2話
次の日も俺はいつも通り声をかけられた。
いつも通りの光景だ。
「高坂先輩! 今日こそは一緒に帰りましょ!」
いつもなら断るところだが……、 今日は聞きたいことがあるからな。
「おう、いいよ別に」
予想外の言葉が、帰ってきたのか日吉はキョトンとしている。
「えっ……ほんとですか?? やったー!!」
「早く靴履き替えろ、置いてくぞ」
日吉はそれを聞き、焦って靴を変える。
「お待たせしました! でもなんで急に、OKしてくれたんですか? いつもなら断るじゃないですか?」
流石に本題に入るのは早いか……。
「気が向いたそれだけだ。まぁたまには良いかなってな」
「なんか……、あいやなんでもないです……」
「それよりたまには飯でも食いに行くか?」
いやあのなぁ、日吉ビックリするんじゃなくて、答えをくれ……。
「えっいいんですか……?」
あっやべぇ、なんで飯食いに行くなんて面倒事に、したんだ俺は。
まぁたまにはいいか……。
「俺が誘うのに悪いわけないだろ。仕事以外ではめんどくさいからお世辞言わないし」
「ありがとうございます!」
目をキラキラさせるほど嬉しいのか……。
「何食べたいの、別に奢るから好きなのでいいよ」
近場がいいなぁ……。
「私は別になんでもいいですよー、先輩とご飯行けるだけで嬉しいんで!」
それが一番めんどくさいんだが……。
手をじたばた振るよりも具体的な答えをくれ……。
「せっかく奢るなら、日吉の食べたい物の方が良いから。何食べたいか言ってみ」
「んーじゃあ! 竹ノ塚の駅前にある中華屋さんで! あそこのオムライス好きなんですよー」
中華屋なのにオムライスなのか……、まぁたしかにあそこは何食っても美味いし安いが……。
てか遠すぎだろよ。ここから8キロはあるぞ……。
まぁ日吉の家にも近いし好都合か。
「じゃあ行くか、早く行かないと閉まっちまうしな」
日吉がハッとした顔をしている。どうしたんだろう
「言ってみて悪いんですけど……、先輩の家から遠いですよね……。やっぱり変えましょう」
気づくのおせーよ、まぁいいけどさ
「いや別にいいよ。お前の家に近いし、もう9時だからどっちみち家まで、送るつもりだから好都合だからね」
「やったー! ありがとうございます。」
※
その後自転車で40分ほどかかり、例の中華屋に着いた。
「やっぱり遠いいなここ、まぁ美味いからいいや」
「私のわがまま聞いてくれてありがとうございます! 入りましょっか」
日吉がお辞儀をしながら言う。
いやまぁもう気にしてないよ。それより寒い。早く店に入ろう。
店に入るなり元気の良い声が聞こえる。
「いらっしゃいませー! お二人で大丈夫ですか? お好きなところお座り下さい」
店内は割と狭いが、知る人ぞ知る名店といったところで、閉店間際のこの時間でも、お客さんが多い。
確かここは家族経営で、この人は娘さんだったはず。
俺達は席につきメニューをとる。
「先輩何食べます? 私はオムライスと麻婆豆腐と餃子で」
よく食うなおい、まぁたしかにこの時間で腹が減るのは分かるが……。
まぁ遠慮されて食べられないより、いっぱい食べてくれる方が俺も嬉しいな。
「決まってんのか、はぇな。まぁ俺も決まってるが」
そんなことを話してると、店員のお姉さんがお冷を持ってきてくれた。
「注文いいですか?」
「あっはい大丈夫ですよー」
「えっとー、ラーメンとチャーハンと唐揚げ。それから、麻婆豆腐とオムライスで、あっ日吉なにか飲む?」
「えっとーじゃあコーラで」
「じゃあコーラ2つで、以上でお願いします」
「はい分かりましたー」
お姉さんが厨房へと帰っていく。
「先輩今日は飲まないんですかー? 本宮先輩と来る時は飲むらしいじゃないですか?」
あー、帝一余計な話しやがって。
「いや今日は飲まんかな、明日朝から仕事だし、それに飲む相手がいない時はあまり飲まないかな」
「そうでしたね、先輩の仕事結構早いですもんね。私も飲めるようになりますね」
いやそうじゃない、何故そうなるんだ。
「いや日吉はそのままでいいと思う。無理に飲む必要は無いし、お前はそういう子じゃないだろうに」
いやあのそんなに落ち込まなくてもなぁ
「別に俺は嫌いだから飲まんわけでも、酒進めん訳でもないの。そもそも飲まない人に無理強いする人じゃないし、お前は割と真面目系の人間なんだから、そんなことしなくてもいんじゃないって話」
「私の事心配してくれてありがとうございます……、でも酔っ払った先輩いつか見てみたいなぁ」
上手く慰めたと思ったら今度はそっちかいな。まぁいいけどさ。
