5話
あれから2週間が経った。
1週間目は、ボイスレコーダーを仕込み教室にいたり、先輩と職員会議に乗り込んで、腐った先生達と揉めたりした。
彼等から帰ってきた言葉は
「あなたは悪くないの?」
「自分でどうにかしなよ」
「最近は小さいことで騒ぎすぎなんだよ」
などという心のない言葉だった……。
先輩はそれに怒るわけでもなく、ただ笑っていた。
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「さぁて日吉、今日は何の日でしょう?」
「えっと、保護者や警察の人が来る、イジメ防止教室ですかね?」
「ご名答! そして君が我慢するのも今日で終わりだ」
えっ!? まさか乗り込むの????
「察してくれてありがとう、まぁそういう事だ。まだ間に合うが辞めるか? どうする?」
「そ……それは勿論やります!」
「んじゃ行くべ」
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「いじめというのは━━」
お巡りさんかな? 声が聞こえる。
「じゃあ行くぞ!」
先輩は私の手を引き、中へと連れてく。 物凄くドキドキしてる。
「おい高坂! おめぇはみんなの所来ちゃいけねぇ決まりだろ! 隣に居るのは2年の日吉か? お前も1週間何してた!」
体育教師の田口だ。無駄なところは正義感があるけど、それでも私のことは助けてくれない。
「黙れ腐れ教師が。今ここで引き下がるか、それとも俺に口聞けねぇようにされるか、どっちがいい」
先輩がとても低く冷たい声で、そう話すと田口は黙った。
「さすが田口話は分かるやつだな」
先輩はそう言うと、マイクを持ってるお巡りさんの元へと、突っ切った。
「おまわりさーんちょっとそのマイク貸してくれる?」
「えっ? あっはい」
そういいマイクを渡された。
「はーい皆さんどうも、こんにちはー。3年の高坂でーす。俺のことは知ってる人の方が、多いんじゃない? 悪い噂で」
先生達が何をしてるんだとの、声と同時に止めに歩き出す。
「はーいストップ、これをとりあえず流すわ」
先輩がポケットから、レコーダーを取り出し流す。
その場にいた私たち以外、全員白い顔になった。
そう、あの職員会議の録音を流したのだ。
「状況わかったかな? おバカな教師共。お前らが俺を止めるなら、今すぐ証拠をまとめて、教育委員会に送る。全員懲戒解雇かな? そう言えば小野寺こないだ、子供産まれたらしいな。今クビになって退職金も出ずに、職なしになったら大変だね!」
その場が凍ったように先輩の声だけが響く。
「てことで頭の良い選択をしていただきたい。 はい! では気を取り直して、この場にいる保護者さんと全生徒、お巡りさんに何をするか、説明しますね。結論から言って彼女は、いじめられてます。教師黙認の元でね、そこでお巡りさんも親御さんも居る今日、証拠を大発表しようかと」
「お巡りさん僕がこれから少しずつ、確認を取りますのでその時はお答えください」
険しい顔してこちらを見ている。
「さぁてまず、これは教室の会話を録音したものです。ちなみに今はめんどくさいんで、出しませんが録画した映像もあります」
教室での暴言雑踏の一部始終が流れる。
「こんなことが毎日のように、行われています。これを見て保護者の皆様は、安心して子供を学校に、行かせることが出来ますか?」
場内がざわめく。
「まぁこれをやってるのは、皆さんのお子様なんですがね。ちなみに警察の方、こちらは何かしらの罪には問われるでしょうか?」
先輩が警察官を睨みつける。
冷や汗をかき、慌てながら答える。
「えぇっと、名誉毀損などに当たると思います……」
先輩がにこりと笑みを浮かべる。
この人は何故この場で、こんなにも冷静でいられるのだろう……。
むしろ楽しそうだ、段々高坂 彰という人間に対して、好奇心が湧いてきた。
「ありがとうございます、では次が」
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あれからの私は少し記憶が無い。いや無いと言うよりは少しキツく、飛んだの方が正しいのだろうか。
「ってことでこれらが、証拠の1部始終になります。さぁてここからが本題だ」
先輩の声が酷く冷たくなり、目付きは殺意に満ち溢れている。
「1年のガキ共、そしてバスケ部の糞共、てめぇらには今ここで選択肢を与えてやる。今すぐこの状況を改善するか、俺に殺されるかの2択だ……。3秒で選べ」
なんだろうこの気迫……。私まで圧倒されてしまっている、やはり先輩は凄い人だ。
「全員改善する方向でいいか?」
すると場内から複数の声が上がる。
「てめぇが殺せるわけねぇだろ!」
「こんな不意打ちずるいわよ!」
「やれるもんならやってみな!」
などなど様々な声が上がった。
「活きがいいな、じゃあ文句あるやつ全員かかってこいや。ちなみに命の保証はしねぇがな。今から何かが起こるがお巡りさん見てねぇことにしとけ」
場内から男女20名ほどの、気の強い人間が舞台の前に集まる。
何故素直に辞めると言えないのだろう。黙ってれば済むのに……。
「先輩! さすがにあの人数はむちゃですよ! もう十分です。辞めましょう!」
「日吉、俺は大丈夫だ、それにここで辞めたら何も変わらんぞ? 気にすんな、お前は少し待っとけ。それで全て解決する」
集まっている場に先輩が飛び降りていく。あれは殺す気だ。
先輩が降りていくなり、全員で取り囲み、腕を掴みリンチがはじまる。
先輩! もう辞めてよ……、私は大丈夫だから。死んじゃうよ!
そんなことを考えながらもやはり暴行は続く。時折隙間から見える先輩はもう血だらけだ。
私のせいだ……、私が助けを求めなければ……。
その時大声が上がる。
「さぁてもういいだろ! これでなんかあっても正当防衛だなぁ、じゃあ全員神にでも祈っとけ」
先輩声がした次の瞬間に、男子が1人出口に向かい、投げ飛ばされていた。
──えっ? 何が起きたの!?
その後も1人また1人と、どんどんボコボコにやられて行く。
最終的には誰一人として意識を保つものはいなかった。
「ったく相手が悪ぃんだよ、雑魚どもがイキるなら他所でやれよ」
強すぎる……。なんてかっこいい人なんだ……。
そして先輩が声を荒らげる。
「日吉ぃ! お前俺が殴られてる時、私のせいでって思ったろ! 良いんだよ、人を頼っておめぇはもっと人を頼れ! 俺は好きでやってんだから良いんだよ馬鹿!」
その声を聞いた私の中で何がが崩れ去った。
「はぃ先輩 ごごまでありがどうございました。」
先輩がニコッと笑みを浮かべこっちへ戻ってくる。
「ったく、泣くなつったのによぉ。まぁいいか帰るべ」
先輩に促され2人で帰り道を歩く。
扉の前に着いた時振り返り先輩は言葉を放つ。
「俺になんかするのは良いが、日吉に復讐するのは俺が、黙ってねぇからな。今度はてめぇらほんとに死ぬぞ」
「さぁて日吉、赤石さんに報告しに行こうか」