電話と病院
その日は金曜日、新作ゲームをやるぞとコウと田所が僕の家に集まっていた。
夜の七時前に僕の携帯が鳴った。
親父からだった。こんな時間に珍しいと思いながら電話に出る。
「もしもし、どうした? 親父」
「達也、お前今どこで何をしてる?」
周りが何やら騒がしい。
「家で友達とゲームしてるけど」
「そうか。落ち着いて聞いてくれ。和彦が車にはねられて危篤状態だ。すぐ帰ってこれるか?」
弟が危篤!?
「大丈夫だけど、酒飲んでるぞバイクに乗れない」
「落ち着け。新幹線で新尾道まで来れるか? 新尾道まで秀雄に迎えに行かせる」
「秀叔父さんか。わかった。新尾道に着く時間は新幹線に乗ってからメールで連絡する。あとで叔父さんの電話番号を送っといて」
「達也、お金は持ってるのか?」
「カードがあるから何とかする」
僕は財布の中身を確認する。現金は一万円もないがカードが入っているのを確認する。去年の日本一周のために作っておいて良かった。
「どうした?」
バタバタと出かける用意をする僕にコウが声をかけた。
「弟が交通事故にあって危篤状態らしい。これから実家に帰ってくる」
「え! ……何か手伝えること、ありますか?」
「タクシーは呼んでおいたぞ。酒飲んでなければ駅まで送ってやれたんだけどな」
「田所、ありがとう。部屋の始末だけしてカギはポストにでも入れておいてくれ。コウ、サンキュー。あと金持ってるか?」
コウは財布をのぞき込み、五千円を出す。
「すまん。今これしかない」
「あたし、一万あります」
「悪いな。帰ってきたら返すから」
僕は二人に礼を言って靴を履く。
「月曜日までに戻れそうになければ連絡をくれ、大学には言っとく」
「了解だ。向こうを出る前には連絡する」
僕はバックを肩にかけ、ドアに手をかける。
「先輩、気を付けて」
田所の言葉に片手をあげて答えたあと、僕は駅に向かった。
新幹線に乗り込むと携帯で調べた到着時刻を親父にメールする。
広島で乗り換えて新尾道まで約一時間半、気持ちだけ焦って、何がどうなっているのか気持ちの整理がつかない。
弟は危篤状態だと言っていたけどどの程度なのか? なんで交通事故になんかあったのか? 心がぐちゃぐちゃだった。真っ暗な景色に目をやっても落ち着かない。実は夢の中なのではないだろうかと疑ってみたりもする。
新尾道で叔父さんに無事合流できたことを親父にメールした。
「わざわざ迎えに来てくれてありがとうございます」
「いいって。しかし大変なことになったな」
叔父さんは車を運転しながらそう言った。
「弟はどんな状態ですか?」
「頭を強く打ったみたいで意識がない。脈も弱くていつ止まってもおかしくない状態だ」
「なんで交通事故にあったか知ってますか?」
「詳しくは兄貴に聞いてほしいんだがな。どうやら自転車で塾に向かっている途中に後ろから来た車と接触して、塀に頭をぶつけたみたいなんだ。自転車が倒れて地面にも頭をぶつけたみたいで、運転手がすぐに救急車を呼んでくれたんだがな」
「そうですか」
僕は弟が塾に行っていることすら知らなかった。
病院に着くと両親が待っていた。
母さんが泣いている。
「ちょっと前に息を引き取ったよ」
親父はそう言って学生服で眠る弟のベットの横を空けてくれた。
僕はそっと弟の頬を触ってみる。暖かい。ただ眠っているようだ。
みんなで僕をからかっているのではないかと見まわしてみる。
親父は部屋の外で何やら話をしている。
「なあ、たっくん。死なんていつどこから襲ってくるかわからないんだろうな」
福島で聞いたコウの言葉が急によみがえった。




