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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

処刑人食堂

作者: 九石 藜

誤字が多かったので気づいた部分は修正しました。

暇潰し程度に読んでもらえれば幸いです。

 【日ノ和】と呼ばれる西洋の文化が多く残っている大きな大陸にある国。


 主に石材での建築物が多く立ち並んでいる中、木材建築の一見地味な食堂。入り口の周りには大きな看板で宣伝しているわけではないが、多くの客で賑わっている。


 これは、元処刑人であり料理人である主人と、二人の店員の騒がしい日常の話……。






 熱気と湯気が厨房を包む。


 店内は喧噪が止まず、グラスを交わして飲み比べを行う親父たちも、粛々と食事を楽しむ女性もおり、その客層は広い。


「主様っ! カツ丼追加です!」

「ういよー!」


 注文を受けたウエイトレスの少女、夜羽よるはが俺に向かって声を飛ばす。普段は近くまで来て注文を読み上げてくれるのだが、客が多いこともあり注文の数が多く一々こちらに来られないらしい。


「うーん、こんなにお客さんが多いの初めてだなー……。あっ、またのご来店、おまちしてまーす!」


 入り口のカウンターで会計をしている少女、ウテナが小声で愚痴を零す。次々来る会計にうんざりしながらもしっかりと応対し、営業スマイルも忘れない。さすがの商業魂だ。


「まったく、お昼は過ぎたんだけどな」


 外は太陽が西に傾き、空は橙色に染まり始めていた。この時間帯であればただでさえ少ないお客さんがさらに少なくなるはずだった。


 うちは俺以外に二人しかいないからこの数のお客さんを相手にするのは大変なのだ。いつもはこの三分の一程度なので、三人でも十分回っていた。


 ただ今日に限っては満席も満席。料理を作るのが俺一人である以上客を捌くことに問題はないけれど、料理が追いつかない。俺がもう一人欲しいくらいだ。


 大量の汗を流しつつ俺――月無鈩つきなしたたらは手元を休めずに調理を続けていた。


「主様っ! ナポリタンとグラタン追加です!」

「はいよー!」


 ……さすがに死にそうです。






 うちが忙しい事の要因の一つが、メニューが多すぎることだ。


 俺たちが経営する店は和洋中問わずオールジャンルの料理を提供する。料理文化が発展している【華陽】という国から必要な分の様々な食品を取り寄せ、俺達の店に来てくれるお客さんのために料理を作る。


 俺にとって料理を食べてくれるお客さんの笑顔を見るのがちょっとした楽しみでもある。


 ちなみに今日に限っては見る機会がなかったけれど。


「ふぅ~、さすがに疲れたわ」


 閉店時間となりお客さんが店内からいなくなり、俺は調理器具から手を離すと冷蔵庫からサイダーと呼ばれる炭酸飲料を取り出しコップに注いでそれを一気に飲み干す。喉を刺激する炭酸が疲れを飛ばす。


「お疲れ様です、主様」


 コップを置くと、夜羽が近づいてきた。かなり忙しかったせいかその額や頬を汗が伝っていた。


 艶やかな黒髪は腰まで伸びており切り揃えられている。少し着崩して肩を出した着物のミニに花がデザインされた黒のニーソに草履を履いており、さらにその上からエプロンという少し変わった風貌をしているが、綺麗に整った容姿や礼儀正しい立ち振る舞いはお嬢様そのものだ。


 俺の事を主様と呼んでいるが、これは夜羽が命の限り俺に付き従うと誓ったためだ。その経緯を話すと長くなってしまうので話さないけれど。


「夜羽もお疲れさん。お前も飲むか?」

「いただきます」

「あっ、私も飲むー!」


 テーブルを拭いているウテナが大声で俺にお願いする。


 こちらも腰まで流れるような艶やかな黒髪だが、ウテナはハーフアップにしておりよこは三つ編みでまとめていた。


 Yシャツの上に水色のセーターを着ており、動きの邪魔にならないように肘の辺りまでまくっていた。下は膝上五センチ程のスカートを履いており、ウテナが動き度にひらりと揺れる。足は動きやすいようにダンスシューズを履いていた。腰にはウエストバッグを身につけているがその中身は俺達しか知らない。


