9話
「彩、行くか? 俺の過去を知りに」
彩はその言葉を聞き、少し落ち着きを取り戻し、答える。
「先輩の過去? よく分からないけど行きます。ずっと気になってたんです」
「そうと決まりゃはえぇな、高坂準備しとけ。俺は車パーキングから出してくるから、30分で戻る」
そういい帝一は、玄関を出ていく。
とりあえず風呂に入るか。
「春菜、彩を一瞬頼む」
「全く仕方ないわね、帝一のツレだから許してあげる」
※
先輩はお風呂に行ってしまった。
もう二度と起きてくれないかと、ずっと不安だった。
私は自分を責め続けた。でも先輩たちふたりは、私を優しく慰めてくれていた。
いつもの事だから……と。
「ねぇ日吉ちゃん、高坂さ顔つき変わったでしょ。あなたのおかげだよ。きっとね全部吹っ切れたんだよ」
吹っ切れた? 過去のことが……?
「まぁ後で高坂は話してくれるわよ」
※
あれから時間がたち、俺は支度を済ませ帝一が迎えに来た。
「じゃあ行くか、あいつのとこに」
「んだな、彩にもちゃんと話さんとな。まぁ道は長いからゆっくり話せそうだな」
そんなことを言いながら家を出てみんなで、帝一の車に乗り込む。
帝一が運転し、俺が助手席、2人は後ろだ。
彩が不思議そうな顔をして口を開く
「本宮先輩、免許持ってるんですか? まだ17じゃ……」
俺たち3人は、思わず笑ってしまった。
「あぁそっか、彩は知らんもんな。帝一と、春菜は一個上だよ。帝一は全日の高校辞めて、うちの定時来たのよ。春菜はうちの学校の全日」
「えっ?? ずっと3人同い年だと思ってました……」
帝一と春菜が爆笑しだした。この野郎共……。
「まぁ高坂の方が上に見られること多いしねー」
「おめぇが老け顔だからだよ、高坂」
やっぱりそういうよな。
「っるせーな、あーどーせ老け顔ですよ」
そんなやり取りをしていたら、彩も笑いだし、元気を取り戻したようだ。
車が駐車場を出て走り出す。
!!!???
「あっ帝一、コンビニと花屋寄らんと」
「ばーか、おめぇの考えなんてお見通しだわ、花とあいつの吸ってた赤マルと、好きだった日本酒もトランクに積んである。だから30分待たせたんだよタコ」
ったくむかつくぐらいに、俺の考えわかってやがる。さすが大親友だな。
「さぁて彩、どこから聞きたい?」
彩は少し表情を曇らせる。
「先輩……。ほんとに聞いても大丈夫なんですか?」
????
「いやまた、起きなくなっちゃうんじゃないかって……」
おめぇら説明してねぇのかよ。
「大丈夫だぞ彩、あれは記憶蘇った時に、いつもなるやつだ。まぁ2日も寝込んだことはなかったが。帝一と、春菜慣れてたべ? 散々去年の今頃それになってたからな」
彩はそれを聞き、安心したのか質問をしてくる。
「まず先輩は、なんであの事件の後、私に会ってくれなかったんですか?」
あれ以来確かに彩には会ってなかったもんな。
「あの後な、学校中の奴らが、俺に絡んできたんだよ。まぁあれだけのことすれば、そうもなるけどな」
「おめぇの無茶する癖は、昔からなのな」
そう言いながら帝一は、タバコを加える。
「帝一から、聞いたけどやっぱりそういう事だったのね。相変わらず面白いやつね」
そう言いながら春菜もタバコに火をつける。
彩は理解出来ずに、フリーズしてしまってる。
「簡単に言うとな、お前にまで絡まれるのが怖かったんだよ。どんだけ殴られても、どんだけ馬鹿にされても、俺は一切手を出さなかったしな」
彩は驚き大きめの声で言う
「なんで手出さなかったんですか! あの時は出したのに???」
「それは男にしか分かんねぇよ、な高坂」
「だなぁ。春菜も分からんべ?」
「もちろん意味わからない」
帝一はやっぱり分かるか。流石だな。
「なんだろうな、彩を守るために手を出すのと、自分を守るために手を出すのじゃ話がちげぇかな。彩のことも馬鹿にされたけど、俺は手出さなかったな。偉いだろ? 帝一」
鼻で笑い答える。
「んなもん、あたりめぇーだ」
後ろの2人からは、?マークが出まくっている。
「あのなはーちゃん、馬鹿にされて手出したら、その内容認めることになるだろうが」
2人とも謎が解けたのか、急に表情が明るくなった。
「まっそんな感じだ。てか彩煙大丈夫なのかよ」
「全然大丈夫ですよー、親も吸ってるので慣れてますよ」
じゃあ俺も吸うかな。タバコを咥え火をつける。
煙を吐き出し、窓枠に左肘をかけ口を開く。
「次は何を聞きたい?」
「先輩が高校に入ってからの事ですかね。それとなくは本宮先輩から聞きましたけど……、やっぱりちゃんと聞きたいです」
「話せば長くなるけど、話さなきゃだな。俺にはな高校に入ってすぐ打ち解けた、溝井奈美っていう、女子がいたんだ。帝一と春菜の中学の同級生だな。
そいつはな、俺よりもひどい虐待を受けていた。暴力もそっちじゃない方の、虐待もな」
日吉は急な展開に、少し理解が追いついてないみたいだ。
「それから、俺たちが付き合うまでは、早かったな。入学して2週間ぐらいで付き合いだしたな」
「あん時はみんなでいじったわー、懐いな」
「すげぇいじられたわ、まぁそんなことがあってな、あいつは家に帰りたくないからって、俺の家に半居候してたな。
それから2ヶ月ぐらい経った日にな、親に俺と付き合ってることがバレて、俺と別れろってずっと言われてたみたいでな。俺も俺でこんな性格だからよ、別れて辛い思いするぐらいなら、一緒に遠い地で暮らそうって突っ走ってたのさ」
日吉は新鮮な眼差しで頷いている。
「あの時の高坂は、今より殺意剥き出しだったわね。まぁそうもなるわよね、あんなにお互い大事にしてたんだもの」
「そうなぁ、その後半月ぐらいで奈美は、自殺してしまったんだよ。俺はその時に奈美以外の記憶を、全てなくした。でもこいつらが毎日のように、病院来てよ根気強く思い出させてくれたんだよ。奈美もな、馬鹿でよ俺には迷惑掛けられない、俺を巻き込めない! って突っぱねてな。俺が追い詰めたのもあると思うな」
日吉はいつの間にか、泣いている。
「あの馬鹿はさ、俺の恨み言の一つや二つ遺書に書いとけばいいものを、書いてあったのは全部、感謝と謝罪。そして思い出の数々。憎んでくれてた方が楽だとも思った時もあったよ」
彩は泣くのを必死に堪え、口を開く。
「先輩それは違いますよ……。ほんとに感謝していたんだと思います。私もそうでした。絶望してた人生に、貴方という光が現れ、楽しく過ごせたんだと思います……」
「ほーらな、日吉ちゃんもそう思うだろ? もっと言ってやれ。こいつ俺たち二人が言っても聞かねぇんだよ」
「日吉ちゃんが多分合ってるかな。奈美はね、あんたのことをちっとも憎んでなかったわよ。いっつも惚気けてきてたんだから」
そうなんだろうな、今まではそれを認めれなかったのかもな……。
「これからは3人のその言葉を信じることにするさ、そして彩、今向かってるのはその奈美の墓だ」