7話
あれから1週間ほど経ち、ついに先輩の家に行く日だ! この一週間どれだけ待ち望んだことか。
携帯の通知音が鳴る。本宮先輩からだ。
「おつかれ、学校近くのコンビニに集合で」
それ見て、何もかもが吹っ飛んでしまった。
つい先程までは楽しみにしていたのに、不安や緊張といった、ネガティブな感情に襲われる。
とりあえず行かなきゃ。私はそう思い靴を履き替え、自転車に乗り、コンビニへと向かう。
※
コンビニへと着くと本宮先輩はまだ居なかった。
ほんとに私がいってもいいのか、先輩のトラウマを呼び起こすんじゃないか。
先輩たちの関係が崩れちゃうんじゃないか、そんなことを悶々と考えながら、かれこれ5分ほど経っただろうか。
本宮先輩が見えた。
2人で喋りながら向かってきている? どうやら誰かと一緒みたいだ。
「お待たせー、そんな落ち込んだ顔してどうした?」
一緒にいたのは、女性だった。本宮先輩の彼女さんかな?
「あっいや色々と」
先輩は私の不安など吹き飛ばすように笑う。
「心配すんなっつうの、大丈夫だ。あいつと1番仲のいい俺が言うんだ、間違えねぇ」
「帝一、これが例の女の子?」
「おん、まぁにしても高坂には勿体ないぐらいいい子だよ」
「聞く限りそうかもね、こんにちは、帝一の彼女の春奈です。よろしくね。
しっかしあんたは高坂のこととなると、一生懸命よね」
「あれだ、腐れ縁ってやつだ。仕方ねぇ」
春奈さんは、呆れているのか疲れた表情を浮かべる。
「高校の後輩の、日吉です。よろしくお願いします」
「さぁて高坂の家行くか、あっその前に、何かいるもんあるか聞かねぇとな」
本宮先輩はそんなことを言いながら、高坂先輩に電話をかける。
「もしもしー、おつかれ。今から向かうけどなんかいる?
りょーかい、また後で」
意外と2人の会話って淡白なんだ。それぐらい信頼しあってるって、ことなんだろうなー。
「日吉ちゃんなんかいる? 高坂は飯は材料あるから、作ってやるから、あとは酒は家にあるから、他のもの飲みたいなら、タバコ買って来いってさ」
「私のタバコも買ってきてー」
この3人みんな喫煙者なんだ……。まぁ定時制だし多少はね? あれっでも春菜さんうちの学校で見た事ないような。
「私は自分で買うから大丈夫ですよー」
「いいよいいよ、めんどくさいから、飲みたいもん言ってみ」
「じゃあお言葉に甘えて、カルピスお願いします」
先輩はそれを聞くなり、コンビニへと入っていった。
「ねぇねぇ、高坂のどこがいいの? いやさ悪いとかじゃなくて、今の高坂は無愛想だし、何となく殺気を放ってるじゃん?」
この人も高坂先輩の高校に入ってからを、知ってるみたいだ。羨ましいような……。
「難しいですけど、昔助けられたことがあって、それで惚れましたね。それで追っかけて、高校も一緒のところに来ちゃいました!」
「まぁ奴ならやりかねんか、奈美の時もあんな感じだったし……。」
なみ?? 例の守れなかったって人のこと? どんな感じだったんだろう。
そんなことを話していたら、本宮先輩が戻ってきた。
「よぉし、買うものは買った。じゃあ行くか」
みんな自転車に乗り、家へと向かう。
※
あれから15分ほど経っただろうか。道中は時事ネタなどの、たわいもない話をしていた。
「着いたぞー」
えっ? ここなの? 私の知ってる先輩の家じゃない……。
そこには私の知っている、先輩の家と全然違う、築5年ぐらいのアパートがあった。
「そっか、日吉ちゃん来たことないもんね」
「先輩っていつ引っ越したんですか? 前はうちの中学校から徒歩5分ぐらいのところに住んでたんですけど……」
本宮先輩は驚いた、顔をし口を開く。
「ありゃ? 高坂が去年の3月から一人暮らししてるの、知らなかったの? 」
「全然知りませんでした……。というかなんで一人暮らしを?」
「複雑な家庭の事情というやつだ。さぁとりあえずこのアパートの2階だから」
先輩に促されるままに、階段を昇っていく。そして本宮先輩がインターホンを押す。
先輩が小さい声でささやく。
「ちょっと隠れといて」
扉が開いた。 誰かも確認しないんですね……。
「おつかれ、上がれや」
「仕事疲れの高坂に、サプライズゲストー!」
「あぁ日吉だろ。知ってた」
本宮先輩が驚いた表情をしている。確かに姿は見えていないはず……。
「いやあのな、1、日吉がこの一週間様子がおかしい。2、ずっとお前もニヤニヤしている。3、俺が飲み物買って来いって言った時点で気づけアホ。普段言わんだろ。日吉が居るって知ってたから買ってこい言ったんだよ」
本宮先輩は、バツの悪そうな顔をして呟く。
「つまんねーのー。まぁさっさと飲むか」
「久しぶり高坂、元気……、ではなさそうね。相変わらず仕事で根を詰めてんでしょ」
「まぁな、AM代理してるし、しゃあない」
先輩達カップルはそそくさと家に入っていく。
私も戸惑いながら、入ろうとしていると声をかけられた。
「よく来たな、きたねぇし煙草くせぇけど、それでもよけりゃ入ってけや」
「お邪魔しますね、しかしバレてましたか……」
「お前ら2人は、表情に出すぎなんだよ。まぁ俺に嘘つくには100年早いな」
そんなにわかり易かったかなぁ?
そんなことを考えながら家へと上がる。間取りは2kと一人暮らしにしては割と広い家だ。
片方の部屋は、リビングとして、使っていてもう片方は、パソコンがあり、ファイルが大量に置いてあったり、ベットがあるため、仕事部屋兼寝室みたいな感じだろうか。
リビングには、大きめのテーブルが置いてあり、椅子が4つ置いてある。
そこに先輩たちが隣同士で座っているため、必然的に私が先輩の隣りに座ることになる。
恥ずかしい……。
「帝一、先にテキトーに飲んどけ。今から飯作っからよ」
「今日は来る前に作ってないんかい、珍しいな」
「おめぇら2人はいいけど、日吉に冷たい飯食わせるわけに行かねぇべや」
本宮先輩は邪悪な笑みを浮かべている。
「日吉なんかリクエストあるか? 材料あればなんでも作るぞ」