動物園と夜景
田所が晴れ女か? 秋晴れが広がる空。
「なんでこんなかっこいい車にしたんですか?」
「せっかく借りるんだったら、たまにはこんな車もいいだろう」
黒いツーシーターのスポーツカーでドライブを楽しみながら動物園に行く。
「まあ、いいんですけど。あたし、オートマ限定ですから運転代わってあげられませんよ」
いやいや、この車を初心者に運転させないよ。レンタカーとは言え。
たまにレンタカーを借りていた運転してたとは言え、僕だって一日前に借りて練習したんだから。
「大丈夫。田所に運転させるつもりはないよ。今日は気にせず楽しんでくれればいいよ」
「まあ、隣に座ってる分には楽チンで楽しいですけどね。カピパラ楽しみ~」
ナビの予想ではあと十分もかからないはずだが、本当にこの先に動物園があるのか?
田舎道を進むと看板が見えてホッとする。
車を降りた田所が叫び声をあげた。
「ラマ~!」
入口にラマがお出迎えをしていた。
動きやすいデニムスカートに薄手のボーダーシャツの田所がラマに夢中になっている間に僕はチケットを購入する。
「行くぞ~カピパラが待ってるぞ」
「は~い」
園内には色々な動物がいて餌を売っており、餌をあげることができるのが楽しい。
きゃっきゃと騒ぐ田所を見ていると僕も童心に帰り、一緒に騒ぐ。
秋なのに蒸し暑い大温室でコウモリやナマケモノを探し、途中の広場で軽く食事をするとお待ちかねのカピパラだ。
「たっくん先輩。カピパラの毛って案外硬いんですね」
ゴロンとして大人しく触らせてくれるカピパラに田所大興奮。
「写真撮ってやるよ」
「あとで送ってくださいね」
可愛くピースサインでカピパラと写り、田所大満足。
「冬にはカピパラの温泉があるみたいですよ。また来ましょうよ」
「いいけど、そんなにカピパラ好きか?」
「え~可愛くないですか? この何とも言えない間抜けな顔……たっくん先輩ってよく見るとカピパラに似てません?」
そう言ってカピパラと僕の顔を見比べる。
「おまえ、それって僕が間抜け顔だって言っているようなもんだぞ」
「たっくん先輩何言ってるんですか? そう言ってるんですよ。アッハハハ」
「ほっほ~う。良い覚悟だ、田所。夜はちゃんぽんから皿うどんに降格だ」
「それって降格になるんですか~?」
ケラケラ明るく笑う。
「たっくん先輩! 助けてください!」
「やだ」
「ね、ね、早く。きゃ! 助けてくださいよ」
「はいはい、笑って、笑って」
僕は三匹のリスザルが乗っかっている田所の写真を撮りながら笑う。
餌を求めてリスザルが集まってくる。
「あのお姉ちゃんすごい。いいな」
小さな女の子がサルに好かれる女性を見ながら羨ましそうに話す。
僕は女の子を手招きしてその小さな手に餌を渡す。
「田所、動くなよ」
リスザルは田所から女の子へ興味が移ったようだ。
「薄情者! あれだけ助けてって言ったのに~」
「ほら見てみろ。あの子の笑顔はお前のおかげだ。よくやった」
「あ、ありがとうございます。……なんか騙されてる気がする」
釈然としない顔の田所は歩き始める。
「たっくん先輩、カバですよ~おっきい口」
すぐ下にいるカバは大きな口を開けて餌をねだる。
「たっくん先輩?」
カバを見てほうけていた僕に声をかける。
「あ、ごめんごめん。子供の時に弟が同じようにカバを見てはしゃいでたのを思い出したんだ」
「……大丈夫ですか?」
心配そうに僕を見る。
「大丈夫だよ。ごめんごめん。カバって大きいよな」
「近くで見ると結構怖いですよね」
「カバって子供を守るためならワニとも戦うらしいぞ」
「多分それは母親カバですよ。女はいざとなったら強いですよ」
僕たちは動物たちとのふれあいを充分楽しんだあと、長崎市内へと車を走らせる。
「こっわ!」
慣れない車、慣れない道。
市内に入ると道路の真ん中には電車が通り異様に多いバイクと渋滞。
すり鉢状の地形に少ない平地のため駐車も少ない。
「ちゃんぽんと皿うどんを頼んでシェアしません?」
「餃子も頼むか?」
「餃子ですか……」
「嫌いだったっけ?」
躊躇する田所。あまり好き嫌いは無かったはずだけどな。
「お客様、当店の餃子はニンニクを使用してませんのでご安心ください」
「じゃあ、一人前お願いします。あとデザートでゴマ団子を良いですか?」
匂いを気にしてたのか。
「杏仁豆腐も食べるか?」
「食べます!」
「ちゃんぽんと皿うどんに餃子を一人前、ゴマ団子と杏仁豆腐を二人前、お願いします。あと取り皿をお願いします」
ちゃんぽんがいいか、皿うどんがいいか。皿うどんにからしをつけるか、お酢をかけるか、ソースをかけるか。そんな話しをしながら楽しく食事をしたあと、稲佐山へ向かう。
長崎市の有名な三大夜景スポット稲佐山、鍋冠山、風頭山のひとつ。
ふもとからロープウェイに乗る。
「ここからでも夜景が見えるんですね」
ロープウェイから外を見た田所が呟く。
街明かりだけであれば福岡の方が明るい。
展望台から見える景色は海と街明かりのコントラストが美しい。
「寒くないか?」
僕はジャケットを脱いで田所に渡す。
「ありがとうございます。日が暮れるとやっぱり肌寒いですね」
僕たちは静かに夜景を見る。
思ったより田所のテンションが高くない。
「なあ、田所」
「はい」
「いや、ごめん。何でもない」
「? なんですか? 気になる」
田所が僕に迫る。
「……。付き合ってくれ」
「え!?」
「好きだ。付き合って欲しい」
「……」
ダメか。
「今日の車や夜景はこのためですよね。……もう一度お願いします。達也さん」
美しい女性が期待をした目で僕を見つめる。
「僕と付き合ってください。好きだ、唯」
「あたしも好きです。よろしくお願いします。たっくん」
そう言いながら僕に抱きつく唯からいい香りがする。
唯は僕を見上げて、目を静かに閉じる。
満天の星空、静かな水面、優しい街灯り。
僕たちは優しいキスをした。




