目覚まし時計と口紅
土曜日の午前中に携帯電話が鳴った。
「たっくん先輩、まだ寝てるんですか? 約束おぼえてますか?」
田所だ。一緒に昼飯を食べて買い出しに行く約束をしていた。
僕は時計を見ると約束の一時間前だった。これから支度をしても十分間に合う。
「ありがとう。目覚まし時計。あと十分したらよろしく」
「誰が目覚ましですか! 子供ですか? 死にますか?」
僕は仕方なく起きると出かける準備をした。
実は昨日の夜に部屋の片づけをして、寝るのが遅くなってしまったのだ。
身支度をすませ、財布の中身を確認する。
「さて、行きますか」
待ち合わせ場所の駅前に行くと明るい花柄のワンピースを着た田所がすでに待っていた。
時計を確認すると待ち合わせ時間の五分前だった。
「ごめ~ん。まった~?」
「いや、僕も今来たところだよってセリフが逆でしょう!」
相変わらずノリのいい後輩だ。
「今日はどうした? かわいい服着てるじゃないか。よく似合ってるぞ」
「え、ありがとうございます。……先輩、熱ないですよね?」
「賛辞は素直に受け取っとけ」
「これ、入学祝いにお姉ちゃんが買ってくれたんです」
「お姉さん、いい趣味してるんじゃないか。さて飯でも食いに行くか? 腹ペコだ。何が食べたい?」
「なんでもいいんですか?」
「なんでもいいぞ。ビュッフェに行って夕飯食べられないくらい食べても平気だ」
「夜まで時間がありますから大丈夫ですよ~。たっくん先輩のおすすめありますか?」
「ラーメンかカレーなら引き出しは多いぞ」
深いため息をつかれた。
「たっくん先輩に彼女がいない理由が分かりました。今日の服をほめてくれてその選択肢ですか? それってどうなんですか? 死にますか?」
「わるかったよ。パスタでいいか? パンケーキもあるし」
「その選択肢を一番に出してくださいよ~。ちなみにラーメンとカレーはまた別の機会にお願いします」
結局ラーメンもカレーも好きなんじゃないか。
行列に並びおしゃれな店内に入ると、ほとんどが女性客だ。
あっちこっちでスマホで写真を撮っている音がする。
「そういや田所は料理の写真とか取らないのか?」
「料理は出来立てが一番! 写真がほしければお店のホームページを見ればプロが撮った写真が載ってますよ」
「それもそうだな。デザート来たぞ」
パスタを食べ終わった僕たちに二人分のパンケーキが運ばれてきた。
僕はブルーベリーソース、田所はイチゴソースのクリームたっぷりのパンケーキを僕たちはほおばる。
「たっくん先輩って甘いものもいけるんですね」
「どちらかっていうと甘党だ。逆に辛すぎるのは苦手だな」
「たっくん先輩は子供ですか。もしかして卵焼きは……」
「甘いのが好きだがなんか文句あるか?」
「いいえ、あたしも甘い方が好きですよ。じゃあ、今度スイーツの美味しい店に行きましょうか?」
「田所」
僕はじっと見つめる。
「ぜひお願いします」
その後、僕たちはショッピングモールへと移動することにした。
揚げ物の予定らしく天ぷら鍋やボールなどの基本的な調理器具を買いに来たのだが、田所が化粧品売り場で止まってしまった。
化粧っ気のない健康的な笑顔が売りじゃないのか? と言う言葉を僕は飲み込んだ。
「田所も化粧するのか?」
「高校時代は全くだったんですけど、これからは大人の女性として人並みには必要かなとは思ってますよ」
「……口紅一本買ってやるよ。何色がいい?」
その言葉に田所はびっくりしていた。
「先輩! それって……」
「別にそんなに高くないし気にするな。入学祝いみたいなものだ」
田所は軽く息を吐く。
「ですよね~。色はたっくん先輩が選んでくださいよ」
「良いのか? 俺色に染まっていくぜ」
「壁ドンしたい派ですか? 少女漫画ですか? 死にますか?」
「そう言う田所も嫌いじゃないんだろ、少女漫画みたいな王子様」
「え、なんでそれを……」
マジですか田所さん。




