ヒーロー目指して
昔は、ヒーローというものに憧れた。
困っている人を見ると、その人のためになれればと手を貸すことも、多々あった。
そんな人生を送っていたから、中学生まで、人に嫌われた事がなかった。
当然だ、人を助けていて、嫌われる訳がない。
だが、思春期に入ったお年頃の子供はそうはいかない。
僕は、中学生になってからいじめにあった。
靴をトイレに捨てられたり、鞄を隠されたり……
他にも人に言えないような事もさせられた。
もう、あんな思いはしたくない。
僕、いや、俺は、ヒーローになる事を諦めた。
あれから三年、ヒーローなんて夢物語はもう頭の中にはない。
断言する、ヒーローなんてくだらない夢捨てて正解だった。
人助けなんかしたって、なにも得なんてない。 そう、ただの自己満足だ。
そんなことで自分を傷つけたくはない。
今は、なんとか入学出来たこの高校を、成績優秀で卒業する事しか頭にない。
入学から三か月、授業の内容も理解できているし、すべてが順調だ。
友達ができないこと以外は……
まあ、そんなものいなくても、勉強はできるし、今は不自由はない。……今は
……強がる事、それが俺の悪い癖だ。
友達の作り方は分かっている……
だが、あの時のトラウマはおそらく一生消えない。
親の店を継がずに、大学を目指しているのも、良い暮らしがしたいからじゃなく、友達が欲しいからだ。
ただ、勉強しているだけで友達ができないことは知っている。
わかってはいても、話しかけようとすると、トラウマが鮮明によみがえってくる。
もう一度言うが、あのトラウマは消えないだろう。
それを抱えたまま、俺は孤独の教室で楽しくもない授業を受けに行く。
代わり映えしない日常、花のない日常の中で生きる意味を見つけられるのだろうか?
今日もまた、重い足取りで家を出る。
「まだ、七時か……」
腕時計で時間を確認する。
このペースならまず遅刻はないだろう。
遅刻しても誰も気がつかないんじゃないか? ……気付かれない自信がある。
いつもこのように一人でくだらない事を考えて登校している。
こうすると少し寂しさが紛れる。
もうすこしで校門だ。 ……学校の横にあるパン屋の路地に人が倒れている。
短めの髪に、ボロボロの服……服とも呼べない布を着た人が横たわっているのが見えた。
髪型からして、お爺ちゃんだろうな、服装も……ホームレスか何かだからだろう。
あんなところで何をしているんだ? ホームレスの考える事は分からないな。
――10分後――
俺は一体何をしているんだろう。そしてあのお爺ちゃんもいつまで寝ているのだろう。
登校してきた生徒たちの冷たい視線を浴びながら俺は通学路の真ん中で老人を眺めていた。
俺の事をそんな目で見るくせに、あいつら、お爺ちゃんのこと全く見ないんだな。
……関わりたくないんだろうな、厄介事に。この世界のみんながそうだろう。
なんだろう…… 目が離せない。運命ってやつを感じている気がする。
運命以外にも今は真夏だ。直射日光をずっと浴びているあのお爺ちゃんは平気なんだろうか。
少し興味がある。いいだろう…… お爺ちゃん。我慢比べだ。 ……楽しい。
――5分後――
あのーピクリとも動かないんですがー。 お爺ちゃん…… 生きてる?
寝ているだけかもしれないが、もし、死んでいたら……?
このままほおっておくのは心が痛い。そして人としてどうだろうか。
あのお爺ちゃんを見ていると懐かしい気持ちになる。
ヒーローを目指していた頃の気持ちだ。
俺はいつから人に嫌われているんだろうな。
……いや、違うな。人との接触を恐れているのは俺か。
俺の目指すヒーローはそんな弱虫だったか……?
否。たとえ嫌われようとも人を救う強いヒーローだ。
トラウマのせいにして…… 情けない。
今、俺がすべき行動は? 簡単、ヒーローを目指す事だ。
あのお爺ちゃんが寝ているだけならいいが、もし、生死が危ういのならば、
救急車を呼ぶ。簡単な仕事だ。
走ってお爺ちゃんのもとへ駆け寄りお爺ちゃんに話しかける。
「あの…… 大丈夫ですか?」
「……」
応答はない
やっぱり、危なかったんじゃないか! 誰だ! 我慢比べなんかしてたやつ!
危険を感じた俺はお爺ちゃんの体を揺さぶる。
「おいっ! お爺ちゃん! 大丈夫か!」
体を揺さぶるも反応はない。
無意識にお爺ちゃんの顔色を見ようとうつ伏せに倒れている、お爺ちゃんをひっくり返す。
……手にドロッとした感触。
寒気がした。回りの音がどんどん遠退いていく。
お爺ちゃんの腹から溢れでる血を眺めながら固まっていた俺と見開かれたお爺ちゃんの目があう。
「****! ********!」
「何だ? 救急車か? それならもう呼んだから安心しろ」
お爺ちゃんは俺の言葉を聞いて安心したのか、目を瞑った。
そして、何か言いたげにまた目を開き、俺の肩に手を置いた。
「****、************……」
聞き取れなかったが、お爺ちゃんは何かを呟き、もう片方の手で俺の顔に手を置いた。
お爺ちゃんは何かを呟き始めた。その瞬間、激痛が体に流れ込んできた。
お爺ちゃんの呪文のようなものが終わった途端、これまでとは比較できないような痛みに襲われた。
消え行く意識の中、痛みに耐え、お爺ちゃんの顔を見ると、お爺ちゃんは今にも泣きそうな顔をしていた。
なぜ、そんな顔をしているのか、考える暇もなく――
――俺の視界は真っ白に染まっていった。
初めまして。深森です。
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これからもゆっくりと書いていきます。