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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どうして空は青いのでしょーか?

作者: 黒雪白雨

「どうして空は青いのでしょーか?」


彼女が転校してきたその日.

仲間が増えた! と彼女の許に集まろうとするクラスメイトを押しのけ、窓際で独り読書をする私に対し彼女はそう話しかけてきた.


「は?」


私はいつも通り低めの声で少し目を細めながら返答する.

HRから授業が始まるまでの休憩時間.そんな刹那とも言える短い時間とはいえなぜ会話などという非生産的な行為に費やさなければならないのか――と思う反面、それは私好みの問いかけであり、つい彼女に応じてしまった.


「レイリー散乱.波長の短い青色光は空気中の分子に当たって強く散乱してしまうわ.そのせいで私たちには空が青く見えるのよ」

「ぶっぶー.みんなが晴れ晴れした気持ちでいられるようにと神様がペンキで塗ったからでしたー!」

「は??」


満面の笑みでそう語る彼女.

これが彼女とのファーストコンタクトだった.






それから彼女は事あるごとに私に声を掛けてきた.






「どうして誰ともペアを組んでないのでしょーか?」

「転校後初の体育で友達もおらず1人あぶれているからでしょう?」

「いつもひとりぼっちで先生と組んでるのはひーちゃんの方でしょ! 私と組もうよ!」


なぜ見てもいないのに私が先生とペアになっていると決めつけるのだろうか? ……それは決して間違ってはないけれど.


「しょうがないわね」


ウォーミングアップのパス練習のため、私はそう言いながら彼女にバスケットボールを投げる.


「ひーちゃん!」

「なによ?」

「ボール、全然違ところに飛んでったけど……もしかして私と組むの嫌だった?」


私のパスしたボールは明後日の方向に転がっている.


「……運動苦手なのよ」


「確かに苦手そうな顔してるもんね.メガネでショートヘアとか物凄く運動苦手な委員長タイプっぽい」

「顔と髪型は得意不得意に関係ないでしょう」


この日、私は彼女が運動が得意なことを知った.






「どうしてこんなに点数が低いのでしょーか?」


いつもよりテンション低めに彼女は私に問いかける.心なしか彼女のポニーテールもいつもより動きがおとなしい.


「貴方が全く勉強していなからでしょう.当然の帰結ね」

「だっていざテスト勉強! ってなると無性に遊びたくなるんだもん! 再試の勉強もしたくなーい!!」

「そもそもテスト勉強という行為自体が非効率的だわ.普段から勉強していれば必要無いでしょう? さらに貴方の場合、みんな試験勉強から開放されているのに再試に向けてまた勉強しなければならないなんて無駄の境地ね」

「ひーちゃん言い方が酷いよー.このままじゃ再々試になっちゃうから勉強教えてください! 全教科!」

「はぁ.それって私にとって無駄時間の塊じゃない.しかも全教科なんてどれくらい時間がかかると思ってるのかしら?」

「そう言いながら読んでる本を閉じて教える準備してくれるひーちゃん大好き!」

「……帰るわよ?」

「ごめんなさい!!」


薄々彼女は勉強が苦手だとは思っていたが、その酷さを目の当たりにしたのはこの日だった.






「どうして私は弁当を2つ作ってきたでしょーか?」

「ますます太るわよ?」

「私は1つしか食べないよ! だいたい太ってなんかないやい!」


何やら騒いでる彼女を尻目に私は鞄から昼食であるカロリーメイトと野菜ジュースを取り出す.

すると彼女は私の手元を勢い良く指を差した.


「それ!」

「なにかしら?」

「カロリーメイトと野菜ジュース! ひーちゃんはいつもそれしか食べてないじゃん! 身体に悪いよ!」

「科学的証拠はあるのかしら? 必要な栄養素は取れているわよ?」

「ふふふ……そう言うと思って調べました! その組み合わせでは食物繊維が圧倒的に足りていないんだよ! 論破!」

「ちゃんと夕食にサラダを多めに食べているわよ.水溶性食物繊維も不溶性食物繊維も意識して食べているから問題ないわ.はい論破」

「すいようせい? ふすいようせい? ……よくわかんないけどとにかく身体に悪そうだから私の弁当食べて!」

「嫌よ.貴方の弁当は箸を必要とするでしょう? カロリーメイトと野菜ジュースは片手で食べられるの.昼食と読書を同時にできて効率的だわ」


これが私がカロリーメイトと野菜ジュースを食べる最大の理由.あとは優れた携帯性と食べるのに要する時間も魅力的.


「そうまで言うならひーちゃんはいつも通り本読んでていいよ.こうなったら奥の手だ!」


そういって彼女は弁当箱を開け始める.まぁ、本を読んでていいと言うのなら言葉に甘えて続きを読もう.私は早速本に視線を戻す.


「ひーちゃん?」

「なにかしら?」

「はい、あーん」


すると視界の端から米をつまんだ箸の先端部分がニョキっと現れる.


「あ、あ、貴方まさか……」

「私が食べさせてあげる! これなら読みながら食べれるでしょ?」

「嫌よ! ……はぁ.しょうが無いから食べてあげるわよ.ただし自分で食べるからその箸と弁当箱よこしなさい」

「ダメ! それだと読みながら食べれないでしょ? 結局私の弁当はカロリーメイトと野菜ジュースに負けたまんまじゃん!」

「もともと勝ち負けなんて競ってないでしょう!」

「いやー! このままじゃ私のプライドが許さないの!」


この日、私たちは昼休みが終わるまで争い、彼女が意外と頑固なことを知った.








「どうして家の前にいるでしょーか?」


雪が舞い、肌を刺すような風が吹く12月24日.

