第4話
「あれは私が中学二年生の頃ですね」
※
はぁ今日もこの時間になっちゃった。
学校に行くのが憂鬱かな……。
「彩ー! もう時間よー」
分かってるってお母さん、なんも知らないから、そんな簡単に言えるのよ。
────言ってないのは私だけど。
そう思いながら、私は鞄を持ち家を出る。
私の家から、学校までは徒歩2分と近い。
だからこそ毎日、助かっては居るのだけれど……。
校門の前へと着いた。相変わらず生活指導の先生が、立っている。
名ばかりで何も助けてはくれないのにね。
「おはよう」
私に目を向け、煙たがるような目つきで言う。
そんなに私が、目につくの? 私は悪いこと何もしてないのに……。
「おはようございます」
目も合わせずに、私は下駄箱へ向かう。
靴を脱ぎ、ロッカーを開ける。
はぁまたか……。なんなのよこの手紙の山。
どうせ内容は全部同じだし、全部
捨てよう。
靴をはきかえ、大量の手紙を抱え2階のクラスに向かう。
私は静かに戸を開けて、教室へ入るなり、ゴミ箱に手紙を捨てる。
「あら日吉さん、どうしたのその手紙の山、人気者ね」
そう薄笑いしながら、話しかけて来るのは、いじめの主犯格高橋。
何故いじめられてるか、巡り巡って聞いた話だと、成績がよい割りに、見た目が地味だからだとか。
私は微笑みながら、言葉を返す。
「おはようー、わざわざ下駄箱に入れなくても、直接渡せばいいのにね……、恥ずかしがり屋なのかな?」
途端怖い顔になり、手を上下させながら、怒鳴り出す。
「調子乗ってんじゃないわよ。あんたなんか死ねばいいのよ。一生その気持ち悪い笑顔、私に見せないでくれる」
私があなたに何をしたのよ。何もしてないじゃない。
「うん……、ごめん」
高橋さんは満足したのか、席へと戻る。
それからしばらく経ち、担任がやって来た。
「全員座れー、出席取るぞー」
出席が取り終わると、担任は時間割を伝え、職員室へと戻る。
また地獄が始まる。
「あれー日吉? まだ居るの? もうそろ学校来なくなるかと思ったのにww」
「ほんとねー、いつまでいるんだか」
「とっとと消えりゃいいのにな」
このような暴言が、全員から繰り返される。
何度死にたいと、思ったことだろうか。
でもこんな奴らに負けて、人生台無しになんかしたくない。
その思いで、私は去年の夏から1年間耐えてきた。
※
「えぇここは、酸素原子の数が──」
授業終了のチャイムがなる。
「なっちゃったか、じゃあ今日はここまでな。給食の準備してー 」
ようやく午前の授業が終わった、後数時間で学校とおさらばだ。
私へのいじめは、授業中ももちろんある。これが意味するのは、つまり先生達も、黙認しているのだ。
何度か色んな先生に、相談したが……。
「君に理由はないの?」
この一点張りだ。どんだけ腐っているんのよ、うちの学校は。
「先生ー! 日吉さん今日給食要らないそうです。具合悪いらしくて」
「そうなのか日吉? なら保健室行って休むといい」
要るに決まってるでしょ。もういいわ、どっかへ逃げよう。
「行ってきますねー」
そういい私は、教室から出た。
出たはいいけど、どこへ行こう。行くあてないなぁ。
あっそうだ図書室行こう。あそこならゆっくり出来るし、司書さん優しいし。
そんなこんなで足を、図書室へ向ける。
扉を開け図書室へ私はいる。するとそこには、短髪で背丈の高い男子生徒が1人居た。
靴のラインカラー的に3年生かな?