「そのうちな、まぁ俺そもそも酔わんけどな。昔1回だけあったけど、それ以降ないな。あの時は帝一と滉大と、お前は知らない錬太郎くんって先輩がいたな。懐かしい」
あの時は相当荒れたからな……。
あの3人には感謝しきれないな、ほんとに
「それでいて先輩? 急になんで私をご飯に連れてってくれたんですか? 先輩のことだから何か、理由あるんじゃないですか?」
げっ、バレてやがった。勘良すぎかよ……。上手く誤魔化したつもりなんだがなぁ。
「いやまぁその、聞きたいことがあってだな」
「ちょうど良かった! 私も聞きたいことあるんですよ」
「そうなんだ、じゃあ日吉からいいよ」
「えっいやぁ、先輩からでいいですよ。」
「お待たせしましたー、お先に麻婆豆腐と唐揚げと餃子ですねー。あとコーラ2つです」
「ありがとうございます」
相変わらずはえーな、ありがたいことだが。
そんなことを考えながら、俺は2つのグラスにコーラを注ぐ。
「とりあえず食いながら聞くけど、いやさなんで俺にこんな構ってくれるのかなぁって。中学の頃あんまり会話したイメージないから。なんとなぁく知っては居るけど、そこまで話した記憶が無いから」
そんなことを言いながら俺は唐揚げを摘む。
あっちぃ! でもこれが美味い。
「えっ? 先輩覚えてないんですか……?、あんなことしてくれたのに???」
日吉はキョトンとしている。持っているレンゲを落としそうだ。
「実を言うとなー、中学の頃の記憶あんまなくて。あんまり日吉との記憶ないんだよね」
「私が構う理由ですか……。あれは黒歴史なんであんまり言いたくないですかね……」
「言いたくないなら、言わなくてもいいよ。ただ何故俺を追っかけて、頭のいいお前が、定時なんかに来たのか分からなくてな」
「一つだけ言うなら、私は先輩に救われた……、というか先輩のおかげで変われたんですよ」
「俺がそんなことしたんだなぁ、珍しい」
いや待て、マジで記憶ねぇぞ。俺何したんだ?
まさかあんなことやこんなこと……。
いやそれは無い。少なくとも中学時代には、何もしてない……はず。
そもそもそんなことをして、変われる訳ないか……。
「まぁそれはいいや、それで日吉の聞きたいことって?」
「あっそれはですねー、凄く聞くか、悩んだんですけど、モヤモヤするんで聞きますね」
何を悩んだんだ?
「先輩って……、去年何があったんですか? そのなんて言うか、先輩昔より、数段と暗くなってるって言うか」
日吉は目線を泳がせ、落ち着かずにいる。
「殺気を振りまいてるというか……、何より目つきが変わったんですよ。何かを憎んでるような目付きに……」
最後には俺が怖いのか、下を向いてしまった。
ついに聞かれてしまったか……。
「別に怒ってないから顔上げろって」
日吉はその言葉に、促されて顔を上げるが……。
その目には涙を貯めている。
「怖がらせてゴメンな……そういうつもりは無いんだ……」
「違うんです……。これ聞くのすごい怖くて、聞いたら怒られんじゃないか。嫌われるんじゃないかって……」
「そんなことないから、安心してくれ。ついに聞かれる日が来たかー」
「言いたくなかったら、言ってくれなくても大丈夫です。でも少しでもいいから知りたくて……」
「そうだなぁ、あんまり人に喋る話じゃないし、ここじゃ言えないからなぁ。簡単に言うと、俺は凄い後悔している。そしてそのせいで色々なものを恨んでる」
「恨んでるものってなにか、教えてくれますか?」
「んー、とある人とかとある環境とか、もっと言うと世界、一番憎いのは俺自身かな」
「そんな大変な後悔ってなんなんですか!?」
「それはまだ内緒かな、まぁさっき日吉も濁したし、お互い様ってことで」
あれなんでだろう……、俺久しぶりに自然に笑顔出た。いつぶりかなこんなん。あの日以来か……。
日吉は頬をふくらませている。
「もう先輩ずるい! まぁお互い様なんでいいですけど……」
「ほら拗ねるな、飯冷めるぞ」
「でも久しぶりに先輩の…………嬉しいです」
なんてったんだ? 聞こえなかった。
「よく聞こえなかったから、もう1回言って」
「なんでもないです……。それよりこの麻婆豆腐美味しいですね!」
日吉よそれは、なんでもなくないやつだ。
まぁいいか……。
この後は、授業の話や、先生の愚痴等、他愛もない話をして、日吉を家まで送り届け帰った。
そして驚いたのは中華屋で使った金額だ。あんだけ頼んで、まさかの3000円を、切るというお値段。相変わらず安いなあの店。
モデルの店あり