こんな寒い日に外を出歩く人はなんて非合理的なのかしら? といつも通り本を読んでいた私の前に彼女は現れた.正確には私の家の前だけれど.


「それは貴方が雪を見てはしゃぐタイプのバカか寒さを快感に変換効率100%で変換するマゾヒストだからでしょう?」

「ひどい! 外の寒さよりもひーちゃんの暴言のほうがよっぽど応えるよ!」

「とりあえず中に入りなさい.温かいココアくらいなら出してあげるわ」

「えっほんと!? わーい、お邪魔しまーす!」


とりあえず彼女をリビングに通した私はホットココアを彼女に手渡す.


「あったかーい.ひーちゃんありがと!」

「どういたしまして.それで、どうしてわざわざ家まで来たのかしら?」

「そうそう、せっかくのクリスマス・イブだからひーちゃんと出かけよう! と思って」

「嫌よ.どうしてこんな寒い日に外に出なきゃいけないのよ」

「即答!? せっかくのクリスマス・イブだよ? キリストさんの誕生日の前日祭だよ? 遊びに行こーよ!」

「残念だけれど私は無宗教なの.だいたいイエス・キリストの正確な誕生日って謎なのよ」

「えっ、そうなの?……ってそんなのはどうでもいいよ! とにかく私はひーちゃんと遊びたいの!!」


続いてあーだこーだ言って駄々をこねる彼女.

結局根負けした私は彼女と出かけることとなった.




「どうしてこんなとこに居るのでしょーか?」


気づけば辺りも暗くなっており、彼女は「最後に……」とよくわからない路地裏へと私を導いた.


「むしろ私が聞きたいわね.なんでわざわざこんな人気のない場所に来なきゃいけないのよ」

「実は私からひーちゃんにクリスマスプレゼントをあげようかと思って! ほんとはもっとロマンチックな場所が良かったんだけど人が居るもの嫌だなぁって」


確かに時期が時期だから表は非常に賑わっている.特にイルミネーションやライトアップされたいわゆるロマンチックな場所は非常に人口密度が高いだろう.


「あら、貴方はいつサンタクロースになったのかしら? 確かにお腹周りはそれっぽいけれど」

「太ってないやい! 別に友達同士でプレゼントしてもいいでしょ! ……とりあえず渡すから目を瞑ってちょーだい」


そう言いながら彼女は自分の鞄を漁る.


「なんでわざわざ目を瞑る必要があるのよ」

「いいから早く瞑って!」

「はいはい、わかったわよ.これでいいでしょ?」


私はとりあえず目を瞑る.すると彼女が鞄を漁っていた音が消えた.プレゼントは見つかったのだろうか.


「ちゃんと瞑ってるわよ? まだかしら?」

「えーっと、じゃあ渡すね?」

「早く頂戴.なかなか目を瞑ってるのも面倒な……んっ!?」


私の言葉は途中で遮られた.

唇になにやら柔らかいものが押し付けられる.

驚いて目を開けた私の目の前には瞼を閉じた彼女の顔があった.


「ちょっ、あな……んっ!? んん!! ん!!」


声をあげようと少し頭を後方へと下げるがすぐさま彼女の唇が押し付けられ、またもや言葉は遮られる.

とりあえず彼女を引き剥がそうと彼女の肩に触れる.その瞬間――私は彼女が震えている事に気づいた.たぶん寒さを堪えるためとは少し違った身体の震え.


どれくらい経っただろうか.

1秒か10秒か.はたまた1分だったかもしれない.

どちらからというわけでもなく自然にお互いは離れる.


「これは一体どういうわけかしら?」

「ご、ごめん! どうしてもひーちゃんにプレゼントしたくて……」

「私のファーストキスを奪うなんて覚悟はできてるのよね?」

「わ、私も初めてだよっ!」

「そういう話では無いでしょ?」

「ごめん.せっかくのクリスマス・イブだから想いを伝えようと思って.ごめんなさい、迷惑……だったよね」


そういって彼女は後ろを振り返り駆け出す.彼女の目には涙が浮かんでいるように見えた.


「待ちなさい!」


彼女は止まらず走り続ける.私は追いかけようと走りだすが、運動神経抜群な彼女と運動音痴な私とでは差が埋まるどころか開く一方なのは明白だ.――だから私は叫ぶ.全力で.


「待ちなさい! まなみ!!」

「……!?」


彼女――まなみは立ち止まる.

初めて呼んだ彼女の名前.


「実はね、私もまなみにクリスマスプレゼントがあるのよ.私はサンタクロースではないけれど受け取ってもらえるかしら?」


私はまなみに話しかけ、背後から歩み寄る.

そして追いついた私は真後ろに立ち、告げる.


「もし受け取ってもらえるのなら振り返って頂戴?」

「……うん.私、ひーちゃんからのプレゼント欲し……ん!?」


まなみが振り返った瞬間、言葉を紡ぎきらないうちにまなみの唇を私の唇で塞ぐ.

先ほどと違うのはお互いの表情.驚いた表情をしているであろうまなみに対し私は瞼を閉じている.そして私の腕に抱かれた彼女にはもう先ほどのような震えはなかった.


「ひーちゃん、ありがとう.その、次はできれば……」

「今のはさっきの不意打ちの仕返しよ.これでイーブンね」

「えっ?」

「だから次はちゃんと同意の上で……でしょう?」

「……うん!」




こうして私たちは3度目のキスを交わしたのであった.


12月24日.

それは正確なイエス・キリストの誕生日の前日ではないのかもしれない.

ただ私達にとって忘れられない特別な記念日になったことは間違いないのである.



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