表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

第4話

「あれは私が中学二年生の頃ですね」




はぁ今日もこの時間になっちゃった。



学校に行くのが憂鬱かな……。



「彩ー! もう時間よー」



分かってるってお母さん、なんも知らないから、そんな簡単に言えるのよ。


────言ってないのは私だけど。



そう思いながら、私は鞄を持ち家を出る。




私の家から、学校までは徒歩2分と近い。



だからこそ毎日、助かっては居るのだけれど……。




校門の前へと着いた。相変わらず生活指導の先生が、立っている。




名ばかりで何も助けてはくれないのにね。



「おはよう」



私に目を向け、煙たがるような目つきで言う。



そんなに私が、目につくの? 私は悪いこと何もしてないのに……。




「おはようございます」



目も合わせずに、私は下駄箱へ向かう。



靴を脱ぎ、ロッカーを開ける。






はぁまたか……。なんなのよこの手紙の山。



どうせ内容は全部同じだし、全部

捨てよう。




靴をはきかえ、大量の手紙を抱え2階のクラスに向かう。




私は静かに戸を開けて、教室へ入るなり、ゴミ箱に手紙を捨てる。




「あら日吉さん、どうしたのその手紙の山、人気者ね」


そう薄笑いしながら、話しかけて来るのは、いじめの主犯格高橋。



何故いじめられてるか、巡り巡って聞いた話だと、成績がよい割りに、見た目が地味だからだとか。




私は微笑みながら、言葉を返す。



「おはようー、わざわざ下駄箱に入れなくても、直接渡せばいいのにね……、恥ずかしがり屋なのかな?」




途端怖い顔になり、手を上下させながら、怒鳴り出す。



「調子乗ってんじゃないわよ。あんたなんか死ねばいいのよ。一生その気持ち悪い笑顔、私に見せないでくれる」



私があなたに何をしたのよ。何もしてないじゃない。



「うん……、ごめん」



高橋さんは満足したのか、席へと戻る。






それからしばらく経ち、担任がやって来た。




「全員座れー、出席取るぞー」




出席が取り終わると、担任は時間割を伝え、職員室へと戻る。



また地獄が始まる。




「あれー日吉? まだ居るの? もうそろ学校来なくなるかと思ったのにww」



「ほんとねー、いつまでいるんだか」



「とっとと消えりゃいいのにな」




このような暴言が、全員から繰り返される。



何度死にたいと、思ったことだろうか。




でもこんな奴らに負けて、人生台無しになんかしたくない。



その思いで、私は去年の夏から1年間耐えてきた。



「えぇここは、酸素原子の数が──」



授業終了のチャイムがなる。



「なっちゃったか、じゃあ今日はここまでな。給食の準備してー 」



ようやく午前の授業が終わった、後数時間で学校とおさらばだ。




私へのいじめは、授業中ももちろんある。これが意味するのは、つまり先生達も、黙認しているのだ。



何度か色んな先生に、相談したが……。




「君に理由はないの?」



この一点張りだ。どんだけ腐っているんのよ、うちの学校は。




「先生ー! 日吉さん今日給食要らないそうです。具合悪いらしくて」




「そうなのか日吉? なら保健室行って休むといい」


要るに決まってるでしょ。もういいわ、どっかへ逃げよう。



「行ってきますねー」



そういい私は、教室から出た。



出たはいいけど、どこへ行こう。行くあてないなぁ。




あっそうだ図書室行こう。あそこならゆっくり出来るし、司書さん優しいし。




そんなこんなで足を、図書室へ向ける。









扉を開け図書室へ私はいる。するとそこには、短髪で背丈の高い男子生徒が1人居た。



靴のラインカラー的に3年生かな?




