6話
私たち二人は、図書室へとやってきた。
先輩が戸を開け、図書室に入る。
部屋に入るなり高橋さんは、悪意ある笑みを浮かべて話しかける。
「最終段階どうだった?」
その言葉に先輩も同じ様な、表情をし答える。
「俺を誰だと思ってるんです? 大成功ですよ」
この2人の会話を聞くだけで、私は安心する。
恐らくこの後も、私の本当の居場所は、ここにしか無いのだから。
「日吉さん、一件落着って感じだけど、めんどくさいのは、この後よ〜」
「ですねぇー。まぁ奴らがこの後、どう動くかは、わからんのでねぇ」
二人とも……、違うんだよ。
「良いんですよ、それで。私にとっては、家族以外の人間が、私のために危険を、犯してくれる。これだけで十分なんです」
先輩は神妙な顔つきで言葉を放つ。
「日吉にとっちゃ、大きい発見なのかもな」
先輩が私にほほ笑みかける。
「先輩。一つだけ聞きたいことが、あるんです」
「どうした?」
「なんで。こんなこと、わざわざしてくれたんですか?」
先輩は困った顔をし、顎に手を当てる。中々返答をくれない悩んでいるようだ。
「うーん? なんだろうなぁ、強いて言うなら、楽しいから?」
え????? どういうこと???
「半分はそれかな、もう半分は想像に任せるよ」
先輩は笑いながら言う。
「んじゃ、高橋さん俺は、後始末してくるんで、先に行きますわ。色々高橋さんに、話してあげな。またな」
先輩は、私が固まってる間に、部屋を出てってしまった。
「その顔だと、信じられないって感じね。まぁあの言葉は8割嘘で、2割は本当ってとこね。照れ隠しと言ったところかな」
ただでさえも混乱してる、私の頭がさらに混乱した。
もう何が何だか分からない。
「高橋さん……。先輩は面白そうだから、行動を起こしてくれたんですかね」
私の肩を叩きながら、高橋さんは口を開く。
「何落ち込んでんのよ、1番は彼が自分みたいな人を、生み出したくないって、気持ちからやったのよ」
「うーんと、落ち込んでるわけじなくて、先輩不思議な人だなって」
「彼は変わり者だからね、まぁ貴方も私も大概変わってるけどね」
高橋さんが笑いをこぼす。
「私変わってます??」
「えぇ、高坂君に恋心を抱くなんて、変わってるわよ」
!!!!????
「ななんで、分かったんですか!?」
「見え見えよ、そんなもの。多分彼は気付いてないけどね。アホだから」
高橋さんはふふと、笑みをこぼす。
「なんでしょう、あの不思議な感じと、冷静さと、行動力を全部持ってる感じに、惹かれちゃいましたね」
「まぁ多分……いやなんでもないわ」
「なんですか? 言って欲しいです。気になります!」
「直ぐに分かる事よ」
先輩って彼女いるとかかなぁ、だったら凄い悲しい。
この後先輩とは1度も会わずに、先輩は卒業していった。
※
「それから先輩とは、1度も会えませんでした。何故かあれ以来、図書室にも私の前にも、姿を表さなかったんです」
「なるほどな、なんとなく理由は分かったな。あいつらしいな」
「でも不思議じゃないですか? こんなことまでしてるのに、記憶ないんですよ!」
「まぁそりゃ不思議だな。何故か知りたいか?」
「それはもちろん知りたいです!」
「あいつはな、とある日を境にある人以外の、記憶を全て無くした。親、兄弟、友人、教師何もかもな。まぁ無くした記憶は、俺たちと関わってる間に、俺達との記憶は戻ってきた、みたいだけどな。だから多分中学時代の、記憶が無いままなんじゃないか?」
それが例の守れなかったって、ことなんだろう。
「まぁそれに、守れなかった事の衝撃で、忘れたことだから、日吉ちゃんの事を守ろうとした記憶なら、尚更消したいのかもな」
本宮先輩はそういい、タバコの火を消す。
何故そうなるんだろう。
「あーというのもな、君はその後、何もされなかったんだろう?」
「えぇ、それ以来いじめは、パタリと止みました」
「君のことは守れたわけだ。でもあいつはその時は守れなかった。だから尚更忘れたいんだと思うよ」
「どういう事です?」
「まぁこれは、感覚的問題だ。多分理解するのは難しいと思うから、忘れたかった。で十分だと思うよ」
なんかモヤモヤするけど、仕方ないのか……。
「まぁ日吉ちゃんが、嫌いで忘れたわけじゃないと思うから、気にしなくていいと思うよ。」
「しっかし、あいつは小説の主人公かよ。なんてことやってのけてんだよ。まぁ高坂ならやるな」
そういい本宮先輩は鼻で笑う。
「あの人の行動力は、よく分かりません」
「まぁじゃあ、約束だし少しアドバイスをするか」
「っていってもそんなにないか……。あいつの記憶が戻れば話は速そうなんだけどなぁ」
なんていうアバウトな……。
「んーそうだな! それにしよう。今度あいつの家でみんなで飯でも食うか」
「ほんとですか!」
「今度約束はしてあるから、そんとき日吉ちゃんも呼ぶよ、それでいいかな?」
これは千載一遇の大チャンス!
「ありがとうございます! 是非それで行きましょう!」
「それで決まりだな、じゃあ来週の木曜日高坂の家な」