#21 はじめてのおつかい(凪さん・友梨奈さん編) その3
こ、これは友梨奈さんが帰ってきたら、彼女に怒られるのではないかと僕は思った。
現在はおつかい中の彼女らを途中で連れ戻すことは難しい。
「友梨奈達のおつかい、止めさせますか?」
「い、いや。最後まで彼女らのおつかいを見守りましょう」
「ジャスパー先生がそれでいいのなら……」
黒川先生も同じことを思っていたらしいが、おつかいを止めさせるわけにはいかなかった。
そうこうしている間も映像は進んでいく――。
◇◆◇
『ずっとワンワン……うるさいですわ! ちょっと、おみせのひとはいらっしゃらないの?』
ずっと吠えている古本屋のイヌに対して苛立ちを覚えた友梨奈さん。
彼女はついに店主を呼んだ。
『お嬢ちゃん、すまんなぁ。ホレ、ゴロウ。お嬢ちゃん達に謝っとくれ』
『ガルルルル……』
ゴロウと呼ばれたイヌは店主にこう言われて少し落ち着いたと思いきや、突然、凪さんに対して威嚇をしている。
『きゃっ!』
『なぎちゃん!?』
危うく彼女はそのイヌに指を噛まれそうになったが、よたりながらも回避した。
『本当に申し訳ない。お詫びにこの飴をどうぞ』
その店主が持ってきたものは1つずつ小袋に入ったみかん味の飴。
彼女らはそれを受け取ると『ありがとう』と嬉しそうにポケットの中にしまった。
◇◆◇
「なんとかその要素が一瞬だけでよかったです。先ほどこちらで遊んでいらした時はいかがでしたか?」
僕は黒川先生におつかいに行く前の友梨奈さんの様子を訊く。
「ここにいた時の友梨奈ははいつも通りでしたよ?」
「そうでしたか。ならば、ほんの一瞬だけだったのかもしれませんね」
これからも彼女の「悪役令嬢」要素が出るかどうかは分からないが、僕達はそのまま見守りを続行した。
◇◆◇
『ゆりなちゃん、ありがとう』
『いえいえ。とんでもないよ』
凪さんが友梨奈さんにお礼を言う。
確かに先ほどのあの様子を見ていた彼女であるが、友梨奈さんの勇気ある行動が凪さんにとっては嬉しかったのかもしれない。
『はやくおつかいをおわらせて、みんなでケーキをつくろう』
『うん』
彼女らは古本屋を左に曲がり、小さな足で1歩ずつショッピングモールに向けて歩を進めた。
◇◆◇
あれから、友梨奈さん達は途中で休憩を挟みながら、なんとかショッピングモールに到着。
『やっと、ついたね!』
『そうだね。たしかこのなかにおねーさんがおつかいのメモがあったはず……』
友梨奈さんはポシェットから黒川先生が用意した買い物メモを取り出した。
『たまごと、さとうと、ぎゅうにゅうだって』
『いっぱいかうんだね』
『そうみたい』
そのメモはすべてひらがなで書かれていた。
凪さんからすると買うものが多く感じられると思われるが、実際は少ない。
先ほどの聡くん達は種類の指定はなかったが、たくさんのクリスマスツリーの飾りを買ってきていたし……。
『あたし、かごをもってくるね』
『なぎちゃん、ありがとう』
凪さんが買い物かごを持ってくると、その取っ手を2人で片方ずつ持ち、それぞれの売り場に向かった。
◇◆◇
「なんとかおつかいが始まりましたね」
「無事に始まってくれました。しかし、お菓子売り場に行かなければいいのですが……」
「そうですよね……」
僕達が1番心配していることはお菓子売り場に行ってしまうかどうかが問題だ。
「小麦粉と牛乳が重いので、2人で協力して買ってきてくれればいいですね」
「喧嘩しないで、というわけですか?」
「ハイ」
確かに今回は2人のコンビネーションが問われるのかもしれない。
何事もなく終わることを願っている――。
◇◆◇
『あっ、ゆりなちゃん。ぎゅうにゅうがあったよ!』
『こっちにたまごもあるよ!』
彼女らは幸いにも卵と牛乳の売り場が近くにあったため、それらを1つずつかごに入れた。
残りは小麦粉だけだが、お菓子売り場を通り越して調味料売り場でそれもかごの中に入れる。
お会計をする時は2人で協力してかごをレジ台に置く。
『あら? 2人でおつかい?』
『うん』
『そうだよ』
『偉いわねー』
『『ありがとう!』』
お会計中に店員と楽しそうに話している。
その店員に褒められた時はとても嬉しそうで、満面な笑みがこぼれていた。
◇◆◇
一通り買い物を終えた彼女らがこちらのマンションに戻ってくる。
「もうそろそろ、友梨奈達が戻ってきそうなので、準備に戻りますね」
「黒川先生、ありがとうございました」
「いえいえ。わたしこそありがとうございます。新たな発見がありましたので、とても面白かったです」
「準備の方、頑張ってくださいね」
「ハイ」
黒川先生は準備のため、早紀さん達がいるところに戻り、僕はノートパソコンの電源を落とした。
2016/12/25 本投稿




