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日本に来たアオは活き活きとしていた。日本の社会や文化を何でも吸収してやろうと積極的だった。
母が趣味で行っているジャムの手作りにアオが参加したので、私も顔を出すことにした。ボウルに果実と砂糖を混ぜ合わせてラップで透明の封をすると、アオは人差し指を唇に当てたままこちらを見つめていた。
私は母の目を盗んで封を解き、洗いたてのスプーンでこっそりボウルの中の砂糖をすくうと、それをまずアオの口に含ませ、残りを私の口に持っていった。
「お母さんには内緒ね、内緒」
「ナイショ」
私たちはクスクスと笑いあった。
「罪を共有しちゃったね」
その言葉はアオには分からなかったが、分からないままにしておいた。そっちの方が罪っぽかったからだ。
「こんなに砂糖がいっぱい。ユミコも甘いものが好き?」
「アオには負けるけどね。でも、砂糖をたくさんかけるのは甘くするためだけじゃなくて、水分をとばすためなの」
「とばす?」
「そう。ジャムは保存食だからね。腐らないように、砂糖漬けにしておいて菌を殺しちゃうの」
アオとの日々は退屈しなかった。
テレビの昼ドラで愛する人の子供を身ごもった不倫女が結局子供も自分も捨てられた事に同情してさめざめと泣く。それを「相手には決まった人がいたんだから仕方ないね、男も悪いし、子供に罪はないけど」となだめ、
ニュースが乳児に蜂蜜を摂取させて死亡させた母親の事件を取り上げては怖がるのを、子供だけだし空気のないところでしか繁殖しないから滅多に感染しないし、お医者さんに早めに見てもらえれば大丈夫だよと説き、
食事とテレビを終えてお風呂までの順番待ちと入浴した後の寝るまでの部屋で過ごす時間には、私はアオに本を読み聞かせてあげた。
ある日私が病床に伏せっているとき、お祓いした方がいいとアオが言うので、日本ではウィルスという菌が悪さしているの、菌にも良いのと悪いのがいるのよと棚から事典を取らせて一通り読んであげると、アオは興味津々に話を聞き、私にペニシリンの青カビを食べさせれば治るのだという漫画のような結論に行きついた。