中学生活
『謝ってよ、無神経なところ。』
返信を読み終え、気づいたら涙が出ていた。
恐かった。私の知らない周りからみた自分の姿を、知るのが恐くて知りたくなかった。
そして自分の無神経さが何処なのかさえ分からないこの無神経な自分を殺したかった。
私は小さい頃は大人しい子どもだった。
本当は喋るのが大好きで外で遊ぶのも大好きだった。大人になった今も初対面では大人そうに見られることが多い。
今思えば多分、大人しい性格というより昔から単に人見知りなのだと思う。
小学校低学年の私は、休み時間によく一人で絵を描いていた。だが、そんな私からは想像もつかなかったことが起こる。
小学四年のある日、クラスで人気者の男子に気に入られ、大人しいモブキャラから、いきなり今で言うスクールカーストの一軍の仲間入りになったのだ。
今まで一人っ子ということもあり家でもテレビをみたり、本を読んだり、静かに過ごす事が多かった私にとって、一緒に放課後ゲームで遊んだり、大勢でプールに行ったり、誕生日会をしたりするこの生活はとても大切なものになっていった。
私にとって小学校の思い出は、『終わりよければ全て良し』という言葉がよく似合う、そんなキラキラした良い学校生活だった。
そして中学校に入学して数日経ったある日、小学校から親友の沙織に誘われて、私はテニス部に入ることになった。
特に理由は無い。というより消去法だった。バレーは背がないし、バトミントンは学外のスクールに通っていてとても強い。そもそも私の住むこの町は田舎の小さな学校で、部活動の数が少なかった。
結局テニスなんてやったことも無いが、入部希望者の全員が初心者ということもあり、私は沙織や他の友人たちと一緒に入部をした。
テニスなんて初心者の方が圧倒的多いだろうし、うちの学校は弱いからきっと部活動だって緩いだろう。
そんな考えは初日に一瞬で裏切られた。
「1年はコートに入るな。外で声出ししながら1000回素振り。今日の課題はそれだけだ。」
これが部活か…。中学に上がったら先輩後輩とかいうものがあって、上下関係を学ぶ場だ。などという話を聞いたことはあったが、正直ひとりっ子で甘やかされて育てられた私は、たかだか1年や2年私より早く産まれただけなのに、なんで私は下手に出なきゃいけないんだ。面倒くさい部活動の風習。先輩とやらの顔色を伺いながら練習をするなんて…。と、不満を心の中に潜めていた。
「いぶきお疲れ!着替えたらすぐ帰ろう!私もうお腹限界…ご飯〜!」
私の名を呼ぶ沙織は限界と言うわりには笑顔だ。
「おっけー!そういえば沙織、今日先輩に褒められてたね。私なんて全然下手だからな…羨ましい」
「そんなことないよ!前田先輩が教えるの上手いんだって!私も先輩達みたいに早く強くなりたいなあ…前田先輩かわいいし勉強できるし運動もできるし、いいよねえ…!」
私は苦手だった。
謙遜し、先輩を立てる。
でもみんな先輩を立てているわけではなく、本心なのかもしれない。
それでも、ただ漠然と私は先輩という存在が苦手だった。理由は特にない。
「先輩達かわいいよね。何でもできるよね前田部長。来週はコートに入れるし私達も練習頑張ろう!」
苦手。なのだが、結局合わせてしまう自分がいる。
合わせておけば、流れに乗った方が、絶対に楽だから。
今、素直になると消去法で決めた。なんて嘘だった。
私は人に流されていただけ。友達と一緒にいたかっただけなんだ。