「あらこれは、珍しいお客さんね。高坂君以外にこの時間来る子居ないから」



「そうっすね、2年生かな? 給食食べなくていいの?」



何この先輩……。かっこいい、いつぶりだろう、同年代の人に優しくされたの。



「いやそのちょっと……」



私はどもりながら状況を説明する。




「なるほど、そんなことがあるのか……。部活でまでいじめられてるのか。まぁとりあえずお腹減ってるだろうし、この弁当食べなよ」




先輩は私へと、青い風呂敷で包まれた、お弁当を手渡す。




「えっ、これなんですか?」




司書さんが、微笑みながら語る。


「あぁそれはね、高坂君の手作り弁当よ。高坂君アレルギー多くて、学校の給食食べらんないから、持参なのよ」




「まぁそのせいで栄養偏ってるは、見栄え悪い派ですけどね。そんな弁当でよければ食べなよ」



えっでもそれじゃ……。



「私食べたら、先輩の昼ごはん無くなっちゃうじゃないですか……」



先輩が一瞬驚いたあと、にこやかな表情で口を開く。




「あっおれ!? 別に大丈夫よ、絶食には慣れてっから。と言うより自分の状況、そんなんなのに、俺に気なんて使わなくていいよ」



────なんて優しい人なの。自分の身を削ってまで……。



「育ち盛りなんだし、食べなよ。女の子は今の時期、食べないと育つとこ育たないよー」



司書さんが笑いながら突っ込む。



「高坂君それ、セクハラだから。まぁ本人がいいって言ってるのだし、食べたら?」




「じゃあお言葉に甘えて……」




私は包みを開き、お弁当を食べる。




美味しい。今まで食べた料理の中で、1番美味しいかもしれない。




「飯食って泣くことないだろうよー、まぁ気持ちは分かるがな」




「なんか……、今まで食べた、ご飯の中で1番美味しいんですよ」




「そりゃ嬉しいなぁ、まぁ多分気の所為だけどな。そういう状況の時の、人が作ったご飯って美味しいよなぁ」




司書さんが先輩を、からかうように笑う。



「お世辞に決まってるでしょ、高坂君。まぁ冗談抜きだと、あなたの作る、料理は美味しいからね。あと10歳上だったら、旦那にしてもよかったのに」




よっぽどおかしかったのか先輩が笑いながら言い返す。



「何言ってんすか、それは俺が無理ですわ。だって赤石さん本の虫だもん。絶対俺の事忘れて本読むもん」




「それ旦那にも、よく言われるわね。時々俺の事ほんとに好きなのか、不安になるって。いやぁね好きなんだけどねぇ、本も好きなのよねぇ」




2人にとってはいつもの、やり取りなんだろう。楽しそうだ。







そんなこんなで私は、ご飯を食べ終わり両手を合わせた。




「ご馳走様でした。とても美味しかったです!」




先輩は微笑んで、言葉を返す。




「ありがとう、そりゃあよかったよ。さぁて話があるけど良いかい?」



途端先輩が真剣な目付きになる。




「えっ……なんですか?」




「君はこのままの状況で、あと一年半過ごしたい?」



そんな事言われても……。




「それはもちろん変えたいです……。先生に言ってもダメでしたし、私にはどうにも出来ないです」




「手段はあるよ、ただ相当な覚悟がいる。いじめは止むかもしれない。でも違う意味で、君は周りから人が離れるかもしれない。その覚悟があるかい?」



究極の2択……ですか。




「そんなのもちろん決まってます。その方法を駆使して、現状を変えます!」






先輩がさっきまでの笑顔に戻る。




「腹据わってる子だね、嫌いじゃないよそういう子。ちょうど時期もよかったしね。これから君がやることは3つ」




「なんでもやります!」




先輩が、指を人差し指を、上げながら言う。



「1つ目、まず1週間耐えること。耐える際このボイスレコーダを胸ポケットに入れといて」


そういい私にボイスレコーダを渡した。



そして中指を上げ、言葉を続ける。


「2つ目、明日俺と一緒に職員会議に乗り込む。これは最悪嫌だったら俺一人で行く」




そんなのもちろん。



「行きます! 助けてもらうのに、任せっきりは嫌です」




「そう言うよね、分かってたよ。3つ目、体にできた傷を写真におさめる。これはもう既に、あるならやらなくていいよ。あるわけないだろうけど」



やっといて良かった。



「ありますよ、先輩。いつか仕返しするために撮っておいたんです。もっとも私一人じゃ、勇気でなくて何も出来てませんが……。」



「おぉ! それは凄いな、尊敬するよ。なら話が早いかな。実行日は2週間後、ラスト1週は学校来なくても大丈夫だよ。辛いだろうから」




「でも先輩、それじゃ親が」




「あぁそっか、すっかり忘れてた。じゃあラスト1週間は、ここに来な。俺が必ずいるから、赤石さんも、一肌脱いでくれるだろうし」



赤石さんはやれやれと、言った表情をする。



「まったくもう、仕方ないんだから、弁当1週間分で手を打つわ」




「抜け目ないですねー、相変わらず。まぁそれぐらいならいいっすよ」




「まぁ私もこういうの見てて、良い気はしないから、手伝うわよ。てことで、いつでもおいで」




私の頬を、冷たいものがつたる




「こんなに助けてくれて、何とお礼をしたらいいか、わからないです」




「泣くなって〜、つぎ泣くのは嬉しい時な。それにまだ何もしてないぞ?」



そう言いながら先輩は、私の頭を撫でる。



「すいません、泣いてばっかで。つい嬉しくて」



2人は手を叩きながら笑う。



「あら高坂君、裏目に出たわね」




「こりゃ一本取られましたわ、まぁ元気だしなよ」



先輩はそう言い終えると、表情を曇らせる。





「あのー、ところでさ名前聞いてもいい?」






図書室に、沈黙が流れる。




「そう言えば自己紹介がまだでしたね。2-Bの日吉 彩です」




「彩ちゃんかー、いい名前だね」




ついおかしくて私は思い切り笑ってしまった。



いつぶりだろう心から笑うのは。




「先輩名前も知らない、人助けるなんて、ほんとにいい人ですね。惚れちゃいますよ」




「俺になんか、惚れたら人生ジ・エンドだぞ」



図書室に一同の笑い声が響く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