「あらこれは、珍しいお客さんね。高坂君以外にこの時間来る子居ないから」
「そうっすね、2年生かな? 給食食べなくていいの?」
何この先輩……。かっこいい、いつぶりだろう、同年代の人に優しくされたの。
「いやそのちょっと……」
私はどもりながら状況を説明する。
「なるほど、そんなことがあるのか……。部活でまでいじめられてるのか。まぁとりあえずお腹減ってるだろうし、この弁当食べなよ」
先輩は私へと、青い風呂敷で包まれた、お弁当を手渡す。
「えっ、これなんですか?」
司書さんが、微笑みながら語る。
「あぁそれはね、高坂君の手作り弁当よ。高坂君アレルギー多くて、学校の給食食べらんないから、持参なのよ」
「まぁそのせいで栄養偏ってるは、見栄え悪い派ですけどね。そんな弁当でよければ食べなよ」
えっでもそれじゃ……。
「私食べたら、先輩の昼ごはん無くなっちゃうじゃないですか……」
先輩が一瞬驚いたあと、にこやかな表情で口を開く。
「あっおれ!? 別に大丈夫よ、絶食には慣れてっから。と言うより自分の状況、そんなんなのに、俺に気なんて使わなくていいよ」
────なんて優しい人なの。自分の身を削ってまで……。
「育ち盛りなんだし、食べなよ。女の子は今の時期、食べないと育つとこ育たないよー」
司書さんが笑いながら突っ込む。
「高坂君それ、セクハラだから。まぁ本人がいいって言ってるのだし、食べたら?」
「じゃあお言葉に甘えて……」
私は包みを開き、お弁当を食べる。
美味しい。今まで食べた料理の中で、1番美味しいかもしれない。
「飯食って泣くことないだろうよー、まぁ気持ちは分かるがな」
「なんか……、今まで食べた、ご飯の中で1番美味しいんですよ」
「そりゃ嬉しいなぁ、まぁ多分気の所為だけどな。そういう状況の時の、人が作ったご飯って美味しいよなぁ」
司書さんが先輩を、からかうように笑う。
「お世辞に決まってるでしょ、高坂君。まぁ冗談抜きだと、あなたの作る、料理は美味しいからね。あと10歳上だったら、旦那にしてもよかったのに」
よっぽどおかしかったのか先輩が笑いながら言い返す。
「何言ってんすか、それは俺が無理ですわ。だって赤石さん本の虫だもん。絶対俺の事忘れて本読むもん」
「それ旦那にも、よく言われるわね。時々俺の事ほんとに好きなのか、不安になるって。いやぁね好きなんだけどねぇ、本も好きなのよねぇ」
2人にとってはいつもの、やり取りなんだろう。楽しそうだ。
そんなこんなで私は、ご飯を食べ終わり両手を合わせた。
「ご馳走様でした。とても美味しかったです!」
先輩は微笑んで、言葉を返す。
「ありがとう、そりゃあよかったよ。さぁて話があるけど良いかい?」
途端先輩が真剣な目付きになる。
「えっ……なんですか?」
「君はこのままの状況で、あと一年半過ごしたい?」
そんな事言われても……。
「それはもちろん変えたいです……。先生に言ってもダメでしたし、私にはどうにも出来ないです」
「手段はあるよ、ただ相当な覚悟がいる。いじめは止むかもしれない。でも違う意味で、君は周りから人が離れるかもしれない。その覚悟があるかい?」
究極の2択……ですか。
「そんなのもちろん決まってます。その方法を駆使して、現状を変えます!」
先輩がさっきまでの笑顔に戻る。
「腹据わってる子だね、嫌いじゃないよそういう子。ちょうど時期もよかったしね。これから君がやることは3つ」
「なんでもやります!」
先輩が、指を人差し指を、上げながら言う。
「1つ目、まず1週間耐えること。耐える際このボイスレコーダを胸ポケットに入れといて」
そういい私にボイスレコーダを渡した。
そして中指を上げ、言葉を続ける。
「2つ目、明日俺と一緒に職員会議に乗り込む。これは最悪嫌だったら俺一人で行く」
そんなのもちろん。
「行きます! 助けてもらうのに、任せっきりは嫌です」
「そう言うよね、分かってたよ。3つ目、体にできた傷を写真におさめる。これはもう既に、あるならやらなくていいよ。あるわけないだろうけど」
やっといて良かった。
「ありますよ、先輩。いつか仕返しするために撮っておいたんです。もっとも私一人じゃ、勇気でなくて何も出来てませんが……。」
「おぉ! それは凄いな、尊敬するよ。なら話が早いかな。実行日は2週間後、ラスト1週は学校来なくても大丈夫だよ。辛いだろうから」
「でも先輩、それじゃ親が」
「あぁそっか、すっかり忘れてた。じゃあラスト1週間は、ここに来な。俺が必ずいるから、赤石さんも、一肌脱いでくれるだろうし」
赤石さんはやれやれと、言った表情をする。
「まったくもう、仕方ないんだから、弁当1週間分で手を打つわ」
「抜け目ないですねー、相変わらず。まぁそれぐらいならいいっすよ」
「まぁ私もこういうの見てて、良い気はしないから、手伝うわよ。てことで、いつでもおいで」
私の頬を、冷たいものがつたる
「こんなに助けてくれて、何とお礼をしたらいいか、わからないです」
「泣くなって〜、つぎ泣くのは嬉しい時な。それにまだ何もしてないぞ?」
そう言いながら先輩は、私の頭を撫でる。
「すいません、泣いてばっかで。つい嬉しくて」
2人は手を叩きながら笑う。
「あら高坂君、裏目に出たわね」
「こりゃ一本取られましたわ、まぁ元気だしなよ」
先輩はそう言い終えると、表情を曇らせる。
「あのー、ところでさ名前聞いてもいい?」
図書室に、沈黙が流れる。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。2-Bの日吉 彩です」
「彩ちゃんかー、いい名前だね」
ついおかしくて私は思い切り笑ってしまった。
いつぶりだろう心から笑うのは。
「先輩名前も知らない、人助けるなんて、ほんとにいい人ですね。惚れちゃいますよ」
「俺になんか、惚れたら人生ジ・エンドだぞ」
図書室に一同の笑い声が響く。