彼女と旅行
「はぁ? 初めて聞いたぞ」
「そりゃあ、言ってないからな」
「なんで言ってくれないんだ。水くさいな。それで頭金髪にしたのか?」
コウは金色の短い髪を触って言った。
「いや、髪染めてからできたんだけどな、彼女」
「まあいいや、それでどんな人だ紹介しろよ。彼女の友達を」
「軽音部の先輩に美人がいるって言ってただろう。その子だよ。軽音部ってけっこう飲み会が多いから、先輩たちとも話す機会が多いのさ。その飲み会の帰りにうまく二人っきりになったからそこで告ったのさ。美人って既に彼氏がいるだろうってみんな遠慮していたみたいだから、そこをズバッと直球勝負よ」
そう言いながら俺に指さすコウはにやっと笑った。
「コウ、お前高校時代にも彼女いただろう」
「わかるか? こっち来る前に分かれたけどな。遠距離恋愛はどっちみち続かないからな」
「お前、ちゃんと別れたんだろうな。夏休み地元に帰りづらいし、彼女が実家に帰るからヒマで日本一周なんて計画したんじゃなかろうな」
「それはたっくんの判断にお任せしますよ」
まあ、いいや。こいつがどういう考えで今回の旅行を計画したのかしれないが、実際僕はワクワクしている。
そのためにゴールデンウイークもつぶしてバイトしたんだ。
「まあ彼女の件、僕に黙っていたお詫びに合コンか彼女の友達紹介しろよ。マジで」
「そのうちな」
テニス部辞めたらどこか緩いサークルにでも入らないと四年間彼女ができそうにないな、僕。
期末試験は可もなく不可もなく終わった。
お楽しみの夏休みだ。
僕たちは寝袋や簡易のテント、ランタンにバーナー、ナイフやコップも買った。
それをバッグに詰めてバイクの後ろに取り付けた。
ウエストポーチに財布を入れて出発だ。
今回はバイク用のインカムは無しだ。合図は手信号。不便さも今回の旅の醍醐味だ。
まずは九州を脱出する。
そのために大分を目指して走る。
僕は黒いオンロードバイク、コウは緑のオフロードバイクで走る。
出だしの天気は最高! 朝早く交通量も少なく涼しい。
街中を抜け田舎道に入る。
山道を通り大分へ目指す。急ぐ旅ではないので休憩を挟みながら走る。休むたびにコウは携帯で写真を撮ってSNSにアップしていた。
「たっくんはSNSやらないのか?」
「めんどくさい。人のは見るけどな」
僕たちは昼前に大分に着いた。
「飯どうする?」
「名物食べ歩きしたいけど金が持つかな?」
十分な資金を持ってきたとは言え先は長い。
「大分ならいつでも来れるから、どうせなら松山入ってメシにしようぜ」
まあ、確かにそうだ。
僕たちはガソリンを入れて船に乗る。
ガソリンは僕たちの生命線だ。
走行距離と入れたガソリンの量から燃費を計算する。
ガソリンはカードで払える所はなるべくカードで払い、現金を温存する。
この旅のために始めてカードを作ったが便利だな。
「便利だけど結局は借金でからな」
学生でもカードが作れるってある意味怖いかも。
愛媛まで二時間かからない。
そこで一つの発見があった。
コウは船に弱い。
どうやらそれまで船に乗ったことがなかったらしく、出発前から気分が悪くなっていた。
僕はこれからのルートで船をなるべく排除することにした。
港についてからもしばらく休んだ後、僕たちは松山に入った。
もう腹ペコだった。
暑い夏に熱いアルミ鍋の鍋焼うどんを食べた。
猫舌の僕は取り皿をもらい、汗だくになって食べた。
店の外の風がやけに涼しく感じた。
道後温泉に入ろうかと言う話も出たが、高知でカツオのたたきが食べたいと言うコウのために先を急いだ。
ここで一つ問題がおきた。