「はいはい」


 ウテナもサイダーが飲みたいというので、俺は新たにコップを二つ取出しサイダーを注ぐ。


「ほいよ」

「ありがとうございます」「ありがと」


 二人はコップを受け取ると二人とも一気に飲み干した。


「ふーっ、やっぱり炭酸っていいね。おかわりー」

「ウテナさん。主様を使わないで自分でやってください」

「いいって。コップ寄越せ」


 夜羽が言ったことも分かるが、二人がいなかったらこの店は廻っていない。ウテナも頑張ったのだから労いの意味も込めて俺がやるべきだ。


「はい。次からは自分でやるよ」

「いいっての。ゆっくりしてれ」


 俺はサイダーを注ぐが半分ほど注いだところでサイダーが無くなってしまった。


「ありゃ、ストックあったっけな」

「いやいいよ! それで」


 冷蔵庫に確認しに行こうとしたがウテナがそれを止めた。


「そ、そうか? じゃあ、ほいよ」


 俺は半分注いだコップをウテナに渡す。


「しっかし、どうしてこんなに客が多かったんだ?」

「さぁ、私には見当もつかないです……」

「私にも分かんない。でも創業して四年は経つし、ようやく評判が広がってきたんじゃない?」

「そうじゃねェだろ、たぶん」


 というのも、創業して四年経つといったが本格的に営業を始めたのは今年に入ってからなので四か月あるかどうかだ。これでこの評判はおかしい。


 本格的に始める前までの三年間は諸事情があったため年に数回しか開店することができなかったのだ。それにその時品数はかなり少なかったし。


「ま、売り上げが伸びてくれれば俺はいいんだけど。お客さんも笑顔で飯を食べてくれるしな」

「そうですね」

「うん」


 俺たちは話を止めると店内を掃除した後、各自の部屋に戻り自由時間を過ごした後眠りにつく。


 夜羽もウテナもこの店に住み込みで働いている。ちなみに家も同然なので給料もない。というより今まで払えるほど売り上げが高くなかったため払えなかった。


 今までぐらいに落ち着いたら、小遣いがてら給与をあげますか。






 明日になっても忙しさは変わらなかった。


 昨日ほど多くはないけれどそれでも客の数が異常なほど多く、俺達はドタバタしながら客を捌いて乗り切っていく。


 俺たちの店《月無》は午前九時から午後七時までの営業だ。現在午前十一時。お昼前だというのに店内は熱気に包まれていた。


「ったく、何だってこんなに数が多いんだよッ!」


 愚痴を零しつつ俺は調理を続けているとカウンター席に座っていた常連客のおじさんが説明してくれた。


「君たちの料理があまりにも美味しいって、いろんなところで噂になってたんだよ。それに、若くてかわいい看板娘が二人もいると来たもんだ。男性客はそれ目当てで来ることもあるし、女性客は美味しい料理には目がないだろうし」

「言われればそうだけどよ、普通の主婦が作れるような料理じゃねェぞ? 食材なんてこっちで取れるもの以外はすべて輸入品だし」

「だから、普通においしいものを食べたいんだって」

「よくわかんねェ」


 俺にとっては料理を食べてくれるなら別に構わないのだが、真似て作ろうと思えるものでもないので研究されても困る。俺だってこれだけのレシピ量と調理法を学ぶのに何年かかった事か。


「主様! チャーハン追加お願いします!」

「はいよー!」

「忙しそうだねェ」

「この客足をどうにかしてほしいもんだ……」


 軽く会話を挟みつつ俺は調理を進めた。






 午後四時を回る頃には客足は少し落ち着いてきており、ちらほらと空席が見える。まだ多いがこれなら忙しくなることはないだろう。


「そういや酒類が足りねェな……。ちょっととってくるか」


 そう思って俺は足りない食材を取りに冷蔵庫へ向かった。


 お目当ての料理用のお酒を取り出したその時――。



「邪魔するぜー!」



 大きな声が聞こえてきたと思ったら大量の足音が店内に響く。何事かと思いカウンターの方へ戻ってくると、先ほどまで見かけなかった白い制服に身を包んだ男たちが無理やり空席を作ってテーブルを囲んでいた。今まで座っていたお客さんは仕方ないとばかりに会計を済ませてお店を出て行ってしまった。


「(営業妨害だぞおい……)」


 そう思いつつもお客さんである以上悪い顔はできない。


 一方彼らはというと、どけた客に構わずメニューを選び始めていた。リーダー格であろう男を筆頭に服を着崩していたり髪を逆立てていたり、と素行が悪いような男たちばかりだ。


