に入れた。早くとんずらするぞ」
「そのつもりだ。それよりそのガキはどうするつもりだ?」
「小僧は念のため人質として持っていくのが得策だろう。サツから逃げやすくなる」
「それもそうだな。おいガキ」
「ハァハァ……え、あ、はい」
「走らせすぎたか?体力のねぇ小僧だ」
「いや、すみません。ちょっと興奮しちゃって」
「あ??」
突飛な言動に覆面犯人と仲間である立ち読み犯人は共に疑問の念を浮かべるが、俺が覆面犯人を上目遣いで情熱的な視線を送っているということに気付いたことで、先に覆面犯人が事の実態を理解した。
人ももういないし、異世界では堪能出来なかったからもういいよね?
「まさかこいつ……嘘だろ??」
「はぁ……かたい胸板、汗ばんだ衣服、男性特有の体臭……イイっ!!」
「うわっ、こいつまじかよ!!ホモじゃねぇか!!!」
覆面犯人は人質として扱うはずの俺を乱暴に引き離そうとするが逆に俺は男をホールドし、離れない。もう離さない。もうちょっと堪能させろ。
俺の異世界で手にいれた力を駆使して離さないようしているため、覆面犯人はもがくのみで一向に離すことができそうにない。
立ち読み犯人は加勢しようと後ろから俺を掴むが尚も離れず、俺としては男二人に挟まれているという美味しい状況に……。
「ぐへへへっ……おっと」
「てめぇ!涎を垂らすんじゃねぇ!」
欲望を抑え込む器は既に崩れ、俺はもう自重をしらない。
異世界行ってから俺は様々な女を抱いた。勇者の子孫が欲しいやらなんやらが関係していたのだろう。姫はファーストキスと言っていたが俺にとってはファーストキスでもなんでもなく、悲しいことにさほど驚きを感じはしなかった。
旅をするごとに名声が高まっていたためか女の迫ってくる人数は日に日に増えていき、抱いた数や回数は数えきれない人数まで達していた。
そして、女を抱くごとにいろいろなプレイを行い、飽きぬよう試行錯誤を繰り返したのだが人間は新しいものを求めたがる生き物。それらの俗的行為には次第に飽きていき、そろそろ新鮮なものを味わいたいと考えた時に思い出したのが男と男のプレイだった。
しかし、異世界は地球とは違い神がみっちり隅々まで世界を管理しているらしく、戦争の絶えないあの世界に対し繁栄の神様は人口が足りなくならぬよう異性しか愛せないという一種の呪いのようなものを付与した。
俺はそれのせいで男をベッドに誘おうともだれも応じてくれなかった。興味を持つ者すらいない。
ならば現代日本でなら!と考え、姫を置いて行ってまで新しいことを選んだ俺の今に至る。
この選択をとった以上、俺は絶対男の恋人を現代日本で作ろうと考えたのだ。
しかしまあ、男があんなに魅力的に見えるとは、異世界でためすぎたのがよくなかった。このままだったら絶対犯罪を犯していた。このことに関しては本当にコンビニ強盗ナイスに限りますわ。
おっと、いつまでもここにいるわけにもいかない。コンビニのお金はしっかり返してもらわねば。
俺はそう考えると犯人達を身体能力を駆使して楽々制圧し、コンビニ前へ金とともに突き出し、霧のようにコンビニ前から姿を消した。
「さて、まずどうするか。……とりあえずアパートでお隣さんのダンディお父さんでも誘うとしようか」
俺はそう言い残し、明日へめざして歩みだしたのだった。
「やっぱ性癖とか色々……異世界行ったら変わるよなっ!!」
終わり
別にホモをバカにしているわけではありません。
ただ単純に主人公をホモにしてみたいなという浅ましい考えからできた作品です。
異世界要素入れたのは……なろうだからですかね。
この作品に対する評価とかは特に求めておりません。ノリで書いた作品なので。
ちなみにわかってくれているかと思いますが序盤は正直茶番です。ただ主人公はいなくなることを考慮せずに一国の重用人物を抱くような最低男にしたくなかったために入れたものです。
では、最後まで読んでくださりありがとうございました。更新頻度はかなり低めですが投稿しているほかの作品もございますので是非見ていってください。