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(終) 冤罪ヒーロー ~異世界で冤罪になりました! ……は?  作者: 玉・深森りん
~この世界の現状~
2/6

拷問されても気にするな

前回のあらすじ 今助けるぞ!お爺ちゃん!



気がつくと、暗い部屋の中にいた。目の前には鉄格子、両手には鎖。

誰が見てもわかるように、俺は牢獄にいた。


今、俺は突起物が付いた椅子の上に座っている。

膝の上には重石なのか、直径50cmぐらいの黒い石が置かれていた。


……は? なんだこれ。


困惑、気がつくと自分が拷問紛いな事をされているのだから、当然だ。


……なんだよ、これ、何が起きてるんだよ!?


手錠が付いた自分の両手を交互に見ながら、困惑の声を漏らす。……漏らす?

……聞こえない。声を出すと聞こえる自分の声が、聞こえない。


「ひゅー……こひゅー……」


声が……出ない。

なんなんだよ……誰がこんなことを……


……もう一つ気づいたことがある。

それは左目だけ目を背けたくなるような暗黒だった事だ。


……背ける目がないんだったな。面白いジョークだ。


俺の目の前のテーブルには、懐かしい俺の赤色左目が浮かぶ瓶があった。


……ふざけるな。俺が何をしたって言うんだよ!

俺をこんな目に遭わせて何になるって言うんだよ!


声が出ないこともわかりながら、目の前の瓶に入った自分の目に向かって大声で叫ぶ。


すると、「メキメキ」と気持ちの良い音がして、左手の爪が剥がれていった。

綺麗に弾けとんだ爪、指から流れ出る血、これを見て恐怖は感じるが、……不思議と痛みは無い。


……もう、体が慣れてしまったのだろうか。 


視線を戻すと右手が床に落ちていた。

音もなく落ちるなんて……全く気がつかなかった。さすがに腕が落ちると少し痛い。 


他から見れば、今の光景は目を疑いたくなるような、信じがたい光景だっただろう。

だが、意味もわからない理不尽に、もう一度遭遇した俺は、驚く気力、いや、そこに至るまでの思考が働いていなかった。


痛みに紛らわすようにキョロキョロ視点を動かしていると、不意に自分の体が気になった。

よく見ると、俺の体は傷だらけなことに気がついた。

右手、左手、左目、爪、あらゆる箇所から血が溢れていた。


石が黒いのは俺の血のせいだったのか……


それからは一瞬だった。ずっと誤魔化してきた激痛と戦っている時は時間なんて気にならなかった。

先程、拷問紛いと言ったが、それには語弊があった。これは、拷問そのものだ。


……辛い、痛い、憎い。


悲しみから憎しみへ、憎しみから絶望へ、感情はコロコロ変わっていった。


あと、どれくらいこれに耐えなければいけないのだろう。もう、いっそ――





「言語翻訳ヲ解除シマシタ」


あれからどれくらいたっただろう。自分の歯軋りしか聞こえなかった耳に違う音が聞こえた。


声が……聞こえた。他にも誰かいるのか?

いやその可能性は低いな。犯人の可能性の方が高い。



「……おい、生きてるか?」



姿の見えぬ相手を警戒していると普通にドアから鎧を着た男が出てきた。

悲しげな顔とは裏腹に手には血まみれのペンチを持っていた。



「……! っっ……!!」


「怖いか? 俺も怖いよ、だから……話してくれないか? お前の……罪を」



こいつは何を言ってるんだろう。俺が罪を犯したとでも言うのか? 馬鹿馬鹿しい。

そもそも、俺今話せないし。俺の事をこんなふうにしたのはお前じゃないのか?

今さらしらを切る気か? ゴミだな。



「なんだよ、睨むなよ。お前が話せるのは分かってるんだぞ」


「……?」



なにを言ってるんだ? 手のペンチや腰のノコギリ。

俺を拷問したのは間違いなくこいつだろう。

俺は声が出ないんだ。わかるだろ? お前がやったんだから。



「いつまでそうしているんだ…… さっさと念話を使えよ……」



念話? 何ファンタジーみたいな話してるんだ。一体何が目的なんだ。



「まだか? 今日は時間が無いんだ。……おい! 誤魔化せると思うなよ! お前のシナーデータは確認済みなんだ。あの化け物みたいなステータスをよく今まで隠せてきたな。だが、今度はそうはいかねえぞ」



???


何を言ってるんだ? シナー……なんだって? 

化け物はお前だろうが、くそが…… 俺が何をしたって言うんだよ!



「ああっ! くそっ! 時間切れだ。糞野郎。……いくぞ」



男はそう言いながら俺の膝の上の石を退かし、手の拘束を解いてくれた。

だが、代わりの首に鎖をつけられ、剣を突きつけられながら歩かされた。


牢獄から出ると、長い廊下があり、所々壁に松明が刺さっていた。


足にあまり傷が無かったのは歩かせるためだったからだろう。

壁に刺さる松明は現代の照明しか見たことの無い者からは違法の臭いしかしなかった。


「止まれ」

男がそう呟く。



「はあ、こんな上物が支給されるなんてな。お前はそれほど重要な情報を持ってるんだろうな。……少しでも吐かせることが出来たら俺も昇格しただろうに。くそっ!」


男が怒鳴りながら俺を蹴ってきた。

反射的に右手でそれをガードする。


あれ? 右手……?


視線を右手があった場所に戻すと、ちぎれ落ちたはずの右手が

しっかりと男の足から体を守っているのが見えた。


それだけではなく、俺の体からは全ての傷が消えていた。


……見える。両目が。動く。両手が。

やった! 良かった!


体が元に戻り、安心した俺は、自分の元通りになった目から溢れる涙に気がつかなかった。


すると、俺の感動を遮るようにゴミの声が聞こえてきた。


「は……はは、やっぱお前、化け物だよ……」

「……化け物はどっちだよ、人をゴミ見たいに扱いやがって」


どうやら、男も驚いているようだった。

俺も、自身に何が起こったのかわからない。

だが、その事を気づかれるとまた、馬鹿にされそうだったので、

困惑を隠しながら精一杯の悪態を吐いた。


「声帯もなおったのか、ポーションは使わず仕舞いだったな」


そう言って、男はポーション? とやらを鎧の中に仕舞った。


それ、何に使うかは知らないが、高いやつなんだろ?

こいつ、セコいな。プライドとか無いのかよ。


「なんだ、その目は」

「別に、泥棒を軽蔑している目だよ」


鼻で笑いながら、男を馬鹿にする。


「ふん! 何が泥棒だ、これは支給されたんだ。そもそも罪人はお前だろう」

「それだ、俺が何をしたって言うんだよ」

「知るか、……さあ、ついたぞ」


男は俺の尻を蹴り、視線を前の扉に向けさせた。

視線の先には、金で装飾された、鉄? の扉があった。


男は言った。

「お前の罪は、今から聞けるさ」


男が剣で床を三回叩くと、分厚い扉が音をたてて開いた。

薄暗い通路に明るい光が差し込む、しかし、暗闇に慣れた目には眩しすぎて、俺は目を瞑る。


俺は、その閉じた目を開けなければ良かったと、後々後悔することになった。


人は、誰の為に手を汚すのでしょうか。

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