「今日は俺のおごりだからよォ! 好きなだけ食べろ!」

「ありがとうございますッ! 大暉先輩!」


 ひときわ体格がいい大暉と呼ばれた男が連れてきた後輩だと思われる男たちにそう言った。


 先輩? というかこの制服って騎士学校の制服じゃなかったか、と俺は思考を巡らせる。


 騎士学校というのはこの【日ノ和】の秩序を守るため、騎士団という組織が警備にあたっているのだが、その騎士を養成するための学校の事である。俺が通ったことがあるわけではないので詳しいことは知らない。


 秩序を守るとか言っているがこんなことしている時点で騎士失格だろうな、と俺は思いつつ調理を進めていた。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


 ガラの悪い連中にも笑顔で対応する夜羽ってすごいと思う。


「とりあえず全員に餃子定食? ってやつを」

「了解しました」

「あぁ、それと」


 夜羽が俺に注文を伝えようとして戻ろうとしてたところを大暉が止めた。


「? 何か?」

「お前も一緒に食べねェか? どうせもう一人いる時点で店は回ってんだろ。俺達と食べようぜ」


 ……まったく、確かに回ってはいるけれど仮にも店員だぞ。俺は少し注意をしようと近づこうとしたが。


「すいません。生憎今は営業中ですし、あなた方と食べるつもりはありませんので」


 バッサリ切り捨てた夜羽の言葉を聞いて俺は必要ないことを感じて厨房へと戻る。


「……おいおい、連れねェなぁ。少しくらいいいだろ」


 よく見れば周りの連中も欲に満ちたゲスい顔をしている。


 大暉は立ち上がると夜羽を席へ連れようとして肩に手を回そうとするが、夜羽はそれを躱し俺の元へ駆けてくる。


「主様。餃子定食七人前です」

「はいよ」


 俺は注文を聞いて調理へ取り掛かる。


「この野郎……。俺たちを誰だかわかってんのか?」


 うん知らない。


「いえ、全く」


 夜羽が俺の代わりに言ってくれて助かる。ウテナもうんうんと頷いていた。


「俺たちは騎士学園の騎士見習いだッ! 帯剣だって認められるしある程度の上流階級じゃなきゃ入学できねェ! つまりエリートである俺が一緒に飲もうって言ってんだッ! わかったかッ!?」


 大声でどなり散らすが俺にとっちゃ客の迷惑にしかならないのでやめてほしいわけだが。


「すいません、お客様の迷惑になるので大声で話すのは止めてください。それと、エリートだろうが私はあなた方に全くと言っていいほど興味がございませんので。先程も申した通りそのお誘いはお断りします」


 夜羽は綺麗な所作で一礼すると、他のテーブルへと駆けていく。俺の心を読んでいるかのごとく俺の言いたいことを言ってくれるので本当に助かりますわ。


「じゃあ、そっちの女! こっちにこい!」

「やだよ。仕事中だし、たとえプライベートでもあなたたちとは関わりたくないかな」


 ウテナも意外とばっさり切り捨てるんだな。


「おいあんた。すぐ料理を出すから座っててくれ」


 俺は一応それだけ言っておくと料理の手を早める。が、大暉はあの言葉と態度に我慢できなかったのかテーブルを思いっきり蹴りあげる。


「きゃっ!」

「うわっ!」


 蹴り飛ばされたテーブルは他のテーブル席に座っていたお客へと当たり、料理が皿ごと床に落ちてしまった。


「くそがッ! ただの店員がいい気になってんじゃねェぞッ!」


 大暉は腰に差してある剣を抜くと、イスや壁を斬りつけはじめる。


 ……お前、ちょっとやりすぎだ。


「こうなったら意地でもやってやる! お前らッ! あいつらを捕まえろッ!」

「……主様、どうしましょう?」

「どうする?」

「夜羽は俺の刀もってこい。ウテナ。悪いが一人であいつら全員外に出してやってくれるか。そうしたらあとは一人でやる」

「了解しました」

「わかった」


 指示された二人はすぐに行動を開始。夜羽は会計の奥にある階段から上へと登り、ウテナは早速後輩の一人を外へと投げ飛ばす。


「ちょっと邪魔だから外いっててね」

「うおぅっ!」


 常人では見えない動きで投げ飛ばされるので騎士見習いとはいえ対応はできない。次々と投げ飛ばされていく姿を大暉やその後輩は見ているしかできなかった。


 そして気づいたころには、大暉しか店内にはいなかった。


「あなたはちょっと投げ飛ばしにくいかな。デカいし」

「ッ! 舐めんなァッ!!」


 大暉はウテナに斬りかかるが、遅い。


「だから……飛んで」


 ウテナはウエストバッグから一枚の紋様の入った長方形の紙を取り出すと、大暉の胸に張り付ける。するとその紙から光が放たれた。その後すぐにその光は収束していく。そして、――爆発。


