葬儀と卵焼き
今日、僕は葬儀に参列した。
晴れた空が無性に腹ただしかった。
急きょ買ってきた喪服がなんだか着心地が悪く感じながらも集まってくれた親戚の相手をする。
「若いのに、かわいそうに」
みんな口をそろえて言っていた。
「やりたいことがたくさんあっただろうに」
みんな考えることは一緒だ。
僕は今はつらいだろうけど、将来のために我慢しろと弟に言った。
この先何があるかわからないのだから刹那的に生きろと言った方が良かったのだろうか?
わからない。
弟は幸せだったのだろうか? 弟から見て僕は良い兄だったのだろうか? なにかもっと兄としてできることがあったのだろうか?
わからない。
死は誰にでも平等にやってくる。でもいつ来るかはわからない。だから今を精いっぱい生きろと誰かが言っていた気がする。弟は小学生から続けていた野球を精いっぱいやっていた。それで幸せだったのだろうか?
わからない。
いくら考えても答えは出ない。
葬儀は終わる。
「いつまでこっちにいられるんだ? 学校は大丈夫か?」
「明日帰ろうかと思うけど、……母さんは大丈夫か?」
「そうか。大丈夫かどうかはわからないけど、なんとかするしかないだろう。まだまだやらなきゃいけないこともあるしな」
親父は疲れた顔を隠して言った。
「体には気をつけろよ」
次の日、昼過ぎの電車に乗った。
夕方にはたどり着くだろう。
僕はコウに今日の夕方家に着くから明日からは大学に行けるとメールを打ち、買っておいた漫画や小説を読む。
考えるな。
考えても時間は戻らない。思考が堂々巡りをするだけだ。
途中で酒とつまみを買いアパートへ戻る。風呂に入って酔っ払って寝よう。明日からは普通の生活だ。
僕の部屋の窓から明かりが見える。電気消し忘れたのかな。まあいいや。
ポストの鍵を取り、ドアを開ける。
女物の靴が目に飛び込んだと同時だった。
「お帰りなさい」
「なんで居るんだ?」
僕はコウにしか連絡していない。
「お風呂沸かしてますよ。先に入りませんか?」
なにやら美味そうな匂いもする。
「……ああ」
僕は荷物を田所に預けて風呂に入ると移動の疲れが取れていくのを感じた。
風呂から上がるとテーブルには僕が買ってきたつまみでは無く、二人分のちゃんとした食事が用意してあった。部屋に入った時の匂いは肉じゃがか。
「たっくん先輩、飲みますよね」
そう言って田所は僕の買ってきたビールを持ってきてくれた。
「ああ、だけどどうしたんだ? これ」
「コウさんから先輩が帰ってくるって聞いたので作ったんですけど、迷惑でしたか?」
田所はちょっと心配そうに僕を見る。
「いや、ありがとう。助かる」
「じゃあ、冷めないうちに食べましょう」
パッと明るく言って僕の斜め前に座ってきゅうりの浅漬けに手をつける。
「よかった。良い感じに漬かってますよ。たっくん先輩もほら」
コリコリと心地いい食感のきゅうりを飲み込む。
「ビールもどうぞ」
そう言って田所が注いでくれたビールを僕は飲む。
黙って豚肉の生姜焼きに手をつける。
田所も黙ってご飯を食べ、僕にビールを注いでくれる。
「チジミのタレは全部にかけちゃいますね」
「ああ」
チジミにも手をつける。
「弟な」
「はい」
「間に合わなかった」
「そうですか」
「外傷がほとんどなくて、まるで寝てるだけのようだったよ」
「そうなんですね」
「特に仲がいいわけじゃなかったんだ」
「ええ」
「かと言って仲が悪かったかけじゃなかったと思う。小さい頃は良く僕の後ろについて遊びに行ってたんだ」
「そうだったんですね」
「なのに」
「はい」
「涙が出なかったんだ。悲しくないわけじゃないだ」
「ええ」
「なんだか夢の中にいるようで涙が出なかったんだ。弟のために泣くこともできない」
田所が僕に向き直り、両手を広げて僕を包み込む。
ぎゅっと抱きしめられ、頭をなでられる。
「いいんですよ。泣いても泣かなくても、弟さんのために悲しんでいることは、弟さんにちゃんと届いてますよ」
急に涙が溢れてきた。
さらに強く、優しく抱きしめてくれる。
止まらない涙。黙って抱きしめてくれる。
どのくらいそうしていたのだろうか。
僕は田所から離れた。
僕たちは食事を続けた。
「うまいな、この卵焼き」




