カプセルと将来
僕たちは千葉に行くつもりだったがどう間違えたか宇都宮方面へと走っていた。さらばチーバくん。勝浦坦々麺を食べたかった。
「本当に餃子の像ってあるんだな。うける~」
餃子にはビールというわけでさっそく駐車場を確保してネットカフェを探すとカプセルホテルが見つかった。
「たっくん、カプセルホテルって泊まったことあるか?」
「無いな。安いし行って見るか?」
「何事も経験だ」
とりあえずチェックインしてロッカーに荷物を入れる、設備を見て回った。風呂にサウナ、イヤホンのみだがテレビもある。
しかし狭いな。入ったはいいが出られなくなるんじゃないか?
とりあえず僕たちは餃子アンドビールと言う世に言うゴールデンバッテリーを味わいに外に出た。
「満足した!」
餃子のハシゴと言う訳の分からない事をして腹一杯になった俺たちはカプセルホテルに戻った。
風呂に入り、何とかカプセルの中に潜りこみ、テレビを見ていると怪獣が現れた。
地を揺らすようなイビキが聞こえてきた。
うるさいと思いながらも疲れとアルコール、満腹感に風呂上がりの暖かさが俺を闇の中に優しく引きずり込んだ。
「昨日は眠れたか?」
コウが俺に聞いてきた。
「イビキか? 初め気になってたけどいつのまにか寝てたよ」
「案外とたっくんって図太いよな」
僕達は福島に入った。
あの未曾有の震災から一年以上経っていたが、まだ瓦礫が残っているところもあった。
あのテレビの中の風景が実際どうだったのか、今回の旅の目的の一つだった。
ただ、見るだけ。
傍観者の僕たちは工事車両や復旧工事の邪魔にならないように通り過ぎながら見ることしかできなかった。
名取を抜けて仙台を抜けて野宿する場所を探す。
「なあ、たっくん。死なんていつどこから襲ってくるかわからないんだろうな」
コウはビールを飲みながら言った。
「まあな。極論言うと明日バイクで走ってて転んで死亡って可能性だってあるからな」
「そうだよな。そのくせどんなに用心深く生きたってあと百年もしないうちに確実に死ぬんだよな。生まれた瞬間にいつかは死ぬ運命にあるんだよな」
「どんな偉人も天才も聖人も今まで不死は達成できなかったからな。僕達はもいつかは必ず死ぬんだろうな。実感ないけど」
僕はつまみの珍味を口に運ぶ。
「たっくんは死ぬまでにやってみたいことはあるか?」
出た! この質問。
「笑うなよ」
「笑わせるつもりか?」
「まあ、色々あるけど。彼女をつくってセックスしたい。それまでは死ねない。だから帰ったら合コンよろしく」
「そんなの金貯めて風俗行けよ」
「初めては彼女がいいの」
「乙女かよ。経験者に導いてもらった方が緊張しなくて済むぞ」
「コウ、おまえ、まさか!」
「お店じゃないぞ。高校の時に二つ上の先輩に、な」
「それでコウは何やりたいんだ?」
「何でも」
「何でも?」
「ああ、経験してない事、知らない事を全部知りたい。経験したい。そして最後に死ぬ瞬間を知りたい」
「死ぬ瞬間?」
「ああ、死ぬ瞬間って一生に一度だけだろう。やりたいこと全部やって、最後の楽しみで死ぬ瞬間を知りたい。手始めが今回の日本一周だ」
「将来も何か決めてるのか?」
「卒業したら海外青年協力隊に行こうと思ってる。それから海外に関係した仕事がしてみたいな。やっぱり世界を見てみた。たっくんは将来の夢はあるのか?」
「まだ何にも考えてないな。卒業するまでに考えるよ」