「ッ!!?」


 大暉は凄まじい衝撃と共に体が浮き、自らの体が飛んでいる感覚に気付く。全身に痛みが走り、地面を転がっていく。


 ウテナのウエストポーチに入っていたのは魔符と呼ばれる魔力が込められた魔導具の一種で、ウテナが生まれた国の者はすべて魔力を有し、魔符を媒介して魔力を行使することができる。


「これでいい?」

「上出来だが、入り口直すの手伝えよ」

「はーい」


 ウテナは仕事を終えるといつものように会計に戻る。と同時に夜羽が階段から降りてきた。


「どうぞ」

「おう」


 俺は夜羽から一本の刀を受け取ると外へと向かう。


 さぁ、少し厳しい説教の時間だ。






 外に出ると七人全員外に立っていた。ウテナにされた出来事が未だに衝撃的だったのか呆けていた。


「さて、お前らちょっとやりすぎたな。うちの看板娘に手を出そうとして、しかも料理を粗末にした。店を荒らすし、騎士見習いとか言いながら人様に迷惑かけてるし」

「うるせェ! 俺たちは客だッ! こんなことしてもいいと思ってんのか!?」

「知らねェよ。営業妨害するやつは容赦しねェんだ」

「う……、うぉおお!」


 大暉の後輩の一人が勢いよく券を振りかざして俺に向かってくる。その威勢は買うが、許すつもりはない。


 俺は振り下ろされた剣を半身になって躱すと、刀を抜いて足に一閃。その男の左足を切断した。


「いっ、今何が……、あれっ、何で立てないん……、あ……あぁあああああ!!!!?」


 斬られた男は数秒ほど何があったのか理解できていなかったが、自分の足を見た途端叫び声を上げる。恐らく同時に痛みも走った事だろう。


 その場にいた六人がその瞬間戦慄した。だが、その怯みを俺は逃さない。本気の殺気を放ちながら次々と後輩たちの腕や足を切断していく。俺は優しいからな。一人一本で勘弁してやるつもりだ。


「な、……何なんだお前はァ!?」

「俺はな、ある国で処刑人をやってたんだ。人の首を刎ね続ける仕事。一日百人とかいう人数を斬ることもあったからな、斬るのには慣れちまった。だから斬られても数秒は痛みを感じねェんだよ。太刀筋が綺麗だからな。自分で言うのもあれだが」


 大暉は恐怖で言葉を失っていた。


「た、助け……」

「お前も斬るぞ。首じゃねェだけ感謝しろ。でも、お前は主犯だから二本な」

「っっ!!? あぁああああ!!」


 大暉は両腕を斬られ思いっきり叫びだした。斬られた両腕の断面から鮮血が撒き散らされる。離れているので服にかかることは無いが、事後処理が面倒だ。


「これで騎士にもなれねェな。今回の事は誰にも言うなよ。事故ってことにしとけ。あと、二度とこの店には来るんじゃねェ。迷惑だ。それがわかったらとっとと行け。あと、金置いてけよ」


 大暉たちは必死に逃げだした。料理を食べたわけじゃねェが店の修繕料と営業妨害分をもらっても悪くないだろう。


 俺は一仕事終えると店内へ戻っていった。


 そしてそのまま、その後は何事もなく一日が過ぎていった。






 ここは《月無》。


 処刑人だった男と、その男の店で働く二人の女が営業する小さなお店。


 今日もこの店でお客は料理を食べ、笑顔になる。


 その店員の裏の顔を、知らないまま……。


お読みいただきありがとうございます!


この作品は連載にしようと思ってやめた作品ですが、もったいないので短編として投稿しました。

ArteMythの方なんですが、リアルがかなり忙しいので投稿が遅れます。申し訳ございません。

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